StudyMed医師国家試験

ガイドラインは「地図」であって「命令」ではない―共有意思決定のための道具を正しく使う

第112回医師国家試験 E問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第24問

診療ガイドラインについて正しいのはどれか。

  1. a.症例報告を新たに集積して作成される。
  2. b.併存疾患が多い患者ほど推奨を適用しやすい。
  3. c.推奨と異なる治療を行うと患者に危険が及ぶ。
  4. d.当該疾患の患者全員に同一の推奨を適用できる。
  5. e.患者と医療者の意思決定の材料の一つとして利用する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診療ガイドラインがどんな性格の文書で、臨床でどう使うべきかを問う問題だ。カギは「何を根拠に作られているか」と「誰に、どこまで当てはめられるか」の2点。まず、ガイドラインと聞いてどんなイメージを持っているかな。
医学生医学生
正直、「これに従えば間違いない」という教科書のようなものだと思っていました。CBTの勉強でも、ガイドラインの第一選択薬をひたすら覚えましたし。
ドクタードクター
試験勉強ではそうなりがちだね。でも本来の位置づけは少し違う。わが国でガイドライン作成の手引きを示しているMindsは、診療ガイドラインを「医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している。
医学生医学生
「意思決定を支援する」ということは、決めるのはあくまで患者さんと医療者、ということですね。
ドクタードクター
その通り。だから正解は、ガイドラインを患者と医療者の意思決定の材料の一つとして利用する、という記述になる。実際の方針は、推奨というエビデンスに、医師の臨床的判断、患者さんの価値観や希望、医療資源などの条件を合わせて、話し合って決める。これが共有意思決定、shared decision makingだ。
医学生医学生
EBMの講義で習った、エビデンス・臨床技能・患者の価値観・臨床状況の4要素を統合する、という話そのものですね。
ドクタードクター
よくつながったね。ガイドラインは、そのうち「最良のエビデンス」を効率よく現場に届ける道具なんだ。では作り方の話。症例報告を新たに集めて作る、という記述はどうかな。
医学生医学生
症例報告ってエビデンスレベルが低いほうでしたよね。新しく集めるというのも違う気がします。
ドクタードクター
そう。ガイドラインは臨床上の疑問、つまりクリニカルクエスチョンごとに、すでに発表された研究を系統的に集めて質と結果をまとめて評価する。重視されるのはランダム化比較試験やそのメタアナリシス、質の高い観察研究で、症例報告は専門家の意見と並んで低い部類だ。ガイドラインのために新しく症例を集めるわけでもない。
医学生医学生
併存疾患が多い患者ほど推奨を適用しやすい、というのは逆ではないでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。推奨の根拠になる臨床試験では、重い併存疾患のある人や高齢者は対象から除外されることが多い。つまり多疾患を抱えた患者さんは、推奨が想定する患者像から外れやすいんだ。さらに、ある病気の推奨薬が別の病気では禁忌だったり、ポリファーマシーで相互作用が問題になったり、複数のガイドライン同士の推奨が矛盾したりもする。
医学生医学生
総合診療科の実習で、高血圧、糖尿病、心不全、腎機能障害を全部抱えた高齢の方がいて、指導医の先生が薬を一つずつ見直していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそういう場面で個別の判断が問われる。併存疾患が多いほど、推奨は当てはめにくくなるんだ。残る2つ、推奨と異なる治療は危険、患者全員に同一の推奨を適用できる、はどう考える?
医学生医学生
どちらもガイドラインを絶対視している点で同じ誤りに見えます。推奨は平均的な患者さんを想定した一般論なので、全員にそのまま当てはまるわけではないですよね。
ドクタードクター
その通り。同じ疾患でも重症度、年齢、臓器機能、社会的背景、治療への希望は人それぞれだ。推奨は平均的な集団で益が害を上回ると判断された選択肢にすぎないから、個別事情を踏まえて推奨と異なる治療を選ぶほうが適切な場合もある。むしろ機械的に当てはめることが不利益を生むこともあるし、ガイドラインに拘束力はなく、逸脱の理由を説明できればよい。
医学生医学生
推奨の強さの表し方も、ガイドラインによって違いますよね。グレードAとかを見た気がします。
ドクタードクター
以前はグレードA〜D、エビデンスレベルI〜VIといった表し方が多かった。今のMindsの手引きは国際的なGRADEシステムの考え方を取り入れて、「推奨の強さ」と「エビデンスの確実性」を分けて示す方式が主流だ。エビデンスが弱くても、益と害のバランスや患者さんの価値観、コストを考えて推奨が決まることもある。
医学生医学生
ガイドライン自体の限界もありそうですね。
ドクタードクター
いい視点だ。高齢者、多疾患併存、妊婦、小児など研究から外れやすい人では根拠が乏しいし、作成時点以降の新しい知見は反映されないから定期的な改訂が必要になる。利益相反の管理や作成過程の透明性も質を左右する。訴訟で参照されることはあっても、従うこと自体が法的義務になるわけではない。ガイドラインは目的地への道を示す地図で、どの道を選ぶかは患者さんと一緒に決める、と考えるといいね。

まとめ

診療ガイドラインは、既存研究のシステマティックレビューによりエビデンスを評価し、益と害のバランスを考えて最適と考えられる推奨を示す、患者と医療者の意思決定を支援する文書です。推奨は平均的な患者集団を想定した一般論で拘束力はなく、実際の診療方針は、推奨に医師の臨床的判断、患者の価値観や希望、医療資源などを統合して共有意思決定で決めます。臨床試験から除外されやすい多疾患併存の患者や高齢者ほど推奨は当てはめにくく、推奨と異なる診療が直ちに危険や誤りとなるわけでもありません。現在のMindsの手引きはGRADEの考え方を取り入れ、推奨の強さとエビデンスの確実性を分けて示します。ガイドラインを「材料の一つ」として正しく使う姿勢は、EBMの実践そのものであり、個々の患者に最善の医療を届けるための基本となります。

解答・解説

正解はeです

診療ガイドラインの性格と使い方を問う問題である。

診療ガイドラインとは

わが国で診療ガイドライン作成の手引きを示しているMinds(マインズ:日本医療機能評価機構の医療情報サービス)は、診療ガイドラインを「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビュー(系統的に文献を集め、偏りなく評価・統合する手法)によりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している。

正解を導く考え方

この定義から読み取るべき要点は次の3つである。 1) 根拠は既存研究のシステマティックレビューである(新たに症例を集める文書ではない)。 2) 推奨は「平均的な患者集団」を想定した一般論であり、個々の患者にそのまま当てはまるとは限らない。 3) 法的・医学的な拘束力はなく、最終的な診療方針は、ガイドラインの推奨に加えて、医師の臨床的判断と専門性、患者の価値観・希望、診療の場の条件(医療資源など)を総合して、患者と医療者が話し合って決める(共有意思決定:shared decision making)。 したがって、ガイドラインは意思決定の「材料の一つ」と位置づけるのが正しい。逆に、「全員に一律に適用できる」「外れると危険」といった絶対視する記述は、いずれもガイドラインの本来の性格に反する。

選択肢考察

  1. ×a.  症例報告を新たに集積して作成される。

    誤り。診療ガイドラインは、臨床上の疑問(クリニカルクエスチョン)ごとに既に発表されている研究論文を系統的に検索・収集し、その質と結果をまとめて評価する(システマティックレビュー)ことで作成される。重視されるのはランダム化比較試験やそのメタアナリシス、質の高い観察研究などであり、症例報告はエビデンスレベルが低い情報源である。また、ガイドライン作成のために新たに症例を集めるわけではない。

  2. ×b.  併存疾患が多い患者ほど推奨を適用しやすい。

    誤り。推奨の根拠となる臨床試験では、重い併存疾患をもつ患者や高齢者は対象から除外されることが多い。そのため併存疾患が多い患者は、推奨が想定する患者像から外れやすい。さらに、ある疾患の推奨薬が別の併存疾患では禁忌である、多剤併用(ポリファーマシー)による相互作用が問題となる、複数のガイドラインの推奨同士が矛盾する、といった事態も起こる。すなわち併存疾患が多いほど推奨は適用しにくくなり、個別の判断がより重要になる。

  3. ×c.  推奨と異なる治療を行うと患者に危険が及ぶ。

    誤り。推奨は平均的な患者集団で益が害を上回ると判断された選択肢を示すものであり、それと異なる治療が必ず危険というわけではない。患者の病態・年齢・併存疾患・価値観などを踏まえ、推奨と異なる治療を選ぶほうが適切な場合もある。むしろ個別事情を考慮せずに推奨を機械的に当てはめることが不利益をもたらしうる。ガイドラインには拘束力がなく、推奨からの逸脱は理由が説明できれば許容される。

  4. ×d.  当該疾患の患者全員に同一の推奨を適用できる。

    誤り。同じ疾患でも、重症度、年齢、併存疾患、臓器機能、社会的背景、治療に対する希望は患者ごとに異なる。推奨は典型的な患者像を想定した一般論であり、すべての患者に一律に適用できるものではない。一般にガイドラインの推奨は多くの患者に当てはまるとされるが、当てはまらない患者が一定割合存在することを前提に、個別に適用の可否を判断する必要がある。

  5. ○e.  患者と医療者の意思決定の材料の一つとして利用する。

    正しい。診療ガイドラインは、患者と医療者が診療方針を決める際の意思決定を支援するための文書と定義されている。実際の方針は、ガイドラインの推奨(エビデンス)に、医師の臨床経験・判断、患者の価値観や希望、医療資源などの条件を加えて決めるもので、これは根拠に基づく医療(EBM)の考え方そのものである。ガイドラインは重要な判断材料ではあるが、唯一の決定要因ではなく、拘束力もない。

根拠に基づく医療(EBM:evidence-based medicine)

EBMは、1) 最良の研究エビデンス、2) 医療者の臨床的専門技能、3) 患者の価値観・希望、4) 患者の臨床状況や医療環境、を統合して個々の患者の診療方針を決める考え方である。診療ガイドラインは、このうち1)を効率よく臨床現場へ届ける道具にあたる。

エビデンスの強さ(一般的な序列)

強い順におおむね、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビュー・メタアナリシス → 個々のRCT → 非ランダム化比較試験 → コホート研究・症例対照研究などの分析疫学研究 → 症例集積研究・症例報告などの記述研究 → 専門家の意見、となる。症例報告は最も低い部類に属する。

推奨の表し方

かつてのわが国のガイドラインでは、推奨をグレードA〜D、エビデンスをレベルⅠ〜Ⅵなどで表すものが多かった。現在のMindsの手引きでは、国際的に用いられているGRADEシステムの考え方を取り入れ、「推奨の強さ」(強く推奨する/弱く推奨する〈提案する〉)と「エビデンスの確実性(強さ)」(A:強い、B:中程度、C:弱い、D:とても弱い)を分けて示し、益と害のバランス、患者の価値観、コストなども考慮して推奨を決める方式が主流である。

ガイドラインの限界

・研究対象から外れた患者(高齢者、多疾患併存、妊婦、小児など)には根拠が乏しい。 ・作成時点以降の新しい知見は反映されないため、定期的な改訂が必要である。 ・利益相反(COI)の管理や作成過程の透明性が質に影響する。 ・医療訴訟などで参照されることはあるが、ガイドラインに従うこと自体が法的義務となるわけではない。

POINT

・診療ガイドライン=システマティックレビューに基づき、益と害のバランスを考えて最適と考えられる推奨を示し、患者と医療者の意思決定を支援する文書。 ・拘束力はなく、意思決定の「材料の一つ」である。 ・推奨は平均的な患者像を想定した一般論で、全員に一律には適用できない。 ・併存疾患が多い患者ほど推奨は当てはめにくく、個別判断が重要になる。 ・推奨と異なる診療が直ちに危険・誤りとなるわけではない。 ・作成の根拠は既存研究の系統的評価であり、症例報告を新たに集めるものではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。