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食道を失ったら何でつなぐ?―「胃管」が再建の第一選択である理由

第111回医師国家試験 D問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第111回 D問題 第5問

食道亜全摘術後の再建臓器として最も使用されるのはどれか。

  1. a.胃
  2. b.大腸
  3. c.小腸
  4. d.筋皮弁
  5. e.人工食道

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は食道癌の手術、食道亜全摘術のあとに食物の通り道を何で作り直すかという問題だ。考えるコツは、再建臓器に求められる条件を先に整理すること。まず、食道亜全摘術ではどこを切除するか覚えているかな。
医学生医学生
胸部食道をほぼ全部取って、頸部でつなぐんでしたよね。後縦隔を通っている部分が丸ごとなくなるイメージです。
ドクタードクター
その通り。だから再建臓器には、腹部から頸部まで届く長さがまず必要になる。ほかにどんな条件があると思う?
医学生医学生
届いても、先端が壊死したら困りますよね。血流でしょうか。
ドクタードクター
いい視点だ。条件を整理すると、頸部まで届く挙上性、先端まで血流が保たれること、吻合の数が少なく手術が単純なこと、そして食物を通して貯める機能があること。この4つを満たす臓器を考えよう。
医学生医学生
消化器外科の実習で食道癌の手術を見学したとき、胃を細長く切って持ち上げていました。あれが胃管ですか。
ドクタードクター
まさにそれ。胃の大弯側を細長く形成した胃管は、頸部まで無理なく届く。血流は右胃大網動静脈を軸に先端まで保たれる。しかも吻合は頸部食道と胃管の1か所だけで済むから、手術が比較的シンプルなんだ。だから胃が再建臓器の第一選択で、日本では食道切除例の大多数が胃管で再建されている。
医学生医学生
胃が一番なのは分かりましたが、もし胃癌の手術ですでに胃を切除していたらどうするんですか。
ドクタードクター
そこで登場するのが大腸や小腸だ。大腸、主に右半結腸や横行結腸を血管をつけたまま持ち上げると、長さは十分に確保できる。ただ、食道と結腸、結腸と胃や空腸、結腸どうし、と吻合が通常3か所になって手術が煩雑になる。
医学生医学生
吻合が増えると、それだけ縫合不全のリスクも増えそうですね。
ドクタードクター
その通り。さらに結腸の血管走行には個人差があって、先端が血流不全で壊死するリスクもある。術前に腸管洗浄や大腸の精査も必要になる。だから代替手段の位置づけなんだ。
医学生医学生
小腸、空腸はどうでしょう。解剖の講義で腸間膜の血管弓を習いましたが、あれが長く持ち上げるときの制約になりそうです。
ドクタードクター
鋭いね。空腸は血管弓の制約で長い距離を挙上しにくく、胸部食道全体を置き換えるには血管吻合を追加することもある。食物を貯める力も胃に劣る。ただし、下咽頭癌や頸部食道癌の切除後には、頸部の血管とつなぐ遊離空腸移植が標準的な再建法だから、そこは区別して覚えておこう。
医学生医学生
筋皮弁や人工食道は、あまり聞いたことがありません。
ドクタードクター
大胸筋皮弁などの筋皮弁は、胃管が壊死した後の救済や、消化管が使えないときなどの特殊な場面で使う。手術が長く、通過機能も劣るので通常の選択肢ではない。人工物で食道を恒久的に置き換える方法は、感染や脱落、狭窄の問題で実用化されていないんだ。難治性の縫合不全や狭窄にステントを一時的に使う程度だね。
医学生医学生
まとめると、胃が第一選択、胃が使えなければ大腸か空腸、筋皮弁は救済用、人工食道は実用化されていない、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に発展知識として、胃管を持ち上げる経路も押さえておこう。食道があった場所を通す後縦隔経路、胸骨の裏を通す胸骨後経路、前胸部の皮下を通す胸壁前経路の3つがある。
医学生医学生
後縦隔経路が一番自然な気がしますが、デメリットもあるんですか。
ドクタードクター
後縦隔経路は距離が短く生理的だけど、逆流を起こしやすく、縫合不全が起きると縦隔炎や膿胸に至るおそれがある。胸骨後経路は縫合不全が起きても重症化しにくい。胸壁前経路は縫合不全の管理が最も容易だけど、距離が長く見た目の面でも劣る。日本では後縦隔と胸骨後が主に使われていて、胸腔鏡手術の普及とともに後縦隔経路が増えている。術後は縫合不全のほか、反回神経麻痺による嗄声や誤嚥、肺炎、乳び胸、吻合部狭窄にも注意が必要だよ。

まとめ

胸部食道癌に対する食道亜全摘術では、胸部食道のほぼ全長を切除して頸部で再建するため、頸部まで届く再建臓器が必要です。再建臓器には挙上性、先端までの血流、少ない吻合数、食物の通過・貯留機能が求められ、これらを最もよく満たす胃(胃管)が第一選択です。胃管は右胃大網動静脈を軸に血流が保たれ、吻合は頸部の1か所で済みます。胃切除後など胃が使えない場合は結腸や空腸を用いますが、吻合数の増加や血流の問題があり、筋皮弁は救済的手段、人工食道は実用化されていません。下咽頭・頸部食道癌では遊離空腸が標準であることや、後縦隔・胸骨後・胸壁前という挙上経路の特徴、反回神経麻痺などの術後合併症もあわせて理解しておくと、周術期管理の考え方が身につきます。

解答・解説

正解はaです

問われていること

食道癌に対する標準的な根治手術である食道亜全摘術(胸部食道のほぼ全長を切除し、頸部で再建する術式)の後に、失われた食物の通り道を何で作り直すかが問われている。

考え方

再建臓器に求められる条件は、(1) 頸部まで届くだけの長さ(挙上性)があること、(2) 先端まで血流が保たれること、(3) 吻合(つなぎ目)の数が少なく手術が単純であること、(4) 食物を通過・貯留させる機能があること、である。 胃は大弯側を細長く形成した「胃管」にすると頸部まで容易に届き、右胃大網動静脈を軸とした血流で先端まで栄養される。しかも吻合は頸部食道と胃管の1か所だけで済み、腹部操作も比較的単純である。このため胃は再建臓器の第一選択であり、日本の食道切除例の大多数(おおむね8割以上)が胃管で再建されている。 大腸や小腸(空腸)は、胃切除後で胃が残っていない場合や胃癌を合併している場合など、胃を使えないときの代替手段である。筋皮弁や人工物はさらに特殊な状況に限られる。

選択肢考察

  1. ○a.  胃

    胃を管状に形成した胃管は、挙上性が良く頸部まで無理なく届き、右胃大網動静脈を主軸とする血流で先端まで栄養される。吻合は頸部食道-胃管の1か所のみで、術式が簡便で手術時間も短く済む。こうした利点から、食道亜全摘術後の再建臓器として最も広く用いられている。

  2. ×b.  大腸

    結腸(主に右半結腸や横行結腸)を有茎で挙上する再建は、胃切除後などで胃が使えない場合の代替法である。長さは十分に確保できるが、食道-結腸、結腸-胃(または空腸)、結腸-結腸と吻合箇所が複数(通常3か所)になり、手術が煩雑で時間がかかる。血管の走行には個人差があり、移植片先端の血流不全(壊死)のリスクもあるため第一選択にはならない。術前に腸管洗浄や大腸の精査が必要になる点も負担となる。

  3. ×c.  小腸

    空腸は胃が使えないときの代替臓器として、有茎空腸や、頸部では血管吻合を伴う遊離空腸として用いられる。しかし腸間膜の血管弓の制約から長い距離を挙上しにくく、胸部食道全体を置き換える場合には血管吻合の追加を要することがある。食物をためる能力も胃に劣り、吻合箇所も増えるため一般に第一選択とはならない。なお遊離空腸は下咽頭・頸部食道癌の切除後再建では標準的に用いられる。

  4. ×d.  筋皮弁

    大胸筋皮弁などの筋皮弁は、再建胃管の壊死後や消化管臓器がすべて使えない場合、あるいは頸部の欠損を補う場合などに救済的に用いられる。手術が煩雑で長時間を要し、吻合部も不安定になりやすく、食物の通過機能も劣るため、通常の再建臓器とはならない。

  5. ×e.  人工食道

    人工物で食道を恒久的に置き換える方法は、感染・脱落・狭窄などの問題から実用化されておらず、通常の再建には用いられない。難治性の縫合不全や狭窄に対して、カバードステントなどを一時的・補助的に留置することがある程度である。

食道亜全摘術の概要

胸部食道癌に対する標準術式は、右開胸(近年は胸腔鏡下手術が増加)による胸部食道の亜全摘、頸部・胸部・腹部の3領域リンパ節郭清、そして頸部での再建からなる。胸部食道は後縦隔を走行しており、これをほぼ全長にわたり切除するため、頸部食道まで届く再建臓器が必要となる。

再建臓器の選択

第一選択:胃(胃管)。 胃が使えない場合(胃切除後、胃癌合併など):結腸または空腸。 特殊な場合:筋皮弁(胃管壊死後の救済など)。 下咽頭・頸部食道癌の切除後では、血管吻合を伴う遊離空腸移植が標準的に用いられる。

胃管の挙上経路

(1) 後縦隔経路:切除した食道があった位置を通す。最も生理的で距離も短いが、胃食道逆流を起こしやすく、縫合不全が起こると縦隔炎・膿胸に至るおそれがある。また胃管に癌が生じたり局所再発が起きたりした場合の対応が難しい。 (2) 胸骨後経路:胸骨の裏側を通す。縫合不全が起きても重症化しにくい。 (3) 胸壁前経路:前胸部皮下を通す。距離が長く美容面でも劣るが、縫合不全の管理は最も容易である。 日本では後縦隔経路と胸骨後経路が主に用いられており、近年は胸腔鏡下手術の普及とともに後縦隔経路の割合が増えている。

術後の主な合併症

縫合不全、反回神経麻痺(嗄声・誤嚥)、肺炎、乳び胸、吻合部狭窄、胃管内容の逆流などがある。

POINT

・食道亜全摘術後の再建臓器は胃(胃管)が第一選択である。 ・理由:挙上性が良い、血流が保たれる(右胃大網動静脈)、吻合が1か所で術式が簡便。 ・胃が使えないときは結腸または空腸を用いる。 ・下咽頭・頸部食道癌の切除後は遊離空腸による再建が標準。 ・挙上経路は後縦隔・胸骨後・胸壁前の3つ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。