イチゴ舌は溶連菌だけじゃない―「目・首・手」を確かめて川崎病を見逃さない
第111回医師国家試験 I問題 第38問
国試問題にチャレンジ
救急外来で小児を診察した研修医から指導医への報告を次に示す。 研修医 「2歳の女の子です。5日前から39℃の発熱が持続するため来院しました。2日前に自宅近くの診療所を受診し解熱薬を処方されています。呼吸数30/分,脈拍144/分で,診察所見としては咽頭発赤とイチゴ舌があり,体幹に発疹を認めることから溶連菌感染症を疑います」 指導医 「溶連菌感染症は重要な鑑別疾患だね。でも川崎病の可能性はどうかな」 川崎病との鑑別診断のために追加して確認すべきなのはどれか。3つ選べ。
- a.眼球結膜充血
- b.耳下腺の腫脹
- c.頰粘膜の白斑
- d.頸部リンパ節腫脹
- e.手指の腫脹
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクター
医学生
ドクターまとめ
発熱、イチゴ舌、発疹は溶連菌感染症(猩紅熱)の典型像ですが、川崎病の主要症状とも大きく重なるため、乳幼児の遷延する発熱では川崎病の鑑別が欠かせません。川崎病の主要症状は発熱、両側眼球結膜充血、口唇・口腔所見、発疹、四肢末端の変化(急性期の硬性浮腫・紅斑、回復期の膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹の6つで、未確認の結膜充血・手指の腫脹・頸部リンパ節腫脹を追加で確認します。耳下腺腫脹はムンプス、頰粘膜の白斑(Koplik斑)は麻疹の所見であり、川崎病の主要症状ではありません。川崎病の最大の合併症は冠動脈瘤で、免疫グロブリン大量静注療法とアスピリンによる早期治療がその予防につながります。抗菌薬で解熱しない発熱や後から出てくる結膜充血・手足の変化に注意を払う姿勢は、小児救急で重大な疾患を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はa, d, eです
所見の整理
2歳女児。5日間続く39℃の発熱があり、診察では咽頭発赤、イチゴ舌、体幹の発疹がみられる。呼吸数30/分、脈拍144/分は発熱に伴う頻呼吸・頻脈として説明できる範囲である。
鑑別の考え方
発熱+咽頭発赤+イチゴ舌+体幹の発疹という組み合わせは、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による猩紅熱の典型像であり、研修医の推論は妥当である。しかし、この組み合わせは川崎病の主要症状とも大きく重なっている。川崎病の主要症状は次の6つである。 (1) 発熱 (2) 両側眼球結膜の充血 (3) 口唇・口腔所見(口唇の紅潮、イチゴ舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤) (4) 発疹(BCG接種痕の発赤を含む) (5) 四肢末端の変化(急性期:手足の硬性浮腫、手掌・足底または指趾先端の紅斑/回復期:指先からの膜様落屑) (6) 急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹 本症例ではすでに(1)発熱、(3)口唇・口腔所見、(4)発疹の3項目が揃っている。残る(2)眼球結膜充血、(5)四肢末端の変化、(6)頸部リンパ節腫脹の有無を確認すれば、川崎病の診断基準をどこまで満たすかを判断できる。5歳未満の乳幼児に好発し、5日以上の発熱が続いている点も川崎病を疑う根拠になる。
設問の考え方
問われているのは「川崎病との鑑別のために追加で確認すべき所見」であり、まだ確認されていない川崎病の主要症状を選べばよい。他のウイルス感染症に特徴的な所見(耳下腺腫脹、Koplik斑)は、川崎病の診断には直接関係しない。
選択肢考察
- ○a. 眼球結膜充血
両側眼球結膜の充血は川崎病の主要症状の一つである。眼脂(めやに)を伴わない非化膿性の充血で、結膜の血管が浮き出るように見えるのが特徴である。発病初期からみられることが多いため、追加で確認すべき所見である。溶連菌感染症では通常みられないので、両者を見分けるうえでも役に立つ。
- ×b. 耳下腺の腫脹
耳下腺の腫脹は流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)を疑う所見であり、川崎病の主要症状ではない。川崎病でみられる頸部の腫れは、耳下腺ではなく頸部リンパ節の腫脹である。本症例の鑑別目的では確認の優先度は低い。
- ×c. 頰粘膜の白斑
頰粘膜(臼歯に向かい合う部分)にみられる周囲に紅暈を伴う小白斑はKoplik斑で、麻疹のカタル期に出現し、発疹出現前の診断の手がかりとなる。川崎病の口腔所見は口唇の紅潮・亀裂、イチゴ舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤であり、白斑は含まれない。
- ○d. 頸部リンパ節腫脹
急性期の非化膿性頸部リンパ節腫脹は川崎病の主要症状の一つである。多くは片側性で、直径1.5cm以上の有痛性の腫脹を呈することが多い。6つの主要症状の中では出現頻度が比較的低いが、年長児では発熱とともに初発症状となることもある。なお、溶連菌感染症でも前頸部リンパ節腫脹はみられるため、この所見単独では両者を区別できず、他の所見と合わせて判断する。
- ○e. 手指の腫脹
手指の腫脹は、川崎病の主要症状「四肢末端の変化」のうち急性期にみられる硬性浮腫に当たる。指で押しても圧痕が残りにくい、張りのある腫脹で、手掌・足底の紅斑を伴うことが多い。回復期には指先から膜様落屑がみられる。本症例ではまだ評価されておらず、確認が必要である。
川崎病の概要
主に4歳以下(特に乳児~幼児)に好発する原因不明の全身性血管炎で、中小の動脈、特に冠動脈が侵される。最も重要な合併症は冠動脈瘤であり、心筋梗塞や突然死の原因になりうる。
診断基準(川崎病診断の手引き 改訂第6版、2019年)の要点
主要症状6項目のうち5項目以上を満たせば川崎病と診断する。4項目以下でも、冠動脈病変があり他疾患が否定されれば川崎病(または不全型)と扱う。現行版では、発熱は日数を問わず主要症状に含められている(以前の版では「5日以上続く発熱」とされていた)。参考所見としてBCG接種痕の発赤(乳幼児で特異度が高い)、白血球・好中球増多、CRP上昇、低アルブミン血症、低ナトリウム血症、AST/ALT上昇、無菌性膿尿などがある。
治療
急性期の標準治療は免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)とアスピリンの併用であり、冠動脈瘤の発生を予防することが最大の目的である。IVIG不応が予測される例ではステロイド併用などが行われる。
溶連菌感染症(猩紅熱)との比較
猩紅熱は学童期(3~10歳前後)に多く、咽頭痛、イチゴ舌、全身の細かい紅色丘疹(日焼け様、口囲蒼白を伴う)を呈する。溶連菌迅速抗原検査や咽頭培養で診断し、ペニシリン系抗菌薬が有効である。眼球結膜充血や手足の硬性浮腫は通常みられない。抗菌薬で速やかに解熱しない場合は川崎病を再考する。
その他の鑑別所見
耳下腺腫脹:ムンプスなど。Koplik斑:麻疹。いずれも川崎病の主要症状ではない。
POINT
・川崎病の主要症状は「発熱」「両側眼球結膜充血」「口唇・口腔所見(イチゴ舌を含む)」「発疹」「四肢末端の変化(硬性浮腫・紅斑、回復期の膜様落屑)」「非化膿性頸部リンパ節腫脹」の6つ。 ・6項目中5項目以上で診断。4項目以下でも冠動脈病変があれば川崎病として扱う。 ・イチゴ舌+発疹+発熱は猩紅熱と川崎病の両方でみられる。結膜充血と手足の変化が川崎病を示唆する。 ・耳下腺腫脹はムンプス、頰粘膜の白斑(Koplik斑)は麻疹の所見。
