StudyMed医師国家試験

ねじれるのは「動ける」腸だけ―解剖から読み解く軸捻転の好発部位

第111回医師国家試験 I問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第28問

軸捻転症を生じる頻度が高いのはどれか。2つ選べ。

  1. a.胃
  2. b.十二指腸
  3. c.下行結腸
  4. d.S状結腸
  5. e.直腸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、消化管のどこに軸捻転が起こりやすいかを問う問題だ。丸暗記でも解けるけれど、カギは解剖にある。「その臓器はどれだけ自由に動けるか」という視点で考えてみよう。そもそも軸捻転とはどんな病態かな。
医学生医学生
腸がねじれて詰まる病気、というイメージです。
ドクタードクター
そうだね。消化管が長軸や腸間膜を軸にしてねじれると、内腔が閉塞するだけでなく、腸間膜の血管も絞めつけられる。そのまま放置すれば虚血から壊死、穿孔へと進むから、緊急性が高いんだ。では、ねじれるためにはどんな条件が必要だと思う?
医学生医学生
固定されていたら回りようがないので、ある程度動ける必要がありそうです。
ドクタードクター
その通り。ポイントは3つ。腹膜に包まれた腹腔内臓器で後腹膜に固定されていないこと、長い腸間膜や間膜をもって可動性が大きいこと、そして間膜の付け根が狭くて、そこを軸に回りやすいことだ。
医学生医学生
解剖実習で、腹腔内臓器と後腹膜臓器を区別しながら剖出したのを思い出しました。十二指腸や膵臓は後ろの壁にべったりくっついていました。
ドクタードクター
いい経験だね。それがそのまま答えにつながる。まずS状結腸から考えよう。
医学生医学生
S状結腸は長いS状結腸間膜があって、ぶらぶら動く腹腔内臓器ですね。いかにもねじれそうです。
ドクタードクター
そう、結腸軸捻転で最も多い部位だ。特に腸管が長く間膜の付け根が狭いと回転しやすい。高齢者、長期臥床の人、慢性便秘、神経疾患や精神疾患をもつ人に多いのが特徴だよ。腹部X線では、著しく拡張したS状結腸が逆U字に見えるコーヒー豆徴候が有名だ。
医学生医学生
消化器外科の実習で、施設入所中の高齢の方がお腹がパンパンに張って運ばれてきた症例を見ました。内視鏡で戻していました。
ドクタードクター
典型的な経過だね。壊死や穿孔の所見がなければ内視鏡的整復をまず試みる。ただ再発しやすいので、待機的にS状結腸切除を行うことが多い。壊死や穿孔が疑われれば緊急手術だ。では胃はどうだろう。
医学生医学生
胃は大きくて重そうなので、ねじれるイメージがあまりありませんでした。
ドクタードクター
意外に感じるかもしれないね。でも胃は腹腔内臓器で、肝胃間膜や胃脾間膜、胃結腸間膜などの靱帯でつり下げられているだけで、固定は強くない。支持組織が弱かったり、横隔膜弛緩症や横隔膜ヘルニアがあったりすると位置が変わりやすく、胃軸捻転症を起こす。新生児・乳児に多く、成人や高齢者では傍食道型の食道裂孔ヘルニアに伴うことがあるよ。
医学生医学生
回転の仕方にも種類があるんですか。
ドクタードクター
噴門と幽門を結ぶ線を軸に回る臓器軸性と、大弯と小弯の中点を結ぶ線を軸に回る腸間膜軸性に分けられる。急性型では、上腹部痛、吐こうとしても吐けない嘔吐、胃管が入らない、というBorchardtの三徴が知られていて、胃壊死の危険があるから緊急の対応が必要なんだ。
医学生医学生
十二指腸は、小児外科で中腸軸捻転を習ったので少し引っかかりました。胆汁性嘔吐が出るんですよね。
ドクタードクター
鋭いところに気づいたね。ただ中腸軸捻転は、腸回転異常症を背景に上腸間膜動脈を軸として中腸全体がねじれる病態で、十二指腸そのものの捻転ではない。十二指腸は球部を除いて大部分が後腹膜臓器で、後腹壁にしっかり固定されているから、単独で捻転することはまれなんだ。
医学生医学生
下行結腸も後腹膜に固定されているし、直腸は骨盤の中で周りの組織と結びついているので、どちらもねじれにくいということですね。
ドクタードクター
その通り。下行結腸は上行結腸と同じく腸間膜をもたない後腹膜臓器で、直腸も腸間膜をもたず骨盤内に固定されている。動けない臓器はねじれない、というわけだ。
医学生医学生
結局、腹腔内か後腹膜かを思い出せば、暗記しなくても答えにたどり着けるんですね。
ドクタードクター
そう、それがこの問題の醍醐味だ。発展として、結腸ではS状結腸に次いで盲腸の捻転がある。盲腸は通常は後腹壁に固定されているけれど、固定が不十分な移動盲腸だとねじれることがある。それから中腸軸捻転は新生児の胆汁性嘔吐で発症し、広範な腸管壊死を起こしうるから緊急手術の対象だ。CTでは、ねじれた腸間膜が渦巻き状に見えるwhirl signも診断に役立つよ。
医学生医学生
臨床では、高齢者の著しい腹部膨満と排便・排ガスの停止を見たら、S状結腸軸捻転を思い浮かべるようにします。
ドクタードクター
ぜひそうしてほしい。そして整復できたあとも再発が多いこと、腹膜刺激症状や発熱、乳酸値の上昇など壊死を疑う所見があれば内視鏡にこだわらず手術を考えることを忘れずにね。

まとめ

軸捻転症は消化管が長軸や腸間膜を軸にねじれ、閉塞と血流障害から壊死・穿孔に至りうる緊急疾患で、可動性の大きい腹腔内臓器に起こります。好発部位は、靱帯でつり下げられているだけの胃と、長いS状結腸間膜をもつS状結腸であり、結腸ではS状結腸が最多、次いで固定不十分な盲腸です。一方、十二指腸(球部以外)や上行・下行結腸は後腹膜に、直腸は骨盤内に固定されているため捻転しにくく、新生児の中腸軸捻転は上腸間膜動脈を軸に中腸全体がねじれる別の病態です。S状結腸軸捻転は高齢者や慢性便秘、神経精神疾患をもつ人に多く、コーヒー豆徴候が特徴で、内視鏡的整復後も再発しやすいため待機的切除が検討されます。腹腔内臓器と後腹膜臓器という基礎解剖を臨床に結びつけることで、暗記に頼らず病態を理解できるようになります。

解答・解説

正解はa, dです

軸捻転症は、消化管がその長軸あるいは腸間膜を軸としてねじれ、内腔が閉塞するとともに血管が絞めつけられて血流障害を起こす病態である。放置すると虚血から壊死・穿孔に進むため、緊急性が高い。 捻転が起こるためには、その臓器が「動ける」ことが必要である。すなわち、(1) 腹膜に包まれて腹腔内に存在し(腹腔内臓器)、後腹膜に固定されていないこと、(2) 長い腸間膜や間膜をもち可動性が大きいこと、(3) 間膜の付け根が狭く、そこを軸として回転しやすいこと、が捻転の起こりやすさにつながる。 この観点から消化管の解剖を思い浮かべると、胃は間膜(胃間膜・靱帯)でつり下げられた腹腔内臓器で可動性があり、S状結腸は長いS状結腸間膜をもつ腹腔内臓器で可動性が大きい。一方、十二指腸の大部分、上行結腸・下行結腸、直腸は後腹膜や骨盤内に固定されており、ねじれにくい。臨床的にも軸捻転の好発部位は胃とS状結腸(結腸では次いで盲腸)であり、解剖学的知識から正答に到達できる。

選択肢考察

  1. ○a.  胃

    胃は腹腔内臓器であり、胃脾間膜・胃結腸間膜・肝胃間膜などの靱帯で支持されているにすぎず、固定は強くない。これらの支持組織が弱い場合や、横隔膜弛緩症・横隔膜ヘルニアなど横隔膜の異常があると位置が変わりやすく、胃軸捻転症を起こす。新生児・乳児に多くみられ、成人・高齢者では食道裂孔ヘルニア(特に傍食道型)に伴って生じることがある。噴門と幽門を結ぶ線を軸に回転する臓器軸性と、大弯と小弯の中点を結ぶ線を軸に回転する腸間膜軸性に分けられる。頻度の高い部位である。

  2. ×b.  十二指腸

    十二指腸は球部(第1部の始まりの部分)を除いて大部分が後腹膜臓器であり、後腹壁に強く固定されているため、十二指腸そのものが軸捻転を起こすことはまれである。なお新生児・乳児の腸回転異常症に伴う中腸軸捻転では、十二指腸から空腸にかけての閉塞症状(胆汁性嘔吐)がみられるが、これは上腸間膜動脈を軸に中腸全体がねじれる病態であり、十二指腸固有の捻転ではない。

  3. ×c.  下行結腸

    下行結腸は上行結腸と同様に後腹膜に固定された臓器(後腹膜臓器)であり、腸間膜をもたず可動性が乏しいため、軸捻転は起こりにくい。結腸の中で捻転を起こしやすいのは、長い腸間膜をもつS状結腸や、固定が不十分な場合の盲腸、横行結腸である。

  4. ○d.  S状結腸

    S状結腸は腹腔内臓器で、長いS状結腸間膜をもち可動性が大きい。とくに腸管が長く(過長症)、間膜の付け根が狭いと、そこを軸として回転しやすい。結腸軸捻転のなかで最も多い部位である。高齢者、長期臥床者、慢性便秘のある人、神経疾患・精神疾患をもつ患者(向精神薬の使用なども関与)に多い。腹部X線写真では著しく拡張したS状結腸が逆U字状にみえるコーヒー豆徴候(coffee bean sign)が特徴的である。腸管壊死や穿孔の所見がなければ内視鏡的整復をまず試みるが、再発しやすいため待機的にS状結腸切除を行うことが多い。壊死や穿孔を疑えば緊急手術を行う。頻度の高い部位である。

  5. ×e.  直腸

    直腸は骨盤腔内に位置し、上部は前面と側面のみ腹膜に覆われ、下部は腹膜外にあって周囲の組織と強く結合している。腸間膜をもたず固定されているため、軸捻転は起こりにくい。

腹腔内臓器と後腹膜臓器

・腹腔内臓器(可動性あり):胃、十二指腸球部、空腸、回腸、横行結腸、S状結腸、肝、脾など ・後腹膜臓器(固定されている):十二指腸(球部を除く)、上行結腸、下行結腸、膵、腎、副腎、大動脈など ・直腸は大部分が骨盤内で周囲に固定されている。 盲腸は通常は腹腔内にあっても後腹壁に固定されているが、固定が不十分な場合(移動盲腸)には盲腸軸捻転を起こしうる。

胃軸捻転症

上腹部痛、吐こうとしても吐けない嘔吐(吐物の出ない嘔気)、胃管が挿入できない、の3つがそろうものはBorchardtの三徴として知られる。急性型は胃壊死の危険があり、緊急の整復や手術を要する。

S状結腸軸捻転症

腹痛、著明な腹部膨満、排便・排ガスの停止で発症する。腹部X線のコーヒー豆徴候、CTで腸間膜がねじれた渦巻き状の所見(whirl sign)が診断に役立つ。腸管壊死がなければ内視鏡で整復し減圧するが、再発率が高いので根治として外科的切除を考慮する。

中腸軸捻転(腸回転異常症)

胎生期の腸の回転・固定が不完全なために、上腸間膜動脈を軸として中腸全体がねじれる。新生児期の胆汁性嘔吐で発症することが多く、広範な腸管壊死を起こしうるため緊急手術の対象となる。

POINT

・軸捻転は可動性のある腹腔内臓器(長い間膜をもち固定が弱い部位)に起こる ・好発部位は胃とS状結腸(結腸ではS状結腸が最多、次いで盲腸) ・十二指腸(球部以外)、上行・下行結腸、直腸は後腹膜・骨盤内に固定され捻転しにくい ・S状結腸軸捻転:高齢者・便秘・神経精神疾患に多く、コーヒー豆徴候、内視鏡的整復後も再発が多い

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。