セフェムが届かない菌―髄膜炎治療で「アンピシリンを足す」理由
第111回医師国家試験 I問題 第3問
国試問題にチャレンジ
細菌性髄膜炎の原因菌でセフェム系抗菌薬が有効でないのはどれか。
- a.緑膿菌
- b.肺炎球菌
- c.リステリア
- d.インフルエンザ菌
- e.クレブシエラ属菌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細菌性髄膜炎の経験的治療では、髄液移行性がよく主要な原因菌をカバーする第3世代セフェム(セフトリアキソン、セフォタキシム)が中心となり、耐性肺炎球菌に備えてバンコマイシンを併用するのが標準的です。しかしリステリアはPBPがセフェム系と結合しにくいため、セフェム系に自然耐性を示し、治療の第一選択はアンピシリン(重症例ではゲンタマイシン併用)となります。緑膿菌にはセフタジジムやセフェピム、肺炎球菌・インフルエンザ菌・クレブシエラには第3世代セフェムが基本的に有効で、「セフェムが効かない」菌種ではありません。新生児、50歳以上、妊婦、免疫不全者の髄膜炎ではリステリアを想定してアンピシリンを追加することが重要です。患者背景から原因菌を予測し、薬剤のカバーの穴を埋めるという考え方は、髄膜炎に限らず感染症診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はcです
細菌性髄膜炎の治療では、薬剤が血液脳関門を越えて髄液中に十分な濃度で届くことが重要である。セフェム系のうち第3世代(セフトリアキソン、セフォタキシムなど)と第4世代(セフェピム)は髄膜に炎症があるときの髄液移行性が良く、主要な原因菌の多くを抗菌スペクトラムに含むため、経験的治療(原因菌が判明する前に開始する治療)の中心となっている。 しかし、セフェム系に「生まれつき(自然)耐性」をもつ菌が存在する。その代表が腸球菌とリステリア(Listeria monocytogenes)である。これらの菌は、βラクタム系薬の標的である細胞壁合成酵素のペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)がセフェム系と結合しにくい性質をもつため、セフェム系をどれだけ投与しても効果が得られない。このうち髄膜炎の原因菌として重要なのはリステリアであり、新生児、50歳以上の高齢者、妊婦、免疫不全者などが髄膜炎を起こした場合には、リステリアを想定してアンピシリンを追加する必要がある。 したがって本問は、選択肢の各菌について「セフェム系で治療可能か」を確認し、セフェム系に自然耐性を示すリステリアを選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 緑膿菌
緑膿菌は多くの抗菌薬に自然耐性を示すブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌であり、セフトリアキソンやセフォタキシムは無効である。しかし、セフェム系の中でも第3世代のセフタジジムと第4世代のセフェピムは抗緑膿菌活性をもつ。脳神経外科手術後やシャント留置後などの医療関連髄膜炎で原因となりうるが、その場合はセフタジジム、セフェピム、またはメロペネムなどが用いられる。したがって「セフェム系が有効でない」とはいえない。
- ×b. 肺炎球菌
肺炎球菌は成人の細菌性髄膜炎で最も頻度の高い原因菌であり、乳幼児でも重要である。PBPの変異によりペニシリンの効きが悪くなったペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)が増えているが、第3世代セフェム(セフトリアキソン、セフォタキシム)は多くの株に有効である。ただしセフェムにも耐性を示す株が存在するため、経験的治療では第3世代セフェムにバンコマイシンを併用するのが標準的である(わが国ではカルバペネム系のパニペネム・ベタミプロンやメロペネムを選択することもある)。
- ○c. リステリア
リステリア(Listeria monocytogenes)はグラム陽性桿菌で、乳製品(非加熱のナチュラルチーズなど)や食肉加工品を介して感染する。細胞性免疫が低下した人に髄膜炎・脳炎を起こしやすく、新生児、50歳以上の高齢者、妊婦、副腎皮質ステロイド使用者、悪性腫瘍や糖尿病の患者などがリスク群である。リステリアのPBPはセフェム系との親和性が低いため、セフェム系は全世代を通じて無効である(自然耐性)。治療の第一選択はアンピシリン(重症例ではゲンタマイシンを併用することがある)であり、βラクタム系にアレルギーがある場合はST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)が代替となる。
- ×d. インフルエンザ菌
インフルエンザ菌(特にb型:Hib)は乳幼児の細菌性髄膜炎の主要な原因菌であった。以前はアンピシリンで治療されていたが、βラクタマーゼを産生してアンピシリンを分解する株(BLPAR)や、PBPの変異によりβラクタマーゼを産生しないのにアンピシリン耐性を示す株(BLNAR)が増加している。第3世代セフェム(セフトリアキソン、セフォタキシム)はこれらにも有効なことが多く、治療の中心となる。わが国では耐性株を考慮して第3世代セフェムとメロペネムを併用することもある。なお、βラクタマーゼ阻害薬の配合剤は阻害薬の髄液移行性が十分でないため、髄膜炎には選びにくい。Hibワクチンの定期接種化により、Hib髄膜炎は激減している。
- ×e. クレブシエラ属菌
クレブシエラ属菌は腸内細菌目のグラム陰性桿菌で、染色体性のβラクタマーゼをもつためアンピシリンには自然耐性を示す。一方、セフェム系は基本的に有効であり、大腸菌などと同様に第3世代セフェムが治療に用いられる。ただし基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生株は第3世代セフェムを分解するため、その場合はメロペネムなどのカルバペネム系を選択する。クレブシエラによる髄膜炎は、新生児、脳外科術後、糖尿病患者の肝膿瘍に続発する侵襲性感染などでみられる。
年齢・背景別の主な原因菌
・新生児(生後1か月未満):B群レンサ球菌(GBS)、大腸菌、リステリア ・乳幼児〜小児:肺炎球菌、インフルエンザ菌(ワクチン普及後は減少) ・成人(50歳未満):肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌 ・50歳以上、免疫不全者:肺炎球菌、リステリア、グラム陰性桿菌 ・脳外科手術後・頭部外傷・シャント留置:黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、表皮ブドウ球菌、緑膿菌などのグラム陰性桿菌
経験的治療の考え方
・基本は第3世代セフェム(セフトリアキソンまたはセフォタキシム)+バンコマイシン(耐性肺炎球菌対策)。わが国ではカルバペネム系(メロペネムなど)を用いる選択肢もある。 ・新生児、50歳以上、妊婦、免疫不全者ではリステリアをカバーするためアンピシリンを追加する。 ・医療関連髄膜炎では、緑膿菌に有効な薬剤(セフタジジム、セフェピム、メロペネム)とバンコマイシンを組み合わせる。 ・成人の肺炎球菌髄膜炎などでは、抗菌薬投与の直前または同時に副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン)を併用すると、死亡や神経学的後遺症を減らせることが示されている。
セフェム系に自然耐性を示す主な菌
・腸球菌、リステリア:PBPがセフェム系と結合しにくい ・MRSA:βラクタム系に親和性の低いPBP2'(PBP2a)をもつ ・マイコプラズマ、クラミジア:細胞壁をもたない(または細胞壁合成系が通常と異なる) ・レジオネラなどの細胞内寄生菌:βラクタム系は細胞内へ移行しにくい
POINT
・リステリアと腸球菌はセフェム系に自然耐性をもつ(覚え方:「リステリアと腸球菌にセフェムは効かない」)。 ・リステリア髄膜炎の第一選択はアンピシリン(+ゲンタマイシン)。 ・新生児、50歳以上、妊婦、免疫不全者の髄膜炎ではアンピシリンを経験的治療に加える。 ・緑膿菌にはセフタジジム・セフェピムなど抗緑膿菌活性をもつセフェムが有効。 ・肺炎球菌髄膜炎の経験的治療は第3世代セフェム+バンコマイシン。
