StudyMed医師国家試験

FASTが「異常なし」でも安心できない―超音波に映らない後腹膜という死角

第112回医師国家試験 C問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第112回 C問題 第48問

65歳の男性。スクーターで走行中に対向車と正面衝突して受傷したため救急車で搬入された。腹部から腰部の痛みを訴えている。意識はほぼ清明。体温35.8℃。心拍数140/分,整。血圧80/50mmHg。呼吸数24/分。SpO2 100%(リザーバー付マスク10L/分酸素投与下)。頸静脈の怒張を認めない。迅速簡易超音波検査〈FAST〉で異常所見を認めなかった。  ショックの原因として最も考えられるのはどれか。

  1. a.大量血胸
  2. b.緊張性気胸
  3. c.心タンポナーデ
  4. d.大量腹腔内出血
  5. e.大量後腹膜出血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高エネルギー外傷でショックに陥った患者さんの原因を絞り込む問題だ。着眼点は3つ。ショックの「型」は何か、頸静脈がどうなっているか、そしてFASTが何を見ていて何を見ていないか。まずはショックの重症度から考えてみよう。
医学生医学生
心拍数が収縮期血圧を大きく上回っているので、ショック指数は1.5を超えますね。かなり出血していそうです。
ドクタードクター
その通り。ショック指数は1.75で、循環血液量の30〜40%前後が失われている可能性を示す目安になる。頻呼吸もショックに対する代償反応と読める。では、外傷でショックを見たら、まず何を考える?
医学生医学生
救急科の臨床実習で「外傷のショックはまず出血を疑え」と叩き込まれました。でも緊張性気胸や心タンポナーデも外傷ではよくある、とも習いました。
ドクタードクター
いいね。外傷性ショックは大きく、出血による循環血液量減少性ショックと、緊張性気胸や心タンポナーデによる閉塞性ショックに分けて考える。この2つを見分ける簡単な手がかりが頸静脈なんだ。
医学生医学生
閉塞性ショックでは心臓に血液が戻れないので、頸静脈が張ってくるんでしたね。
ドクタードクター
そう。閉塞性ショックでは静脈還流が妨げられて頸静脈が怒張し、出血性ショックでは血管内容量が減って頸静脈は虚脱する。今回は怒張がなく、酸素化も保たれている。緊張性気胸なら患側の呼吸音減弱や気管偏位、高度の低酸素を伴うことが多いし、心タンポナーデならBeckの三徴、つまり頸静脈怒張・血圧低下・心音減弱が古典的だ。どちらも考えにくいね。
医学生医学生
心タンポナーデはFASTで最初に心嚢を見るので、そこでも否定できますね。
ドクタードクター
その通り。では残るは出血性ショックだ。外傷で大量出血をきたす場所を挙げられるかな。
医学生医学生
胸腔、腹腔、後腹膜、それと大腿骨みたいな長管骨骨折と外出血……でしたっけ。
ドクタードクター
完璧。JATECの考え方だね。ではFASTの観察部位は?
医学生医学生
心嚢、モリソン窩、脾周囲、膀胱直腸窩、左右の胸腔です。OSCEの練習でプローブを当てる順番を覚えました。
ドクタードクター
よく覚えている。FASTはそこに液体、つまり血液がたまっていないかを短時間で調べる検査だ。ということは、FASTが陰性なら、大量血胸も大量腹腔内出血もひとまず考えにくくなる。
医学生医学生
でも、出血の初期だとFASTに映らないこともあるんじゃないですか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。だからFASTは時間をおいて繰り返す。ただ、これだけのショックになるほどの大量腹腔内出血なら、モリソン窩や脾周囲に液体が描出されるはずだ。大量血胸も同様で、FASTで胸腔を見ているし、実際の現場では胸部エックス線でも確認する。
医学生医学生
そうすると、FASTで見ていない場所に出血している、ということですね。腹部から腰部の痛みというのも気になります。
ドクタードクター
まさにそこが核心。後腹膜腔はFASTでは評価できない死角なんだ。腹部から腰部の痛みは、骨盤骨折、腎損傷、腰動脈損傷など後腹膜領域の損傷を示唆する。頸静脈怒張のない出血性ショックで、胸腔・心嚢・腹腔が否定的なら、正解は大量後腹膜出血だ。
医学生医学生
後腹膜出血を疑ったら、どうやって確認するんですか。
ドクタードクター
primary surveyでは、FASTと一緒に胸部と骨盤のポータブルエックス線を撮る。骨盤エックス線で不安定型骨盤骨折があれば、輸液・輸血で蘇生しつつ、シーツラッピングや骨盤固定具で簡易固定する。動脈性出血には経カテーテル動脈塞栓術、つまりTAEが有効で、静脈性出血には後腹膜パッキングが選ばれることもある。
医学生医学生
骨盤骨折は静脈叢からの出血も多いと整形外科の講義で聞きました。だから固定で容積を減らすことが大事なんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。もう一つ注意点を。体温が低めなのも見逃せない。低体温は凝固障害を悪化させ、出血をさらに止まりにくくする。保温もEの大切な要素だ。そして循環が安定したら造影CTで損傷部位を詳しく評価する。不安定なままCT室へ行くのは危険だということも覚えておこう。
医学生医学生
FASTが陰性でも「出血はない」と決めつけず、FASTの死角を意識することが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。検査が何を見ていて何を見ていないかを知っていることが、本当の意味で検査を使いこなすということだよ。

まとめ

外傷によるショックはまず出血性を考え、胸腔・腹腔・後腹膜・長管骨・外出血の5か所を出血源として検索します。頸静脈怒張は緊張性気胸や心タンポナーデなどの閉塞性ショックを示唆し、出血性ショックでは頸静脈は虚脱します。FASTは心嚢・胸腔・腹腔の液体貯留を評価する検査ですが、後腹膜腔は評価できないため、FAST陰性で腹部〜腰部痛を伴う出血性ショックでは骨盤骨折や腎損傷などによる大量後腹膜出血を疑い、骨盤エックス線で確認します。治療は輸液・輸血による蘇生に加え、骨盤の簡易固定やTAEなどで止血を図り、低体温の予防も重要です。検査の守備範囲と死角を理解しておくことは、外傷初期診療で見逃しを防ぐための基本となります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・受傷機転:スクーター走行中に対向車と正面衝突しており、高エネルギー外傷として扱うべきである。 ・自覚症状:腹部から腰部にかけての痛み。腹腔内臓器だけでなく、腎臓・骨盤・腰椎など後腹膜領域の損傷も示唆する。 ・バイタルサイン:心拍数140/分、血圧80/50mmHgとショック状態にある。ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)は140÷80=1.75で、1.0を大きく超えており、かなりの量の出血(循環血液量の30〜40%前後に相当)が推定される。頻呼吸(24/分)はショックに対する代償反応である。体温35.8℃の低体温は出血性ショックの悪化因子でもある。 ・意識はほぼ清明で、酸素投与下でSpO2 100%と酸素化は保たれている。 ・頸静脈の怒張がない。 ・FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma:外傷初期診療で行う迅速簡易超音波検査)で異常がない。

ショックの分類からのアプローチ

外傷によるショックは、大きく出血による循環血液量減少性ショックと、緊張性気胸や心タンポナーデによる閉塞性ショックに分けて考える。閉塞性ショックでは心臓への静脈還流が妨げられるため、頸静脈が怒張するのが典型的である。本例では頸静脈怒張がなく、酸素化も良好であることから閉塞性ショックは考えにくく、出血性(循環血液量減少性)ショックが最も疑われる。

出血源の検索

外傷で大量出血をきたしショックの原因となる部位は、胸腔(大量血胸)、腹腔(腹腔内出血)、後腹膜(骨盤骨折など)、および長管骨骨折(特に大腿骨)と外出血である。FASTでは心嚢・モリソン窩(肝腎境界)・脾周囲・膀胱直腸窩(ダグラス窩)・左右の胸腔を観察し、液体(出血)貯留の有無を短時間で評価する。FASTで異常がなければ心嚢・胸腔・腹腔の大量出血は否定的である。一方、後腹膜腔はFASTで評価できない領域であり、FAST陰性であっても後腹膜出血は否定できない。腹部から腰部の痛みを伴う出血性ショックで、胸腔・腹腔に出血がないとすれば、骨盤骨折、腎損傷、腰動脈損傷などに伴う大量後腹膜出血を最も疑う。

選択肢考察

  1. ×a.  大量血胸

    大量血胸は出血性ショックの原因となり得るが、FASTでは左右の胸腔の液体貯留も観察するため、FASTで異常がない本例では考えにくい。また、大量血胸では患側の呼吸音減弱や酸素化障害を伴うことが多いが、本例ではSpO2 100%と酸素化が保たれている。実際の初期診療では、胸部単純エックス線写真(ポータブル撮影)も併せて血胸の有無を確認する。

  2. ×b.  緊張性気胸

    緊張性気胸では胸腔内圧が高まって静脈還流が障害され、閉塞性ショックとなる。典型的には頸静脈怒張、患側の呼吸音減弱・消失、気管の健側への偏位、皮下気腫、高度の呼吸困難と低酸素血症を呈する。本例は頸静脈怒張がなく、SpO2も100%に保たれているため考えにくい。なお、緊張性気胸は画像検査を待たず身体所見で診断し、直ちに胸腔の減圧を行うべき病態である。

  3. ×c.  心タンポナーデ

    心タンポナーデでは心嚢内に貯留した血液が心臓の拡張を妨げ、閉塞性ショックとなる。頸静脈怒張・血圧低下・心音減弱(Beckの三徴)が古典的所見である。FASTでは最初に心嚢を観察するが、本例では心嚢液貯留を認めず、頸静脈怒張もないため否定的である。

  4. ×d.  大量腹腔内出血

    肝・脾損傷などによる腹腔内出血は外傷性ショックの代表的な原因である。しかし、ショックをきたすほどの大量の腹腔内出血があれば、FASTでモリソン窩や脾周囲、膀胱直腸窩に液体貯留が描出されるはずであり、FASTで異常がない現時点では考えにくい。ただし、出血初期にはFASTが陰性となることもあるため、FASTは時間をおいて繰り返し行う。

  5. ○e.  大量後腹膜出血

    後腹膜腔はFASTでの評価が困難な領域であり、FASTが陰性でも大量出血が隠れていることがある。本例は高エネルギー外傷で、腹部から腰部の痛みを訴え、頸静脈怒張のない出血性ショックを呈している。胸腔・心嚢・腹腔の出血がFASTで否定的であることから、骨盤骨折(骨盤内の静脈叢や動脈からの出血)、腎損傷、腰動脈損傷、腹部大血管損傷などによる大量後腹膜出血が最も考えられる。骨盤単純エックス線写真で不安定型骨盤骨折の有無を確認し、輸液・輸血による蘇生を行いつつ、必要に応じて骨盤の簡易固定や経カテーテル動脈塞栓術(TAE)で止血を図る。

外傷初期診療(JATEC)のprimary survey

ABCDEアプローチ(A:気道、B:呼吸、C:循環、D:意識・中枢神経、E:脱衣と体温管理)で生命を脅かす病態を順に評価し、同時に蘇生を行う。Cの評価では、FASTのほか、胸部・骨盤の単純エックス線写真(ポータブル撮影)を用いて出血源を検索する。

FASTの観察部位

心嚢、モリソン窩(肝腎境界)、右胸腔、脾周囲(脾腎境界)、左胸腔、膀胱直腸窩(ダグラス窩)。目的は液体(出血)貯留の検出であり、後腹膜腔、実質臓器損傷そのもの、消化管損傷の評価には向かない。気胸の評価まで含めたものはE-FAST(extended FAST)と呼ばれる。

ショックで疑う出血源(胸腔・腹腔・後腹膜・長管骨・外出血)

・胸腔:胸部エックス線、FAST ・腹腔:FAST ・後腹膜(骨盤骨折):骨盤エックス線 ・長管骨骨折(大腿骨など):身体所見 ・外出血:視診

ショックの分類と頸静脈

・循環血液量減少性ショック(出血など):頸静脈は虚脱する。 ・心外閉塞・拘束性ショック(緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓):頸静脈は怒張する。ただし、大量出血を合併すると怒張がはっきりしないこともある。 ・心原性ショック:頸静脈は怒張する。 ・血液分布異常性ショック(敗血症、アナフィラキシー、神経原性):頸静脈は虚脱し、末梢は温かいことが多い。

ショック指数

心拍数÷収縮期血圧で求める。1.0で循環血液量の約20%、1.5で約30%、2.0で約40%前後の出血量の目安とされる。

後腹膜出血の主な原因と対応

骨盤骨折、腎損傷、腰動脈損傷、腹部大動脈・下大静脈損傷、腰椎骨折など。不安定型骨盤骨折ではシーツラッピングや骨盤固定具による簡易固定を行い、動脈性出血にはTAE、静脈性出血には後腹膜パッキングなどで止血する。循環が安定すれば造影CTで損傷部位を詳しく評価する。

POINT

・外傷によるショックはまず出血性を考え、出血源は胸腔・腹腔・後腹膜(骨盤)・長管骨・外出血の順に検索する。 ・頸静脈怒張は閉塞性ショック(緊張性気胸、心タンポナーデ)を示唆し、出血性ショックでは頸静脈は虚脱する。 ・FASTは心嚢・胸腔・腹腔の液体貯留を評価するが、後腹膜腔は評価できない。 ・FAST陰性の出血性ショック+腹部〜腰部痛 → 骨盤骨折などによる後腹膜出血を疑い、骨盤エックス線で確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。