お腹の前に飛び出した腸―嵌頓ヘルニアは「戻す」より「開けて確かめる」
第111回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
腹部造影CTを別に示す。 対応として適切なのはどれか。

- a.外科手術
- b.動脈塞栓術
- c.イレウス管留置
- d.穿刺ドレナージ
- e.内視鏡的整復術
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腹壁正中の筋膜欠損から腸管が皮下へ脱出し、口側小腸の拡張と鏡面像を伴っていれば、腹壁ヘルニアの嵌頓による腸閉塞と考えます。脱出腸管の造影不良や周囲の浮腫・液体貯留は絞扼(血流障害)を示唆し、壊死腸管を戻す危険がある用手整復は避けて緊急手術を行い、腸管の血流確認、必要なら腸切除、ヘルニア門の修復を行います。イレウス管や内視鏡では締め付けを解除できず、動脈塞栓術は虚血を悪化させ、脱出腸管への穿刺は穿孔を招くため禁忌です。単純性腸閉塞は保存的治療、絞扼性腸閉塞や嵌頓ヘルニアは手術という原則は、腸閉塞診療の基本となります。腸閉塞の患者では鼠径部や大腿部、手術創まで含めた身体診察でヘルニアを見逃さないことが重要です。
解答・解説
正解はaです
画像所見の整理
腸骨稜の高さ(おおむね臍の高さ)の腹部造影CT横断像である。前腹壁の正中で、腹直筋鞘・白線の筋膜に欠損部(ヘルニア門)があり、そこを通って腸管が皮下へ脱出し、腹壁前面に球状の膨隆を形成している。脱出した腸管の内部には液体が貯留し、壁は周囲の腸管に比べて造影効果に乏しく、周囲脂肪織の濃度上昇もうかがえる。一方、腹腔内では脱出部より口側の小腸が液体で拡張し、内部に鏡面像(ニボー)を伴っている。
診断
腹壁正中のヘルニア(開腹術後の腹壁瘢痕ヘルニア、あるいは臍ヘルニア)に腸管が嵌頓し、それより口側に腸閉塞を来した状態と考えられる。ヘルニア門が狭いと脱出腸管が締め付けられ、静脈還流障害から動脈血流障害へと進んで腸管壊死に至る(絞扼)。脱出腸管の造影不良や周囲の浮腫・液体貯留はその徴候であり、時間との勝負となる。
対応の考え方
嵌頓ヘルニアで腸閉塞を伴い、血流障害が疑われる場合は、徒手整復を試みるべきではなく(壊死腸管をそのまま腹腔内に戻してしまう危険がある)、緊急手術の適応である。手術ではヘルニア内容を還納して腸管の血流を確認し、壊死があれば腸切除を行ったうえで、ヘルニア門を修復する。
選択肢考察
- ○a. 外科手術
嵌頓した腸管による腸閉塞であり、脱出腸管の血流障害(絞扼)が疑われるため、緊急手術が必要である。手術でヘルニア門を開放して腸管を還納し、色調・蠕動・血流を確認する。壊死していれば切除・吻合を行い、最後に腹壁欠損部を修復する。汚染創では感染のリスクがあるため、メッシュを使わずに縫合閉鎖するなど修復法を状況に応じて選ぶ。
- ×b. 動脈塞栓術
動脈塞栓術は、動脈瘤破裂・外傷・腫瘍などによる出血の止血や腫瘍の阻血を目的とする治療である。本例では出血や動脈瘤を示す所見はなく、ヘルニア嵌頓に対して血流を遮断する処置はむしろ腸管虚血を悪化させるため不適切である。
- ×c. イレウス管留置
イレウス管(経鼻的に小腸まで進める減圧チューブ)は、癒着性の単純性腸閉塞など血流障害のない閉塞に対して保存的に用いる。本例は閉塞の原因がヘルニア門での腸管の締め付けという機械的・物理的なものであり、減圧しても嵌頓は解除されない。血流障害が疑われる状況で保存的治療に時間をかけると腸管壊死・穿孔・腹膜炎を招くため、適切ではない。
- ×d. 穿刺ドレナージ
穿刺ドレナージは膿瘍や貯留液を体外に排出する手技である。皮下の球状腫瘤は膿瘍ではなく脱出した腸管そのものであり、穿刺すると腸管穿孔を生じ、腸内容による腹壁・腹腔の汚染を招く。禁忌である。
- ×e. 内視鏡的整復術
内視鏡的整復は、S状結腸軸捻転症などの管腔内からアプローチできる病態に用いられる。腹壁のヘルニア門で締め付けられた嵌頓を消化管内腔から解除することはできず、また血流障害の評価や壊死腸管の切除もできないため適応とならない。
腹壁ヘルニアの種類
・腹壁瘢痕ヘルニア:開腹手術の創部で筋膜が離開し、そこから腹腔内臓器が脱出する。創感染、肥満、糖尿病、ステロイド使用、低栄養、術後の咳嗽などが危険因子である。 ・臍ヘルニア:小児では自然閉鎖が多いが、成人では肥満・多産・腹水などを背景に生じ、嵌頓しやすい。 ・白線ヘルニア(上腹壁ヘルニア):臍より頭側の白線に生じる。 ・その他、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア(嵌頓しやすい)、閉鎖孔ヘルニア(高齢のやせた女性に多い)など。
還納性・嵌頓・絞扼の違い
・還納性:脱出臓器が腹腔内に戻せる状態。待機的手術の対象。 ・嵌頓:ヘルニア門で締め付けられ戻らなくなった状態。発症早期で血流障害の徴候がなければ、愛護的な用手整復を試みることがある。 ・絞扼:血流障害を伴う状態。強い圧痛、発赤、発熱、白血球増多、乳酸値上昇、CTでの腸管壁の造影不良などがみられ、緊急手術の適応となる。
CTで血流障害を示唆する所見
腸管壁の造影効果の低下、腸管壁の肥厚、腸間膜の浮腫・脂肪織濃度上昇、腹水(ヘルニア嚢内の液体貯留)、腸管壁内ガスなど。
腸閉塞の治療方針の原則
血流障害のない単純性(閉塞性)腸閉塞は、絶飲食・輸液・胃管またはイレウス管による減圧などの保存的治療から開始する。血流障害を伴う複雑性(絞扼性)腸閉塞や、嵌頓ヘルニアによる閉塞は手術適応である。
POINT
・腹壁正中の筋膜欠損から腸管が脱出し、口側腸管の拡張・鏡面像を伴えば嵌頓ヘルニアによる腸閉塞。 ・血流障害(絞扼)が疑われる嵌頓ヘルニアは緊急手術。用手整復は壊死腸管を戻す危険があるため行わない。 ・手術では腸管の血流を確認し、壊死があれば切除し、ヘルニア門を修復する。 ・脱出腸管への穿刺は禁忌。イレウス管による減圧は嵌頓の解除にならない。
