その検査、誰のため?―「患者の利益」と「利益相反」で読み解く医師の職業倫理
第112回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
医師の職業倫理に反するのはどれか。
- a.講演会に出席して新薬の説明を受ける。
- b.手術成績の良い外科医に患者を紹介する。
- c.病院経営改善を目的として検査の件数を増やす。
- d.医療機器メーカー主催の医療機器講習会に参加する。
- e.治験薬剤の適応に合致する患者に治験への参加を提案する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医師の職業倫理の根本は、診療上の判断を患者の利益に基づいて行い、営利を目的としないことであり、病院経営の改善を目的に医学的必要性のない検査を増やすことはこれに明確に反します。不要な検査は患者に身体的・経済的負担や偽陽性による追加精査のリスクを負わせ、保険診療のルール上も許されません。一方、講演会や企業主催の講習会への参加、治療成績に基づく紹介、適格な患者への治験参加の提案は、過剰な便益を受けないことや自由意思による同意の確保といった前提を守れば、患者の利益や医学の進歩に資する行為です。企業との関係は禁止ではなく、利益相反として開示・管理するものだと理解しておきましょう。「その判断は誰の利益のためか」という問いは、日々の診療で倫理的に迷ったときの確かな物差しになります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
医師の職業倫理の根本は、診療上の判断を「患者の利益」を最優先にして行うことである。日本医師会の「医の倫理綱領」には、医師は医業にあたって営利を目的としないことが明記されており、医療行為の必要性は医学的適応によって決まるべきで、病院の収益や医師個人の利害によって左右されてはならない。
考え方
各選択肢について、「その行為が患者の利益につながるか」「医学的判断が医療機関や企業の利益によってゆがめられていないか(利益相反)」の二つの観点で検討するとよい。 ・新しい薬や医療機器について学ぶこと、成績の良い医師へ紹介すること、適格な患者に治験という選択肢を示すことは、いずれも患者の利益や医学の進歩に資する行為であり、適切な手続きと節度を守れば倫理に反しない。 ・一方、医学的必要性ではなく経営改善という医療機関側の利益を目的に検査を増やすことは、患者に不要な身体的負担・経済的負担・偽陽性による追加検査などのリスクを負わせるものであり、職業倫理に明確に反する。保険診療においても、保険医療機関及び保険医療養担当規則で検査は診療上必要があると認められる場合に行うこととされており、制度上も許されない。
選択肢考察
- ×a. 講演会に出席して新薬の説明を受ける。
医師には生涯にわたって知識・技能を更新し続ける責務がある(生涯学習)。新薬の作用機序・有効性・副作用について講演会で情報を得ることは、患者に適切な薬物治療を提供するために有益であり、倫理に反しない。ただし企業主催の場合は情報に偏りがありうることを意識し、過剰な接待を受けないなど利益相反への配慮は必要である。
- ×b. 手術成績の良い外科医に患者を紹介する。
治療成績(アウトカム)という客観的な根拠に基づいて、患者にとってより良い結果が期待できる医師を紹介することは、患者の利益を最優先にした行動であり、職業倫理にかなう。紹介によって謝礼を受け取るなど、紹介先の選択が金銭的利益に左右される場合は問題となる。
- ○c. 病院経営改善を目的として検査の件数を増やす。
検査を行うかどうかは、その患者の診断や治療に必要かという医学的適応で判断すべきである。病院の収益を上げるために不要な検査を増やすことは、患者に身体的・経済的負担や偶発的所見による過剰な精査のリスクを負わせ、医療資源の無駄遣いにもなる。医業に営利を目的としないという医の倫理に反し、保険診療のルールにも反する。したがって職業倫理に反する行為である。
- ×d. 医療機器メーカー主催の医療機器講習会に参加する。
医療機器を安全かつ適切に使うためには、操作方法や注意点を習得する必要があり、メーカーによる講習会はそのための重要な機会である。主催が企業であること自体は問題ではなく、過剰な接待や金品の授受など、医師の判断をゆがめかねない便益を受けない限り倫理に反しない。
- ×e. 治験薬剤の適応に合致する患者に治験への参加を提案する。
治験は新しい治療法を確立するために不可欠であり、適格基準に合う患者に参加の選択肢を示すことは、患者にとって新たな治療機会となりうる。十分な説明に基づく自由意思による同意(インフォームド・コンセント)を得ること、参加を断っても通常の診療で不利益を受けないことを保証することが前提であり、参加を強要しなければ倫理上の問題はない。
医の倫理綱領(日本医師会)の主な内容
・医学知識と技術の習得に努め、その進歩・発展に尽くす(生涯学習)。 ・自らの職業の尊厳と責任を自覚し、教養を深め人格を高める。 ・医療を受ける人々の人格を尊重し、やさしい心で接するとともに、医療内容についてよく説明し信頼を得る。 ・互いに尊敬し、医療関係者と協力して医療に尽くす。 ・医療の公共性を重んじ、法規範の遵守および法秩序の形成に努める。 ・医業にあたって営利を目的としない。
利益相反(COI:conflict of interest)
医師が企業などから受ける経済的利益が、患者のための判断や研究の公正さを損なうおそれがある状態をいう。企業との関わり自体を禁じるものではなく、関係を適切に開示・管理することが求められる。講演会・講習会への参加や共同研究は認められるが、過剰な飲食接待や金品の提供は業界の自主規約でも制限されている。
治験・臨床研究の倫理
ヘルシンキ宣言やGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)に基づき、倫理審査委員会(治験審査委員会)による審査、文書によるインフォームド・コンセント、いつでも参加を撤回できる権利の保障などが求められる。
POINT
・医療行為は医学的必要性と患者の利益に基づいて行い、営利を目的としない。 ・経営目的での不要な検査・治療の追加は倫理違反。 ・企業主催の講演会・講習会への参加は、過剰な便益を受けない限り問題ない(利益相反の管理)。 ・治験参加の提案は、自由意思に基づく同意と不参加による不利益がないことの保障が前提であれば問題ない。
