もの忘れの陰に潜む発作―高齢発症てんかんとAlzheimer型認知症の意外な関係
第111回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
高齢者で初発するてんかんの原因として最も頻度が高い変性疾患はどれか。
- a.多系統萎縮症
- b.前頭側頭型認知症
- c.Lewy小体型認知症
- d.Alzheimer型認知症
- e.筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
てんかんの発症率は乳幼児期と高齢期にピークをもつ二峰性で、高齢発症てんかんの多くは構造的病因によるものです。原因として最も多いのは脳血管障害で、変性疾患に限ると、高齢者で最も患者数が多く、海馬を含む側頭葉内側など大脳皮質を早期から障害するAlzheimer型認知症が最多となります。多系統萎縮症やALSは皮質障害が目立たずてんかんの合併はまれで、前頭側頭型認知症やLewy小体型認知症は高齢者での患者数がAlzheimer型より少ないため最多にはなりません。高齢者のてんかんは意識減損を伴う焦点発作が中心で、認知症の進行や失神、せん妄と誤認されやすい一方、少量の抗てんかん薬でよく抑制されることが多いのが特徴です。「ぼんやりする時間」を認知症のせいにせず発作を疑う視点は、高齢者診療の質を大きく左右します。
解答・解説
正解はdです
問われていること
高齢になってから初めて発症するてんかんの原因のうち、「変性疾患」に限ってどれが最も多いかが問われている。
考え方
てんかんの発症率は年齢によって二峰性を示し、乳幼児期と高齢期に高い。先進国では高齢化に伴い、高齢期の発症率が小児期を上回るとされる。高齢発症てんかんの多くは脳の器質的病変に起因する症候性(構造的病因による)てんかんであり、原因として最も多いのは脳血管障害(脳梗塞・脳出血後)である。次いで神経変性疾患、頭部外傷、脳腫瘍などが続き、原因不明のものも少なくない。 変性疾患に絞った場合、(1) 高齢者で最も患者数の多い神経変性疾患であること、(2) 大脳皮質、とくに側頭葉内側(海馬など)を病変の主座とし、てんかん原性を持ちやすいこと、の2点を満たすのが Alzheimer 型認知症である。Alzheimer 型認知症の患者は、同年代の認知症のない人と比べててんかんを発症する危険が数倍高いと報告されている。運動系が主に障害される疾患(多系統萎縮症、ALS)では、てんかんの合併はまれである。
選択肢考察
- ×a. 多系統萎縮症
多系統萎縮症(MSA)は、αシヌクレインがオリゴデンドロサイトに蓄積し、小脳失調・パーキンソニズム・自律神経障害を来す変性疾患である。病変は主に小脳・脳幹・線条体などで大脳皮質の障害は目立たず、てんかんの合併はまれである。疾患自体の患者数も少なく、高齢発症てんかんの主な原因にはならない。
- ×b. 前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症(FTD)は前頭葉・側頭葉前部が萎縮し、人格変化・脱抑制・常同行動などを特徴とする。65歳未満で発症する若年性認知症に占める割合が比較的高く、高齢者での患者数は Alzheimer 型認知症に比べてはるかに少ない。てんかんを合併することはあるが頻度は高くなく、高齢発症てんかんの原因として最多ではない。
- ×c. Lewy小体型認知症
Lewy 小体型認知症(DLB)は、認知機能の変動、繰り返す具体的な幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症を中核的特徴とする。起立性低血圧などの自律神経障害による失神や、意識・注意の動揺がみられるため、てんかん発作との鑑別が問題になる。しかし患者数は Alzheimer 型認知症より少なく、高齢発症てんかんの原因として最も多いわけではない。
- ○d. Alzheimer型認知症
Alzheimer 型認知症は高齢者で最も多い神経変性疾患であり、認知症の原因としても最多である。アミロイドβやタウの蓄積により大脳皮質、特に海馬を含む側頭葉内側が早期から障害されるため、てんかん原性を持ちやすい。同年代の非認知症者と比べててんかんの発症リスクが数倍高いとされ、高齢発症てんかんの原因となる変性疾患として最も頻度が高い。発作は意識減損を伴う焦点発作が多く、記憶障害の悪化と誤認されやすい。
- ×e. 筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位・下位運動ニューロンが選択的に変性し、筋力低下・筋萎縮・球麻痺・呼吸筋麻痺が進行する疾患である。てんかん発作の起源となる大脳皮質の広範な障害は通常みられず、てんかんの合併はまれである。患者数も少ない。
高齢発症てんかんの特徴
・原因:脳血管障害が最多で、神経変性疾患(主に Alzheimer 型認知症)、頭部外傷、脳腫瘍、そのほか原因不明のものがある。代謝異常(低血糖、低ナトリウム血症など)や薬剤、アルコール離脱などによる急性症候性発作との区別も重要である。 ・発作型:焦点起始の発作が多く、特に意識減損を伴う焦点発作(ぼんやりする、反応が乏しくなる、口をもぐもぐさせるなどの自動症)が中心である。全身けいれんを伴わないことが多いため見逃されやすい。 ・誤診されやすい病態:認知症の進行、一過性脳虚血発作、失神、せん妄など。発作後のもうろう状態が長く続くことや、非けいれん性てんかん重積状態として現れることもある。 ・検査:脳波(発作間欠期の異常が捉えにくいこともある)、頭部 MRI。 ・治療:抗てんかん薬への反応は比較的良好で、少量で発作が抑制されることが多い。高齢者では腎・肝機能低下、併用薬との相互作用、認知機能や転倒への影響を考慮し、レベチラセタム、ラモトリギンなど相互作用や副作用の少ない薬剤が選ばれることが多い。
主な神経変性疾患の整理
・Alzheimer 型認知症:記憶障害から始まる。海馬・側頭葉内側の萎縮。 ・Lewy 小体型認知症:認知機能の変動、幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症。 ・前頭側頭型認知症:人格変化、脱抑制、常同行動。比較的若年発症。 ・多系統萎縮症:小脳失調、パーキンソニズム、自律神経障害。 ・ALS:上位・下位運動ニューロン障害。感覚障害・眼球運動障害・膀胱直腸障害は通常みられにくい。
POINT
・てんかんの発症率は乳幼児期と高齢期に高い(二峰性)。 ・高齢発症てんかんの原因は脳血管障害が最多。変性疾患では Alzheimer 型認知症が最多。 ・高齢者のてんかんは意識減損を伴う焦点発作が多く、認知症の悪化や失神と誤認されやすい。 ・少量の抗てんかん薬で発作が抑制されやすい。
