喘息患者が吐き出す「茶褐色のひも」―カビへのアレルギーが招くABPAを読み解く
第111回医師国家試験 D問題 第45問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。喀痰を主訴に来院した。1年前から茶褐色の細長い粘稠な痰をしばしば喀出するようになった。小児期から喘息で治療中である。胸部エックス線写真の正面像(A)と側面像(B)及び肺野条件の胸部CT(C)を別に示す。 この疾患について誤っているのはどれか。

- a.血清IgE値は高値を示す。
- b.末梢血で好酸球増多を示す。
- c.移動性の肺浸潤影を呈する。
- d.喀痰培養で抗酸菌が検出される。
- e.第一選択の治療薬は経口副腎皮質ステロイドである。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
気管支喘息の患者が茶褐色で細長い粘液栓を喀出し、CTで中枢性気管支拡張と気管支内粘液栓を認めた場合は、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)を考えます。ABPAは気道に定着したアスペルギルスに対するI型・III型を中心とした過敏反応で、血清総IgE著明高値、末梢血好酸球増多、移動性浸潤影、アスペルギルス特異的IgE・沈降抗体陽性が特徴であり、PIE症候群の一つに数えられます。真菌に対するアレルギー疾患なので抗酸菌は関係せず、治療は経口副腎皮質ステロイドが第一選択で、再燃例やステロイド依存例ではイトラコナゾールを併用します。放置すると気管支拡張や肺線維化が進行しうるため、難治性喘息の背景にABPAが隠れていないかを意識することが、適切な診断と治療につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・45歳男性。小児期から気管支喘息で治療を受けている。 ・1年前から、茶褐色で細長く粘り気の強い痰をしばしば喀出する。これは気管支の内腔を鋳型のように埋めていた粘液栓(mucoid impaction)が排出されたものと考えられ、内部に真菌の菌糸や好酸球を含むことが多い。 ・胸部エックス線写真(A・B)では肺野に境界不明瞭な浸潤影が散在する。 ・胸部CT(C)では中枢側の気管支が拡張し、その内腔を粘液栓が埋めて、分岐した棍棒状〜結節状の陰影や区域性の浸潤影を形成している。
診断へのプロセス
気管支喘息の既往がある患者に、茶褐色の粘液栓の喀出と、中枢性気管支拡張・気管支内粘液栓を示す画像所見がそろえば、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA:allergic bronchopulmonary aspergillosis)を第一に考える。ABPAは、気道内に定着したアスペルギルス(主にAspergillus fumigatus)に対してⅠ型(IgE介在性)およびⅢ型(免疫複合体)アレルギー反応を中心とする過敏反応が起こる疾患であり、好酸球性肺炎の一型として好酸球性肺浸潤症候群(PIE症候群:pulmonary infiltration with eosinophilia)に含まれる。真菌そのものが組織に侵入して増殖する感染症(侵襲性アスペルギルス症)とは異なり、病態の本質はアレルギー反応である。
設問の考え方
「誤っているもの」を選ぶ問題である。ABPAの典型像である血清総IgE高値、末梢血好酸球増多、移動性(再発性・一過性)の肺浸潤影、および経口副腎皮質ステロイドを中心とする治療は、いずれも正しい記述である。一方、ABPAは真菌に対するアレルギー疾患であり、抗酸菌(結核菌や非結核性抗酸菌)が原因となる疾患ではない。
選択肢考察
- ×a. 血清IgE値は高値を示す。
正しい記述である。ABPAではアスペルギルス抗原に対するⅠ型アレルギー反応が強く起こるため、血清総IgEが著明に上昇する(1,000 IU/mLを超えることが多い)。アスペルギルス特異的IgEも陽性となる。総IgEは病勢を反映して変動するため、治療効果の判定や再燃の早期発見にも用いられる。
- ×b. 末梢血で好酸球増多を示す。
正しい記述である。ABPAは好酸球が中心的役割を果たすアレルギー性炎症であり、末梢血好酸球増多(多くは500/μL以上)を認める。喀痰や粘液栓の中にも多数の好酸球がみられ、Charcot-Leyden結晶(好酸球の顆粒由来の結晶)を含むことがある。ただしステロイド治療中は好酸球が低下していることがある。
- ×c. 移動性の肺浸潤影を呈する。
正しい記述である。ABPAでは粘液栓による気道閉塞やその末梢の好酸球性炎症によって浸潤影が生じ、粘液栓が喀出されたり治療を受けたりすると消退し、別の部位に再び出現する。このため一過性・移動性(遊走性)の浸潤影を呈するのが特徴で、PIE症候群に共通する所見でもある。
- ○d. 喀痰培養で抗酸菌が検出される。
誤った記述であり、これが正解である。ABPAはアスペルギルスという糸状菌(カビ)に対するアレルギー疾患であり、喀痰培養で検出されうるのはアスペルギルスなどの糸状菌である。抗酸菌(結核菌・非結核性抗酸菌)はABPAの原因ではなく、ABPAの所見として検出されるものではない。気管支拡張や浸潤影からは抗酸菌症も鑑別に挙がるが、喘息の既往と茶褐色の粘液栓の喀出はABPAを示唆する。
- ×e. 第一選択の治療薬は経口副腎皮質ステロイドである。
正しい記述である。ABPAの治療の中心はアレルギー性炎症を抑える経口副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)であり、数か月かけて漸減する。吸入ステロイドのみでは不十分である。再燃を繰り返す例やステロイドの減量が難しい例では、気道内の真菌量を減らす目的で抗真菌薬(イトラコナゾールなど)の内服を併用・代替する。治療しないと気管支拡張が進行し、最終的に肺の線維化に至ることがある。
ABPAの病態
・気管支喘息や嚢胞性線維症の患者で、吸入されたアスペルギルスの胞子が気道内で発芽・定着し、それに対してⅠ型(IgE)およびⅢ型(免疫複合体)を中心とする過敏反応が起こる。 ・好酸球に富む粘稠な粘液栓が中枢側の気管支を閉塞し、炎症を繰り返すことで中枢性の気管支拡張が生じる。進行すると肺の線維化に至る。 ・アスペルギルス以外の真菌(スエヒロタケなど)でも同様の病態が起こり、これらをまとめてアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)と呼ぶ。
臨床像
・難治性・重症の喘息、茶褐色の粘液栓の喀出、咳嗽、発熱、喀血など。 ・検査:血清総IgE著明高値、末梢血好酸球増多、アスペルギルス特異的IgE陽性・即時型皮膚反応陽性、アスペルギルス沈降抗体(特異的IgG)陽性、喀痰からの糸状菌の検出。 ・画像:移動性の浸潤影、中枢性気管支拡張、気管支内の粘液栓(分岐する棍棒状・指を広げたような陰影 finger-in-glove sign)。CTで粘液栓が骨格筋よりも高吸収にみえる所見(high attenuation mucus)は特異性が高い。
診断基準
古典的にはRosenbergらの基準が用いられ、近年はこれらの臨床・血清・画像所見を組み合わせた国際的基準や、日本アレルギー学会のABPM診断基準が用いられる。いずれも喘息の存在、総IgE高値、好酸球増多、真菌に対する感作(特異的IgE・皮膚反応)や沈降抗体、粘液栓・中枢性気管支拡張などの画像所見を組み合わせて判定する。
治療
経口副腎皮質ステロイドが第一選択。再燃例やステロイド依存例ではイトラコナゾールなどの抗真菌薬を併用する。重症喘息を伴う例では生物学的製剤(抗IgE抗体、抗IL-5抗体など)が検討されることもある。総IgEの推移と画像で経過を追う。
PIE症候群(好酸球性肺浸潤症候群)
肺浸潤影と末梢血または組織の好酸球増多を伴う疾患群の総称。単純性肺好酸球増多症(Löffler症候群)、急性好酸球性肺炎、慢性好酸球性肺炎、ABPA、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、寄生虫や薬剤による好酸球性肺炎などが含まれる。
POINT
・喘息患者が茶褐色の粘液栓を喀出し、CTで中枢性気管支拡張と粘液栓を認めたらABPAを考える。 ・血清総IgE著明高値、末梢血好酸球増多、移動性浸潤影、アスペルギルス特異的IgE・沈降抗体陽性が特徴。 ・ABPAは真菌に対するアレルギー疾患であり、抗酸菌は関係しない。 ・治療は経口副腎皮質ステロイドが第一選択で、再燃例・ステロイド依存例ではイトラコナゾールを併用する。
