「何もしない」が正解―健康な胃に咲く胃底腺ポリープの見分け方
第112回医師国家試験 D問題 第56問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。人間ドックの上部消化管造影検査で胃に異常を指摘されたため来院した。上部消化管内視鏡像を示す。 対応として適切なのはどれか。

- a.経過観察
- b.プロトンポンプ阻害薬の投与
- c.Helicobacter pylori除菌
- d.内視鏡的粘膜切除
- e.胃全摘
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
萎縮のない胃の胃体部に、周囲と同色調で表面平滑な数mmの小ポリープが多発していれば胃底腺ポリープを考えます。胃底腺ポリープはH. pylori未感染の健康な胃に生じる良性病変で、散発性のものの癌化はきわめてまれなため、対応は経過観察です。H. pylori感染に伴う萎縮性胃炎を背景にし、発赤やびらんを伴う過形成性ポリープとは対照的で、こちらは除菌で縮小することがあり、2cm超や出血例では内視鏡的切除を考慮します。PPIの長期服用で胃底腺ポリープが増加・増大すること、家族性大腸腺腫症では胃底腺ポリポーシスに異形成を伴いうることも押さえておきましょう。ポリープそのものだけでなく背景粘膜を読み、不要な治療を避ける判断力は、日常の内視鏡診療で欠かせない視点です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・40歳の女性。症状はなく、人間ドックの上部消化管造影検査(バリウム検査)で胃の異常を指摘された。 ・内視鏡像では、胃体部の粘膜に数mm大の小さな半球状の隆起が多数みられる。隆起は表面が平滑で、色調は周囲の粘膜とほぼ同じであり、くびれ(茎)のない無茎性〜亜無茎性である。発赤やびらん、陥凹、不整な形態は認めない。 ・背景の胃粘膜はつやがあり、萎縮(血管が透けて見える、粘膜の退色など)を示す所見に乏しい。
診断へのプロセス
胃の小さな隆起性病変(胃ポリープ)の主な鑑別は、胃底腺ポリープ、過形成性ポリープ、腺腫、隆起型の早期胃癌である。 ・萎縮のない胃底腺領域(胃体部〜穹窿部)に、周囲と同色調で表面平滑な数mmの小ポリープが多発している ・中年女性である という特徴から、胃底腺ポリープと診断できる。過形成性ポリープであれば発赤が強く、表面にびらんや白苔を伴いやすく、萎縮性胃炎を背景にすることが多い。腺腫は白色調の扁平隆起、癌であれば不整な形態や発赤・陥凹を伴うことが多いが、いずれも本例にはあてはまらない。
設問の考え方
胃底腺ポリープはHelicobacter pylori(H. pylori)に感染していない健康な胃に生じる良性病変で、癌化はきわめてまれであり、症状も出さない。したがって治療の必要はなく、通常の検診の範囲で経過をみればよい。
選択肢考察
- ○a. 経過観察
胃底腺ポリープは胃底腺の腺管が嚢胞状に拡張したもので、散発性のものでは悪性化はほとんどなく、出血や通過障害などの症状も起こさない。そのため切除や薬物治療は不要で、経過観察とするのが適切である。むしろ胃底腺ポリープの存在は、H. pylori未感染で萎縮のない胃であることを示唆する所見ともいえる。
- ×b. プロトンポンプ阻害薬の投与
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸分泌を強力に抑える薬で、消化性潰瘍や逆流性食道炎の治療に用いる。本例には潰瘍や炎症の所見はなく、投与の適応がない。それどころか、PPIの長期服用は胃底腺ポリープを新たに生じさせたり大きくしたりすることが知られており、ポリープの治療にはならない。
- ×c. Helicobacter pylori除菌
胃底腺ポリープはH. pyloriに感染していない、萎縮のない胃粘膜を背景に発生する。本例も感染を疑わせる萎縮性胃炎の所見に乏しく、除菌の対象とはならない。除菌によって縮小・消失が期待できるのは、H. pylori感染に伴う萎縮性胃炎を背景に生じる過形成性ポリープである。
- ×d. 内視鏡的粘膜切除
内視鏡的粘膜切除(EMR)は、腺腫や粘膜内にとどまる早期胃癌、大きく出血を繰り返す過形成性ポリープなどで考慮される治療である。胃底腺ポリープは癌化のリスクがきわめて低く、症状もないため、切除の必要はない。
- ×e. 胃全摘
胃全摘は胃体上部の進行胃癌などに対して行う、侵襲が大きく術後の障害(ダンピング症候群、ビタミンB12欠乏による貧血、体重減少など)も伴う手術である。良性で治療不要の胃底腺ポリープに行う理由はまったくない。
胃ポリープの概念
胃ポリープは、胃の粘膜から内腔へ突出する、上皮由来の良性の限局性隆起性病変の総称である。代表的なものは胃底腺ポリープと過形成性ポリープで、両者の比較が重要である。
胃底腺ポリープ
・好発:中年女性、胃体部〜穹窿部(胃底腺領域) ・背景粘膜:H. pylori未感染、萎縮のない胃 ・形態:数mm大、無茎性〜亜有茎性、表面平滑、周囲と同色調、多発しやすい ・組織:胃底腺の過形成と腺管の嚢胞状拡張 ・癌化:散発性のものはきわめてまれ ・対応:経過観察 ・関連:PPIの長期服用で増加・増大する。家族性大腸腺腫症(FAP)では胃底腺ポリープが多発(胃底腺ポリポーシス)し、異形成を伴うことがあるため注意が必要である。
過形成性ポリープ
・背景粘膜:H. pylori感染に伴う萎縮性胃炎 ・形態:発赤が強く、表面に凹凸やびらん、白苔を伴うことがある。大きくなると有茎性となる。 ・組織:腺窩上皮(胃の表面の上皮)の過形成 ・癌化:まれだが、2cmを超えるものでは癌の合併が報告される ・対応:基本は経過観察。H. pylori除菌で縮小・消失することがある。大きいもの、出血・貧血の原因となるもの、癌の合併が疑われるものは内視鏡的切除を考慮する。
腺腫
・萎縮した胃(腸上皮化生のある粘膜)に生じる白色調の扁平隆起で、癌との鑑別や癌化の可能性から、大きさや所見に応じて内視鏡的切除を検討する。
POINT
・萎縮のない胃の胃体部に、周囲と同色調で表面平滑な小ポリープが多発 → 胃底腺ポリープ。 ・胃底腺ポリープはH. pylori未感染の胃に生じ、癌化はきわめてまれで、対応は経過観察。 ・PPIの長期服用で胃底腺ポリープが増加・増大する。 ・過形成性ポリープはH. pylori感染の萎縮性胃炎を背景にし、除菌で縮小することがある。2cm超や出血例は切除を考慮。
