その頻拍は命に関わるか―植込み型除細動器の適応を「心室」で見極める
第111回医師国家試験 I問題 第27問
国試問題にチャレンジ
植込み型除細動器が適応となるのはどれか。2つ選べ。
- a.心室細動
- b.無症候性の心房粗動
- c.薬物不応性の心房細動
- d.胸痛を伴う発作性上室性頻拍
- e.失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍
対話形式の解説
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ドクターまとめ
植込み型除細動器(ICD)は、心室細動や持続性心室頻拍といった致死的な心室性不整脈を自動で感知し、抗頻拍ペーシングや電気ショックで停止させて突然死を防ぐ装置です。心室細動からの救命例や、失神を伴う器質的心疾患の持続性心室頻拍は代表的な二次予防の適応であり、低心機能の心不全などでは一次予防としても用いられます。一方、心房細動・心房粗動・発作性上室性頻拍などの上室性不整脈は突然死に直結しにくく、薬物療法やカテーテルアブレーション、カルディオバージョンで対応します。ICDは不整脈の発生自体を防がず、不適切作動もあるため、薬物やアブレーションとの併用が重要です。「心室性か、命に関わるか」という軸で考えることは、不整脈治療の選択全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, eです
植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)は、胸部の皮下に本体を植え込み、心内に留置したリードで心臓のリズムを常時監視する装置である。心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)や心室細動(ventricular fibrillation:VF)を感知すると、抗頻拍ペーシングや電気ショックを自動的に行って停止させる。目的は致死的心室性不整脈による突然死の予防である。 したがって適応を考えるときは、「その不整脈が心室性で、突然死につながる危険があるか」を軸にすればよい。VFは心臓のポンプ機能がほぼ失われる状態であり、数分で死に至る。器質的心疾患(陳旧性心筋梗塞、心筋症など)を背景とする持続性VTで失神を伴うものは、血行動態が破綻しやすくVFへ移行する危険も高い。これらはICDの代表的な適応である。 一方、心房粗動、心房細動、発作性上室性頻拍といった上室性不整脈は、それ自体が突然死に直結することは通常なく、ICDの適応とはならない。これらに対しては薬物療法、カテーテルアブレーション、必要に応じて体外からの同期下電気ショック(カルディオバージョン)が選択される。
選択肢考察
- ○a. 心室細動
VFは心室が無秩序に興奮して有効な拍出がなくなる、最も危険な不整脈である。VFから救命された患者は再発による突然死の危険が高く、急性心筋梗塞の発症直後や電解質異常、薬剤など一時的で取り除ける原因によるものを除けば、ICDの植込みが推奨される(二次予防)。ICDはVFを感知すると自動で電気ショックを送り、洞調律に戻す。適応である。
- ×b. 無症候性の心房粗動
心房粗動は三尖弁輪の周りを旋回する心房内のリエントリーによるものが典型で、心電図では鋸歯状の粗動波(F波)を示す。上室性不整脈であり突然死の原因とはなりにくいため、ICDの適応ではない。典型的な心房粗動は三尖弁輪と下大静脈の間(下大静脈-三尖弁輪間峡部)を焼灼するカテーテルアブレーションで高い確率で根治できる。心房細動と同様に血栓塞栓症の予防(抗凝固療法)も考慮する。
- ×c. 薬物不応性の心房細動
心房細動の治療は、脳梗塞などの血栓塞栓症を防ぐ抗凝固療法、心拍数を抑えるレートコントロール、洞調律を維持するリズムコントロール、そして高血圧・弁膜症・甲状腺機能亢進症など背景因子の是正からなる。抗不整脈薬で効果が不十分な症候性心房細動では、肺静脈隔離術を中心とするカテーテルアブレーションが適応となる。ICDは心室性不整脈に対する装置であり、心房細動の治療には用いない。誤りである。
- ×d. 胸痛を伴う発作性上室性頻拍
発作性上室性頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia:PSVT)は突然始まり突然終わる規則的な頻拍で、その大部分は房室結節リエントリー性頻拍と、WPW症候群などの副伝導路を介する房室回帰性頻拍である。発作時は迷走神経刺激手技やATP(アデノシン三リン酸)・ベラパミルの静注で停止を図り、血行動態が不安定なら同期下カルディオバージョンを行う。胸痛など症状を伴って再発を繰り返す例には、リエントリー回路を焼灼するカテーテルアブレーションが根治療法となる。ICDの適応ではない。
- ○e. 失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍
持続性VTは30秒以上続くか、それ以前に停止処置を要するVTをいう。陳旧性心筋梗塞や心筋症などの器質的心疾患を背景とするVTは、心筋の瘢痕を回路とするリエントリーによることが多く、再発しやすい。失神を伴うことは血行動態が破綻していることを示し、VFへの移行や突然死の危険が高い。このような例はICDの代表的な適応であり、強く推奨される。VTに対してICDは抗頻拍ペーシングでの停止をまず試み、無効なら電気ショックを行う。抗不整脈薬やカテーテルアブレーションは、作動回数を減らす目的で併用される。適応である。
ICDの適応の考え方
・二次予防:VFや血行動態の破綻する持続性VTから救命された患者、失神を伴う器質的心疾患の持続性VTなど。一時的・可逆的な原因(急性心筋梗塞の急性期、電解質異常、薬剤など)によるものは原則として除く。 ・一次予防:まだ致死的不整脈を起こしていないが危険が高い患者。例として、十分な薬物治療を行っても左室駆出率が35%以下にとどまる心不全(虚血性・非虚血性)、肥大型心筋症やBrugada症候群、QT延長症候群のうち突然死の危険因子をもつ例など。
関連する装置
・AED(自動体外式除細動器):体外から一時的に用いる除細動器で、市民も使用できる。 ・皮下植込み型除細動器(S-ICD):リードを血管内に入れず皮下に置くICD。ペーシング機能がないため、徐脈へのペーシングや抗頻拍ペーシングが必要な例には向かない。 ・着用型自動除細動器(WCD):ICD植込みの可否を判断するまでの期間などに、ベスト状に着用して突然死を防ぐ。 ・両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D):心臓再同期療法とICDの機能をあわせもつ。
ICDの注意点
心房細動や洞頻脈をVTと誤認するなどして不要な電気ショックが送られる「不適切作動」があり、意識のある状態でのショックは強い苦痛と精神的負担になる。ICDは不整脈を停止させる装置であって不整脈の発生自体は防がないため、抗不整脈薬やアブレーションを組み合わせる。
POINT
・ICDは心室性の致死的不整脈(VF、持続性VT)による突然死を防ぐ装置 ・VF蘇生後、失神を伴う器質的心疾患の持続性VTは代表的な適応(二次予防) ・低心機能(LVEF 35%以下)の心不全などでは一次予防としても適応となる ・心房細動、心房粗動、PSVTなど上室性不整脈は適応外で、アブレーションや薬物療法、カルディオバージョンで対応する
