物理・生物・臨床・核医学―4つの視点で解く放射線治療の基本
第111回医師国家試験 D問題 第19問
国試問題にチャレンジ
放射線治療について正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.乳房温存術後には予防照射を行う。
- b.陽子線はブラッグピークを形成する。
- c.低酸素状態の癌は放射線感受性が高い。
- d.I-131内用療法は前立腺癌に用いられる。
- e.粒子線治療では主に陽子線が用いられる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
放射線治療の問題は、選択肢を物理・生物・臨床・核医学の視点に分けて考えると整理しやすくなります。臨床では、乳房温存療法は部分切除術と術後の全乳房照射をセットとし、照射により乳房内再発が大きく減少します。物理では、陽子線や重粒子線などの荷電粒子が止まる直前に線量の鋭い山であるブラッグピークを作り、腫瘍に線量を集中できる点が特徴で、粒子線治療の主流は装置の規模やコストの面から陽子線です。生物では酸素効果により低酸素の腫瘍細胞は放射線抵抗性となり、核医学ではI-131は甲状腺分化癌やBasedow病に用いられ、前立腺癌にはI-125シードの永久挿入やRa-223による骨転移治療が行われます。線種・核種と対象疾患、感受性に影響する因子を体系的に押さえることは、多職種で進める集学的癌治療を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, b, eです
テーマ
放射線治療の基本事項を広く問う問題である。次の4つの知識を確認したい。 1. 臨床での使われ方:乳房温存療法では、手術後の照射が欠かせない。 2. 放射線の物理的な性質:陽子線などの荷電粒子線はブラッグピークをつくる。X線(光子線)はつくらない。 3. 放射線生物学:酸素は放射線の効果を強める(酸素効果)。低酸素の腫瘍細胞は放射線が効きにくい。 4. 核医学治療(内用療法):使う放射性同位元素とその対象疾患の組み合わせ(I-131は甲状腺疾患)。
考え方
選択肢を「物理・生物・臨床・核医学」のどれについての記述かに分けて、それぞれの原則と照らし合わせると判断しやすい。cは酸素効果と逆のことを述べている。dは核種と対象疾患の組み合わせが誤っている。
選択肢考察
- ○a. 乳房温存術後には予防照射を行う。
乳房部分切除術(温存術)のあと、残した乳房には目に見えない癌細胞が残っている可能性がある。手術だけで終えると、乳房内の再発がおよそ20〜40%と高い頻度で起こる。術後に残存乳房全体へ照射(全乳房照射)すると、乳房内再発は約3分の1に減り、乳癌による死亡も減ることが示されている。このため「乳房温存術+術後照射」をひとまとまりの乳房温存療法とし、標準治療としている。通常の分割照射のほか、1回線量を増やして期間を短くする寡分割照射(約3週間)も広く行われている。再発リスクの高い例には、腫瘍床への追加照射(ブースト照射)を加える。
- ○b. 陽子線はブラッグピークを形成する。
陽子線や重粒子線(炭素イオン線)などの荷電粒子は、体の中を進みながら少しずつエネルギーを失い、止まる直前に一気に多くのエネルギーを周囲に与える。この線量の鋭い山をブラッグピークという。ピークより深い部分にはほとんど線量が届かない。ピークの深さは入射エネルギーで調節でき、ピークを広げて(拡大ブラッグピーク:SOBP)腫瘍に合わせれば、周囲の正常組織を守りながら腫瘍に線量を集中できる。これに対し、X線(光子線)は皮膚の少し下で線量が最大になり、その後は深くなるほど減りながら体を通り抜ける。中性子線は電荷をもたないため、ブラッグピークをつくらない。
- ×c. 低酸素状態の癌は放射線感受性が高い。
記述が逆である。X線などの放射線は、細胞内でできるフリーラジカルを介してDNAを傷つける(間接作用)。酸素があると、この傷が修復されにくい形で固定される(酸素固定仮説)。このため、酸素が十分ある細胞は放射線が効きやすく、低酸素の細胞は効きにくい。低酸素細胞を死滅させるには、酸素が十分ある細胞の約2.5〜3倍の線量が必要とされる(酸素増感比:OER)。大きな腫瘍の中心部などにある低酸素細胞は放射線抵抗性の原因となる。そこで、分割照射の合間に低酸素細胞へ酸素が行き渡るのを利用する(再酸素化)、高圧酸素療法、低酸素の影響を受けにくい重粒子線を使う、といった工夫が行われる。
- ×d. I-131内用療法は前立腺癌に用いられる。
ヨウ素は甲状腺に選択的に取り込まれる。このため、I-131内用療法(放射性ヨウ素を飲ませて体の中から照射する治療)は、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の甲状腺全摘術後の残存甲状腺の破壊(アブレーション)や転移巣の治療、Basedow病、中毒性結節性甲状腺腫に用いる。前立腺癌には使わない。前立腺癌の放射線治療には、外部照射(強度変調放射線治療:IMRTや粒子線治療)や、I-125シード線源を前立腺に永久に埋め込む小線源治療(組織内照射)がある。去勢抵抗性前立腺癌の骨転移には、Ra-223(塩化ラジウム)による内用療法が行われる。
- ○e. 粒子線治療では主に陽子線が用いられる。
粒子線治療は、陽子線治療と重粒子線(炭素イオン線)治療に大きく分けられる。炭素イオンは陽子より重いため、加速するには大型のシンクロトロンなどが必要で、装置は大きく、建設費や維持費も高い。このため世界的にも国内的にも陽子線治療の施設のほうが多く、治療件数も多い。重粒子線は、陽子線に比べて生物学的効果比(RBE)が高く、低酸素の影響も受けにくい。そのため、放射線が効きにくい骨軟部肉腫などでの有用性が期待されている。
放射線治療の種類
・外部照射:体の外から照射する。X線(光子線)・電子線を使うリニアック治療が中心で、強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療(SRT/SRS)、画像誘導放射線治療(IGRT)などの高精度治療がある。粒子線治療(陽子線・重粒子線)も外部照射に含まれる ・小線源治療(密封小線源治療):密封した線源を病巣の中や近くに置いて照射する。腔内照射(子宮頸癌に対するIr-192など)と組織内照射(前立腺癌に対するI-125シード永久挿入、Ir-192による高線量率組織内照射など)がある ・内用療法(核医学治療、非密封RI治療):放射性同位元素を飲ませたり静脈に注射したりして、病巣に集まる性質を利用して体の中から照射する
主な内用療法
・I-131:甲状腺分化癌、Basedow病 ・Ra-223:去勢抵抗性前立腺癌の骨転移(α線を出す) ・Lu-177標識ソマトスタチンアナログ:ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍 ・I-131 MIBG:褐色細胞腫・パラガングリオーマ、神経芽腫 ・Y-90標識抗CD20抗体(イブリツモマブ チウキセタン):B細胞性リンパ腫 ・Sr-89:かつて多発骨転移の疼痛緩和に用いられた(国内では供給を終了)
放射線感受性に影響する因子
・酸素効果:酸素が十分ある細胞ほど感受性が高い(OER 約2.5〜3) ・細胞周期:M期とG2期で高く、S期後半で低い ・Bergonié-Tribondeauの法則:分裂がさかんで、分化度の低い細胞ほど感受性が高い ・分割照射の4R:修復(Repair)、再分布(Redistribution)、再酸素化(Reoxygenation)、再増殖(Repopulation)
POINT
・乳房温存療法=部分切除術+術後の全乳房照射(乳房内再発を約3分の1に減らす) ・陽子線・重粒子線(荷電粒子)はブラッグピークをつくる。X線と中性子線はつくらない ・酸素効果:低酸素の腫瘍は放射線が効きにくい(低い感受性) ・I-131は甲状腺(甲状腺分化癌・Basedow病)に使う。前立腺癌はI-125シードの永久挿入、骨転移にはRa-223 ・粒子線治療の主流は陽子線(重粒子線は装置が大型で費用が高い)
