管だらけの術後胸部写真―右心系をたどって肺動脈カテーテルを見つけ出せ
第111回医師国家試験 E問題 第48問
国試問題にチャレンジ
69歳の男性。心臓弁膜症手術直後で手術室に入室中である。循環動態が不安定であったため経皮的心肺補助〈PCPS〉と大動脈内バルーンパンピング〈IABP〉が留置されている。手術室を退室する前に撮影した胸部エックス線写真を別に示す。 肺動脈カテーテルはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
術後の重症患者の胸部エックス線写真では、多数の人工物を「挿入部位・通過経路・先端位置」で一つずつ同定することが基本です。肺動脈カテーテル(Swan-Ganzカテーテル)は内頸静脈などから上大静脈、右房、右室を経て肺動脈に至るため、心陰影内でループを描き先端が肺動脈にある管として写ります。IABPは脊柱左側の下行大動脈内、PCPSの脱血カニューレは脊柱右側を下大静脈から右房付近へ上行する太い管として見え、送血管は通常胸部写真には写りません。肺動脈カテーテルからは肺動脈楔入圧や心拍出量、混合静脈血酸素飽和度が得られ、Forrester分類などで輸液・強心薬・補助循環の要否を判断します。デバイスの経路と役割を理解することは、ICUでの読影と安全な循環管理の土台になります。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
心臓弁膜症の手術を終えた直後の69歳男性である。循環動態が不安定で、経皮的心肺補助〈PCPS:percutaneous cardiopulmonary support〉と大動脈内バルーンパンピング〈IABP:intra-aortic balloon pumping〉の両方が必要になっている。弁膜症術後に心機能が十分回復せず、心拍出量が保てない状態(低心拍出量症候群〈LOS:low output syndrome〉)にあると考えられる。IABPは心臓の後負荷を下げ冠血流を増やす補助であり、それでも循環を保てないときに、より強力な補助としてPCPSが併用される。
胸部エックス線写真の読み方
術直後の重症患者の胸部エックス線写真には、気管チューブ、各種カテーテル、補助循環デバイス、心電図電極などが重なって写る。それぞれの人工物を見分けるには、「どの血管・臓器を通り、どこに先端があるか」を解剖学的にたどるのが基本である。 ・気管チューブ:正中を縦に走り、先端は気管分岐部より上の気管内にある。 ・IABP:大腿動脈から挿入され、下行大動脈内に留置される。胸部写真では脊柱の左側を縦に走る陰影として見え、先端は左鎖骨下動脈分岐部のやや遠位(下方)に位置する。 ・PCPSの脱血カニューレ:大腿静脈から下大静脈を上行し、先端を右心房付近に置く。脊柱の右側を下から上へ走る太い管として写る。送血カニューレは大腿動脈から腸骨動脈〜腹部大動脈側に入るため、胸部写真の範囲には通常写らない。 ・肺動脈カテーテル:内頸静脈(または鎖骨下静脈、大腿静脈)から上大静脈 → 右心房 → 右心室 → 肺動脈と進む。そのため心陰影の中で右房から右室へ向かって左下方に弧を描き、その後上方へ反転して肺動脈主幹部〜左右どちらかの肺動脈へ先端が達する、特徴的なループ状の走行を示す。
設問の考え方
右心系を順にたどって肺動脈まで到達している管を探せばよい。本問の写真では③がこの走行を示しており、肺動脈カテーテルと判断できる。
選択肢考察
- ×a. ①
①は正中を縦走し、気管の中に先端がある管で、気管挿管チューブである。人工呼吸管理のために留置されている。血管内には入っておらず、肺動脈に達することはない。
- ×b. ②
②は脊柱の左側、下行大動脈に沿って縦に伸びる陰影で、IABPのバルーンである。拡張したバルーンが透亮像として見えることがある。大腿動脈から挿入され動脈系にあるため、右心系を経由する肺動脈カテーテルとは走行が全く異なる。
- ○c. ③
③は右内頸静脈から入り、上大静脈 → 右心房 → 右心室を経て肺動脈へと先端が到達する走行を示しており、肺動脈カテーテル(Swan-Ganzカテーテル)である。先端のバルーンを膨らませて血流に乗せることで右心系を通過させ、肺動脈圧、肺動脈楔入圧(左房圧の推定値)、熱希釈法による心拍出量、混合静脈血酸素飽和度などを測定できる。心臓手術後の循環管理で広く用いられる。
- ×d. ④
④は脊柱の右側を下方から上行し、右心房付近に先端がある太い管で、PCPSの脱血カニューレである。大腿静脈から下大静脈を経て右房付近まで進め、静脈血を体外の人工肺へ引き出す役割をもつ。太さは18F(約6mm)程度と、肺動脈カテーテルより明らかに太い。肺動脈には達していない。
- ×e. ⑤
⑤は胸壁の表面に貼られた心電図モニターの電極(およびリード線)である。体外にある物であり、血管内のカテーテルではない。
肺動脈カテーテル(Swan-Ganzカテーテル)
先端にバルーンをもつカテーテルで、内頸静脈などから挿入し、血流に乗せて右房 → 右室 → 肺動脈へ進める。得られる主な情報は次のとおりである。 ・右房圧(中心静脈圧)、右室圧、肺動脈圧 ・肺動脈楔入圧〈PAWP〉:バルーンで肺動脈の枝を一時的に閉塞して測る圧で、左房圧ひいては左室拡張末期圧の推定値となる(左心系の前負荷の指標)。 ・心拍出量:熱希釈法で測定する。 ・混合静脈血酸素飽和度〈SvO2〉:全身の酸素需給バランスの指標。 これらからForrester分類などで血行動態を評価し、輸液・強心薬・血管拡張薬・補助循環の要否を判断する。
補助循環デバイスの位置関係
・IABP:大腿動脈から挿入、下行大動脈内(先端は左鎖骨下動脈分岐部の少し下)。心拡張期にバルーンを膨らませて冠血流と拡張期圧を上げ、収縮期直前にしぼませて後負荷を下げる(カウンターパルセーション)。重症の大動脈弁閉鎖不全症や大動脈解離では禁忌である。 ・PCPS(いわゆるV-A ECMO):大腿静脈から脱血し、人工肺で酸素化した血液を大腿動脈へ送血する。脱血管は下大静脈〜右房、送血管は腸骨動脈〜腹部大動脈にあり、胸部写真には主に脱血管が写る。
術後胸部写真で確認すべき項目
気管チューブ先端の位置(気管分岐部の数cm上)、中心静脈カテーテル先端(上大静脈)、肺動脈カテーテル先端(肺動脈が深く入りすぎていないか)、IABP先端の位置、ドレーン類の位置、気胸・胸水・無気肺の有無などを確認する。
POINT
・肺動脈カテーテルは上大静脈 → 右房 → 右室 → 肺動脈と右心系をループ状にたどり、先端が肺動脈にある。 ・IABPは脊柱の左側(下行大動脈内)、PCPSの脱血管は脊柱の右側(下大静脈〜右房)に写る。 ・PCPSの送血管は大腿動脈から入り、胸部写真の範囲には通常写らない。 ・人工物は「挿入部位・通過経路・先端位置」で同定する。
