「100人に1人」の病を正しく知る―統合失調症の疫学・病因・治療を整理する
第111回医師国家試験 I問題 第29問
国試問題にチャレンジ
統合失調症について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.発症率は国によって大きく異なる。
- b.家族歴がある場合には罹患率が高い。
- c.脳内の異常蛋白の蓄積が原因である。
- d.治療の開始時期によって予後が異なる。
- e.陰性症状には選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉が有効である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
統合失調症の生涯有病率は約1%弱で、国や文化による大きな差はないとされます。遺伝的素因が強く、第一度近親者では約10%、一卵性双生児では約50%と発症リスクが上がりますが、環境要因も重なって発症する多因子疾患であり、神経変性疾患のような異常蛋白の蓄積は原因ではありません。精神病未治療期間(DUP)が長いほど予後が悪いため、早期発見・早期治療と服薬継続が重要です。陰性症状に対するSSRIの有効性は確立しておらず、第二世代抗精神病薬と心理社会的治療を組み合わせ、錐体外路症状や高プロラクチン血症、代謝異常、クロザピンによる無顆粒球症といった副作用にも注意します。疫学・病因・予後・治療を関連づけて理解することは、国試対策だけでなく、精神科臨床で患者や家族に説明する際の土台にもなります。
解答・解説
正解はb, dです
統合失調症の疫学、病因、予後、治療の基本事項を横断的に問う問題である。 統合失調症は主に思春期から青年期(10歳代後半〜30歳代)に発症し、幻覚・妄想などの陽性症状、感情の平板化・意欲低下・会話の貧困などの陰性症状、注意や記憶・実行機能の障害などの認知機能障害を特徴とする。生涯有病率はおよそ1%弱(0.7〜1%程度)で、地域や文化による差は大きくないとされる。 病因はまだ完全には解明されていないが、遺伝的な素因(なりやすさ)に、胎生期・周産期の障害、思春期の大麻使用、都市部での生育、心理社会的ストレスなどの環境要因が重なって発症するという「脆弱性-ストレスモデル」で理解されている。病態としては、中脳辺縁系でのドパミン神経の過剰な活動が陽性症状に関わるとするドパミン仮説が中心で、グルタミン酸系(NMDA受容体の機能低下)の関与も考えられている。Alzheimer型認知症などの神経変性疾患のように、特定の異常蛋白が蓄積して起こる疾患ではない。 治療の中心は抗精神病薬(ドパミンD2受容体遮断作用をもつ薬)による薬物療法と、心理社会的治療・リハビリテーションの組合せである。未治療の精神病状態が続く期間が短いほど治療反応や予後がよいことが知られ、早期発見・早期治療が重視されている。 これらを踏まえると、家族歴で罹患リスクが高まること、治療開始時期が予後に影響することが正しい記述である。
選択肢考察
- ×a. 発症率は国によって大きく異なる。
統合失調症の生涯有病率は世界的におよそ1%弱で、国や文化圏による差は小さいとされる。WHOによる多国間の調査でも、診断基準を揃えると発症率はどの国でもおおむね近い値であった。細かくみると、都市部や移民の集団でやや高いといった差は報告されているが、「国によって大きく異なる」とはいえない。誤りである。
- ○b. 家族歴がある場合には罹患率が高い。
統合失調症の発症には遺伝的要因が強く関わる。一般人口での生涯リスクが約1%であるのに対し、第一度近親者(親・きょうだい・子)に患者がいる場合は約10%前後、両親がともに罹患している場合や一卵性双生児の片方が罹患している場合はおよそ40〜50%に高まると報告されている。一卵性双生児でも一致率が100%にならないことは、環境要因も関与していることを示す。単一の原因遺伝子ではなく、影響の小さい多数の遺伝子が関わる多因子遺伝と考えられている。正しい。
- ×c. 脳内の異常蛋白の蓄積が原因である。
脳内への異常蛋白の蓄積が原因となるのは神経変性疾患である。例えばAlzheimer型認知症ではアミロイドβ(老人斑)とリン酸化タウ(神経原線維変化)、Lewy小体型認知症やParkinson病ではαシヌクレイン(Lewy小体)、Creutzfeldt-Jakob病では異常プリオン蛋白が蓄積する。統合失調症ではこのような異常蛋白の蓄積は認められず、ドパミンやグルタミン酸などの神経伝達の異常、神経発達の障害が病態の中心と考えられている。誤りである。
- ○d. 治療の開始時期によって予後が異なる。
精神病症状が出現してから治療が始まるまでの期間を精神病未治療期間(duration of untreated psychosis:DUP)といい、DUPが長いほど抗精神病薬への反応が悪く、症状や社会機能の予後が不良になることが示されている。また、発症後の数年間は再発を繰り返すと機能低下が進みやすい時期とされる。そのため早期発見・早期治療と、再発予防のための服薬継続が重視される。正しい。
- ×e. 陰性症状には選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉が有効である。
SSRIはうつ病や不安症の治療薬であり、統合失調症の陰性症状(意欲低下、感情の平板化、自閉など)に対する有効性は確立していない。陰性症状に対しては、ドパミンD2受容体遮断作用に加えセロトニン5-HT2A受容体遮断作用などをもつ第二世代(非定型)抗精神病薬が用いられ、生活技能訓練(SST)や作業療法などの心理社会的治療・リハビリテーションを組み合わせる。統合失調症に抑うつが合併した場合に抗うつ薬を併用することはあるが、陰性症状そのものへの治療薬ではない。誤りである。
統合失調症の予後に関わる因子
予後良好の因子としては、女性、発症年齢が比較的高い、急性の発症、発症のきっかけ(誘因)が明らか、陽性症状が主体で陰性症状が少ない、病前の社会適応が良好、病識がある、早期に治療が開始された、家族歴がない、家族などの支援がある、などが挙げられる。逆に、男性、若年発症、潜行性(ゆっくり)の発症、陰性症状が目立つ、病前の社会適応が不良、治療開始の遅れなどは予後不良と関連する。
ドパミン仮説と抗精神病薬
・中脳辺縁系のドパミン過剰:陽性症状(幻覚・妄想)に関与 ・中脳皮質系のドパミン機能低下:陰性症状・認知機能障害に関与 ・黒質線条体系の遮断:錐体外路症状(薬剤性パーキンソニズム、アカシジア、遅発性ジスキネジアなど) ・漏斗下垂体系の遮断:高プロラクチン血症(乳汁分泌、無月経など) 第二世代抗精神病薬は第一世代より錐体外路症状が少ないが、体重増加や耐糖能異常などの代謝系副作用に注意が必要である。2種類以上の抗精神病薬を十分量・十分期間使っても効果がない治療抵抗性統合失調症にはクロザピンが用いられる(無顆粒球症などの重篤な副作用があるため、血液検査などの定期的な監視が必須)。
疫学の比較
統合失調症の生涯有病率は約1%弱で、男女差はほとんどないが、男性のほうが発症年齢が早い傾向がある。双極性障害(双極I型)の生涯有病率もおおむね1%前後と近い値である。
POINT
・生涯有病率は約1%弱で、国による大きな差はない ・遺伝的素因が強く、第一度近親者では約10%、一卵性双生児で約50%と発症リスクが上がる ・精神病未治療期間(DUP)が短いほど予後良好で、早期治療が重要 ・異常蛋白の蓄積によるものではない(神経変性疾患との違い) ・陰性症状にSSRIの有効性は確立していない。第二世代抗精神病薬と心理社会的治療を併用する
