StudyMed医師国家試験

胸やけを招く生活、防ぐ生活―「腹圧」と「下部食道括約筋」で読み解く逆流のしくみ

第112回医師国家試験 E問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第19問

胸やけの誘因となりにくいのはどれか。

  1. a.過食
  2. b.運動
  3. c.肥満
  4. d.高脂肪食
  5. e.前屈姿勢

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸やけの誘因を問う問題だ。「誘因となりにくい」ものを選ぶ、という問い方に注意しよう。丸暗記ではなく、胃の内容物がなぜ食道へ逆流するのか、そのしくみから考えると迷わず解けるよ。
医学生医学生
胸やけといえば胃食道逆流症ですよね。消化器の講義で、胃酸が食道に上がってくるからだと習いました。
ドクタードクター
その通り。食道の中はふだんほぼ中性に保たれているけれど、そこへpH1〜2の強い酸性の胃液が逆流すると粘膜が刺激されて、焼けるような感じが出る。だから胃酸分泌を抑える薬で症状がよくなるんだ。では、逆流を防いでいる仕組みは何だったかな。
医学生医学生
下部食道括約筋です。あとは横隔膜も関わっていたような……。
ドクタードクター
よく覚えているね。下部食道括約筋と、横隔膜の脚部による締め付けが協力して逆流を防いでいる。逆流が起こる要因は大きく3つ。括約筋の圧が下がったり、嚥下と関係なく一時的に緩んだりすること。腹圧や胃内圧が上がって中身が押し上げられること。そして食道裂孔ヘルニアのように防御構造そのものが弱くなることだ。
医学生医学生
なるほど、「括約筋が緩む」か「下から押される」かで考えればいいんですね。じゃあ過食は、胃がパンパンになって押し上げられるイメージでしょうか。
ドクタードクター
それに加えてもう一つある。胃の上部、胃底部が引き伸ばされると、それが刺激になって一過性下部食道括約筋弛緩という反射が起こりやすくなるんだ。食事そのものが胃酸分泌も促すから、食べ過ぎは二重三重に逆流を招く。
医学生医学生
高脂肪食も、カロリーが多いから太るという意味でしょうか。
ドクタードクター
長い目で見ればそれもあるけれど、もっと直接的な機序がある。脂肪が十二指腸に届くと、I細胞からコレシストキニンが分泌される。このホルモンが下部食道括約筋の圧を下げるんだ。さらに脂肪は胃からの排出を遅らせるから、胃に内容物がとどまる時間が長くなって逆流の機会が増える。
医学生医学生
生理学で習ったコレシストキニンが、ここでつながるんですね。胆嚢収縮のホルモンとしか覚えていませんでした。
ドクタードクター
基礎と臨床がつながる良い例だね。次に肥満。特に内臓脂肪が多いと腹腔内圧が上がり、胃も周りの脂肪に押されて胃内圧が高くなる。肥満は食道裂孔ヘルニアの危険因子でもあって、減量で逆流症状が改善することも示されている。
医学生医学生
前屈姿勢は、おなかが圧迫されるから腹圧が上がるということですね。
ドクタードクター
そう。草むしりのような前かがみの作業、重い物を持ち上げる動作、ベルトで腹部をきつく締めることも同じ機序だ。高齢者の円背も腹圧を高めるので逆流の危険因子になる。
医学生医学生
そうすると、残った運動が正解ですね。でも、運動中におなかに力が入ると腹圧が上がりそうな気もします。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。実際、食直後の激しい運動や、腹部に強い力がかかる運動では逆流が起こることもあるので、食後すぐの激しい運動は避けるよう指導する。ただ、一般的に運動は胸やけの典型的な誘因とはされていない。むしろ適度な運動は減量を通じて腹圧上昇を和らげ、消化管運動を促すので、逆流の予防に役立つ。だから「誘因となりにくい」のは運動なんだ。
医学生医学生
臨床実習で消化器内科を回ったとき、逆流性食道炎の患者さんに先生が減量と運動を勧めていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさに生活指導の柱だね。ほかにも、就寝前2〜3時間は食事をとらない、夜間に症状があれば上半身を少し高くして寝る、禁煙・節酒、チョコレートやカフェイン、アルコールを控えるといった指導がある。薬剤にも注意が必要で、カルシウム拮抗薬、硝酸薬、抗コリン薬、テオフィリンなどは括約筋の圧を下げることがある。
医学生医学生
内視鏡でびらんがあれば逆流性食道炎、なければ非びらん性胃食道逆流症でしたよね。
ドクタードクター
その通り。逆流性食道炎の重症度はロサンゼルス分類で評価する。治療の中心は酸分泌抑制薬で、プロトンポンプ阻害薬やカリウムイオン競合型アシッドブロッカーが使われる。臨床で特に気をつけたいのは、胸やけや胸痛を訴える人の中に狭心症などの心疾患が紛れていることだ。また慢性咳嗽や喘息の悪化、咽喉頭の違和感といった食道外症状で来院することもあるから、症状の背景に逆流がないか意識しておこう。
医学生医学生
誘因を覚えるより、「括約筋を緩めるか、腹圧を上げるか」で判断すれば応用がききそうです。
ドクタードクター
それが一番大事なポイントだよ。しくみがわかっていれば、初めて見る誘因でも判断できるし、患者さんへの説明にも説得力が出る。

まとめ

胸やけは胃食道逆流症の代表的な症状で、酸性の胃液が食道へ逆流して粘膜を刺激することで生じます。逆流は主に「下部食道括約筋の圧低下や一過性弛緩」と「腹圧・胃内圧の上昇」によって起こり、過食は胃底部の伸展による一過性弛緩、高脂肪食はコレシストキニンによる括約筋圧低下と胃排出遅延、肥満や前屈姿勢は腹圧上昇を介して誘因となります。一方、運動は典型的な誘因ではなく、適度な運動は減量を通じてむしろ予防的に働きますが、食直後の激しい運動は避けるよう指導されます。生活指導では減量、就寝前の食事を避ける、禁煙・節酒、腹部を締め付けないことなどが重要で、治療の中心は酸分泌抑制薬です。誘因をしくみから理解しておくことは、試験対策だけでなく、患者さんへの説得力ある生活指導にも直結します。

解答・解説

正解はbです

問われていること

胸やけを起こしやすくする生活習慣・体型・姿勢を理解しているかを問う問題である。「誘因となりにくい」ものを選ぶ点に注意する。

胸やけとは

胸やけは、前胸部から心窩部(みぞおち)にかけて焼けるような感じや不快感を覚える症状で、胃食道逆流症(GERD:gastroesophageal reflux disease)の代表的な症状である。食道内は通常pH 6〜7程度のほぼ中性に保たれているが、ここにpH 1〜2の強い酸性の胃液が逆流すると食道粘膜が刺激されて胸やけが生じる。このため胃酸分泌を抑える薬で症状は改善する。

逆流が起こる仕組み

胃と食道の境目には下部食道括約筋(LES:lower esophageal sphincter)があり、横隔膜の脚部による締め付けとあわせて逆流を防いでいる。逆流は主に次の3つの要因で起こる。 (1) LESの圧が低下する、または嚥下と無関係にLESが一時的に緩む(一過性LES弛緩:TLESR)。胃の上部(胃底部)が食べ物などで引き伸ばされるとこの反射が起こりやすい。 (2) 腹圧や胃内圧が上昇し、胃内容物が食道側へ押し上げられる。 (3) 食道裂孔ヘルニアなどにより逆流防止の構造そのものが弱くなる。

選択肢の見方

過食・高脂肪食はLESの弛緩や胃排出の遅れを通じて、肥満・前屈姿勢は腹圧上昇を通じて逆流を起こしやすくする。これに対し、運動は一般的な誘因とはされず、適度な運動は肥満の改善を通じてむしろ逆流の予防に役立つ。

選択肢考察

  1. ×a.  過食

    一度に多量に食べると胃が大きく膨らみ、胃内圧が上昇する。さらに胃底部が引き伸ばされる刺激によって一過性LES弛緩が増え、逆流防止機構が働きにくくなる。食事自体が胃酸分泌を促すことも加わり、酸を含む胃内容物が食道へ逆流して胸やけの誘因となる。

  2. ○b.  運動

    運動は胸やけの典型的な誘因には含まれない。適度な運動は体重を減らして腹腔内の脂肪による腹圧上昇を軽減し、消化管運動を促して胃内容物の排出を助けるため、逆流の予防につながる。GERDの生活指導でも肥満者の減量が勧められ、運動はその手段となる。ただし、食直後の激しい運動や腹部に強い力がかかる運動では逆流が起こることもあり、食後すぐの激しい運動は避けるよう指導される。

  3. ×c.  肥満

    肥満、特に内臓脂肪が多いタイプの肥満では腹腔内圧が上がり、胃も周囲の脂肪に圧迫されて胃内圧が高くなる。その結果、胃内容物が食道へ押し上げられやすくなる。肥満は食道裂孔ヘルニアの危険因子でもあり、GERDの重要な危険因子である。減量によって逆流症状が改善することが示されている。

  4. ×d.  高脂肪食

    脂肪を摂取すると十二指腸・上部小腸のI細胞からコレシストキニン(CCK)が分泌され、これがLESの圧を低下させる。また脂肪は胃からの排出を遅らせるため、胃内に内容物がとどまる時間が長くなり逆流の機会が増える。高脂肪食は肥満の原因ともなり、これらを通じて胸やけの誘因となる。

  5. ×e.  前屈姿勢

    前かがみの姿勢では腹部が圧迫されて腹圧が上昇し、胃内容物が食道へ押し上げられる。草むしりなどの前屈作業や重い物を持ち上げる動作、ベルトなどで腹部を強く締め付けることも同じ機序で逆流を起こしやすい。高齢者の脊椎後弯(円背)も腹圧を高めるGERDの危険因子である。

胸やけ・胃食道逆流の主な誘因

・食事関連:過食、高脂肪食、チョコレート、アルコール、コーヒーなどのカフェイン飲料、炭酸飲料、柑橘類、香辛料の強い食事、就寝前の食事 ・体型・姿勢:肥満(特に内臓脂肪型)、前屈姿勢、腹部の締め付け、円背、食後すぐの臥位 ・その他:喫煙、妊娠、食道裂孔ヘルニア ・LES圧を下げる薬剤:カルシウム拮抗薬、亜硝酸薬(硝酸薬)、抗コリン薬、テオフィリン、ベンゾジアゼピン系薬など

GERDの生活指導

減量、食べ過ぎや高脂肪食を避ける、就寝前2〜3時間は食事をとらない、夜間症状がある場合は上半身を挙上して寝る、禁煙・節酒、腹部を締め付けない、前屈姿勢を避ける、などが指導される。

GERDの分類と治療

内視鏡で食道粘膜にびらん・潰瘍(粘膜傷害)を認めるものを逆流性食道炎、症状はあるが粘膜傷害を認めないものを非びらん性胃食道逆流症(NERD)とよぶ。逆流性食道炎の重症度評価にはロサンゼルス分類が用いられる。薬物治療の中心は酸分泌抑制薬であり、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)が用いられる。

胸やけ以外の症状

呑酸(酸っぱい液が口まで上がってくる感覚)が典型的である。食道外症状として慢性咳嗽、喘息の悪化、咽喉頭異常感、非心臓性胸痛などもある。胸痛を訴える場合は狭心症などの心疾患との鑑別が重要である。

POINT

・胸やけはGERDの代表症状で、酸性の胃液が食道へ逆流して起こる。 ・逆流の機序は「LES圧の低下・一過性LES弛緩」と「腹圧・胃内圧の上昇」。 ・誘因:過食、高脂肪食(CCKによるLES圧低下)、肥満、前屈姿勢、喫煙、アルコール、就寝前の食事など。 ・運動は誘因になりにくく、減量を通じてむしろ予防的に働く(ただし食直後の激しい運動は避ける)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。