3歳児健診で見つかった寄り目―遠視が引き起こす調節性内斜視は「まず眼鏡」
第112回医師国家試験 A問題 第29問
国試問題にチャレンジ
3歳の女児。3歳児健康診査で眼位異常を指摘されて来院した。視力は右0.1(0.4×+1.0 D),左1.0(矯正不能)。調節麻痺薬点眼による屈折検査では右+4.5 D,左+3.0 Dであった。神経学的所見に異常を認めない。眼位の写真を別に示す。 まず行うべき対応はどれか。

- a.経過観察
- b.眼鏡矯正
- c.斜視手術
- d.健眼遮蔽
- e.アトロピン点眼
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中等度以上の遠視を伴い1〜3歳ごろに気づかれる内斜視は、遠視による過剰な調節に連動して輻湊が過剰になる調節性内斜視を考えます。角膜反射法では偏位眼の反射が耳側にずれることで内斜視と判定でき、矯正しても視力が出ない眼は不同視や斜視による弱視を合併しています。治療の第一歩は調節麻痺下の屈折値に基づく遠視の完全矯正眼鏡の常用で、これにより眼位の改善と弱視治療が同時に始まり、残った視力差に対して健眼遮蔽やアトロピンによるペナリゼーションを追加します。斜視手術は乳児内斜視や眼鏡で残る内斜視成分に対して検討するもので、調節性内斜視にまず行うものではありません。視覚の感受性期を逃さず原因から順に治療する考え方は、小児眼科診療の基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・3歳女児。3歳児健康診査で眼位異常を指摘された。神経学的所見に異常はない。 ・視力:右0.1(+1.0 Dで0.4までしか改善しない)、左1.0(それ以上の矯正は不要)。表記の「0.1(0.4×+1.0 D)」は、裸眼視力0.1、+1.0 Dのレンズで矯正すると0.4という意味である。 ・調節麻痺薬点眼下の屈折検査:右+4.5 D、左+3.0 Dの遠視。両眼とも中等度の遠視で、右眼のほうが1.5 D強い(不同視)。 ・眼位写真:角膜に映る光の反射が、左眼では瞳孔中央にあり、右眼では角膜の外側(耳側)に偏位している。左眼で固視し、右眼が内側に偏位している、すなわち右眼の内斜視である。
診断へのプロセス
小児の内斜視の代表は、乳児内斜視、調節性内斜視、麻痺性内斜視(外転神経麻痺など)である。乳児内斜視は生後6か月以内に発症し、遠視は軽度であることが多い。麻痺性斜視では眼球運動障害を伴い、神経疾患の評価が必要になる。本例は1〜3歳ごろに気づかれる時期であり、中等度の遠視を伴い、神経学的異常もないことから、調節性内斜視が最も考えられる。 遠視眼は、遠くを見るときにも網膜にピントを合わせるために常に調節(水晶体を厚くする働き)を必要とする。調節と輻湊(両眼を内に寄せる運動)は連動しているため、過剰な調節に伴って過剰な輻湊が起こり、眼位が内斜視となる。 さらに右眼は、遠視が強く、かつ内斜視で使われにくいことから視機能の発達が妨げられ、矯正しても視力が0.4にとどまっている。これは屈折異常(不同視)と斜視の両方が関与した右眼の弱視である。
対応の考え方
調節性内斜視の原因は遠視であるため、まず調節麻痺下の屈折値に基づいた完全矯正眼鏡を処方し、常用させる。遠視を矯正すれば過剰な調節が不要になり、輻湊も減って眼位が改善する。同時に、網膜に鮮明な像が結ばれることで弱視の治療の第一歩にもなる。眼鏡装用後も弱視が残る場合に、健眼遮蔽などの追加治療を検討する。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
視機能の発達には感受性期(おおむね8歳ごろまで、とくに乳幼児期に重要)があり、その間に網膜に鮮明な像が結ばれないと弱視が固定化してしまう。本例はすでに右眼の視力が矯正しても0.4にとどまる弱視の状態にあり、内斜視も続いている。放置すれば弱視の悪化や両眼視機能(立体視)の獲得障害を招くため、経過観察は不適切である。
- ○b. 眼鏡矯正
調節性内斜視は遠視による過剰な調節と、それに連動する過剰な輻湊が原因である。調節麻痺下で測定した屈折値(右+4.5 D、左+3.0 D)に基づく完全矯正眼鏡を常用させると、調節の必要がなくなって輻湊も減り、眼位の改善が期待できる。同時に右眼の網膜に鮮明な像が結ばれるため、不同視・斜視による弱視の治療としても最初に行うべき対応である。完全矯正眼鏡で眼位が正位になるものを屈折性調節性内斜視という。
- ×c. 斜視手術
調節性内斜視は遠視を矯正することで眼位が改善するため、手術の必要はない。かえって、遠視が成長とともに軽減していく過程で、手術をしていると将来外斜視になるおそれもある。斜視手術が検討されるのは、乳児内斜視のように眼鏡で改善しない内斜視や、眼鏡で矯正しても残る非調節性の内斜視成分がある場合である。
- ×d. 健眼遮蔽
健眼遮蔽は、良いほうの眼(本例では左眼)をアイパッチで覆い、弱視眼(右眼)を使わせることで視力の発達を促す弱視治療である。本例でも右眼の弱視に対して将来必要となる可能性はあるが、前提として屈折異常を完全矯正しておかなければ効果が得られない。まず眼鏡矯正を行い、それでも視力の左右差が残る場合に追加する治療であり、最初に行う対応ではない。
- ×e. アトロピン点眼
アトロピンは毛様体筋を麻痺させて調節を取り除く作用をもち、小児の正確な屈折値(隠れた遠視を含む)を測定するための調節麻痺薬として使われる。本例ではすでに調節麻痺下での屈折検査が行われている。また、健眼にアトロピンを点眼して見えにくくし、弱視眼を使わせるペナリゼーション(不利化法)という弱視治療もあるが、これも眼鏡による屈折矯正が前提である。本例でまず行うべき対応ではない。
調節性内斜視
・遠視に伴う過剰な調節が、連動する輻湊を過剰に引き起こして生じる内斜視である。1〜3歳ごろの発症が多く、初めは間欠的で、近くを見るときに目立つ。 ・屈折性調節性内斜視:遠視の完全矯正眼鏡で眼位が正位になるもの。 ・非屈折性調節性内斜視:AC/A比(調節に伴う輻湊の量の比)が高く、遠見では正位でも近見で内斜視が残るもの。二重焦点眼鏡を用いることがある。 ・部分調節性内斜視:眼鏡で内斜視が減るが完全には消失しないもの。残った内斜視成分には手術を考慮する。
小児の内斜視の鑑別
・乳児内斜視:生後6か月以内に発症し、斜視角が大きく、遠視は軽度。早期の斜視手術が検討される。 ・調節性内斜視:中等度以上の遠視を伴い、1〜3歳で発症。眼鏡で治療する。 ・麻痺性内斜視:外転神経麻痺など。眼球運動障害を伴い、頭蓋内疾患の検索が必要。 ・偽内斜視:鼻根部が低く内眼角贅皮が目立つため、内斜視のように見えるだけのもの。角膜反射は両眼とも瞳孔中央にある。
角膜反射による眼位の判定(Hirschberg法)
ペンライトの光を当て、角膜に映る反射の位置を比べる。偏位眼では、内斜視なら反射が角膜の耳側(外側)に、外斜視なら鼻側(内側)にずれる。
弱視
・視覚の感受性期に網膜に鮮明な像が結ばれないことで、視力の発達が妨げられた状態。眼鏡で矯正しても視力が出ない。 ・原因による分類:斜視弱視、不同視弱視、屈折異常弱視(両眼の強い屈折異常)、形態覚遮断弱視(先天白内障、眼瞼下垂など)。 ・治療:まず調節麻痺下の屈折検査に基づく完全矯正眼鏡を常用させる。左右差が残れば健眼遮蔽やアトロピンによるペナリゼーションを追加する。早期に始めるほど効果が高い。
調節麻痺下屈折検査
小児は調節力が強く、普通に測ると遠視が過小評価される。アトロピンやシクロペントラートで調節を麻痺させてから測定し、その値に基づいて眼鏡を処方する。
POINT
・小児の中等度以上の遠視を伴う内斜視は調節性内斜視を考える。 ・治療の第一選択は、調節麻痺下の屈折値に基づく遠視の完全矯正眼鏡の常用である。斜視手術は行わない。 ・弱視を伴えば、まず眼鏡で屈折矯正し、残った視力差に対して健眼遮蔽やアトロピンペナリゼーションを追加する。 ・視覚の感受性期内に治療を開始することが重要で、3歳児健康診査はその発見の重要な機会である。 ・角膜反射が耳側にずれる眼は内斜視である。
