血小板250万、脳梗塞の既往―骨髄増殖性腫瘍を消去法で見極める本態性血小板血症
第112回医師国家試験 A問題 第48問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。健診で検査値の異常を指摘されたため来院した。1年前に脳梗塞の既往がある。心音と呼吸音とに異常を認めない。肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9g/dL,Ht 42%,白血球12,300(桿状核好中球30%,分葉核好中球45%,好酸球1%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球17%),血小板253万。染色体は正常核型である。末梢血塗抹May-Giemsa染色標本(A)と骨髄生検のH-E染色標本(B)とを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.骨髄線維症
- b.慢性骨髄性白血病
- c.骨髄異形成症候群
- d.真性赤血球増加症
- e.本態性血小板血症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
反応性の原因がないのに血小板が著しく増加し、骨髄で大型の成熟巨核球が増えている場合は本態性血小板血症を考えます。慢性骨髄性白血病(Philadelphia染色体・幼若顆粒球)、真性赤血球増加症(Hb・Ht上昇)、原発性骨髄線維症(貧血・脾腫・涙滴赤血球・線維化)、骨髄異形成症候群(血球減少・異形成)をそれぞれの決め手で除外することが診断の要となり、確定にはJAK2・CALR・MPL変異の検索を加えます。主な合併症は脳梗塞などの血栓症ですが、血小板が極端に多いと後天性von Willebrand症候群による出血傾向も生じえます。60歳以上または血栓症の既往がある高リスク例では、低用量アスピリンと細胞減少療法を組み合わせます。どの血球系が増えているかを起点に骨髄増殖性腫瘍を整理する視点は、健診異常の評価から血栓症予防まで幅広い臨床場面で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・70歳男性。健診で検査値の異常を指摘され、自覚症状はない。1年前に脳梗塞の既往がある。 ・肝臓・脾臓は触知せず、脾腫はない。 ・赤血球468万/μL、Hb 13.9 g/dL、Ht 42%で、貧血も赤血球増加もない。 ・白血球12,300/μLと軽度に増加し、好中球が増えている。幼若な細胞(芽球・前骨髄球・骨髄球)や好塩基球の増加はない。 ・血小板253万/μLと著明に増加している(基準はおよそ15万〜35万/μL)。 ・染色体は正常核型で、Philadelphia染色体はない。 ・末梢血塗抹(A):赤血球の間に多数の血小板が散在し、大型の血小板も混じる。そのほかに目立つ異常(涙滴赤血球、幼若な白血球・赤血球の出現、異形成)はない。 ・骨髄生検(B):大型で成熟した巨核球が著しく増え、巨核球系を主体とした細胞の増生がみられる。
診断へのプロセス
血小板の著しい増加をみたら、まず反応性(二次性)の血小板増加症と腫瘍性(骨髄増殖性腫瘍)の血小板増加を区別する。反応性の血小板増加は、鉄欠乏性貧血、炎症・感染症、悪性腫瘍、出血、脾摘後などで起こるが、200万/μLを超えることはまれである。本例は基礎疾患の手がかりがなく、骨髄で巨核球が腫瘍性に増えていることから、骨髄増殖性腫瘍(MPN)と考えられる。 血小板増加をきたすMPNには、慢性骨髄性白血病(CML)、真性赤血球増加症(PV)、原発性骨髄線維症(PMF)、本態性血小板血症(ET)がある。本例は、①染色体が正常でCMLが否定的、②赤血球・Hb・Htが正常でPVが否定的、③貧血・脾腫・涙滴赤血球・骨髄線維化がなくPMFが否定的、④血球減少や異形成がなく骨髄異形成症候群(MDS)も否定的である。血小板の単独での著増と、骨髄の成熟した大型巨核球の増加から、本態性血小板血症と診断するのが最も妥当である。脳梗塞の既往は、本症の主要な合併症である血栓症として説明できる。
選択肢考察
- ×a. 骨髄線維症
原発性骨髄線維症は、骨髄の線維化により造血の場が骨髄から脾臓・肝臓へ移る(髄外造血)疾患である。進行すると、貧血、著明な脾腫、末梢血の涙滴赤血球、白赤芽球症(幼若な白血球と赤芽球が末梢血に出現する状態)を特徴とし、骨髄穿刺は吸引できないことが多い(dry tap)。本例には貧血・脾腫・涙滴赤血球がなく、骨髄生検でも線維化ではなく巨核球の増加が主体であるため、否定的である。なお、線維化が目立たない前線維化期の骨髄線維症は血小板増加を示すことがありETとの区別が問題になるが、本例ではETを第一に考える。
- ×b. 慢性骨髄性白血病
CMLは、t(9;22)転座で生じるPhiladelphia染色体(BCR::ABL1融合遺伝子)を特徴とする。白血球の著増とともに、骨髄球・後骨髄球などあらゆる成熟段階の顆粒球が末梢血に出現し、好塩基球も増える。血小板が増えることもあるが、本例は白血球の増加が軽度で幼若な顆粒球の出現もなく、染色体も正常核型であるため否定的である。
- ×c. 骨髄異形成症候群
MDSは、造血幹細胞の異常によって無効造血(骨髄では血球が作られるが、成熟途中で壊れてしまう状態)が起こり、1系統以上の血球減少と血球の形態異常(異形成)を示す疾患である。約半数で染色体異常を伴う。5q-症候群のように血小板増加を示す病型もあるが、本例は血球減少も異形成もなく染色体も正常であり、否定的である。
- ×d. 真性赤血球増加症
PVは、主にJAK2変異によって赤血球系を中心に増殖が起こる骨髄増殖性腫瘍である。Hb・Htの上昇(WHO分類ではHb 男性16.5 g/dL超、女性16.0 g/dL超、またはHt 男性49%超、女性48%超が基準)が診断の必須項目であり、白血球や血小板も増えることが多い。本例はHb 13.9 g/dL、Ht 42%と正常範囲であり、否定的である。
- ○e. 本態性血小板血症
反応性の原因がないのに血小板が253万/μLと著しく増加し、骨髄生検で大型の成熟巨核球が増えている。赤血球系の増加はなく、骨髄線維化・異形成・Philadelphia染色体もない。この所見の組み合わせは本態性血小板血症に合致する。1年前の脳梗塞も、本症による動脈血栓症として説明できる。確定診断には、JAK2 V617F・CALR・MPLの遺伝子変異の検索を加える。
本態性血小板血症(ET)の概要
・造血幹細胞のクローン性異常により巨核球が増殖し、持続的な血小板増加をきたす骨髄増殖性腫瘍である。中高年に多いが、若年女性にもみられる。 ・遺伝子変異は、JAK2 V617Fが約半数、CALRが約2〜3割、MPLが数%にみられる。いずれも陰性のもの(triple negative)もある。 ・症状は無症状で偶然見つかることが多い。主な合併症は動脈・静脈の血栓症(脳梗塞、心筋梗塞、末端紅痛症などの微小循環障害)である。一方、血小板が著しく増える(おおむね100万〜150万/μL以上)と、後天性von Willebrand症候群(血小板にvon Willebrand因子の大きな分子が吸着・分解され、出血しやすくなる状態)により出血傾向も生じうる。 ・経過は比較的良好だが、一部は骨髄線維症(ET後骨髄線維症)へ進行し、まれに急性骨髄性白血病へ移行する。
WHO分類による診断基準の要点
大基準:①血小板数が45万/μL以上、②骨髄で、大型で成熟し核の分葉が多い巨核球を主体とした増殖があり、顆粒球系・赤血球系の増加は目立たず、線維化はないか軽度、③CML・PV・PMF・MDSなど他の骨髄系腫瘍の基準を満たさない、④JAK2・CALR・MPLのいずれかの変異がある。 小基準:その他のクローン性マーカーがある、または反応性血小板増加症の証拠がない。 大基準4項目すべて、または大基準の①〜③と小基準を満たせば診断する。 (かつて国内では血小板数60万/μL以上を基準としていたが、現在は45万/μL以上である。)
治療(血栓リスクによる層別化)
・血栓症の既往がある、または60歳以上の患者は高リスクとされ、低用量アスピリンに加えて細胞減少療法(ヒドロキシカルバミド、アナグレリドなど)を行う。若年者や妊娠の可能性がある患者ではインターフェロンαを考慮する。 ・低リスクの患者では、低用量アスピリンや経過観察が中心となる。 ・血小板が著しく多く後天性von Willebrand症候群がある場合は、アスピリンで出血が増えるおそれがあるため注意する。 ・本例は70歳で脳梗塞の既往もあり、高リスク群に当たる。
骨髄増殖性腫瘍(MPN)の鑑別の要点
・CML:Philadelphia染色体/BCR::ABL1、白血球の著増、幼若顆粒球と好塩基球の増加、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアの低下。 ・PV:Hb・Htの上昇、JAK2変異(95%以上)、血清エリスロポエチン低値。 ・PMF:貧血、巨脾、涙滴赤血球、白赤芽球症、dry tap、骨髄線維化。 ・ET:血小板の単独での著増、大型成熟巨核球の増加。
POINT
・血小板が著しく増えていて(45万/μL以上、本例は200万/μL超)、反応性の原因がなければ本態性血小板血症を考える。 ・骨髄では大型で成熟し核の分葉が多い巨核球が増える。 ・CML(Ph染色体)、PV(Hb・Ht上昇)、PMF(線維化・涙滴赤血球・脾腫)、MDS(血球減少・異形成)を除外して診断する。 ・遺伝子変異はJAK2 V617F(約半数)、CALR、MPLである。 ・主な合併症は血栓症である。60歳以上または血栓症の既往があれば高リスクとして、アスピリンと細胞減少療法(ヒドロキシカルバミドなど)を行う。 ・血小板が著しく増えると、後天性von Willebrand症候群による出血傾向も起こりうる。
