6週間で寝たきりに―皮質が光る急速進行性認知症、Creutzfeldt-Jakob病を見抜く
第119回医師国家試験 D問題 第56問
国試問題にチャレンジ
75歳の女性。急速に進行する認知機能の低下を主訴に来院した。1年前の認知症検診では改訂長谷川式簡易知能評価スケール29点(30点満点)であった。6週間前ごろに目の前にある眼鏡がないと騒ぐようになった。同時期から歩行が不安定となった。5週間前には自分の名前が言えなくなり,4週間前には自身の足から何かを払いのけるような動作がみられるようになった。3週間前には会話と歩行ができなくなった。1週間前からはほぼ寝たきりとなり,時々全身をぴくつかせる運動がみられるようになった。食事も摂れなくなったため家族とともに受診した。頭部単純MRIの拡散強調像を下に示す。 診断はどれか。

- a.結核性髄膜炎
- b.単純ヘルペス脳炎
- c.Lewy小体型認知症
- d.Creutzfeldt-Jakob病
- e.進行性多巣性白質脳症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
認知機能が正常だった人が数週から数か月で無動性無言に至る急速進行性認知症で、ミオクローヌス、視覚異常、小脳失調を伴う場合は孤発性Creutzfeldt-Jakob病を第一に考えます。頭部MRI拡散強調像での大脳皮質のリボン状高信号や尾状核・被殻の高信号は早期から鋭敏な所見で、脳波の周期性同期性放電、髄液14-3-3蛋白・総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC陽性が診断を支持します。単純ヘルペス脳炎は発熱を伴う急性経過と辺縁系病変、Lewy小体型認知症は年単位の経過と幻視・パーキンソニズム、進行性多巣性白質脳症は免疫不全と白質病変で区別できます。CJDには根本治療がなく、器具の特別な滅菌処理や5類感染症としての届出が必要であり、橋本脳症など治療可能な類似疾患を除外する姿勢も欠かせません。経過の速さ・症候・画像を組み合わせて急速進行性認知症を鑑別する力は、神経内科診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・75歳女性。1年前の改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は29/30点で、当時の認知機能は正常であった。 ・6週間前:目の前の眼鏡を「ない」と騒ぐ(視覚の異常。皮質盲や視覚失認など後頭葉皮質の障害を疑う)。同時期から歩行が不安定(小脳性運動失調を疑う)。 ・5週間前:自分の名前が言えない(急速な認知機能・言語機能の悪化)。 ・4週間前:自分の足から何かを払いのける動作(幻覚・錯覚を示唆)。 ・3週間前:会話も歩行も不能(無動性無言に近づく状態)。 ・1週間前:ほぼ寝たきり、時々全身をぴくつかせる運動(ミオクローヌス)。 ・頭部MRI拡散強調像(DWI):大脳皮質に沿ってリボン状(cortical ribboning)の高信号を認める。
診断へのプロセス
まず時間経過に注目する。認知機能が正常だった人が、わずか6週間ほどで寝たきりに至っている。これは数年単位で進むAlzheimer型認知症やLewy小体型認知症などの神経変性疾患とは明らかに異なる「急速進行性認知症(rapidly progressive dementia)」である。急速進行性認知症の鑑別には、プリオン病(Creutzfeldt-Jakob病:CJD)のほか、感染症(脳炎、結核性・真菌性髄膜炎など)、自己免疫性脳症(橋本脳症、自己免疫性脳炎)、腫瘍(血管内大細胞型B細胞リンパ腫など)、代謝・内分泌異常(ビタミンB1・B12欠乏、甲状腺機能低下)、血管性病変(硬膜動静脈瘻、静脈洞血栓症)、慢性硬膜下血腫などが挙がる。 次に神経症候を並べると、①急速進行性の認知症、②視覚異常、③小脳失調を思わせる歩行障害、④ミオクローヌス、⑤無動性無言へ向かう経過、がそろう。これは孤発性CJDの典型的な臨床像そのものである。発熱、頭痛、項部硬直などの感染を示す所見は記載されていない。 最後に画像である。DWIで大脳皮質がリボン状に高信号を示す疾患には、CJDのほか、てんかん重積後、低血糖脳症、低酸素脳症などがある。しかし本例にはけいれん重積・低血糖・心肺停止などのエピソードがなく、亜急性に進行している。したがって臨床経過・症候・画像のすべてが孤発性CJDに合致する。
設問の考え方
「認知機能正常→数週〜数か月で無動性無言」「ミオクローヌス」「DWIで皮質リボン状高信号」の3点がそろえばCJDを第一に考える。確定に近づけるには脳波の周期性同期性放電(PSD)や髄液検査(14-3-3蛋白、総タウ蛋白、RT-QuIC法による異常プリオン蛋白の検出)を追加する。
選択肢考察
- ×a. 結核性髄膜炎
結核性髄膜炎は微熱、食欲不振、倦怠感など非特異的な症状で比較的緩やかに始まり、その後、頭痛、嘔吐、発熱、項部硬直、意識障害、けいれん、脳神経麻痺(特に外転神経麻痺)が出現する。脳底部に病変が強く、水頭症や血管炎による脳梗塞を合併しやすい。MRIでは造影で脳底部髄膜の増強効果や結核腫を認めるのが典型である。本例には発熱や髄膜刺激症状、脳神経麻痺の記載がなく、DWIで皮質がリボン状に光る所見も本症とは合致しない。
- ×b. 単純ヘルペス脳炎
単純ヘルペス脳炎は発熱・頭痛で急性に発症し、数日のうちに意識障害、けいれん、異常行動、記憶障害などを来す。MRIでは側頭葉内側、島皮質、帯状回、前頭葉眼窩面といった辺縁系を中心に、両側性でも左右差のあるT2強調像/FLAIR高信号を示し、皮質だけでなく白質にも病変が及び、進行すると出血を伴うことがある。本例は発熱がなく、6週間かけて進行する経過で、画像も辺縁系優位ではなく大脳皮質に広範なリボン状高信号であり合致しない。
- ×c. Lewy小体型認知症
Lewy小体型認知症は年単位で緩徐に進行する神経変性疾患で、認知機能の変動、具体的で鮮明な幻視(人や小動物など)、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症を中核的特徴とする。本例の「足から何かを払いのける動作」は幻覚を思わせるが、認知機能正常から6週間で寝たきりに至る急速な経過は本症と全く異なる。また本症のMRIは目立った異常を示さないことが多く、DWIで皮質高信号を呈することはない。
- ○d. Creutzfeldt-Jakob病
孤発性CJDは高齢者(60〜70歳代に多い)に好発し、急速進行性認知症で発症して、数か月以内に無動性無言状態に至る。経過中にミオクローヌス、視覚異常、小脳失調、錐体路・錐体外路症状が出現する。本例は1年前に正常だった認知機能が6週間で寝たきりまで悪化し、視覚異常(眼鏡が見えない)、歩行不安定、幻覚、会話・歩行不能、全身性ミオクローヌスがそろっている。さらにDWIで大脳皮質のリボン状高信号を認め、これはCJDの早期から鋭敏に検出される特徴的所見である。以上から診断はCJDである。
- ×e. 進行性多巣性白質脳症
進行性多巣性白質脳症(PML)は、免疫が低下した状態でJCウイルスが再活性化し、オリゴデンドロサイトが障害されて脱髄病変が多発する疾患である。基礎疾患にはHIV感染症、血液悪性腫瘍、膠原病、免疫抑制薬や生物学的製剤(ナタリズマブなど)の使用がある。片麻痺、認知機能障害、失語、視覚障害などが週〜月単位で進行する。MRIでは皮質直下のU線維を含む白質に、造影効果や占拠性効果に乏しい多巣性病変が拡大していく。本例には免疫不全の背景がなく、病変は白質ではなく皮質にあり、ミオクローヌスも本症では目立たないため合致しない。
プリオン病の概要
プリオン病は、正常プリオン蛋白(PrPC)が異常プリオン蛋白(PrPSc)に構造変化して脳内に蓄積し、神経細胞が脱落して大脳が海綿状に変化する致死性疾患である。日本では人口100万人あたり年間1〜2人程度が発症する。病型は以下に分かれる。 ・孤発性CJD:約8割を占め、原因不明。60〜70歳代に多い。 ・遺伝性プリオン病:プリオン蛋白遺伝子(PRNP)変異による。家族性CJD、Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(GSS)、致死性家族性不眠症など。孤発例より経過が緩徐で、PSDやミオクローヌスがはっきりしない例もある。 ・獲得性プリオン病:硬膜移植後CJD(日本で多くみられた)、変異型CJD(牛海綿状脳症〈BSE〉由来)、クールーなど。
孤発性CJDの臨床経過
第1期:倦怠感、めまい、視覚異常、記憶障害、行動異常など非特異的症状。 第2期:急速進行性認知症、ミオクローヌス、小脳失調、錐体路・錐体外路症状。 第3期:無動性無言状態となり、多くは1〜2年以内に肺炎などで死亡する。 視覚異常で始まり後頭葉が主に障害される型はHeidenhain型と呼ばれる。
検査所見
・頭部MRI:DWIやFLAIRで大脳皮質のリボン状高信号、尾状核・被殻の高信号。DWIは発症早期から異常を示し最も鋭敏である。視床枕の高信号(pulvinar sign、視床背内側部にも及ぶとhockey stick sign)は変異型CJDで特徴的とされる。 ・脳波:約1Hz周期の高振幅鋭波が全般性・左右同期性に出現する周期性同期性放電(PSD)。病期の進行とともに出現し、初期にはみられないこともある。なお亜急性硬化性全脳炎(SSPE)でも周期性放電がみられるが、周期は数秒〜十数秒ごとと長く、CJDより間隔が長い点が異なる。 ・髄液:細胞数・蛋白は通常正常。14-3-3蛋白陽性、総タウ蛋白の著増。RT-QuIC法(real-time quaking-induced conversion)で異常プリオン蛋白のシード活性を検出でき、特異度が非常に高い。 ・確定診断は剖検・脳生検による病理(海綿状変化、異常プリオン蛋白の沈着)である。
診断基準の骨子(孤発性CJD)
急速進行性認知症に加え、①ミオクローヌス、②視覚症状または小脳症状、③錐体路または錐体外路症状、④無動性無言、のうち2項目以上を満たし、脳波でのPSD、髄液14-3-3蛋白陽性、MRIでの特徴的高信号(尾状核・被殻、または2か所以上の大脳皮質)のいずれかがあれば「ほぼ確実(probable)」とされる。近年はRT-QuIC陽性も診断根拠に加えられている。
治療・感染対策
有効な根本治療はなく、対症療法とケアが中心となる。日常的な接触や飛沫では感染しないが、脳・脊髄・眼などの高リスク組織に触れた器具は通常の滅菌では不活化されにくいため、特別な処理(高温・長時間のオートクレーブ、水酸化ナトリウム処理など)が必要である。感染症法の5類感染症(全数把握)であり、診断した医師は7日以内に届け出る。
CJDと紛らわしい疾患
・橋本脳症:亜急性の認知機能障害、意識障害、ミオクローヌス、さらに周期性放電を示すこともありCJDとの鑑別が難しい。血中抗甲状腺抗体(特に抗NAE抗体)が手がかりで、ステロイドに反応する(治療可能な疾患であり見逃してはならない)。MRIは正常か非特異的所見にとどまる。 ・深部脳静脈血栓症:両側視床の高信号と亜急性の認知機能障害でCJDと紛らわしいことがある。
POINT
・認知機能正常から数週〜数か月で無動性無言に至る急速進行性認知症+ミオクローヌス → 孤発性CJDを考える。 ・頭部MRI拡散強調像で大脳皮質のリボン状高信号、尾状核・被殻の高信号が特徴的(早期から鋭敏)。 ・脳波で約1Hzの周期性同期性放電(PSD)、髄液で14-3-3蛋白・総タウ蛋白上昇、RT-QuIC陽性。 ・視覚異常・小脳失調・錐体路/錐体外路症状も伴いやすい。 ・鑑別:単純ヘルペス脳炎(発熱・急性・辺縁系病変)、Lewy小体型認知症(年単位・幻視・パーキンソニズム)、PML(免疫不全・白質病変)、橋本脳症(治療可能)。 ・5類感染症(全数把握)。手術器具の特別な滅菌処理が必要。
