食事のたびに顎の下が痛む―CTに浮かぶ小さな石が語る顎下腺唾石症
第112回医師国家試験 D問題 第57問
国試問題にチャレンジ
51歳の女性。1週間前からの右顎下部の腫脹を主訴に来院した。血液所見:赤血球480万,Hb 13.8g/dL,Ht 42%,白血球9,000,血小板22万。CRP 0.4mg/dL。尿所見と他の血液生化学所見とに異常を認めない。頭頸部CTを別に示す。 この疾患について正しいのはどれか。

- a.発熱を伴う。
- b.口腔乾燥を伴う。
- c.食事中に疼痛を伴う。
- d.頰部粘膜の腫脹を伴う。
- e.口腔底に潰瘍形成を伴う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
顎下部の腫脹でCTにWharton管の走行に一致する高吸収の石灰化を認めれば、顎下腺唾石症と診断できます。唾石が導管をふさぐため、唾液分泌が増える食事中に腺が腫れて痛む唾疝痛が典型で、食後に軽快し食事ごとに繰り返します。閉塞は片側の一腺に限られるため口腔乾燥は起こらず、感染を合併しなければ発熱や炎症反応の上昇もなく、粘膜に潰瘍をつくることもありません。唾石症の8〜9割が顎下腺に生じるのは、Wharton管が長く上行し唾液が粘稠でカルシウムに富むためで、Stensen管とWharton管の開口部の違いとあわせて解剖から理解しておくと応用が利きます。治療は唾石の位置により口内法での摘出か顎下腺摘出術を選び、問診で食事との関連を聞き出すことが診断の第一歩になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・51歳の女性。1週間前からの右顎下部(下顎骨の下内側)の腫脹。 ・血液検査:白血球9,000/μLは基準範囲内、CRP 0.4mg/dLもごく軽度の上昇にとどまり、明らかな細菌感染や強い炎症を示す所見はない。そのほかの検査にも異常はない。 ・頭頸部単純CT(下顎骨のレベルの横断像。画像の左側が患者の右側):右の口腔底、下顎骨の内側で顎下腺管(Wharton管)の走行に一致する部位に、骨と同程度の高吸収を示す類円形の石灰化構造物を認める。左側には同様の構造物はない。
診断へのプロセス
顎下部の腫脹の鑑別には、唾石症、急性・慢性の顎下腺炎、顎下腺腫瘍、リンパ節腫大(反応性、悪性リンパ腫、癌の転移)、IgG4関連疾患(Küttner腫瘍)、Sjögren症候群などがある。 本例では、腫脹側の唾液腺管の経路に一致して明瞭な石灰化(結石)がCTで描出されており、顎下腺唾石症と診断できる。炎症反応がほぼないことから、現時点では細菌感染(化膿性顎下腺炎)は合併していないと考えられる。
設問の考え方
唾石が唾液の出口をふさぐと、唾液が大量に分泌される食事のたびに腺内に唾液がたまり、顎下腺が急に腫れて痛む(唾疝痛)。この「食事と関連して繰り返す腫脹と疼痛」が唾石症に特徴的な症状であり、各選択肢がこの疾患の臨床像に合うかどうかを判断する。
選択肢考察
- ×a. 発熱を伴う。
唾石症そのものは唾液の流れが機械的にふさがれる病態であり、発熱は伴わない。唾液のうっ滞が続いて細菌感染を起こし、化膿性顎下腺炎を合併した場合には発熱や局所の発赤・熱感、白血球増加・CRP上昇がみられるが、本例では炎症反応がほぼ正常で、感染合併を示唆しない。
- ×b. 口腔乾燥を伴う。
唾石症は通常一つの唾液腺の導管がふさがるだけで、ほかの大唾液腺(反対側の顎下腺、両側の耳下腺・舌下腺)や小唾液腺からの唾液分泌は保たれるため、口腔乾燥は生じない。口腔乾燥を主症状とするのは、全身の外分泌腺が障害されるSjögren症候群、放射線治療後、抗コリン作用をもつ薬剤の服用、脱水などである。
- ○c. 食事中に疼痛を伴う。
食事のときには味覚刺激などで唾液分泌が急に増えるが、唾石で導管がふさがれていると唾液が口腔内へ出ていけず、腺内に貯留して顎下腺が急に腫れ、強い痛みが生じる。この食事に伴う疼痛を唾疝痛と呼ぶ。腫脹と疼痛は食後しばらくすると唾液が少しずつ排出されて軽快するが、食事のたびに繰り返すのが典型的な経過である。
- ×d. 頰部粘膜の腫脹を伴う。
顎下腺管(Wharton管)は口腔底の舌下小丘に開口するため、顎下腺唾石症の病変は顎下部と口腔底に限られ、頬粘膜には及ばない。頬粘膜(上顎第2大臼歯に対面する部位)に開口するのは耳下腺管(Stensen管)であり、頬部の腫脹は耳下腺の唾石や耳下腺炎などで問題となる。
- ×e. 口腔底に潰瘍形成を伴う。
唾石は導管の内腔にできる結石であり、粘膜を破壊して潰瘍を作ることはない。口腔底の唾石が浅い位置にあれば、触診で硬いしこりとして触れたり、開口部の発赤・腫脹がみられたりする程度である。口腔の潰瘍を形成するのは、口腔癌(口腔底癌)、アフタ性口内炎、Behçet病などである。
唾石症の概要
・唾液腺や導管の中に、カルシウム塩(主にリン酸カルシウム)を主成分とする結石ができる疾患である。唾液の停滞、導管の炎症、細菌塊や剥がれた上皮などを核として形成されると考えられている。 ・約80〜90%が顎下腺に生じる。理由として、顎下腺管(Wharton管)が長く、腺から口腔底へ向かって上行するため唾液が重力に逆らって流れること、顎下腺の唾液が粘稠でカルシウム濃度が高いことなどが挙げられる。耳下腺に生じるのは1割程度で、舌下腺はまれである。
症状
・食事に伴って起こる唾液腺の腫脹と疼痛(唾疝痛)が典型で、食後時間とともに改善する。 ・感染を合併すると持続的な腫脹・疼痛、発熱、開口部からの排膿をきたす(化膿性唾液腺炎)。 ・口腔底の唾石は、口腔内と顎下部の双方から挟むように触れる双手診で硬いしこりとして触知できることがある。
検査
・CTは石灰化の検出に優れ、唾石の位置・大きさ・数の確認に有用である。 ・単純エックス線写真(咬合法)、超音波検査(音響陰影を伴う高エコー)も用いられる。
治療
・感染を合併していれば抗菌薬を投与する。 ・小さな唾石は唾液分泌を促す(酸味のあるものを摂るなど)ことで自然排出されることがある。 ・Wharton管の開口部に近い(前方の)唾石は、口腔内から導管を切開して摘出する。 ・腺と導管の移行部や腺内の唾石、炎症を繰り返して腺の機能が失われた場合は、顎下腺摘出術を行う。施設によっては唾液腺内視鏡を用いた摘出も行われる。
唾液腺の導管と開口部
・耳下腺:耳下腺管(Stensen管)→ 上顎第2大臼歯に対面する頬粘膜 ・顎下腺:顎下腺管(Wharton管)→ 口腔底の舌下小丘 ・舌下腺:多数の小舌下腺管が舌下ひだに開口し、一部は顎下腺管と合流して舌下小丘に開口する
POINT
・唾石症の多く(約80〜90%)は顎下腺に生じる。 ・食事時に唾液腺が腫れて痛む(唾疝痛)のが典型で、食後に軽快し、食事ごとに繰り返す。 ・感染を合併しなければ発熱や炎症反応の上昇はない。 ・CTで導管・腺内の高吸収の石灰化として描出される。 ・治療:前方(開口部寄り)の唾石は口内法で摘出、腺内・移行部の唾石や繰り返す炎症では顎下腺摘出。
