「主食を食べていません」―看護師の報告にどう応えるか、チーム医療の第一歩
第111回医師国家試験 H問題 第29問
国試問題にチャレンジ
76歳の男性。肺炎のため5日前から入院中である。症状は軽快してきたが,食事摂取が十分ではなく特に主食をほとんど食べていない。そのことを気にした病棟看護師が,担当医に対して「入院してから主食をほとんど食べていないようです。今,5分粥食が出ていますがどうしましょうか」と話しかけた。 看護師に対する返答として最も適切なのはどれか。
- a.「私の食事指示が不適切だということでしょうか」
- b.「そうですね,しかしそれは栄養士が検討すべき問題です」
- c.「食べられない原因について,何かあなたの意見はありますか」
- d.「では,うつ病の可能性があるので精神科に診察を依頼します」
- e.「副菜は食べられているので消化管は問題ないということですね」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
他職種からの報告や相談を受けたとき、医師は自分の指示を守ろうと身構えたり、他職種に責任を振ったり、根拠の乏しい結論に飛びついたりせず、まず相手の観察と意見を聴くことが基本です。患者と接する時間が長い看護師は、食事の嗜好や形態、咀嚼・嚥下の様子、気分の変化など、診療に欠かせない情報を持っています。高齢入院患者の食事摂取低下は低栄養や廃用、誤嚥性肺炎の再発につながるため、口腔、摂食嚥下機能、全身状態、心理・認知面を多角的に検討し、必要に応じて言語聴覚士や管理栄養士、NSTと連携します。各職種が対等な立場で情報を共有するチーム医療の姿勢は、患者の安全と回復を支える土台です。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
・76歳男性、肺炎で入院5日目。肺炎自体は軽快傾向にある ・食事摂取が不十分で、とくに主食(5分粥)をほとんど食べていない ・病棟看護師がそれに気づき、「どうしましょうか」と担当医に相談してきた
問われていること
本問は医学的な診断ではなく、チーム医療における医師の対応、すなわち他職種からの報告・相談をどう受け止めるかを問うている。高齢者の肺炎回復期に食事が進まない状態を放置すれば、低栄養、筋力低下、廃用、誤嚥性肺炎の再発などにつながるため、看護師の指摘は臨床的に重要な問題提起である。
考え方
主食だけ食べないという現象には、粥の味や食感が好みに合わない、量が多い、咀嚼・嚥下がしにくい、口腔内の問題(義歯の不適合、口内炎など)、食欲不振、気分の落ち込み、生活習慣(もともと主食をあまり食べない)など、さまざまな原因が考えられる。こうした情報は、ベッドサイドで食事介助や観察をしている看護師がもっとも多く持っていることが多い。 したがって医師は、自分の指示を守ろうと身構えたり、責任を他職種に振り分けたり、根拠の乏しい結論に飛びついたりするのではなく、まず看護師の観察と意見を引き出し、情報を共有したうえで多職種で原因と対策を検討する姿勢をとるべきである。開かれた質問で看護師の考えを尋ねる返答が、この姿勢にもっとも合致する。
選択肢考察
- ×a. 「私の食事指示が不適切だということでしょうか」
看護師は患者の摂食状況を報告し対応を相談しているのであって、医師の指示を非難しているわけではない。相談を個人への批判として受け取り防衛的に応じると、看護師は意見を述べにくくなり、以後の報告・相談もためらわれるようになる。職種間の自由な発言を妨げる態度であり不適切である。
- ×b. 「そうですね,しかしそれは栄養士が検討すべき問題です」
管理栄養士との連携は栄養管理に有用だが、食事の指示を出し全身状態を管理するのは担当医であり、医師自身も主体的に検討すべき問題である。相談をほかの職種に丸投げして医師が関与を避けるのは、チーム医療の姿勢として適切でない。
- ○c. 「食べられない原因について,何かあなたの意見はありますか」
看護師は食事場面を直接観察しており、粥の嗜好、食べ方、咀嚼・嚥下の様子、食欲や気分など、医師が把握していない情報を持っている可能性が高い。開かれた質問でその意見を求めることは、多職種が対等な立場で情報を共有し、原因を一緒に考えるというチーム医療の原則に沿っている。原因が絞り込めれば、食形態や主食の変更、口腔ケア、嚥下評価、栄養士への相談など、具体的な対応につなげられる。
- ×d. 「では,うつ病の可能性があるので精神科に診察を依頼します」
食欲低下はうつ病の症状の一つになりうるが、肺炎の回復期で、しかも副食は摂取できており主食だけを食べていないという情報だけでうつ病を疑うのは飛躍である。原因を検討しないまま精神科に依頼するのは根拠に乏しく、適切な初期対応ではない。
- ×e. 「副菜は食べられているので消化管は問題ないということですね」
看護師が提起しているのは主食がほとんど摂れていないという問題であり、副菜を食べているという点だけで消化管に問題がないと結論づけるのは早計である。しかも消化管の問題の有無を確認しただけでは、主食を食べられない理由もその対策も検討されず、相談への答えになっていない。問題を矮小化する返答である。
チーム医療の基本
医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、医療ソーシャルワーカーなど、異なる専門性をもつ職種が目標と情報を共有し、連携・協働して患者を支えるのがチーム医療である。各職種は上下関係ではなく対等な立場で意見を出し合い、方針を決めていく。医師にはチームのまとめ役として、他職種が安心して発言できる雰囲気をつくることが求められる。
看護師の役割
看護師は患者と接する時間がもっとも長く、食事・排泄・睡眠・表情など日常の変化をとらえやすい。患者の思いを代弁する立場にもあり、その観察や意見は診療方針を立てるうえで貴重な情報源となる。
高齢入院患者の食事摂取低下で検討する事項
・食事内容:嗜好、形態(粥が苦手、固さ・量が合わない)、もともとの食習慣 ・口腔:義歯の不適合、口腔内の乾燥・口内炎、口腔衛生 ・摂食嚥下機能:むせ、咀嚼困難、誤嚥のリスク(必要に応じ言語聴覚士による評価) ・全身状態:肺炎の残存、発熱、倦怠感、薬剤の副作用、便秘、電解質異常 ・心理・認知面:不安、抑うつ、せん妄、認知機能低下 必要に応じて栄養サポートチーム(NST)の介入を依頼し、多職種で栄養管理を行う。
POINT
・チーム医療では各職種が対等な立場で情報と意見を共有する ・他職種からの報告・相談には、防衛的・責任転嫁的に応じず、まず相手の意見を聴く ・患者の日常を観察している看護師の情報は診療上きわめて重要である ・限られた情報から根拠なく結論(うつ病、消化管は問題なし等)を出さない
