舌がピクピク、反射は低下―ゆっくり進む球麻痺の正体は遺伝子で決まる
第111回医師国家試験 I問題 第48問
国試問題にチャレンジ
34歳の男性。筋のやせを主訴に来院した。5年前から徐々に重いものを持ち上げにくくなってきた。2年前から下肢を高く挙上しづらくなり全身のやせも自覚していたが,仕事に支障がないので気にしなかった。最近,食事の時にむせるようになったため受診した。意識は清明。身長178cm,体重58kg。鼻声でこもるような構音障害を認める。舌,顔面および近位部優位で四肢に筋萎縮と顕著な筋線維束性収縮とを認める。両上肢挙上は可能であるが,座位からの起立には上肢の補助が必要である。腱反射は全般に低下している。感覚系,小脳系および自律神経系に異常を認めない。CK 852U/L(基準30~140)。胸部エックス線写真で異常を認めない。呼吸機能検査で%VCは72%である。 診断に有用なのはどれか。
- a.筋生検
- b.頭部MRI
- c.骨格筋CT
- d.遺伝子検査
- e.末梢神経伝導検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
成人男性に緩徐進行性の球麻痺と四肢近位筋優位の筋萎縮がみられ、舌・顔面の顕著な線維束性収縮と腱反射低下を伴う場合は、下位運動ニューロン障害主体の球脊髄性筋萎縮症(Kennedy病)を考えます。本症はアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート延長によるX連鎖性潜性遺伝のポリグルタミン病であり、確定診断は遺伝子検査で、実施には遺伝カウンセリングへの配慮が欠かせません。筋生検、骨格筋CT、頭部MRI、神経伝導検査は補助的情報や他疾患の除外には役立ちますが、本症に特異的ではありません。CK上昇で筋疾患と誤られやすい点、女性化乳房などのアンドロゲン不全症状を伴う点、上位運動ニューロン徴候を欠き進行が緩徐な点がALSとの鑑別に重要です。運動ニューロン障害の部位と経過から疾患を絞り込み、原因に直結する検査を選ぶ思考は、神経疾患の診断全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・34歳男性。5年前から上肢近位筋(重い物の持ち上げ)、2年前から下肢近位筋(下肢挙上)の筋力低下が緩徐に進行している。全身のやせ(BMI約18.3)を伴う。 ・最近は嚥下障害(むせ)があり、鼻声でこもる構音障害(開鼻声)がみられる。軟口蓋・咽頭・喉頭の筋力低下を示す球麻痺症状である。 ・舌、顔面、四肢近位部優位の筋萎縮と顕著な筋線維束性収縮〈fasciculation〉、腱反射の全般的低下がある。筋線維束性収縮は運動ニューロンの障害を示し、筋萎縮・腱反射低下と合わせて下位運動ニューロン障害の所見である。腱反射亢進や病的反射など上位運動ニューロン障害の所見は記載されていない。 ・座位からの起立に上肢の補助が必要で、下肢近位筋の筋力低下が明らかである。 ・感覚系、小脳系、自律神経系は異常なし。 ・CK 852U/Lと中等度に上昇している。 ・%VC 72%(基準80%以上)と拘束性換気障害があり、呼吸筋の筋力低下を反映する。
診断へのプロセス
成人男性に、緩徐進行性の球麻痺と四肢近位筋優位の筋萎縮が下位運動ニューロン障害の形で出現し、舌・顔面を含む顕著な筋線維束性収縮を伴う。この組み合わせは球脊髄性筋萎縮症〈SBMA、Kennedy病〉に典型的である。 鑑別として以下が挙がる。 ・筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉:上位・下位運動ニューロン両方の障害を示す。一般にALSは進行が速く、発症後数年で呼吸不全に至ることが多い。本症例は腱反射亢進や病的反射といった上位運動ニューロン徴候の記載がなく、腱反射はむしろ全般に低下している点、5年かけて上肢から下肢、球症状へと緩徐に進行している点がALSとしては合わない。 ・筋ジストロフィーや多発筋炎などの筋疾患:近位筋優位の筋力低下とCK上昇を示すが、顕著な筋線維束性収縮は筋疾患では通常みられない。 ・脊髄性筋萎縮症〈SMA〉の成人型(Ⅳ型):下位運動ニューロン障害による近位筋優位の筋萎縮だが、球症状は目立たないことが多い。 SBMAでは下位運動ニューロン障害が主体であるが、CKは数百〜千程度まで上昇することが多く、筋疾患と誤られやすい点に注意する。
設問の考え方
SBMAはX染色体上のアンドロゲン受容体〈AR〉遺伝子のエクソン1にあるCAGリピート(グルタミンをコードする3塩基繰り返し配列)が異常に伸長して起こるポリグルタミン病である。したがって、確定診断はこのCAGリピート数を測定する遺伝子検査による。他の検査は下位運動ニューロン障害や筋萎縮を示すことはできても、SBMAに特異的ではなく、診断を確定できない。
選択肢考察
- ×a. 筋生検
SBMAの筋生検では、群集萎縮〈grouped atrophy〉や小角化線維など神経原性変化が主体にみられ、筋原性変化が混在することもある。しかし、これらはALSや脊髄性筋萎縮症など他の運動ニューロン疾患でも認められる所見であり、SBMAに特異的ではない。侵襲を伴う割に確定診断には至らないため、診断に有用な検査として第一に選ぶものではない。
- ×b. 頭部MRI
SBMAで障害されるのは脳幹の運動神経核と脊髄前角の運動ニューロンであり、頭部MRIで診断に結びつく特異的な異常はみられない。頭部MRIは脳幹の腫瘍や脳血管障害など、球麻痺を来す他の器質的病変の除外には役立つが、SBMAの診断を確定する検査ではない。
- ×c. 骨格筋CT
骨格筋CTでは筋萎縮や脂肪置換の分布を評価できるが、得られるのは萎縮の部位や程度の情報であり、神経原性か筋原性かの区別も含めて疾患の特定はできない。SBMAの診断を確定する手段とはならない。
- ○d. 遺伝子検査
SBMAはアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピートが異常伸長することで起こる。末梢血を用いた遺伝子検査でリピート数の延長(正常はおおむね36以下、SBMAでは38以上)を確認すれば確定診断となる。非侵襲的で、他の運動ニューロン疾患との鑑別を明確にできる。なお遺伝子検査は本人のみならず血縁者にも影響しうるため、実施にあたっては遺伝カウンセリングの体制を整え、十分な説明と同意を得る。
- ×e. 末梢神経伝導検査
神経伝導検査では、運動神経の複合筋活動電位の振幅低下に加え、SBMAでは自覚症状がなくても感覚神経活動電位の振幅低下(感覚神経障害)がみられることがある。この点はALSとの鑑別の参考にはなるが、所見自体はSBMAに特異的ではなく、確定診断には至らない。なお、下位運動ニューロン障害を示す検査としては針筋電図(線維自発電位、陽性鋭波、高振幅・長持続の運動単位電位など)が用いられる。
球脊髄性筋萎縮症〈SBMA〉の概要
・別名Kennedy病。X連鎖性潜性(劣性)遺伝で、発症するのは男性のみである。女性保因者は通常発症しないか、ごく軽症にとどまる。 ・原因:アンドロゲン受容体遺伝子(Xq12)のCAGリピート延長。伸長したポリグルタミン鎖をもつ異常アンドロゲン受容体が、テストステロンと結合して核内に集積し、運動ニューロンを障害する。テストステロン依存性であることが男性のみに発症する理由と考えられている。 ・リピート数が長いほど発症が早い傾向がある(表現促進現象はあるが、ハンチントン病ほど顕著ではない)。 ・発症:多くは30〜60歳ごろ。手指の振戦や筋痙攣(こむら返り)が筋力低下に先行することがある。 ・神経症状:四肢近位筋優位の筋力低下・筋萎縮、球麻痺(構音障害、嚥下障害)、舌の萎縮、顔面・口周囲の顕著な筋線維束性収縮、腱反射低下。感覚障害は軽度で自覚されにくい。 ・アンドロゲン不全症状:女性化乳房、睾丸萎縮、性機能低下、不妊など。 ・その他:CK上昇(数百〜千台)、耐糖能異常、脂質異常症、肝機能異常、Brugada型心電図異常がみられることがある。 ・経過:緩徐進行性で、生命予後はALSより良好だが、晩期には嚥下障害による誤嚥性肺炎や呼吸不全が問題となる。 ・治療:日本ではLH-RHアゴニストのリュープロレリンが、テストステロン分泌を抑えて病態進行を抑制する目的で承認されている。そのほか、リハビリテーション、嚥下・呼吸管理を行う。指定難病である。
主なトリプレットリピート病
・CAGリピート(ポリグルタミン病):SBMA、ハンチントン病、脊髄小脳失調症(SCA1、2、3〈Machado-Joseph病〉、6、7、17など)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症〈DRPLA〉。 ・CTGリピート:筋強直性ジストロフィー1型。 ・GAAリピート:Friedreich運動失調症。 ・CGGリピート:脆弱X症候群。
下位運動ニューロン障害の所見
筋力低下、筋萎縮、筋線維束性収縮、筋緊張低下、腱反射低下〜消失。上位運動ニューロン障害(痙縮、腱反射亢進、Babinski徴候など)との区別が鑑別の出発点となる。
POINT
・成人男性、緩徐進行性の球麻痺+四肢近位筋優位の筋萎縮、舌・顔面の顕著な筋線維束性収縮、腱反射低下 → 球脊髄性筋萎縮症〈SBMA〉を考える。 ・SBMAはX連鎖性潜性遺伝、アンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート延長によるポリグルタミン病。確定診断は遺伝子検査。 ・女性化乳房・睾丸萎縮などのアンドロゲン不全症状、CK上昇を伴うことが多い。 ・筋生検・神経伝導検査・画像検査は補助的で、SBMAの確定診断にはならない。 ・ALSとの違い:上位運動ニューロン徴候がない、進行が緩徐、感覚神経障害やアンドロゲン不全を伴いうる。
