赤血球の中に潜む敵を見つけ出せ―マラリア診断とギムザ染色
第111回医師国家試験 F問題 第13問
国試問題にチャレンジ
マラリアを診断するために用いる染色法はどれか。
- a.Gram染色
- b.Grocott染色
- c.May-Giemsa染色
- d.Papanicolaou染色
- e.Ziehl-Neelsen染色
対話形式の解説
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医学生まとめ
マラリアは、ハマダラカが媒介するマラリア原虫が肝細胞で増えたのち赤血球に寄生して増殖する原虫感染症で、確定診断の基本は末梢血塗抹標本をMay-Giemsa染色やGiemsa染色などのギムザ系染色で染め、赤血球内の原虫を光学顕微鏡で確認することです。原虫の形態から種を推定でき、寄生率は重症度評価や治療効果判定にも役立ちます。染色法は対象と組み合わせて覚えることが大切で、Gram染色は一般細菌、Ziehl-Neelsen染色は抗酸菌、Grocott染色は真菌、Papanicolaou染色は細胞診に用います。厚層塗抹は検出感度、薄層塗抹は種の判定に優れ、1回の陰性では否定できないため繰り返し検査し、迅速診断キットやPCR法を補助的に用います。流行地からの帰国後の発熱では必ずマラリアを想起し、特に重症化しうる熱帯熱マラリアを見逃さないことが臨床上の要点です。
解答・解説
正解はcです
マラリアは、ハマダラカ(Anopheles属の蚊)に刺されることでマラリア原虫(Plasmodium属)が体内に入り、肝細胞内で増えたのちに赤血球へ侵入して増殖する原虫感染症である。原虫が赤血球の中に寄生するという点が、診断法を考えるうえでの出発点となる。 診断の基本は、末梢血の塗抹標本をギムザ系の染色(May-Giemsa染色やGiemsa染色)で染め、光学顕微鏡で赤血球内の原虫を直接確認することである。この方法では原虫の細胞質が青色、核(クロマチン)が赤紫色に染まり、輪状体(リング)、栄養体、分裂体、生殖母体といった発育段階を見分けられる。形態から原虫の種(熱帯熱、三日熱、四日熱、卵形など)を推定でき、感染赤血球の割合(寄生率)を数えれば重症度の評価や治療効果の判定にも使える。 したがって、本問では血液塗抹標本用の染色法を選べばよい。他の選択肢は、それぞれ細菌、真菌、細胞診、抗酸菌という別の対象に用いる染色法であり、「どの染色が何を見るためのものか」を対応づけて覚えておくことが問われている。
選択肢考察
- ×a. Gram染色
誤り。Gram染色は一般細菌を染め分ける最も基本的な染色法である。細胞壁の構造の違いにより、厚いペプチドグリカン層をもつGram陽性菌は紫〜濃青色に、外膜をもつGram陰性菌は赤色に染まる。喀痰・尿・膿などの検体で、染色性と形態(球菌か桿菌か、配列など)から起炎菌を推定するのに用いる。赤血球内の原虫を観察する目的には使わない。
- ×b. Grocott染色
誤り。Grocott染色(グロコット染色、メセナミン銀染色)は、真菌の細胞壁を銀で黒く染め出す方法で、主に組織標本中の真菌の検出に用いる。カンジダ、アスペルギルス、クリプトコックス、ムーコル、ニューモシスチス・イロベチー(Pneumocystis jirovecii)などに加え、通常の染色で染まりにくい放線菌類(ノカルジア、アクチノミセス)も描出できる。マラリアの診断には用いない。
- ○c. May-Giemsa染色
正しい。May-Giemsa染色は血液塗抹標本や骨髄塗抹標本の観察に用いる代表的な染色法で、白血球の種類(好中球・好酸球・好塩基球・リンパ球・単球)の判別や異常細胞の検出に使われる。同時に、血液中に寄生する病原体の検出にも有用であり、マラリア原虫では赤血球内の原虫を形態とともに確認できるため、マラリア診断の基本検査となる。赤血球に寄生するバベシア、組織や骨髄に見られるリーシュマニア、血中のミクロフィラリア(フィラリアの幼虫)などの検出にも用いられる。
- ×d. Papanicolaou染色
誤り。Papanicolaou染色(パパニコロウ染色)は細胞診で使われる代表的な染色法で、核の構造や細胞質の角化の程度などを詳しく観察できる。子宮頸部細胞診、喀痰細胞診、尿細胞診などで、主に上皮性の腫瘍(癌)を見つける目的で行う。マラリア原虫の検出には用いない。
- ×e. Ziehl-Neelsen染色
誤り。Ziehl-Neelsen染色(チール・ネールゼン染色)は抗酸菌染色の代表的な方法である。結核菌(Mycobacterium tuberculosis)などの抗酸菌は細胞壁にミコール酸などの脂質を多く含むため、Gram染色では染まりにくい。石炭酸フクシンを加温して染めると、酸アルコールで脱色しても色が抜けず(抗酸性)、青い背景の中に赤い桿菌として見える。マラリアの診断には用いない。
主な染色法と対象
・Gram染色:一般細菌(陽性菌は紫〜濃青、陰性菌は赤) ・Ziehl-Neelsen染色:抗酸菌(結核菌、非結核性抗酸菌)。蛍光法(オーラミン染色など)もスクリーニングに使われる。 ・Grocott染色、PAS染色:真菌 ・墨汁染色:クリプトコックスの莢膜(髄液) ・May-Giemsa染色、Giemsa染色:血液・骨髄の細胞、マラリア原虫などの血液寄生原虫 ・Papanicolaou染色:細胞診(主に癌の検出) ・HE染色:病理組織標本の基本染色
マラリアの検査
・末梢血塗抹標本(ギムザ系染色)が基本である。厚層塗抹標本は原虫を探す感度が高く、薄層塗抹標本は原虫の形態から種を判定するのに向く。 ・1回の検査で陰性でも否定できないため、疑いが残る場合は時間をおいて繰り返し検査する。 ・補助的に、原虫抗原を検出する迅速診断キットや、PCR法による遺伝子検査が用いられる。
マラリアの臨床像(概略)
・流行地(アフリカ、アジア、中南米など)からの帰国後の発熱では必ず考える。 ・三日熱・卵形マラリアは48時間ごと、四日熱マラリアは72時間ごとの周期的な発熱をとりやすいが、熱帯熱マラリアは周期がはっきりしないことが多い。 ・熱帯熱マラリアは脳マラリア、腎障害、重症貧血などを起こし、治療が遅れると致命的になりうる。 ・三日熱・卵形マラリアは肝内に休眠体(ヒプノゾイト)が残り、再発の原因となるため、根治にはプリマキンを用いる。
POINT
・マラリアの確定診断は、末梢血塗抹標本のギムザ系染色(May-Giemsa染色、Giemsa染色)で赤血球内の原虫を見つけることによる。 ・染色法と対象の対応を覚える:Gram=一般細菌、Ziehl-Neelsen=抗酸菌、Grocott=真菌、Papanicolaou=細胞診、Giemsa系=血液細胞・血液寄生原虫。 ・ギムザ系染色はマラリアのほか、バベシア、リーシュマニア、ミクロフィラリアの検出にも使う。
