StudyMed医師国家試験

肺炎の犯人は口の中に―誤嚥性肺炎の原因菌は口腔常在菌を映す

第111回医師国家試験 I問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第4問

誤嚥性肺炎〉の原因微生物として頻度が高いのはどれか。

  1. a.腸球菌属
  2. b.放線菌属
  3. c.Candida属
  4. d.連鎖球菌属
  5. e.Pseudomonas属

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は誤嚥性肺炎の原因微生物を問う問題だ。考え方のポイントは一つだけ。「何を誤嚥しているのか」を思い浮かべれば、原因菌は自然に見えてくる。まず誤嚥性肺炎とはどんな病態か、説明できるかな。
医学生医学生
食べ物や唾液が気管に入って起こる肺炎ですよね。むせることが多い印象です。
ドクタードクター
半分正解だね。実はむせずに気づかないうちに誤嚥する「不顕性誤嚥」が多いんだ。高齢者や脳血管障害の後遺症、認知症、Parkinson病などで嚥下機能や咳反射が落ちていると、夜間の睡眠中に少量の唾液を繰り返し吸い込んでしまう。
医学生医学生
神経内科の実習で、Parkinson病の患者さんが誤嚥性肺炎で入院していました。むせていないと言われていたのが不思議だったんです。
ドクタードクター
まさにそれが不顕性誤嚥だよ。では、そのとき肺に入るのは何だろう。
医学生医学生
口の中の唾液や分泌物です。ということは、口の中にいる菌がそのまま原因になる?
ドクタードクター
その通り。原因微生物は口腔・咽頭の常在菌叢をそのまま反映する。口腔内で量的に多いのは、口腔レンサ球菌と、歯周ポケットや歯垢に棲む嫌気性菌だ。だから選択肢の中では連鎖球菌属が正解になる。緑色レンサ球菌群やStreptococcus anginosus群、それに肺炎球菌が主な原因で、そこにPrevotellaやFusobacteriumなどの口腔内嫌気性菌が加わった混合感染になることが多い。
医学生医学生
放線菌も口の中にいる嫌気性菌ですよね。病理実習で硫黄顆粒を見ました。
ドクタードクター
いい着眼点だね。放線菌は確かに口腔内の常在菌で、胸部放線菌症は誤嚥を契機に起こることもある。でも、数週から数か月かけて進行する慢性の化膿性肉芽腫性病変で、急性に発症する普通の誤嚥性肺炎の原因として頻度は高くない。好発部位も顔面・頸部が最多だ。
医学生医学生
Candidaも口の中にいますし、喀痰培養で出てくるのを実習で見たことがあります。
ドクタードクター
喀痰からはしばしば検出されるね。でも多くは口腔内の定着菌の混入で、Candidaが肺炎の起炎菌になることはまれだ。「培養で出た=原因菌」ではない、というのは臨床でとても大事な感覚だよ。
医学生医学生
腸球菌は名前の通り腸の菌なので、口からの誤嚥とは結びつきにくいですね。
ドクタードクター
その理解でいい。尿路感染症や胆道感染症、感染性心内膜炎などで問題になる菌で、口腔内の主要な常在菌ではない。ただ、長期臥床や経管栄養、抗菌薬を繰り返し使っている患者では咽頭に定着して原因になることがある。セフェム系に自然耐性をもつ点も覚えておこう。
医学生医学生
緑膿菌も院内肺炎で重要だと習いましたが、誤嚥性肺炎ではどうですか。
ドクタードクター
緑膿菌は水回りなど湿った環境にいる好気性のグラム陰性桿菌で、院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎、気管支拡張症で重要だ。長期入院や施設入所、抗菌薬使用歴のある人の誤嚥性肺炎では考慮が必要だけど、一般的な誤嚥性肺炎で頻度が高いとはいえない。つまり、患者背景によって口腔内の細菌叢が変わることで、想定すべき菌も変わるんだ。
医学生医学生
基本は口腔レンサ球菌と嫌気性菌で、入院歴や抗菌薬歴があれば緑膿菌や腸内細菌も考える、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展知識も押さえておこう。誤嚥物は右肺に入りやすい。右主気管支のほうが太く、分岐角度が急峻だからね。仰臥位では下葉上区のS6や上葉後区のS2、座位では下葉の肺底区に起こりやすい。治療には口腔レンサ球菌と嫌気性菌を同時にカバーするアンピシリン・スルバクタムなどがよく用いられる。
医学生医学生
嘔吐で胃液を吸い込んだ場合も同じ誤嚥性肺炎ですか。
ドクタードクター
そこは区別しておきたい。酸性の胃内容物を大量に誤嚥して化学的な肺傷害を起こすものは誤嚥性肺臓炎、Mendelson症候群と呼ばれ、初期は細菌感染ではない。そして誤嚥性肺炎の予防で一番大切なのは口腔ケアだ。歯周病で菌量が増えるとリスクが上がるから、口腔ケアに加えて食事時の姿勢調整、食形態の工夫、嚥下リハビリテーションを多職種で進めていくことが再発予防の柱になるよ。

まとめ

誤嚥性肺炎は、不顕性誤嚥などで口腔・咽頭の分泌物が気道に入ることで起こるため、原因微生物は口腔内常在菌叢を反映し、口腔レンサ球菌(Streptococcus属)と口腔内嫌気性菌(Prevotella、Fusobacteriumなど)の混合感染が中心となります。放線菌は慢性の放線菌症の原因、Candidaは喀痰中の定着菌であることが多く、腸球菌や緑膿菌は長期入院・施設入所・抗菌薬使用歴など細菌叢が変化した患者で考慮される菌です。誤嚥は右肺、特に臥位ではS2・S6に起こりやすく、治療にはアンピシリン・スルバクタムなど嫌気性菌もカバーする薬剤がよく用いられます。胃酸による化学的傷害であるMendelson症候群とは区別が必要です。「何を誤嚥したか」から原因菌を推定する考え方と、口腔ケアを中心とした予防の重要性は、高齢化が進む臨床現場で欠かせない知識です。

解答・解説

正解はdです

誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)は、口腔や咽頭の分泌物が気道に流れ込むことで起こる肺炎である。高齢者、脳血管障害の後遺症、認知症、Parkinson病などで嚥下機能や咳反射が低下していると、夜間睡眠中などに気づかないうちに少量の唾液を繰り返し吸い込む(不顕性誤嚥)。 誤嚥されるのは口腔内の分泌物であるから、原因微生物は口腔・咽頭に常在する細菌叢をそのまま反映する。口腔内で量的に多いのは、口腔レンサ球菌(Streptococcus属:緑色レンサ球菌群、Streptococcus anginosus群など)と、歯周ポケットや歯垢に棲む嫌気性菌(Prevotella属、Fusobacterium属、Porphyromonas属、Peptostreptococcus属など)である。とくに歯周病があり口腔衛生が悪いと、これらの菌量が増え、肺炎のリスクも高まる。 したがって「誤嚥性肺炎で頻度の高い原因微生物」を問われたら、まず口腔内常在菌の主役であるレンサ球菌属と口腔内嫌気性菌を思い浮かべればよい。選択肢の中でこれに該当するのは連鎖球菌属である。腸球菌や緑膿菌は、長期入院・施設入所・抗菌薬使用歴などにより口腔内の細菌叢が変化した患者で問題となる菌であり、一般的な頻度は高くない。

選択肢考察

  1. ×a.  腸球菌属

    腸球菌属(Enterococcus属)はグラム陽性の通性嫌気性球菌で、その名の通り腸管の常在菌である。尿路感染症、胆道感染症、感染性心内膜炎、腹腔内感染症などの原因となるが、口腔内の主要な常在菌ではないため、誤嚥性肺炎の原因として頻度は高くない。長期臥床や経管栄養、抗菌薬投与を繰り返している患者では口腔・咽頭に定着して原因となることがある。なお、腸球菌はセフェム系に自然耐性をもつ点も重要である。

  2. ×b.  放線菌属

    放線菌属(Actinomyces属、代表はActinomyces israelii)は、口腔内(歯垢・扁桃陰窩など)に常在する嫌気性のグラム陽性桿菌で、分枝した菌糸状の形態をとる。放線菌症は、顔面・頸部(最多)、胸部、腹部などに慢性の化膿性肉芽腫性病変をつくり、膿の中に硫黄顆粒(ドルーゼ)がみられるのが特徴である。胸部放線菌症は口腔内容物の誤嚥を契機に生じることがあるが、数週〜数か月かけて進行する慢性感染症であり、急性に発症する通常の誤嚥性肺炎の原因菌としての頻度は高くない。

  3. ×c.  Candida属

    Candida属は口腔内にも常在する真菌で、口腔カンジダ症(鵞口瘡)、口角炎、食道カンジダ症、腟カンジダ症などの表在性感染症や、中心静脈カテーテル関連のカンジダ血症などの深在性感染症を起こす。喀痰からはしばしば検出されるが、多くは口腔内の定着菌の混入(コンタミネーション)であり、カンジダが肺炎の起炎菌となることはまれである。したがって誤嚥性肺炎の原因として頻度は高くない。

  4. ○d.  連鎖球菌属

    連鎖球菌属(Streptococcus属)は口腔・咽頭の常在菌叢の中心をなす菌群であり、その多くは通性嫌気性である。誤嚥性肺炎では口腔内容物がそのまま肺に入るため、緑色レンサ球菌群(Streptococcus anginosus群など)や肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が主要な原因となる。これに口腔内嫌気性菌が加わった混合感染となることが多く、膿瘍形成や膿胸に進展することもある。

  5. ×e.  Pseudomonas属

    Pseudomonas属(代表は緑膿菌Pseudomonas aeruginosa)は好気性(偏性好気性)のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で、水回りなどの湿潤環境に生息する。院内肺炎、人工呼吸器関連肺炎、気管支拡張症などの慢性下気道感染で重要な原因菌であり、長期入院・施設入所・抗菌薬使用歴のある患者の誤嚥性肺炎では考慮する必要がある。しかし、一般的な誤嚥性肺炎の原因として頻度は高くない。

誤嚥に関連する肺病変の整理

・誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia):口腔・咽頭の細菌を含む分泌物を誤嚥して起こる細菌性肺炎。不顕性誤嚥によるものが多い。 ・誤嚥性肺臓炎(Mendelson症候群):嘔吐などで酸性の胃内容物を大量に誤嚥し、胃酸による化学的な肺傷害を起こすもの。初期は細菌感染ではない。 ・肺膿瘍・膿胸:口腔内嫌気性菌を主体とする混合感染が進展して生じる。

好発部位

・右主気管支は左より太く、気管からの分岐角度が急峻(より垂直に近い)であるため、誤嚥物は右肺に入りやすい。 ・仰臥位では下葉上区(S6)や上葉後区(S2)、立位・座位では下葉の肺底区に生じやすい。

原因微生物

・口腔レンサ球菌(緑色レンサ球菌群、Streptococcus anginosus群)、肺炎球菌 ・口腔内嫌気性菌:Prevotella属、Fusobacterium属、Porphyromonas属、Peptostreptococcus属など ・長期入院・施設入所・抗菌薬使用歴がある場合:腸内細菌目細菌(大腸菌、クレブシエラなど)、緑膿菌、黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)なども考慮する

治療と予防

・口腔レンサ球菌と嫌気性菌を同時にカバーするβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(アンピシリン・スルバクタムなど)がよく用いられる。 ・予防には口腔ケア、食事時の姿勢調整(座位・頸部前屈)、食形態の工夫、嚥下リハビリテーションが重要である。ACE阻害薬はサブスタンスPの分解を抑えて咳反射・嚥下反射を改善するとされ、高血圧を合併する患者で用いられることがある。

POINT

・誤嚥性肺炎の原因菌は口腔内常在菌叢を反映する。 ・頻度が高いのは口腔レンサ球菌(Streptococcus属)と口腔内嫌気性菌(Prevotella、Fusobacterium、Peptostreptococcusなど)。 ・好発部位は右肺、特に下葉(臥位ではS2・S6)。 ・治療はアンピシリン・スルバクタムなど嫌気性菌もカバーする薬剤、予防の柱は口腔ケアと嚥下機能への対応。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。