左を見るなら問題なし?―動眼神経麻痺の「出ない方向」と「出る方向」を見極める
第115回医師国家試験 E問題 第25問
国試問題にチャレンジ
左動眼神経麻痺のある患者が左方注視をしたときの両眼球の位置(①~⑤)を下に示す。 正しいのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
外眼筋の支配神経は、外直筋が外転神経、上斜筋が滑車神経、残りの内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋が動眼神経であり、動眼神経は上眼瞼挙筋と瞳孔括約筋も支配します。左方注視で働くのは右内直筋と左外直筋で、どちらも左動眼神経の支配外のため、左動眼神経麻痺でも左を見たときは両眼とも正常に左を向き、障害は右方注視で左眼が内転できない形で現れます。左方注視で左眼が外転しなければ、左外転神経麻痺を考えます。動眼神経麻痺の典型像は眼瞼下垂、正面視での外下方偏位、散瞳で、散瞳を伴う場合は脳動脈瘤による圧迫を疑い、緊急で精査する必要があります。どの筋が麻痺し、どの筋が残るかから眼位を論理的に導く力は、神経眼科の診察と救急での判断に直結します。
解答・解説
正解はcです
図の見方
図は患者と向かい合った検者側から見たもので、向かって左に右眼、向かって右に左眼が描かれている。したがって患者が左方を注視すると、正常では両眼の黒目(角膜・虹彩)がともに図の右側へ寄る。このとき右眼は内転(鼻側へ動く)、左眼は外転(耳側へ動く)している。
外眼筋と支配神経
眼球を動かす外眼筋は6つある。 ・外直筋:外転。外転神経(第Ⅵ脳神経)支配 ・上斜筋:主に内旋と下転(内転位で下転作用が強い)。滑車神経(第Ⅳ脳神経)支配 ・内直筋(内転)、上直筋(上転)、下直筋(下転)、下斜筋(外旋・上転):動眼神経(第Ⅲ脳神経)支配 動眼神経はさらに上眼瞼挙筋(まぶたを上げる)と、副交感神経線維を介して瞳孔括約筋・毛様体筋も支配する。
左動眼神経麻痺で左方注視するとどうなるか
左方注視で働く筋は、右眼の内直筋(右動眼神経)と左眼の外直筋(左外転神経)である。左動眼神経麻痺があっても、右動眼神経と左外転神経は正常なので、右眼は内転でき、左眼も外転できる。つまり左方注視では両眼とも左を向き、外見上は正常に近い眼位となる。障害が目立つのは反対の右方注視で、このとき左眼は内直筋麻痺のため内転できず、正中付近にとどまる。 以上から、両眼がともに患者の左方(図の右側)を向いている③が正しい。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。①では右眼は正常に左方(内転位)を向いているが、左眼は鼻側に寄った内転位にあり、左を見ようとしても左眼が外転していない。これは左眼が内側に固定された状態であり、高度近視に伴う固定内斜視(眼軸が伸びた眼球が外直筋と上直筋の間から筋円錐外に脱出し、眼球が内下方に固定される病態)などでまれにみられる眼位である。左動眼神経麻痺では外直筋は正常なので、このように左眼が内転位に固定されることはない。
- ×b. ②
誤り。②では右眼は正常に内転しているが、左眼は正中にとどまり外転できていない。左方注視で左眼を外転させる外直筋が働いていない状態であり、左外転神経麻痺でみられる所見である。外転神経は頭蓋底を長く走行するため、頭蓋内圧亢進、海綿静脈洞病変、糖尿病などで障害されやすい。左動眼神経麻痺では外転神経は保たれるため、この眼位にはならない。
- ○c. ③
正しい。③では右眼が内転、左眼が外転し、両眼とも左方を向いている。左方注視に必要なのは右内直筋(右動眼神経支配)と左外直筋(左外転神経支配)であり、どちらも左動眼神経麻痺の影響を受けない。そのため左方注視時の眼位は正常とほぼ同じになる。なお、実際の左動眼神経麻痺(完全麻痺)では、眼瞼下垂や散瞳(瞳孔括約筋への副交感神経線維の障害)を伴い、正面視では左眼が外下方へ偏位し、右方注視で左眼が内転できないことが診断の手がかりとなる。
- ×d. ④
誤り。④では左眼が外転せず、黒目が上方に偏位している。まず、左方注視をしているのに左眼が外転していない点が、外直筋(外転神経支配)の働きが保たれる左動眼神経麻痺と合わない。さらに、眼球を上に向ける上直筋と下斜筋はいずれも動眼神経支配であり、左動眼神経麻痺ではこれらが障害されて左眼の上転はむしろ困難になる。上転筋が麻痺しているのに黒目が上方へ偏位するという眼位は、左動眼神経麻痺では説明しにくい。
- ×e. ⑤
誤り。⑤では左眼が外転せず、黒目が下方に偏位している。動眼神経麻痺では、麻痺を免れた上斜筋(滑車神経支配、下転作用をもつ)と外直筋(外転神経支配)の作用が残るため、正面視で患側眼が外下方へ偏位するのが典型像である。⑤の下方偏位はこの「下方」の要素だけに注目すると紛らわしいが、外直筋が働くのであれば左方注視で左眼は外転するはずであり、正中にとどまって下を向くだけという⑤の眼位は合わない。左方注視時には外直筋の作用で左眼は外転位をとり、③のように両眼とも左を向く。
外眼筋の作用と支配神経のまとめ
・内直筋:内転(動眼神経) ・外直筋:外転(外転神経) ・上直筋:上転・内旋・内転(動眼神経)。外転位で上転作用が最大 ・下直筋:下転・外旋・内転(動眼神経)。外転位で下転作用が最大 ・上斜筋:内旋・下転・外転(滑車神経)。内転位で下転作用が最大 ・下斜筋:外旋・上転・外転(動眼神経)。内転位で上転作用が最大 斜筋は眼球の後方から前内側へ向かって付着するため、上下作用は内転位で最大となる。一方、上直筋・下直筋は眼窩軸に沿って走るため、上下作用は外転位で最大となる。 覚え方として「外直筋は外転神経(LR6)、上斜筋は滑車神経(SO4)、残りは動眼神経(3)」が知られている。
眼球運動障害の診察
9方向(正面、上下左右、斜め4方向)の眼位を観察し、どの方向で動きが悪いか、どの方向で複視が強くなるかを確かめる。複視は麻痺筋の作用方向を見たときに最も強くなる。各筋の作用を定量的に評価する検査にHess赤緑試験がある。
動眼神経麻痺の特徴
・眼瞼下垂(上眼瞼挙筋麻痺) ・正面視で外下方への偏位(外直筋と上斜筋の作用が残るため) ・内転・上転・下転の障害 ・散瞳と対光反射の消失(瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維の障害) 瞳孔を支配する副交感神経線維は動眼神経の表層を走るため、内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤などによる圧迫では早期から散瞳をきたしやすい(瞳孔を含む動眼神経麻痺)。一方、糖尿病による虚血性の動眼神経麻痺では神経の中心部が障害されやすく、瞳孔が保たれることが多い(瞳孔回避)。
外転神経麻痺・滑車神経麻痺
・外転神経麻痺:患側眼の外転障害、正面視で内斜視、患側を見ると水平性複視が増強する。 ・滑車神経麻痺:患側眼の上斜視、下方視(特に内下方)での垂直性複視。健側へ頭を傾けて代償する(患側に傾けると上斜視が増強する:Bielschowsky頭部傾斜試験)。
POINT
・図は検者側から見たもので、向かって左が右眼、右が左眼である。 ・動眼神経は内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋・上眼瞼挙筋・瞳孔括約筋を支配する。外直筋は外転神経、上斜筋は滑車神経支配。 ・左動眼神経麻痺では左眼の外転は保たれるため、左方注視では両眼とも左を向く。障害が出るのは右方注視(左眼が内転できない)。 ・左方注視で左眼が外転しなければ左外転神経麻痺を考える。 ・動眼神経麻痺の典型像:眼瞼下垂、正面視で外下方偏位、散瞳。散瞳を伴う場合は脳動脈瘤による圧迫を疑う。
