指が多い、精巣が降りていない、お腹に膜―バラバラの奇形をつなぐ「染色体」という一本の糸
第112回医師国家試験 C問題 第46問
国試問題にチャレンジ
日齢0の新生児。在胎35週1日で早期破水があり,同日に経腟分娩で出生した。出生時は身長44cm,体重1,960g,頭囲30.0cmで,心拍数は120/分であった。自発呼吸が微弱で全身にチアノーゼを認めたため,酸素投与を開始した。啼泣時に強直してチアノーゼとSpO2の低下とを認める。両側の多指症および多趾症と両側停留精巣とを認める。合併する腹壁異常の写真を別に示す。 基礎疾患を診断するために行うべき検査はどれか。

- a.頭部CT
- b.腹部CT
- c.染色体検査
- d.臍帯病理組織学的検査
- e.全身骨エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
臍帯ヘルニア、多指・多趾症、停留精巣のように複数の器官系にまたがる先天奇形が同時にみられる新生児では、それらを一元的に説明する基礎疾患として染色体異常症を第一に疑い、染色体検査(G分染法による核型分析)で確定します。軸後性多指症に臍帯ヘルニアや無呼吸発作を伴う組み合わせは13トリソミー(Patau症候群)を想起させ、核型分析で転座型と判明すれば両親の検査や遺伝カウンセリングにもつながります。頭部CTや腹部CTは合併奇形の評価、臍帯病理は子宮内感染の検索、全身骨エックス線撮影は骨系統疾患や虐待の評価に用いるもので、基礎疾患そのものの診断にはなりません。臍帯ヘルニアはヘルニア嚢に覆われ合併奇形が多く、腹壁破裂は嚢がなく合併奇形が少ないという区別も重要です。検査の目的が合併症の評価か原因の確定かを見極める姿勢は、多発奇形の診療とご家族との方針決定の基盤になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・在胎35週1日の早産児で、出生体重1,960gの低出生体重児(2,500g未満)である。体重は在胎週数に比してやや小さいが、身長44cm、頭囲30.0cmは在胎週数の標準範囲内か、やや小さい程度である。体重以外の計測値が明らかに小さいとはいえないため、発育パターンを対称性と断定することはできず、どちらかといえば頭囲が比較的保たれた非対称寄りと読める。なお一般論として、体重・身長・頭囲がそろって小さい対称性の発育不全は妊娠早期からの発育障害を示し、染色体異常や先天感染の手がかりとなる。 ・自発呼吸が弱く全身チアノーゼがあり、啼泣時に体を強直させてチアノーゼとSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)の低下をきたす。呼吸・循環の未熟性や先天性心疾患、中枢神経系の異常(無呼吸発作やけいれん)などを反映している可能性がある。 ・外表奇形として両側の多指症・多趾症、両側停留精巣がある。 ・腹壁の写真では、臍部から膨隆する半透明の膜(ヘルニア嚢)に覆われた腫瘤があり、その表面に臍帯が付着している。臍帯ヘルニア(omphalocele)である。
診断に至るプロセス
一つの臓器にとどまらない複数の先天異常(多指・多趾、停留精巣、臍帯ヘルニア)に、低出生体重や呼吸・循環の異常が加わっている。このように多系統にわたる奇形が同時にみられる場合は、個々の奇形を別々に考えるのではなく、それらを一元的に説明する基礎疾患として染色体異常症(奇形症候群)を第一に疑う。なかでも多指(趾)症、臍帯ヘルニア、停留精巣、無呼吸発作の組合せは13トリソミー(Patau症候群)に典型的である。臍帯ヘルニアは18トリソミーでも多いが、軸後性多指症は13トリソミーをより強く示唆する。
設問の考え方
問われているのは個々の合併奇形を評価する検査ではなく、「基礎疾患」を確定する検査である。染色体異常症の確定診断は染色体検査(G分染法による核型分析など)で行う。画像検査で新たな奇形が見つかっても、それは合併症の評価にとどまり、基礎疾患そのものの診断にはならない。本問の決め手は発育パターンではなく、多系統にわたる先天奇形の組合せである。
選択肢考察
- ×a. 頭部CT
13トリソミーでは全前脳胞症などの中枢神経奇形を合併しやすく、無呼吸やけいれんの原因検索として頭部画像検査を行う意義はある。しかし、脳の形態異常を確認しても、それが染色体異常によるものかは判定できず、基礎疾患の確定には至らない。また、新生児では被曝や搬送の負担を考慮し、まず頭部超音波検査が選択されることが多い。
- ×b. 腹部CT
臍帯ヘルニアの脱出臓器(腸管、肝臓など)や腎・尿路奇形の評価は治療計画上必要であるが、これは合併奇形の評価であり基礎疾患の診断にはならない。新生児の腹部評価では、被曝がなくベッドサイドで行える腹部超音波検査がまず用いられる。
- ○c. 染色体検査
多指・多趾症、停留精巣、臍帯ヘルニアという多発奇形が同時にみられ、13トリソミーをはじめとする染色体異常症が強く疑われる。末梢血リンパ球を培養してG分染法で核型を調べれば、13番染色体のトリソミー(標準型か転座型か、モザイクかを含む)を確定でき、基礎疾患の診断となる。転座型であれば両親の染色体検査と遺伝カウンセリングにもつながる。急ぐ場合はFISH法で特定の染色体の数的異常を迅速に確認することもある。
- ×d. 臍帯病理組織学的検査
臍帯や胎盤の病理検査は、臍帯炎・絨毛膜羊膜炎など子宮内感染の有無を調べ、早期破水や早産の原因を検索する目的で行う。本児の多発奇形を一元的に説明する基礎疾患の診断には役立たない。
- ×e. 全身骨エックス線撮影
全身骨エックス線撮影は、骨系統疾患(軟骨無形成症、骨形成不全症など)や、虐待が疑われる場合の骨折検索に用いる。多指症の骨構造を確認することはできるが、染色体異常症の診断はできない。
臍帯ヘルニアと腹壁破裂の違い
・臍帯ヘルニア:臍帯付着部の腹壁欠損から腹腔内臓器が脱出し、羊膜と腹膜からなるヘルニア嚢に覆われる。臍帯はヘルニア嚢に付着する。肝臓が脱出することもある。染色体異常(18トリソミー、13トリソミーなど)や心奇形、Beckwith-Wiedemann症候群などの合併が多く、他の奇形を伴う頻度は半数以上とされる。 ・腹壁破裂:多くは臍帯付着部の右側の腹壁欠損から、腸管が嚢に覆われずに露出する。臍帯の位置は正常である。染色体異常や他の奇形の合併は少なく、若年妊娠に多い。
13トリソミー(Patau症候群)
・頻度はおよそ出生5,000〜12,000人に1人程度とされ、母体の高年齢がリスクとなる。 ・主な所見:全前脳胞症、小頭症、小眼球症、口唇口蓋裂、頭皮欠損、軸後性多指(趾)症、先天性心疾患(心室中隔欠損、心房中隔欠損、動脈管開存など)、臍帯ヘルニア、停留精巣、多発性嚢胞腎、無呼吸発作、子宮内発育不全。 ・生命予後は不良で、多くが1年以内に死亡するが、長期生存例もあり、近年は積極的治療を行うかを家族と話し合って個別に決定する。
主な常染色体トリソミーの特徴
・21トリソミー(Down症候群):特有の顔貌、筋緊張低下、心内膜床欠損、十二指腸閉鎖、知的障害。 ・18トリソミー(Edwards症候群):子宮内発育不全、手指の重なり(overlapping finger)、揺り椅子状足底、心室中隔欠損、臍帯ヘルニア、女児に多い。 ・13トリソミー(Patau症候群):全前脳胞症、口唇口蓋裂、多指症、頭皮欠損。
胎児発育不全の型
・対称性:体重・身長・頭囲がいずれも小さい。妊娠早期からの障害で、染色体異常、先天感染(TORCH症候群)などが原因となる。 ・非対称性:頭囲(と身長)は比較的保たれ体重が小さい。妊娠後期の胎盤機能不全(妊娠高血圧症候群など)が主な原因で、脳への血流が優先される(brain sparing)。 ・発育パターンは原因推定の手がかりにすぎず、染色体異常でも非対称性を示すことがある。多発奇形があれば、発育パターンにかかわらず染色体検査を考慮する。
POINT
・多系統の先天奇形が同時にみられる新生児では、基礎疾患として染色体異常症を疑い、染色体検査(G分染法による核型分析)で確定する。 ・多指(趾)症+臍帯ヘルニア+停留精巣 → 13トリソミーを想起する。 ・臍帯ヘルニアはヘルニア嚢があり臍帯が嚢に付着し、染色体異常の合併が多い。腹壁破裂は嚢がなく合併奇形は少ない。 ・画像検査は合併奇形の評価であり、基礎疾患の確定には使えない。
