StudyMed医師国家試験

縦隔は「感染の高速道路」―急性縦隔炎の入口・広がり・治し方

第111回医師国家試験 I問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第39問

急性縦隔炎で正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.慢性化しやすい。
  2. b.食道穿孔から発症することがある。
  3. c.癌性胸膜炎から発症することがある。
  4. d.深頸部膿瘍から拡がるものは重篤化しやすい。
  5. e.治療は抗菌薬投与と外科的ドレナージである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は急性縦隔炎の基本を問う問題だ。考えるべきポイントは3つ。細菌がどこから縦隔に入ってくるのか、どんな経過をたどるのか、そしてどう治すのか。まず、縦隔とはどんな場所だったか覚えているかな。
医学生医学生
左右の肺に挟まれた空間で、心臓や大血管、気管、食道、胸腺なんかが入っている場所ですよね。解剖実習で胸郭を開けたとき、思ったより脂肪や柔らかい組織が多くて驚きました。
ドクタードクター
その「柔らかい組織」が大事なんだ。縦隔は疎な結合組織でできていて、仕切りが乏しい。だから一度細菌が入ると、あっという間に広がって敗血症や多臓器不全に進みやすい。死亡率の高い緊急疾患だということをまず頭に入れておこう。
医学生医学生
そんなに急に進むなら、慢性化しやすいというのは違いそうですね。でも「慢性縦隔炎」という言葉も聞いたことがあります。
ドクタードクター
いい疑問だね。慢性縦隔炎、つまり線維性(硬化性)縦隔炎は、結核やヒストプラズマ症などの肉芽腫性炎症、IgG4関連疾患などを背景に、縦隔がゆっくり線維化していく病態だ。急性縦隔炎が長引いてそうなるわけではなく、成り立ちの違う別の疾患と考えてほしい。急性縦隔炎は治療が遅れれば命に関わる病気で、慢性化しやすいとはいえない。
医学生医学生
名前は似ていても別物なんですね。では、細菌の入口として一番思いつくのは食道でしょうか。
ドクタードクター
その通り。食道穿孔は代表的な原因だ。激しい嘔吐のあとに起こる特発性食道破裂、いわゆるBoerhaave症候群、内視鏡検査や拡張術による医原性損傷、魚の骨や義歯などの異物、食道癌の穿孔などで食道壁が破れると、口腔内の常在菌や消化液が縦隔に漏れ出す。
医学生医学生
消化器外科を回ったとき、飲酒後に嘔吐して胸痛を訴えた患者さんで、CTで縦隔気腫が見つかって緊急手術になった症例を見ました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。胸痛、発熱、皮下気腫、縦隔気腫が手がかりになる。では、首の感染が縦隔炎になることはあると思う?
医学生医学生
首と胸は離れている気がしますが……つながっているんですか。
ドクタードクター
実はつながっているんだ。扁桃周囲膿瘍や咽後膿瘍、歯性感染などの深頸部感染は、咽頭後間隙や危険間隙、気管前間隙といった頸部の筋膜の隙間を伝って縦隔へ降りていくことがある。これを降下性壊死性縦隔炎と呼ぶ。重力や胸腔内の陰圧も手伝って下へ下へと急速に広がり、嫌気性菌を含む混合感染で組織が壊死するため、重篤化しやすく死亡率も高い。
医学生医学生
耳鼻科の実習で「のどが痛いだけと思っていても、首が腫れてきたら要注意」と言われたのはそういうことだったんですね。
ドクタードクター
そう。歯や喉の感染だからと油断すると、気づいたときには縦隔まで達していることがある。次に、癌性胸膜炎から急性縦隔炎が起こるかどうかはどうだろう。
医学生医学生
胸膜と縦隔は隣り合っているので、炎症が波及しそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。癌性胸膜炎は悪性腫瘍が胸膜に転移・播種して胸水がたまる病態で、細菌感染ではない。急性縦隔炎は化膿性の炎症だから、原因は「細菌が縦隔に入り込む経路」で考えるのが筋だ。食道穿孔、深頸部感染の下行、それから胸骨正中切開を伴う心臓手術後の感染などが代表になる。
医学生医学生
「炎症」という言葉で一括りにせず、感染かどうかで分けて考えるんですね。治療は抗菌薬だけでは足りないのでしょうか。
ドクタードクター
抗菌薬だけでは制御できないことが多い。膿瘍腔には薬剤が十分に届かないからね。嫌気性菌もカバーする広域抗菌薬の全身投与に、膿瘍や壊死組織に対する外科的ドレナージ・デブリドマンを組み合わせるのが基本だ。食道穿孔が原因なら穿孔部の修復も行う。早期のドレナージが予後を左右すると覚えておこう。
医学生医学生
正しいのは、食道穿孔が原因になること、深頸部膿瘍からの波及は重篤化しやすいこと、治療は抗菌薬とドレナージ、の3つですね。
ドクタードクター
正解。最後に臨床での注意点だ。診断には胸部CTが有用で、縦隔の脂肪組織の濃度上昇、液体貯留、ガス像、膿瘍形成を確認する。食道穿孔が疑われるときは水溶性造影剤による食道造影も役に立つ。降下性壊死性縦隔炎では頸部と縦隔の両方からのドレナージが必要になることも多い。深頸部膿瘍の患者さんでは、頸部だけでなく胸部まで画像で範囲を確認する習慣をつけておきたい。
医学生医学生
首の膿瘍でも胸まで確認する、というのは実習ですぐに意識できそうです。

まとめ

急性縦隔炎は、疎な結合組織からなる縦隔に細菌感染が急速に広がる致死的な緊急疾患で、慢性化しやすい病気ではありません(慢性の線維性縦隔炎は成因の異なる別の病態です)。主な原因は、Boerhaave症候群・医原性損傷・異物・食道癌などによる食道穿孔、深頸部感染の下行、胸骨正中切開後の術後感染で、細菌感染ではない癌性胸膜炎は原因になりません。扁桃周囲膿瘍や歯性感染が頸部の筋膜間隙を伝って縦隔へ降りる降下性壊死性縦隔炎は、嫌気性菌を含む混合感染で壊死を伴い、特に重篤化しやすいのが特徴です。治療は広域抗菌薬の全身投与と外科的ドレナージ・デブリドマンの組み合わせが基本で、早期のドレナージが予後を左右します。「細菌がどこから入るか」という経路で原因を整理しておくと、胸痛や頸部腫脹の患者を前にしたときに縦隔炎を見逃さない判断につながります。

解答・解説

正解はb, d, eです

テーマ

急性縦隔炎は、左右の肺に挟まれた縦隔(心臓・大血管・気管・食道・胸腺・リンパ節などを含む空間)に細菌感染が急に広がる病態である。縦隔は疎な結合組織でできていて感染が速やかに拡大しやすく、敗血症や多臓器不全に進みやすい。死亡率の高い緊急疾患である。

正解を導く考え方

次の3点を押さえれば解ける。 (1) 原因:縦隔に細菌が入り込む経路を考える。代表は食道穿孔(特発性食道破裂〈Boerhaave症候群〉、内視鏡操作などの医原性損傷、魚骨などの異物、食道癌)、頸部の感染の下行(降下性壊死性縦隔炎)、胸骨正中切開による心臓手術後の感染である。 (2) 経過:急速に進行して重症化する病態であり、慢性の線維性縦隔炎とは成因の異なる別の疾患である。 (3) 治療:感染巣の制御が原則であり、抗菌薬の全身投与と外科的ドレナージ(必要に応じ壊死組織の除去や原因病変の修復)を組み合わせる。

選択肢考察

  1. ×a.  慢性化しやすい。

    急性縦隔炎は急速に進行する重篤な感染症で、適切な治療が遅れると敗血症などで致命的になる。慢性へ移行することはまれである。慢性縦隔炎(線維性縦隔炎・硬化性縦隔炎)は、結核やヒストプラズマ症などの肉芽腫性炎症、IgG4関連疾患、特発性の線維化などを背景にゆっくり進行するもので、急性縦隔炎が長引いた結果として生じる病態ではない。

  2. ○b.  食道穿孔から発症することがある。

    食道穿孔は急性縦隔炎の代表的な原因である。嘔吐に伴う特発性食道破裂(Boerhaave症候群)、内視鏡検査・拡張術などの医原性損傷、魚骨や義歯などの異物、食道癌の穿孔、外傷などで食道壁が破れると、口腔内常在菌や消化液が縦隔へ漏れ出し、急性縦隔炎をきたす。胸痛・発熱・皮下気腫・縦隔気腫が手がかりとなる。

  3. ×c.  癌性胸膜炎から発症することがある。

    癌性胸膜炎は悪性腫瘍が胸膜に転移・播種して胸水が貯留する病態であり、細菌感染ではない。これが原因となって急性(化膿性)縦隔炎を起こすことはない。急性縦隔炎の原因は、縦隔に細菌が侵入する経路(食道穿孔、頸部感染の下行、術後感染など)で考える。

  4. ○d.  深頸部膿瘍から拡がるものは重篤化しやすい。

    扁桃周囲膿瘍・咽後膿瘍・歯性感染などの深頸部感染が、頸部の筋膜間隙(咽頭後間隙や危険間隙〈danger space〉、気管前間隙など)を伝って縦隔へ下降したものを降下性壊死性縦隔炎(descending necrotizing mediastinitis:DNM)という。重力や胸腔内の陰圧も手伝って下方へ急速に広がり、嫌気性菌を含む混合感染による組織の壊死を伴うため重篤化しやすく、死亡率が高い。

  5. ○e.  治療は抗菌薬投与と外科的ドレナージである。

    急性縦隔炎の治療は、広域抗菌薬の全身投与(嫌気性菌もカバーし、培養結果に応じて調整する)と、膿瘍や壊死組織に対する外科的ドレナージ・デブリドマンの組み合わせが基本である。抗菌薬だけでは膿瘍腔に薬剤が十分届かず制御できないことが多いため、早期のドレナージが予後を左右する。食道穿孔が原因であれば穿孔部の修復なども併せて行う。

縦隔炎の分類

・急性縦隔炎:細菌感染による急性化膿性炎症。主な原因は(1)食道穿孔(Boerhaave症候群、医原性、異物、食道癌)、(2)深頸部感染からの下行(降下性壊死性縦隔炎)、(3)胸骨正中切開後の術後感染(心臓手術後の胸骨骨髄炎・縦隔炎)、(4)周囲臓器(肺、胸膜、心膜、リンパ節など)の感染の直接波及。 ・慢性縦隔炎:線維性(硬化性)縦隔炎。肉芽腫性感染症(結核、真菌)や自己免疫的機序を背景に縦隔の線維化が緩徐に進み、上大静脈症候群や気道・肺血管の狭窄をきたしうる。

症状・診断

高熱、胸痛(胸骨後部痛)、呼吸困難、頸部の腫脹・疼痛、嚥下痛、皮下気腫などを呈する。胸部CTで縦隔の脂肪組織濃度上昇、液体貯留、ガス像、膿瘍形成を確認する。食道穿孔が疑われる場合は水溶性造影剤による食道造影も有用である。

降下性壊死性縦隔炎のポイント

口腔・咽頭・歯の感染が頸部の深い筋膜間隙を伝って縦隔へ降下する。診断が遅れやすく、頸部と縦隔の両方からの十分なドレナージが必要になることが多い。

POINT

・急性縦隔炎は急速に進行する致死的感染症で、慢性化は少ない(慢性の線維性縦隔炎とは別の病態)。 ・原因:食道穿孔(Boerhaave症候群・医原性・異物・食道癌)、深頸部感染の下行、胸骨正中切開後の感染。 ・深頸部膿瘍から下行する降下性壊死性縦隔炎は特に重篤。 ・治療は抗菌薬の全身投与+外科的ドレナージ(デブリドマン)。 ・癌性胸膜炎は悪性腫瘍の播種であり、急性縦隔炎の原因にはならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。