StudyMed医師国家試験

物理・生物・臨床・核医学―4つの視点で解く放射線治療の基本

第111回医師国家試験 D問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第111回 D問題 第19問

放射線治療について正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.乳房温存術後には予防照射を行う。
  2. b.陽子線はブラッグピークを形成する。
  3. c.低酸素状態の癌は放射線感受性が高い。
  4. d.I-131内用療法は前立腺癌に用いられる。
  5. e.粒子線治療では主に陽子線が用いられる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は放射線治療の基本事項を幅広く問う問題だ。選択肢がばらばらに見えるけれど、「物理」「生物」「臨床」「核医学」のどの分野の話なのかに分けて、それぞれの原則と照らし合わせるとすっきり解ける。まずは臨床の話から。乳房温存術のあとの照射について、どう理解しているかな。
医学生医学生
乳腺外科の実習で、部分切除のあとに放射線科へ紹介されていく患者さんを何人も見ました。温存術のあとは照射がセットという印象です。
ドクタードクター
その印象は正しい。部分切除で残した乳房には、目に見えない癌細胞が残っている可能性がある。手術だけで終えると乳房内再発がおよそ20〜40%と高い頻度で起こるけれど、残った乳房全体に照射すると再発は約3分の1に減り、乳癌による死亡も減ることが示されている。だから「部分切除+術後照射」をひとまとまりで乳房温存療法と呼び、標準治療としているんだ。
医学生医学生
最近は照射期間が短くなっていると聞きました。
ドクタードクター
そうだね。1回線量を増やして約3週間で終える寡分割照射が広く行われている。再発リスクの高い人には腫瘍床への追加照射、いわゆるブースト照射を加えることもある。次は物理の話。陽子線とブラッグピークの関係はどうだろう。
医学生医学生
陽子線は体の深いところで急に線量が高くなる、というグラフを放射線医学の講義で見ました。X線も同じような形でしたっけ。
ドクタードクター
そこは区別が大事だ。陽子線や炭素イオン線のような荷電粒子は、体内を進みながら少しずつエネルギーを失い、止まる直前に一気にエネルギーを与える。この鋭い山がブラッグピークで、その奥にはほとんど線量が届かない。一方、X線は皮膚の少し下で線量が最大になり、そのあとは深くなるほど減りながら体を通り抜ける。ピークは作らないんだ。
医学生医学生
ピークの位置を腫瘍に合わせれば、奥の正常組織を守れるということですね。
ドクタードクター
その通り。入射エネルギーでピークの深さを調節し、ピークを広げた拡大ブラッグピークを腫瘍の厚みに合わせることで、周囲を守りながら腫瘍に線量を集中できる。ちなみに中性子線は電荷を持たないのでブラッグピークを作らない。では、粒子線治療で主に使われるのは陽子線と重粒子線のどちらだと思う?
医学生医学生
重粒子線のほうが効果が強いと聞いたので、そちらが主流かと思ってしまいました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。炭素イオンは陽子より重いから、加速するには大型のシンクロトロンなどが必要で、装置も建設費・維持費も大きい。そのため国内外ともに陽子線治療の施設のほうが多く、治療件数も多い。粒子線治療の主流は陽子線なんだ。ただ、重粒子線は生物学的効果比が高く、低酸素の影響も受けにくいので、骨軟部肉腫のように放射線が効きにくい腫瘍での有用性が期待されている。
医学生医学生
次は生物の話ですね。低酸素の癌は放射線が効きやすい、というのは逆だった気がします。
ドクタードクター
正解、記述が逆だ。X線は細胞内でできるフリーラジカルを介してDNAを傷つけるが、酸素があるとその傷が修復されにくい形で固定される。これが酸素効果だ。低酸素の細胞を殺すには、酸素が十分ある細胞の約2.5〜3倍の線量が必要とされ、これを酸素増感比という。
医学生医学生
大きな腫瘍の中心は血流が乏しいので、そこが効きにくいわけですね。
ドクタードクター
そう。だから分割照射の合間に低酸素細胞へ酸素が行き渡る再酸素化を利用したり、低酸素の影響を受けにくい重粒子線を使ったりする工夫がある。分割照射の4R、つまり修復、再分布、再酸素化、再増殖もあわせて覚えておこう。最後は核医学。I-131内用療法の対象はどうかな。
医学生医学生
ヨウ素は甲状腺に取り込まれるので、甲状腺の病気ですよね。前立腺癌はI-125だったと思うので、数字の取り違えを狙っているのかなと。
ドクタードクター
鋭いね。I-131は甲状腺分化癌の全摘後のアブレーションや転移巣の治療、Basedow病などに使う。前立腺癌で使うのは、I-125シード線源を前立腺に永久に埋め込む小線源治療だ。これは密封線源で、飲んだり注射したりする内用療法とは別物だよ。去勢抵抗性前立腺癌の骨転移には、α線を出すRa-223による内用療法がある。
医学生医学生
核種と対象疾患の組み合わせは、まとめて表にして覚えたほうがよさそうですね。
ドクタードクター
ぜひそうしよう。ほかにも神経内分泌腫瘍に対するLu-177標識ソマトスタチンアナログ、褐色細胞腫などに対するI-131 MIBGなどがある。放射線治療は、物理・生物・臨床のつながりで理解すると、知識がばらばらにならずに済むよ。

まとめ

放射線治療の問題は、選択肢を物理・生物・臨床・核医学の視点に分けて考えると整理しやすくなります。臨床では、乳房温存療法は部分切除術と術後の全乳房照射をセットとし、照射により乳房内再発が大きく減少します。物理では、陽子線や重粒子線などの荷電粒子が止まる直前に線量の鋭い山であるブラッグピークを作り、腫瘍に線量を集中できる点が特徴で、粒子線治療の主流は装置の規模やコストの面から陽子線です。生物では酸素効果により低酸素の腫瘍細胞は放射線抵抗性となり、核医学ではI-131は甲状腺分化癌やBasedow病に用いられ、前立腺癌にはI-125シードの永久挿入やRa-223による骨転移治療が行われます。線種・核種と対象疾患、感受性に影響する因子を体系的に押さえることは、多職種で進める集学的癌治療を理解する土台になります。

解答・解説

正解はa, b, eです

テーマ

放射線治療の基本事項を広く問う問題である。次の4つの知識を確認したい。 1. 臨床での使われ方:乳房温存療法では、手術後の照射が欠かせない。 2. 放射線の物理的な性質:陽子線などの荷電粒子線はブラッグピークをつくる。X線(光子線)はつくらない。 3. 放射線生物学:酸素は放射線の効果を強める(酸素効果)。低酸素の腫瘍細胞は放射線が効きにくい。 4. 核医学治療(内用療法):使う放射性同位元素とその対象疾患の組み合わせ(I-131は甲状腺疾患)。

考え方

選択肢を「物理・生物・臨床・核医学」のどれについての記述かに分けて、それぞれの原則と照らし合わせると判断しやすい。cは酸素効果と逆のことを述べている。dは核種と対象疾患の組み合わせが誤っている。

選択肢考察

  1. ○a.  乳房温存術後には予防照射を行う。

    乳房部分切除術(温存術)のあと、残した乳房には目に見えない癌細胞が残っている可能性がある。手術だけで終えると、乳房内の再発がおよそ20〜40%と高い頻度で起こる。術後に残存乳房全体へ照射(全乳房照射)すると、乳房内再発は約3分の1に減り、乳癌による死亡も減ることが示されている。このため「乳房温存術+術後照射」をひとまとまりの乳房温存療法とし、標準治療としている。通常の分割照射のほか、1回線量を増やして期間を短くする寡分割照射(約3週間)も広く行われている。再発リスクの高い例には、腫瘍床への追加照射(ブースト照射)を加える。

  2. ○b.  陽子線はブラッグピークを形成する。

    陽子線や重粒子線(炭素イオン線)などの荷電粒子は、体の中を進みながら少しずつエネルギーを失い、止まる直前に一気に多くのエネルギーを周囲に与える。この線量の鋭い山をブラッグピークという。ピークより深い部分にはほとんど線量が届かない。ピークの深さは入射エネルギーで調節でき、ピークを広げて(拡大ブラッグピーク:SOBP)腫瘍に合わせれば、周囲の正常組織を守りながら腫瘍に線量を集中できる。これに対し、X線(光子線)は皮膚の少し下で線量が最大になり、その後は深くなるほど減りながら体を通り抜ける。中性子線は電荷をもたないため、ブラッグピークをつくらない。

  3. ×c.  低酸素状態の癌は放射線感受性が高い。

    記述が逆である。X線などの放射線は、細胞内でできるフリーラジカルを介してDNAを傷つける(間接作用)。酸素があると、この傷が修復されにくい形で固定される(酸素固定仮説)。このため、酸素が十分ある細胞は放射線が効きやすく、低酸素の細胞は効きにくい。低酸素細胞を死滅させるには、酸素が十分ある細胞の約2.5〜3倍の線量が必要とされる(酸素増感比:OER)。大きな腫瘍の中心部などにある低酸素細胞は放射線抵抗性の原因となる。そこで、分割照射の合間に低酸素細胞へ酸素が行き渡るのを利用する(再酸素化)、高圧酸素療法、低酸素の影響を受けにくい重粒子線を使う、といった工夫が行われる。

  4. ×d.  I-131内用療法は前立腺癌に用いられる。

    ヨウ素は甲状腺に選択的に取り込まれる。このため、I-131内用療法(放射性ヨウ素を飲ませて体の中から照射する治療)は、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の甲状腺全摘術後の残存甲状腺の破壊(アブレーション)や転移巣の治療、Basedow病、中毒性結節性甲状腺腫に用いる。前立腺癌には使わない。前立腺癌の放射線治療には、外部照射(強度変調放射線治療:IMRTや粒子線治療)や、I-125シード線源を前立腺に永久に埋め込む小線源治療(組織内照射)がある。去勢抵抗性前立腺癌の骨転移には、Ra-223(塩化ラジウム)による内用療法が行われる。

  5. ○e.  粒子線治療では主に陽子線が用いられる。

    粒子線治療は、陽子線治療と重粒子線(炭素イオン線)治療に大きく分けられる。炭素イオンは陽子より重いため、加速するには大型のシンクロトロンなどが必要で、装置は大きく、建設費や維持費も高い。このため世界的にも国内的にも陽子線治療の施設のほうが多く、治療件数も多い。重粒子線は、陽子線に比べて生物学的効果比(RBE)が高く、低酸素の影響も受けにくい。そのため、放射線が効きにくい骨軟部肉腫などでの有用性が期待されている。

放射線治療の種類

・外部照射:体の外から照射する。X線(光子線)・電子線を使うリニアック治療が中心で、強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療(SRT/SRS)、画像誘導放射線治療(IGRT)などの高精度治療がある。粒子線治療(陽子線・重粒子線)も外部照射に含まれる ・小線源治療(密封小線源治療):密封した線源を病巣の中や近くに置いて照射する。腔内照射(子宮頸癌に対するIr-192など)と組織内照射(前立腺癌に対するI-125シード永久挿入、Ir-192による高線量率組織内照射など)がある ・内用療法(核医学治療、非密封RI治療):放射性同位元素を飲ませたり静脈に注射したりして、病巣に集まる性質を利用して体の中から照射する

主な内用療法

・I-131:甲状腺分化癌、Basedow病 ・Ra-223:去勢抵抗性前立腺癌の骨転移(α線を出す) ・Lu-177標識ソマトスタチンアナログ:ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍 ・I-131 MIBG:褐色細胞腫・パラガングリオーマ、神経芽腫 ・Y-90標識抗CD20抗体(イブリツモマブ チウキセタン):B細胞性リンパ腫 ・Sr-89:かつて多発骨転移の疼痛緩和に用いられた(国内では供給を終了)

放射線感受性に影響する因子

・酸素効果:酸素が十分ある細胞ほど感受性が高い(OER 約2.5〜3) ・細胞周期:M期とG2期で高く、S期後半で低い ・Bergonié-Tribondeauの法則:分裂がさかんで、分化度の低い細胞ほど感受性が高い ・分割照射の4R:修復(Repair)、再分布(Redistribution)、再酸素化(Reoxygenation)、再増殖(Repopulation)

POINT

・乳房温存療法=部分切除術+術後の全乳房照射(乳房内再発を約3分の1に減らす) ・陽子線・重粒子線(荷電粒子)はブラッグピークをつくる。X線と中性子線はつくらない ・酸素効果:低酸素の腫瘍は放射線が効きにくい(低い感受性) ・I-131は甲状腺(甲状腺分化癌・Basedow病)に使う。前立腺癌はI-125シードの永久挿入、骨転移にはRa-223 ・粒子線治療の主流は陽子線(重粒子線は装置が大型で費用が高い)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。