ゆがむ中心、守れる未来―加齢黄斑変性と「最大の修正可能因子」喫煙
第112回医師国家試験 C問題 第31問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。3か月前から徐々に左眼の視力低下をきたし,中心暗点も自覚するようになったため来院した。視力は右0.1(1.0×-1.5 D),左0.1(0.2×-2.0 D)。左眼の眼底写真(A)と光干渉断層計〈OCT〉像(B)とを別に示す。 この疾患のリスクファクターはどれか。

- a.喫煙
- b.紫外線
- c.糖尿病
- d.緑内障手術既往
- e.大量アルコール摂取
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者の片眼性の視力低下・中心暗点・変視症で、黄斑部に出血や滲出物を伴う病巣があり、OCTで脈絡膜新生血管や色素上皮剝離を認めれば、滲出型加齢黄斑変性を考えます。この疾患で疫学的に確立した危険因子は加齢と喫煙であり、修正可能な因子としては喫煙が最大で、禁煙は発症予防や僚眼の発症予防に重要です。紫外線や大量飲酒は関連が示唆されるにとどまり、糖尿病網膜症の新生血管は網膜由来で加齢黄斑変性の脈絡膜由来の新生血管とは異なります。滲出型の治療は抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択で、主要な失明原因の一つである本疾患の危険因子を理解することは、診療科を問わず患者指導に活かせる知識です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・75歳男性。3か月かけて徐々に進行した左眼の視力低下と中心暗点。 ・矯正視力は右1.0、左0.2で、左眼のみが低下している(片眼性)。屈折は軽度の近視で、強度近視(一般に-6D程度を超えるもの)ではない。 ・眼底写真(A): 黄斑部に灰白色〜暗赤色の病巣があり、その周囲に出血と黄白色の硬性白斑(滲出物)を伴う。 ・OCT(B): 網膜色素上皮付近から網膜下にかけて隆起する高反射の病巣(脈絡膜新生血管を示す)と、網膜色素上皮の隆起(色素上皮剝離)を認め、その上の網膜は持ち上げられ肥厚している。
診断の考え方
片眼性の視力低下は、視交叉より前(眼球または視神経)の病変を示す。中心暗点は黄斑部の疾患か視神経疾患で生じるが、本例は眼底に黄斑部の病巣が明らかであり黄斑疾患である。高齢者の黄斑部に、出血・滲出物を伴う病巣があり、OCTで網膜色素上皮の下あるいは網膜下に新生血管を示す病変と色素上皮剝離を認めることから、脈絡膜新生血管(CNV)を伴う滲出型加齢黄斑変性と診断できる。 鑑別として、糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫(糖尿病の既往、両眼性で毛細血管瘤・点状出血が散在し、浮腫は網膜内)、網膜静脈分枝閉塞症(静脈の走行に沿った火炎状出血)、近視性脈絡膜新生血管(強度近視)などがあるが、いずれも本例の所見と合わない。
設問へのアプローチ
加齢黄斑変性の危険因子として疫学的に最も確立しているのは、加齢と喫煙である。喫煙は加齢黄斑変性の発症リスクを数倍に高め、修正可能な危険因子として最も重要である。
選択肢考察
- ○a. 喫煙
喫煙は加齢と並んで、加齢黄斑変性の危険因子として多くの疫学研究で一貫して示されており、修正可能な因子の中では最大のものである。喫煙による酸化ストレスの増加や脈絡膜循環の障害が、網膜色素上皮の障害や新生血管の形成を促すと考えられている。禁煙は発症予防や僚眼(反対側の眼)の発症予防のために指導すべき項目である。
- ×b. 紫外線
光曝露(紫外線や青色光)が網膜の酸化障害を通じて加齢黄斑変性に関与する可能性は指摘されているが、疫学研究での結果は一貫しておらず、喫煙ほど確立した危険因子ではない。紫外線との関連が明らかなのは、電気性眼炎や雪眼炎(紫外線角膜炎)、翼状片、白内障などの前眼部・水晶体の疾患である。
- ×c. 糖尿病
糖尿病は糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫の原因であり、加齢黄斑変性の危険因子としては確立していない。糖尿病網膜症でも新生血管が生じるが、これは網膜の虚血によって網膜面上や視神経乳頭上、虹彩などに生じるもので、加齢黄斑変性の脈絡膜から生じる新生血管とは発生部位が異なる。本例は糖尿病の既往が記載されておらず、片眼性で黄斑部に限局した病巣である点も糖尿病網膜症に合わない。
- ×d. 緑内障手術既往
緑内障およびその手術歴は加齢黄斑変性の危険因子ではない。緑内障手術後の合併症としては、低眼圧による低眼圧黄斑症や脈絡膜剝離、白内障の進行、濾過胞感染などが知られるが、加齢黄斑変性とは別の病態である。
- ×e. 大量アルコール摂取
大量飲酒と加齢黄斑変性との関連を示唆する報告はあるものの、結果は一定せず確立した危険因子とはいえない。偏った食生活(抗酸化物質の摂取不足)を介した間接的な影響が考えられる程度であり、喫煙とは比較にならない。大量飲酒で問題となる眼疾患としては、栄養障害(ビタミンB群欠乏)を背景とする中毒性・栄養性視神経症がある。
加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)
加齢に伴い黄斑部の網膜色素上皮・Bruch膜・脈絡膜が障害される疾患で、50歳以上に多く、日本では男性に多い。先進国の中途失明の主因の一つであり、日本でも主要な失明原因となっている。
病型
・滲出型(新生血管型): 脈絡膜から新生血管が網膜色素上皮の下や網膜下に伸び、出血・滲出・網膜下液・色素上皮剝離を起こす。進行が速く視力低下が強い。日本人ではポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の割合が高い。 ・萎縮型: 網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板が地図状に萎縮する。進行は緩徐で、日本人では欧米より少ない。 前段階としてドルーゼン(網膜色素上皮下の黄白色沈着物)がみられる。
症状
変視症(物がゆがんで見える。Amslerチャートで検出)、中心暗点、視力低下。周辺視野は保たれる。
検査
眼底検査、OCT(網膜下液、色素上皮剝離、新生血管の描出)、フルオレセイン蛍光眼底造影・インドシアニングリーン蛍光眼底造影(新生血管やポリープ状病巣の同定)、OCTアンギオグラフィ。
治療
・滲出型: 抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬の硝子体内注射が第一選択。PCVなどでは光線力学的療法(PDT)を併用することがある。 ・萎縮型: 確立した治療は乏しい。 ・予防: 禁煙、抗酸化ビタミンや亜鉛、ルテインなどのサプリメント(一定の進行リスクがある例で進行抑制効果が示されている)、緑黄色野菜の摂取。
危険因子
確立したもの: 加齢、喫煙。そのほか、遺伝的素因(CFH遺伝子、ARMS2遺伝子などの多型)、家族歴、高血圧・心血管疾患、肥満、抗酸化物質の摂取不足などが関連するとされる。
POINT
・高齢者の片眼性の視力低下・中心暗点・変視症で、黄斑部に出血・滲出物を伴う病巣とOCTでの新生血管・色素上皮剝離をみたら滲出型加齢黄斑変性を考える。 ・加齢黄斑変性の確立した危険因子は加齢と喫煙(修正可能な最大の因子は喫煙)。 ・滲出型の治療の第一選択は抗VEGF薬の硝子体内注射。 ・糖尿病網膜症の新生血管は網膜由来、加齢黄斑変性の新生血管は脈絡膜由来。
