鉄は「3〜4g」、桁を間違えるな―鉄・葉酸・ビタミンB12で読み解く造血の材料学
第111回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
健常成人の造血について誤っているのはどれか。
- a.体内総鉄量は0.3~0.4gである。
- b.葉酸は体外から摂取しなければならない。
- c.ヘプシジンは消化管での鉄の吸収を抑制する。
- d.血清中の鉄はトランスフェリンと結合している。
- e.ビタミンB12が欠乏するとDNA合成障害が起こる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
健常成人の体内総鉄量は約3〜4gで、その約3分の2がヘモグロビン鉄として存在し、0.3〜0.4gという記述は1桁小さく誤りです。鉄は1日約1mgしか出入りせず、マクロファージによる再利用と、肝臓由来のヘプシジンがフェロポルチンを分解して吸収・放出を抑える仕組みで恒常性が保たれており、炎症時のヘプシジン増加は慢性炎症に伴う貧血の原因となります。血清鉄はトランスフェリンに結合して運ばれ、その結合能がTIBCとして鉄欠乏の評価に使われます。葉酸とビタミンB12はヒトが合成できずDNA合成に必須で、欠乏すると巨赤芽球性貧血を生じますが、神経障害を伴うのはB12欠乏です。造血の材料ごとに量・輸送・調節・欠乏症をセットで理解しておくことが、貧血の鑑別を論理的に進める土台になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
赤血球造血に必要な材料(鉄、葉酸、ビタミンB12)の体内動態と、その調節機構に関する基本知識を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、記述内容が誤っている選択肢を選ぶ。
考え方
・鉄:ヘモグロビン(Hb)の構成成分である。健常成人の体内総鉄量はおよそ3〜4 gであり、その約3分の2がHb鉄として赤血球に存在する。1日に吸収・喪失される鉄はわずか1 mg程度で、鉄の大部分は老化赤血球を処理したマクロファージから再利用されている。血液中の鉄はトランスフェリンという輸送蛋白に結合して運ばれ、鉄の吸収と再利用の「蛇口」を締める役割を担うのが肝臓由来のホルモンであるヘプシジンである。 ・葉酸とビタミンB12:どちらもDNA合成(チミジン合成)に必要な補酵素として働く。ヒトは自ら合成できないため食事から摂取する必要があり、欠乏すると細胞分裂が障害されて巨赤芽球性貧血を生じる。 これらを踏まえると、体内総鉄量を「0.3〜0.4 g」とする記述は実際の値(3〜4 g)より1桁小さく、誤りである。
選択肢考察
- ○a. 体内総鉄量は0.3~0.4gである。
誤った記述であり、本問の正解である。健常成人の体内総鉄量は3〜4 g(およそ体重1 kgあたり40〜50 mg)で、0.3〜0.4 gは1桁少ない。内訳は、Hb鉄が約3分の2(2 g台)を占め、残りの多くがフェリチン・ヘモシデリンとして肝臓・脾臓・骨髄のマクロファージなどに貯蔵される鉄(男性で約1 g、女性はこれより少ない)である。そのほか筋肉のミオグロビンや各種酵素中の鉄があり、血清中を輸送される鉄はわずか数mgにすぎない。
- ×b. 葉酸は体外から摂取しなければならない。
正しい記述である。葉酸は水溶性ビタミンB群の一つで、ヒトは体内で合成できないため食事から摂取する必要がある。緑黄色野菜(ほうれん草など)や果物、レバーに多く含まれ、主に空腸で吸収される。体内の貯蔵量は数か月分と少ないため、偏食、アルコール多飲(摂取不足と吸収・代謝障害)、妊娠・授乳や溶血性貧血などによる需要増大、メトトレキサートなどの葉酸拮抗薬の使用で比較的早期に欠乏しやすい。
- ×c. ヘプシジンは消化管での鉄の吸収を抑制する。
正しい記述である。ヘプシジンは肝臓で産生されるペプチドホルモンで、細胞から鉄を外へ汲み出す唯一の輸送体であるフェロポルチンに結合し、その分解を促す。その結果、十二指腸上皮細胞から血中への鉄の移行(すなわち消化管からの鉄吸収)と、マクロファージからの再利用鉄の放出の両方が抑制される。体内の鉄が過剰なときや炎症(IL-6などによる刺激)時に産生が増え、鉄欠乏や造血亢進時には低下する。慢性炎症に伴う貧血で血清鉄が低いのにフェリチンが高い(いわゆる網内系ブロック)のは、ヘプシジンの増加で説明される。
- ×d. 血清中の鉄はトランスフェリンと結合している。
正しい記述である。消化管から吸収された鉄やマクロファージから放出された鉄は、3価鉄(Fe3+)として血漿蛋白であるトランスフェリンに結合して運ばれる。トランスフェリンは赤芽球などの細胞表面にあるトランスフェリン受容体に結合し、細胞内に取り込まれて鉄を供給する。遊離した鉄は活性酸素を生じて組織を傷害するため、通常は血清鉄のほぼすべてがトランスフェリンに結合した状態で存在する。トランスフェリンが結合しうる鉄の総量が総鉄結合能(TIBC)であり、鉄欠乏性貧血では上昇する。
- ×e. ビタミンB12が欠乏するとDNA合成障害が起こる。
正しい記述である。ビタミンB12(コバラミン)はメチオニン合成酵素の補酵素として働き、5-メチルテトラヒドロ葉酸を活性型のテトラヒドロ葉酸に戻す反応に関わる。B12が欠乏すると活性型葉酸が不足し、DNAの材料であるチミジンの合成が障害される。そのため細胞質は成熟するのに核の成熟・分裂が遅れ(核と細胞質の成熟の解離)、巨大な赤芽球(巨赤芽球)が生じて無効造血となる。これが巨赤芽球性貧血である。B12はさらにメチルマロニルCoAムターゼの補酵素でもあり、その欠乏は亜急性連合性脊髄変性症などの神経障害の原因となる点で葉酸欠乏と異なる。
体内の鉄の分布(成人のおおよその値)
・総鉄量:3〜4 g ・ヘモグロビン鉄:総鉄量の約3分の2 ・貯蔵鉄(フェリチン・ヘモシデリン):男性で約1 g、女性はより少ない ・ミオグロビン鉄、酵素鉄:数百mg程度 ・血清(トランスフェリン結合)鉄:数mg
鉄の出入り
1日の吸収量・喪失量はいずれも約1 mgと少なく、体内の鉄は閉じた系でリサイクルされている。月経のある女性では喪失量が多く、鉄欠乏になりやすい。鉄を能動的に排泄する仕組みはないため、吸収量の調節(ヘプシジン)が鉄恒常性の要となる。ヘプシジンの産生が不適切に低い状態(遺伝性ヘモクロマトーシスなど)では鉄過剰となる。
鉄関連検査の見方
・鉄欠乏性貧血:血清鉄↓、TIBC↑、フェリチン↓ ・慢性炎症に伴う貧血:血清鉄↓、TIBC→〜↓、フェリチン→〜↑(ヘプシジン増加による)
葉酸とビタミンB12の比較
・葉酸:緑黄色野菜などに含まれ空腸で吸収。貯蔵量は数か月分。欠乏の原因は摂取不足、アルコール多飲、需要増大(妊娠など)、薬剤など。 ・ビタミンB12:動物性食品に含まれ、胃壁細胞が分泌する内因子と結合して回腸末端で吸収。貯蔵量は数年分。欠乏の原因は悪性貧血(内因子・壁細胞に対する自己免疫)、胃全摘後、回腸切除、厳格な菜食など。 ・いずれの欠乏でも巨赤芽球性貧血(大球性貧血)を生じるが、神経障害を伴うのはB12欠乏である。
POINT
・健常成人の体内総鉄量は3〜4 g。その約3分の2がHb鉄。 ・血清鉄はFe3+としてトランスフェリンに結合して輸送される。 ・ヘプシジンは肝臓で産生され、フェロポルチンを分解して腸管からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出を抑制する。炎症で増加する。 ・葉酸・ビタミンB12はヒトで合成できず、DNA合成に必須。欠乏で巨赤芽球性貧血。 ・神経症状を伴うのはB12欠乏。
