空っぽの骨髄が語るもの―再生不良性貧血を「機序」で解く
第111回医師国家試験 I問題 第35問
国試問題にチャレンジ
再生不良性貧血について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.顆粒球減少
- b.血小板減少
- c.血清鉄低下
- d.骨髄過形成
- e.骨髄芽球増加
対話形式の解説
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ドクターまとめ
再生不良性貧血は造血幹細胞の減少により骨髄が低形成(脂肪髄)となり、赤血球・顆粒球・血小板がすべて減る汎血球減少をきたす疾患で、多くは免疫学的機序による後天性のものです。リンパ球は相対的に増加し、赤芽球が鉄を使わないため血清鉄は上昇、不飽和鉄結合能は低下します。芽球増加や異形成はみられず、この点が白血病や骨髄異形成症候群との鑑別点となります。治療は免疫抑制療法とトロンボポエチン受容体作動薬が中心で、若年重症例では造血幹細胞移植も検討され、輸血に伴う鉄過剰への対策も欠かせません。「骨髄が空っぽになる」「材料が使われずに余る」という機序から考えれば、個々の検査所見を暗記に頼らず導けるようになります。
解答・解説
正解はa, bです
再生不良性貧血の病態と検査所見を問う一般問題である。 再生不良性貧血は、骨髄の造血幹細胞が量的に減少し、骨髄が低形成(造血細胞が減って脂肪に置き換わる状態)となることで、末梢血の赤血球・白血球・血小板がいずれも減る(汎血球減少)疾患である。多くは後天性で、自己の細胞傷害性T細胞が造血幹細胞を攻撃する免疫学的機序が主体と考えられている。 この病態から検査所見を考えると、 ・末梢血: 汎血球減少。白血球のうち特に好中球(顆粒球)が減り、リンパ球は相対的に増える。網赤血球も減少する。 ・骨髄: 低形成〜脂肪髄。芽球の増加や異形成は目立たない。 ・鉄代謝: 赤血球が作られないため鉄が使われずに余り、血清鉄は上昇し、不飽和鉄結合能(UIBC)は低下する。 となる。「造血の材料が使われない」「骨髄が空っぽになる」という二点を押さえれば、各選択肢の正誤は機序から判断できる。
選択肢考察
- ○a. 顆粒球減少
造血幹細胞の減少により骨髄系の細胞すべての産生が低下するため、顆粒球(主に好中球)は減少する。好中球数は重症度分類の指標にも使われ、好中球が著しく減ると細菌・真菌感染症を起こしやすくなる。一方、リンパ球は寿命が長く骨髄外でも維持されるため絶対数の減少は軽く、白血球分画ではリンパ球の比率が相対的に増加する。
- ○b. 血小板減少
血小板の前駆細胞である巨核球も造血幹細胞から分化するため、幹細胞の減少に伴い巨核球が減り、血小板も減少する。皮下出血(紫斑)、歯肉出血、鼻出血などの出血症状は、貧血症状と並んで本症の受診契機となりやすい。血小板減少は早期から目立つことが多く、重症度分類の指標の一つでもある。
- ×c. 血清鉄低下
再生不良性貧血では赤血球の産生(赤芽球による鉄の取り込み)が低下するため、ヘモグロビン合成に使われるはずの鉄が利用されずに血中・貯蔵部位に余る。そのため血清鉄は上昇し、トランスフェリンの鉄飽和率が高くなってUIBCは低下する。さらに輸血を繰り返すと鉄過剰(フェリチン上昇、ヘモクロマトーシス様の臓器障害)をきたしうる。血清鉄が低下するのは鉄欠乏性貧血や慢性炎症に伴う貧血である。
- ×d. 骨髄過形成
再生不良性貧血の骨髄は低形成であり、穿刺液は有核細胞数が少なく、骨髄生検では造血細胞が減り脂肪組織が大部分を占める(脂肪髄)。穿刺では細胞が採れない(ドライタップに近い)こともあるため、骨髄生検による細胞密度の評価が重要である。なお、MRIでは椎体の脂肪髄化が確認できる。一部の部位に造血巣が残る(島状に過形成部分が見られる)ことはあるが、全体としては低形成が本症の特徴である。
- ×e. 骨髄芽球増加
骨髄芽球の増加は急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群(MDS)の高リスク群でみられる所見であり、造血細胞そのものが減る再生不良性貧血では芽球は増加しない。汎血球減少をきたす疾患の鑑別では、骨髄の芽球比率や異形成の有無、染色体異常を確認し、低形成MDSや低形成白血病を除外することが重要である。
再生不良性貧血の概要
・病態: 造血幹細胞の減少による骨髄低形成と汎血球減少。後天性の多くは特発性で、免疫学的機序(T細胞による幹細胞障害)が主体。二次性の原因として薬剤(クロラムフェニコールなど)、放射線、肝炎後などがある。先天性ではFanconi貧血が代表的。 ・症状: 貧血症状(息切れ、動悸、倦怠感)、出血傾向(紫斑、鼻出血、歯肉出血)、感染による発熱。肝脾腫やリンパ節腫脹は通常みられない。 ・検査: 汎血球減少、網赤血球減少、相対的リンパ球増加、血清鉄上昇・UIBC低下、血中エリスロポエチン上昇。骨髄は低形成〜脂肪髄。 ・関連疾患: 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)と合併・移行することがあり、末梢血でPNH型血球(GPIアンカー膜蛋白欠損血球)が少数検出される例は免疫抑制療法が効きやすいとされる。
重症度と治療の考え方
・重症度は好中球数、血小板数、網赤血球数と輸血の必要性で分類される。 ・軽症では経過観察やタンパク同化ステロイドなど、中等症以上では免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン〈ATG〉+シクロスポリン)にトロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)を併用する。 ・若年の重症例でHLA一致の血縁ドナーがいれば同種造血幹細胞移植が考慮される。 ・支持療法として赤血球・血小板輸血、感染対策を行い、輸血による鉄過剰には鉄キレート療法を用いる。
汎血球減少の鑑別
骨髄低形成: 再生不良性貧血、低形成MDS、低形成白血病 骨髄が正〜過形成: MDS、急性白血病、巨赤芽球性貧血、PNH 骨髄以外の原因: 脾機能亢進症(肝硬変など)、SLE、重症感染症
POINT
・再生不良性貧血=造血幹細胞の減少→骨髄低形成(脂肪髄)→汎血球減少(顆粒球・血小板・赤血球の減少、網赤血球減少)。 ・リンパ球は相対的に増加する。 ・鉄は利用されず余るため、血清鉄は上昇し、UIBCは低下する。 ・芽球増加や異形成はみられない(白血病・MDSとの鑑別点)。 ・治療は免疫抑制療法(ATG+シクロスポリン)、TPO受容体作動薬、若年重症例では造血幹細胞移植。
