血糖が落ち着いた頃に突然の昏睡―意識障害で「まず血糖」を測る理由
第119回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
76歳の男性。高血糖高浸透圧症候群のため1週間前から入院中である。本日,訪室した際に,呼びかけに反応がなかった。糖尿病以外の既往歴はなく,入院時の血糖は785mg/dLであったが,大量輸液とインスリン皮下注射で改善していた。直近数日の血糖は100~150mg/dLであった。意識レベルはJCSⅢ-100。体温36.2℃。心拍数108/分,整。血圧138/82mmHg。呼吸数18/分。SpO2 99%(room air)。瞳孔は左右対称で対光反射は正常。顔面神経麻痺を認めない。指示には従えないものの四肢を動かしており,明らかな麻痺は認めない。 まず行うべき検査はどれか。
- a.血糖測定
- b.脳波検査
- c.頭部単純CT
- d.脳脊髄液検査
- e.動脈血ガス分析
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
意識障害の患者では、気道・呼吸・循環の安定化に続いて、ただちに簡易血糖測定を行うのが原則です。低血糖は頻度が高く、数十秒で判定でき、ブドウ糖静注ですぐ治る一方、放置すれば不可逆的な脳障害を招くため、頭部CTなど他の検査より優先して除外します。高血糖高浸透圧症候群の回復期はインスリン必要量が急減するため、投与量を見直さないと低血糖を起こしやすく、高齢者では警告症状を欠いていきなり昏睡で見つかることもあります。低血糖は片麻痺など巣症状を呈して脳卒中と紛らわしいことがあるため、麻痺の有無にかかわらず「まず血糖」を徹底することが、病棟でも救急でも患者を守る基本動作になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・76歳男性。高血糖高浸透圧症候群(HHS:hyperosmolar hyperglycemic syndrome)のため1週間前から入院中。入院時の血糖785mg/dLは、大量輸液とインスリン皮下注射で改善し、直近数日は100〜150mg/dLで推移していた。 ・本日、訪室時に呼びかけに反応がなく、JCS III-100(痛み刺激に対して払いのけるような動作をするが開眼しない)の深い意識障害が突然見つかった。 ・体温36.2℃と発熱なし、血圧138/82mmHgと保たれ、SpO2 99%(室内気)で呼吸数18/分と呼吸・循環に大きな異常はない。心拍数108/分と軽い頻脈がある。 ・瞳孔は左右対称で対光反射正常、顔面神経麻痺なし、四肢を動かしていて明らかな麻痺もない。つまり、脳卒中や脳ヘルニアを強く疑わせる局所神経症状(巣症状)はない。
鑑別診断のプロセス
・HHSそのものによる意識障害:血糖はすでに正常化しており、ここ数日で意識障害が新たに出現した経過なので考えにくい。 ・低血糖:インスリン治療中の糖尿病患者に起きた意識障害では最初に疑うべき原因である。HHSの急性期を脱するとインスリン必要量は急速に減るが、高血糖時の量のままインスリンを続けると低血糖を起こしやすい。高齢者、食事摂取量の低下、腎機能低下も低血糖の危険因子である。低血糖では交感神経刺激による頻脈・発汗がみられることがあり、本例の頻脈とも矛盾しない。低血糖は片麻痺などの巣症状を呈することもあるため、麻痺があっても否定はできない。 ・その他:脳血管障害(巣症状がなく積極的には疑わない)、非けいれん性てんかん重積、電解質異常(高・低Na血症)、感染症(敗血症、髄膜炎など。発熱はない)、薬剤性、急速な血糖・浸透圧補正に伴う脳浮腫(通常は治療開始後早期に起こり、血糖が安定して数日経った本例では可能性は低い)など。
まず行う検査の考え方
意識障害の初期対応では、気道・呼吸・循環(ABC)の評価と安定化に続き、ただちに簡易血糖測定を行う。低血糖は①頻度が高く、②指先からの採血で1分以内に判定でき、③ブドウ糖静注ですぐに治せ、④放置すると数時間で不可逆的な脳障害や死亡に至る、という特徴をもつため、他の検査より優先される。本例はABCが保たれ巣症状もないうえ、インスリン使用中であり、低血糖の可能性は特に高い。血糖測定で低血糖が否定されて初めて、頭部CTなど他の検査に進む。
選択肢考察
- ○a. 血糖測定
インスリン治療中の患者に突然生じた意識障害であり、まず低血糖を確認すべきである。ベッドサイドの簡易血糖測定器で指先の血液から数十秒で結果が出せ、患者への負担もほとんどない。低血糖(一般に70mg/dL未満、意識障害を伴うような重症では多くが50mg/dL未満)であれば、50%ブドウ糖液(20〜40mL程度)の静注で速やかに意識が回復することが多く、診断と治療を同時に行える。そもそも原因を問わず、意識障害患者にはABCの評価と並んで最初に血糖測定を行うのが原則である。
- ×b. 脳波検査
脳波検査は、けいれんのない意識障害(非けいれん性てんかん重積)や脳症の評価に有用であり、低血糖などの代謝性要因を否定した後も意識障害の原因がわからない場合には検討される。しかし装着・記録・判読に時間がかかり、本例ではけいれんなどてんかんを示唆する所見もないため、最初に行う検査ではない。
- ×c. 頭部単純CT
頭部CTは脳出血、脳梗塞(早期は描出されにくい)、脳浮腫、脳ヘルニアなどの評価に必要な検査で、意識障害の原因検索として重要である。しかし本例では瞳孔異常や麻痺などの巣症状がなく、ABCも安定している。CT室への搬送に時間を要するうえ、その間に低血糖を見逃せば脳障害が進行してしまう。まず血糖を測定し、低血糖が否定された場合、あるいはブドウ糖投与後も意識が回復しない場合に行う検査である。
- ×d. 脳脊髄液検査
脳脊髄液検査(腰椎穿刺)は髄膜炎・脳炎・くも膜下出血などを疑うときに行う検査である。本例は発熱がなく、髄膜刺激症状の記載もないため、これらを積極的に疑う状況ではない。また、頭蓋内圧亢進がある状態で腰椎穿刺を行うと脳ヘルニアを誘発するおそれがあるため、通常は頭部CTで占拠性病変などを除外してから行う。最初に行う検査ではない。
- ×e. 動脈血ガス分析
動脈血ガス分析では酸素化、換気(CO2貯留)、酸塩基平衡、電解質が評価でき、機種によっては血糖値も同時に測定できるので、意識障害の原因検索に有用な検査ではある。しかし本例はSpO2 99%、呼吸数18/分と呼吸状態が安定しており、低酸素やCO2ナルコーシスを疑う根拠は乏しい。血糖を知りたいのであれば、動脈穿刺よりも指先からの簡易血糖測定の方がはるかに早く簡便で、最初に選ぶべき検査とはいえない。
意識障害の初期対応
・まずABC(Airway:気道、Breathing:呼吸、Circulation:循環)を評価・安定化する。 ・続いてただちに簡易血糖測定を行い、低血糖なら50%ブドウ糖液を静注する。低栄養やアルコール多飲などでビタミンB1欠乏が疑われる場合は、Wernicke脳症の誘発・悪化を避けるためビタミンB1を先行または同時に投与する。 ・その後、病歴聴取、神経学的所見(瞳孔・眼球運動・麻痺・髄膜刺激症状)、血液検査(電解質、肝・腎機能、アンモニア、血液ガスなど)、頭部CT/MRI、必要に応じて脳波・腰椎穿刺へと進む。 ・意識障害の原因を系統的に挙げる語呂として「AIUEOTIPS」がある(A:アルコール、I:インスリン[低・高血糖]、U:尿毒症、E:内分泌・電解質・脳症、O:薬物中毒・低酸素、T:外傷・体温異常、I:感染症、P:精神疾患・ポルフィリア、S:脳卒中・てんかん・ショック)。
低血糖症
・症状:血糖がおおむね70mg/dL未満になると、交感神経症状(発汗、動悸・頻脈、手指振戦、不安感)が出現し、さらに低下すると中枢神経症状(頭痛、集中力低下、異常行動、けいれん、意識障害、昏睡)をきたす。片麻痺など巣症状を伴うことがあり、脳卒中と誤認されやすい。 ・高齢者や糖尿病罹病期間の長い患者、低血糖を繰り返す患者では、交感神経症状が出にくく(無自覚性低血糖)、いきなり意識障害で発見されることがある。β遮断薬の内服も交感神経症状を隠す。 ・原因:インスリンやスルホニル尿素薬の過量・食事摂取不良、腎機能低下による薬剤の蓄積、肝不全、副腎不全、インスリノーマなど。 ・治療:意識があり経口摂取可能ならブドウ糖10g程度(またはそれに相当する糖質)を経口摂取。意識障害があれば50%ブドウ糖液の静注。静脈路がなければグルカゴンの筋注や点鼻を用いる。スルホニル尿素薬による低血糖は遷延・再発しやすく、持続的なブドウ糖輸液と経過観察が必要である。
高血糖高浸透圧症候群(HHS)
・高齢の2型糖尿病患者に多く、感染症、脱水、ステロイド薬・利尿薬、高カロリー輸液などが誘因となる。かつては非ケトン性高浸透圧性昏睡と呼ばれた。 ・著しい高血糖(通常600mg/dL以上)、高浸透圧(血漿浸透圧がおおむね320mOsm/kgを超える)、高度の脱水が特徴で、ケトアシドーシスは軽いかみられない。 ・症状として意識障害のほか、片麻痺、けいれんなどの神経症状を呈し、脳血管障害との鑑別を要する。 ・治療は大量の生理食塩液などによる脱水補正が中心で、インスリンは持続静注で少量から用いる。急激な血糖・浸透圧の低下は脳浮腫の原因となりうるため、血糖を緩徐に下げる(目安として1時間あたり50〜100mg/dL程度の低下にとどめる)。インスリン投与に伴う低カリウム血症にも注意する。 ・回復期にはインスリン必要量が急減するため、投与量を適宜減らさないと低血糖をきたす。
POINT
・意識障害を見たら、ABCの安定化に続いてまず簡易血糖測定。 ・インスリンやスルホニル尿素薬を使用中の患者の意識障害では、低血糖を第一に疑う。 ・低血糖は迅速に診断でき、ブドウ糖投与ですぐ治るが、放置すると不可逆的な脳障害に至るため最優先で除外する。 ・低血糖は片麻痺などの巣症状を呈することがあり、脳卒中と紛らわしい。 ・HHSの回復期はインスリン必要量が急減し、低血糖を起こしやすい。
