StudyMed医師国家試験

「誰が感染しているかわからない」から始まる―標準予防策の本当の意味

第112回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第112回 B問題 第1問

標準予防策〈standard precautions〉について正しいのはどれか。

  1. a.患者を隔離する。
  2. b.医療者の手指衛生を徹底する。
  3. c.感染症と診断してから開始する。
  4. d.感染症の治療が済んだら終了する。
  5. e.特定の感染症への対策として実施する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、院内感染対策の土台である標準予防策の考え方を問う問題だ。ポイントは「誰に」「いつ」行う対策なのか。ここを押さえれば、選択肢は自然に絞れるよ。まず、標準予防策ってどんな原則だったか覚えているかな。
医学生医学生
感染症の患者さんに対して、うつらないように行う対策……でしょうか。
ドクタードクター
そう思いがちなんだけど、実は逆なんだ。標準予防策は、すべての患者の血液、汗を除く体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を「感染性がありうるもの」として扱う、という原則だ。1996年に米国CDCが隔離予防策ガイドラインの中で示した考え方だよ。
医学生医学生
すべての患者、ということは、感染症と診断されていない人も含むんですか。
ドクタードクター
その通り。感染症は診断がつく前や潜伏期、症状の乏しい時期、無症候性の保菌状態でも人にうつりうる。検査で判明した人だけを対象にしていたら、未診断の感染者や未知の病原体を見逃してしまう。だから全員に、最初から、常に行うんだ。
医学生医学生
それなら、診断してから始めるとか、治療が済んだら終わりにする、というのは成り立たないですね。
ドクタードクター
そう。診断を待っていたらその間の伝播を防げないし、治療後の患者さんも含めて全員に続ける。特定の感染症に向けた対策でもない。では、正解はどれだと思う?
医学生医学生
医療者の手指衛生の徹底です。臨床実習の初日のオリエンテーションで、感染管理認定看護師さんから手洗いの手順を何度も練習させられました。
ドクタードクター
正解。医療関連感染の多くは医療者の手を介して広がるから、手指衛生は標準予防策の中核で、最も基本的かつ効果の大きい対策なんだ。WHOの「5つのタイミング」は言えるかな。
医学生医学生
患者さんに触れる前と後、清潔・無菌操作の前、体液に触れた可能性のある後……あと一つが思い出せません。
ドクタードクター
患者周囲の環境に触れた後だ。ベッド柵やモニターに触っただけでも手は汚染されうる。それから、手袋を外した後にも手指衛生が必要だよ。
医学生医学生
アルコールと石けん手洗いは、どう使い分ければいいですか。
ドクタードクター
目に見える汚れがなければ擦式アルコール製剤でいい。目に見える汚れがあるときや、ノロウイルスやClostridioides difficileの芽胞のようにアルコールが効きにくい病原体が疑われるときは、石けんと流水で手を洗う。
医学生医学生
では、患者さんを隔離するのは標準予防策ではないんですか。
ドクタードクター
隔離は、標準予防策に上乗せして行う感染経路別予防策の一部なんだ。空気感染する結核・麻疹・水痘では陰圧個室とN95マスク、飛沫感染するインフルエンザや風疹、百日咳ではサージカルマスク、接触感染するMRSAなどの多剤耐性菌やノロウイルス、疥癬では手袋・ガウンの着用と器具の患者専用化を行う。治療の終了などで解除が検討されるのも、こちらの追加の対策のほうだよ。
医学生医学生
全員に行う土台が標準予防策で、病原体がわかったり疑われたりしたら経路別予防策を重ねる、という二階建てなんですね。
ドクタードクター
いい整理だね。最後に、標準予防策は手指衛生だけではないことも押さえておこう。血液や体液に触れる可能性があれば手袋、衣服が汚れそうならガウンやエプロン、飛び散りそうならマスクやゴーグル、フェイスシールドといった個人防護具を使う。咳エチケット、器具やリネンの適切な扱い、環境の清掃も含まれる。
医学生医学生
OSCEの採血の手技でも、リキャップしないで針をすぐ専用容器に捨てるように言われました。あれも標準予防策ですか。
ドクタードクター
そう、鋭利器材の安全な取り扱いも標準予防策の大事な柱だ。針刺し事故は医療者自身をB型肝炎やC型肝炎、HIVなどの感染から守る意味でも重要。標準予防策は患者さんと医療者の双方を守るための、毎日の当たり前の積み重ねなんだよ。

まとめ

標準予防策は、すべての患者の血液、汗を除く体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染性がありうるものとして扱い、感染症の診断の有無にかかわらず常に行う対策です。その中核は医療者の手指衛生であり、WHOの5つのタイミングを守り、汚れや病原体に応じてアルコール製剤と石けん・流水を使い分けます。ほかに個人防護具の使用、咳エチケット、鋭利器材の安全な取り扱いなども含まれます。隔離は、空気・飛沫・接触の感染経路に応じて標準予防策に上乗せする感染経路別予防策であり、標準予防策そのものではありません。未診断・無症候の感染者からの伝播も防ぐという発想を理解することは、臨床実習から研修医以降まで、患者と自分自身を守る基本になります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

標準予防策(スタンダードプリコーション)は、1996年に米国疾病予防管理センター(CDC)が隔離予防策ガイドラインの中で示した、医療関連感染対策の土台となる考え方である。

標準予防策の基本原則

「すべての患者の血液、体液(汗を除く)、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜は感染性がありうるものとして扱う」という原則に基づく。感染症と診断されているかどうか、病原体が判明しているかどうかに関係なく、医療の場で接するすべての患者に、常に行う対策である。 このように考える理由は、感染症の多くは診断がつく前や、症状が乏しい時期、あるいは無症候性の保菌状態のときにも感染源となりうるからである。検査で判明した患者だけを対象にしていると、未診断の感染者や未知の病原体を見逃してしまう。全員に同じ対策を行うことで、こうした「見えない感染源」からの伝播も防ぐことができる。

正解を導く考え方

標準予防策の「すべての患者に」「常に」「疾患を問わず」という性質を押さえれば、診断を条件に開始・終了したり、特定の疾患だけを対象にしたりする選択肢は誤りとわかる。隔離は、標準予防策に上乗せする感染経路別予防策の一部であり、標準予防策そのものではない。標準予防策の中で最も基本的かつ重要な行為は手指衛生である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者を隔離する。

    患者の個室収容や陰圧室への隔離は、結核・麻疹・水痘(空気感染)や、インフルエンザ(飛沫感染)、多剤耐性菌や Clostridioides difficile(接触感染)など、特定の感染経路をもつ病原体が判明または疑われる場合に、標準予防策に追加して行う感染経路別予防策の内容である。標準予防策はすべての患者に行う基本的対策であり、全患者を隔離するものではない。

  2. ○b.  医療者の手指衛生を徹底する。

    医療関連感染の多くは医療者の手を介して伝播するため、手指衛生は標準予防策の中核であり、最も基本的で効果の大きい対策である。WHOは手指衛生を行うべき5つのタイミングとして、①患者に触れる前、②清潔・無菌操作の前、③体液に曝露した可能性のある後、④患者に触れた後、⑤患者周囲の環境に触れた後を挙げている。目に見える汚れがなければ擦式アルコール製剤による手指消毒、目に見える汚れがある場合やアルコールが効きにくい病原体(ノロウイルス、Clostridioides difficileの芽胞など)が疑われる場合は、石けんと流水による手洗いを行う。手袋を外した後にも手指衛生が必要である。

  3. ×c.  感染症と診断してから開始する。

    標準予防策は、診断の有無にかかわらず最初からすべての患者に対して行う。感染症は診断前や潜伏期、無症候性保菌の段階でも他者に伝播しうるため、診断を待ってから開始したのでは、その間の感染を防げない。

  4. ×d.  感染症の治療が済んだら終了する。

    標準予防策は特定の感染症の存在を前提とした対策ではないため、治療が終わっても終了しない。治療後の患者を含め、すべての患者に継続して行う。治療の終了などに伴って解除が検討されるのは、追加で行っていた感染経路別予防策(隔離など)のほうである。

  5. ×e.  特定の感染症への対策として実施する。

    標準予防策は病原体や疾患を特定せず、すべての患者に共通して行う対策である。特定の病原体・感染経路を想定して行うのは、空気感染・飛沫感染・接触感染に対する感染経路別予防策である。

標準予防策の主な内容

・手指衛生:擦式アルコール製剤による手指消毒、または石けんと流水による手洗い。 ・個人防護具(PPE)の使用:血液・体液などに触れる可能性があれば手袋、衣服が汚染される可能性があればガウンやエプロン、飛散の可能性があればマスク・ゴーグル・フェイスシールドを着用する。使用後は適切に外し、外した後に手指衛生を行う。 ・呼吸器衛生/咳エチケット:咳やくしゃみのある人にマスク着用を促し、ティッシュで口と鼻を覆う、使用後に手指衛生をするなど。 ・患者に使用した器具・リネンの適切な取り扱い、環境の清掃。 ・鋭利器材の安全な取り扱い:リキャップをしない、使用後すぐに耐貫通性容器に廃棄する、安全装置付き器材を使用する。 ・安全な注射手技:単回使用の注射器・針を再使用しない、など。 ・患者配置:周囲を汚染する可能性のある患者は個室を考慮する。

感染経路別予防策

標準予防策に上乗せして、病原体の感染経路に応じて行う。 ・空気感染予防策(飛沫核感染:結核、麻疹、水痘〈播種性帯状疱疹を含む〉):陰圧個室、医療者はN95マスクを着用。 ・飛沫感染予防策(インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマなど):個室または集団隔離、患者に近接するときはサージカルマスクを着用。 ・接触感染予防策(MRSAなどの多剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬など):個室または集団隔離、手袋・ガウンを着用、聴診器などの器具を患者専用にする。

標準予防策の利点

既知の感染症だけでなく、未診断・無症候の感染者や未知の病原体による伝播も防ぐことができ、患者と医療従事者の双方を守る。

POINT

・標準予防策は、感染症の有無にかかわらず、すべての患者に常に行う。 ・血液、汗を除く体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染性ありとして扱う。 ・最も基本的な対策は手指衛生である。加えて、曝露の可能性に応じて手袋・マスク・ガウン・ゴーグルなどの個人防護具を使用する。 ・隔離などは、標準予防策に追加する感染経路別予防策(空気・飛沫・接触)である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。