StudyMed医師国家試験

背中の一筋の傷が語るもの―異状死を前に医師がまず果たすべき義務

第112回医師国家試験 C問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第112回 C問題 第49問

中年の男性。道路で血を流して倒れているところを通行人に発見された。救急隊到着時には心肺停止状態で,病院に搬送されたが死亡が確認された。背部から出血があり,血液を拭き取ったところ確認された創の写真を別に示す。  死亡を確認した医師が,まず行うべきなのはどれか。

第112回 C問題 第49問の問題画像
  1. a.創を縫合する。
  2. b.警察署に届け出る。
  3. c.病理解剖を依頼する。
  4. d.死亡診断書を交付する。
  5. e.死体検案書を交付する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病院で死亡を確認した後に医師が最初に何をすべきかを問う問題だ。カギは2つ。写真の創が何による損傷か、そしてその死亡が法的にどう扱われるか。まず創の写真から見ていこう。
医学生医学生
背中に線状の傷があります。血を拭いたらきれいな切れ目が見えた、という感じでしょうか。
ドクタードクター
そう。創縁はなめらかで整っていて、周りに表皮剝脱、つまり皮膚表面がこすれてはがれた所見がない。さらに、片方の創端は鋭く、もう片方はわずかに幅をもって鈍になっている。これは何を意味するかな。
医学生医学生
法医学の講義で、鈍器の挫創は創縁が不整で、創の底に組織架橋が残ると習いました。それがないので鋭器、刃物ですね。
ドクタードクター
その通り。そして一端が鋭・他端が鈍というのは、包丁やナイフのような片刃の刃物の特徴だ。両刃なら両端とも鋭になる。しかも背部という、自分では刺しにくい部位にある。
医学生医学生
ということは、誰かに刺された可能性が高い……他殺を疑う状況ですね。
ドクタードクター
そう考えるのが自然だ。外傷による死亡で、しかも犯罪の関与が疑われる。こういう死亡を何と呼ぶ?
医学生医学生
異状死です。医師法第21条で、24時間以内に警察に届け出る義務があったはずです。
ドクタードクター
正解。医師は死体を検案して異状があると認めたら、24時間以内に所轄警察署へ届け出なければならない。だから死亡を確認した医師がまず行うべきは、警察署への届出だ。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。創を縫合する、というのはどうだろう。
医学生医学生
ご遺族のために傷をきれいにしてあげたい気持ちはわかりますが……。
ドクタードクター
その気持ちは大切だけれど、亡くなった方に治療としての縫合は意味がない。それどころか、創縁や創端の形、創の深さといった、凶器の種類や刺した方向を推定する重要な証拠が失われてしまう。犯罪が疑われる遺体は、法医学的な検査が終わるまで現状を保存するのが原則だ。
医学生医学生
病理解剖を依頼する、も違いますか。病理実習で見学した剖検は、亡くなった入院患者さんのものでした。
ドクタードクター
まさにそこが違いだ。病理解剖は、病院で診療を受けて病死した患者さんについて、遺族の承諾のもとで死因や病態、治療効果を調べるもの。犯罪が疑われる場合は、警察の検視を経て、刑事訴訟法に基づき裁判所の許可状を得て行う司法解剖になる。遺族の承諾は不要だ。
医学生医学生
ほかにも行政解剖や調査法解剖がありましたよね。CBTの前に解剖の種類の表を必死に覚えました。
ドクタードクター
いいね。犯罪性はないが死因不明なら行政解剖、警察署長の判断で行う調査法解剖もある。いずれにしても、目の前の医師の判断で病理解剖に回すのは誤りだ。では書類はどうかな。死亡診断書と死体検案書の違いは?
医学生医学生
診療中の患者さんがその病気で亡くなったら死亡診断書、それ以外は死体検案書です。今回は来院時心肺停止の外因死なので死体検案書ですね。
ドクタードクター
書類の種類としてはその通り。でも「まず」行うべきことではない。異状死では届出と検視が先で、届け出ずに検案書を交付することはできない。司法解剖になった場合は、通常は解剖を担当した医師が死因を確定して検案書を作成する。
医学生医学生
なるほど。正しい書類でも、順番を間違えたらいけないということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点だ。異状死には外傷のほか、中毒、溺水、熱中症などの外因死、死因不詳の死亡、診療行為に関連した予期しない死亡なども含まれる。救急外来では来院時心肺停止の方を看取る場面が少なくないから、外表をしっかり観察して異状の有無を判断する習慣が大切だ。
医学生医学生
救急外来で亡くなった方の全身をきちんと見る、というのは死因の究明にもつながるんですね。
ドクタードクター
そう。医師の届出が、事件の解明や公衆衛生上の対策につながる第一歩になる。法律の知識も医師の大切な仕事の一部だよ。

まとめ

創縁が整で表皮剝脱や組織架橋を伴わず、一端が鋭・他端が鈍の創は片刃の鋭器による刺創を示唆し、背部にあれば他殺も疑われます。このような外傷死は異状死であり、医師法第21条により医師は24時間以内に所轄警察署へ届け出る義務があるため、死亡確認後にまず行うべきは警察への届出です。証拠保全のため創の縫合など遺体への処置は行わず、犯罪が疑われる場合の解剖は病理解剖ではなく司法解剖となります。外因死で作成する書類は死亡診断書ではなく死体検案書ですが、届出と検視が先行します。創の性状の読み方と異状死への対応手順を理解しておくことは、救急の現場で医師としての法的責任を果たすうえで欠かせません。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

中年男性が路上で出血して倒れているのを発見され、救急隊到着時すでに心肺停止(CPA)であり、搬送先の病院で死亡が確認された。背部から出血しており、血液を拭うと創が確認された。写真の創は長さ数cm程度の線状の開放創で、創縁はなめらかで整っており(整鋭)、周囲に表皮剝脱(擦過によって皮膚の表層がはがれた所見)を伴わない。一方の創端は鋭く、他方の創端はわずかに幅をもって鈍である。上下の創縁を寄せると一本の直線になる。

創の解釈

創縁が整で表皮剝脱や組織架橋(創の底に残る血管・神経などの橋渡し状の組織)を伴わない点は、鈍器による挫創ではなく鋭器(刃物)による損傷であることを示す。片方の創端が鋭、他方が鈍であることは片刃の刃物(包丁・ナイフなど)の特徴であり、背部という自分では刺しにくい部位であることも併せると、刃物で刺された刺創(あるいは切創)が死因に関与した可能性が高い。すなわち、他殺が強く疑われる状況である。

設問の考え方

本例は外因(外傷)による死亡であり、しかも犯罪の関与が疑われる。医師法第21条は「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定めている。したがって、死亡を確認した医師がまず行うべきことは、遺体に手を加えず現状を保ったまま、所轄警察署へ異状死として届け出ることである。届出後は警察による検視が行われ、犯罪性があれば司法解剖などで死因が究明される。死亡診断書・死体検案書などの書類の作成はその後の段階の話であり、「まず行うべきこと」には当たらない。

選択肢考察

  1. ×a.  創を縫合する。

    患者はすでに死亡しており、治療としての縫合に意味はない。それどころか、創に手を加えると創縁や創端の形状、創の深さ(創洞)といった、凶器の種類や刺入方向を推定するための重要な証拠が失われる。犯罪が疑われる遺体は、司法解剖など法医学的な検査が終わるまで現状を保存しなければならない。

  2. ○b.  警察署に届け出る。

    背部の鋭器損傷による出血が疑われる外傷死であり、他殺の可能性もある典型的な異状死である。医師法第21条により、異状を認めた医師は24時間以内に所轄警察署へ届け出る義務がある。届出によって警察の検視が行われ、必要に応じて司法解剖などへと進むため、最初に行うべき行為として適切である。

  3. ×c.  病理解剖を依頼する。

    病理解剖は、病院で診療を受けて病死した患者について、遺族の承諾のもとに病理医が死因、病態、治療効果などを明らかにする目的で行う解剖である。本例のように外傷による死亡で犯罪が疑われる場合は、警察への届出・検視を経て、刑事訴訟法に基づく司法解剖(裁判所の鑑定処分許可状による)が行われる。犯罪性がないと判断されても死因が不明であれば、行政解剖や死因・身元調査法に基づく解剖が選択される。いずれにしても、医師の判断で病理解剖を依頼するのは誤りである。

  4. ×d.  死亡診断書を交付する。

    死亡診断書は、医師が診療中の患者(自らの診療管理下にある患者)が、その傷病に関連して死亡した場合に作成する書類である。本例は来院時すでに心肺停止であり、診療中の傷病による死亡ではなく外傷による異状死なので、作成するとしても死亡診断書ではなく死体検案書となる。また、いずれにしても書類作成より警察への届出が先である。

  5. ×e.  死体検案書を交付する。

    診療管理下にない死亡や外因死では死体検案書を作成するため、書類の種類としては本例に合致する。しかし異状死では、警察への届出と検視が先に行われなければならず、届出をしないまま検案書を交付することはできない。犯罪が疑われ司法解剖となった場合は、通常、解剖を担当した医師が死因を確定したうえで死体検案書を作成する。したがって「まず行うべきこと」ではない。

異状死の届出(医師法第21条)

・医師は死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。違反には罰則がある。 ・ここでいう「検案」とは、医師が死因などを判定するために死体の外表を検査することをいい、自分が診療していた患者か否かを問わない(平成31年の厚生労働省通知でもこの解釈が示されている)。 ・異状死の典型例:外傷・中毒・溺水・熱中症などの外因死、外因による傷害の続発症、死因不詳の死亡、診療行為に関連した予期しない死亡など(日本法医学会の「異状死ガイドライン」が目安として用いられる)。

死亡診断書と死体検案書の使い分け

・死亡診断書:診療中の患者が、その診療に係る傷病で死亡した場合。最終診察から24時間を超えていても、診療中の傷病による死亡と判定できれば死亡診断書を交付できる。 ・死体検案書:上記以外(診療管理下にない死亡、外因死、来院時心肺停止で死因が判定できない場合など)。

解剖の種類

・司法解剖:犯罪が疑われる死体について、刑事訴訟法に基づき裁判所の鑑定処分許可状を得て行う。遺族の承諾は不要。 ・行政解剖(監察医解剖など):犯罪性はないが死因不明の死体について、死体解剖保存法などに基づき公衆衛生上の目的で行う。 ・調査法解剖:死因・身元調査法に基づき、警察署長の判断で行う。遺族の承諾は不要。 ・承諾解剖:遺族の承諾を得て行う。 ・病理解剖:病院で病死した患者について、遺族の承諾のもとに死因や病態を調べる目的で行う。

鋭器損傷の見方

・切創:鋭器を引いてできる創で、長さが深さより大きい。 ・刺創:鋭器で刺してできる創で、深さが長さより大きい。片刃なら一端が鋭・他端が鈍、両刃なら両端とも鋭となる。 ・鋭器損傷は創縁が整で、表皮剝脱や組織架橋を伴わない。これに対し鈍器による挫創は、創縁が不整で表皮剝脱・組織架橋を伴う。

POINT

・外傷死、特に他殺が疑われる死亡は異状死であり、医師は24時間以内に所轄警察署へ届け出る(医師法第21条)。 ・犯罪が疑われる遺体は現状を保存し、創の縫合や清拭などの処置を加えない。 ・犯罪性がある場合の解剖は司法解剖であり、病理解剖ではない。 ・来院時心肺停止の外因死で作成する書類は死体検案書だが、届出・検視が先である。 ・創縁整・表皮剝脱なし・一端鋭/一端鈍は、片刃の鋭器による刺創を示唆する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。