StudyMed医師国家試験

健康な人から数千人のRCTへ―新薬が世に出るまでの「4つの関門」

第111回医師国家試験 C問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第111回 C問題 第8問

第Ⅲ相臨床試験に該当するのはどれか。

  1. a.動物実験による薬物動態の研究
  2. b.安全性と有効性についての市販後調査
  3. c.少数の健康人対象による安全性と薬物動態の評価
  4. d.患者対象の安全性,有効性および薬物動態の評価
  5. e.多数の患者対象のRCTによる安全性と有効性の評価

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、新薬が開発されてから承認・市販に至るまでの流れ、いわゆる臨床試験の「相」を問う問題だ。ポイントは、それぞれの段階で「誰を対象に」「何人くらいで」「何を確かめるのか」を整理できているかどうか。まず、臨床試験の前にはどんな段階があるか覚えているかな。
医学生医学生
薬理学の講義で、まず動物実験をやると習いました。それも第Ⅰ相に入るのかと思っていたんですが……。
ドクタードクター
そこはよく混同されるところだね。臨床試験というのは、あくまでヒトを対象とした試験のことなんだ。動物や細胞を使って薬理作用、体内動態、毒性を調べる段階は「非臨床試験」あるいは「前臨床試験」と呼ばれ、臨床試験の前に行う。ここでヒトに投与しても大丈夫そうだと判断された候補物質だけが、次に進めるんだよ。
医学生医学生
では動物で薬物動態を調べる研究は、第Ⅰ相より手前ということですね。ヒトに初めて投与するのが第Ⅰ相ですか。
ドクタードクター
その通り。第Ⅰ相は、少数の健康成人に少量から段階的に投与して、安全性や忍容性、それから吸収・分布・代謝・排泄といった薬物動態を確かめる段階だ。この時点ではまだ効くかどうかを見るのが主目的ではない。
医学生医学生
健康な人に投与するのは少し怖い気がします。抗癌薬でも同じなんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。抗癌薬のように毒性が強い薬を健康な人に投与するのは倫理的に問題があるから、第Ⅰ相から患者さんを対象にするんだ。例外として覚えておくといい。続いて第Ⅱ相。ここで初めて「効くかどうか」を本格的に見ることになる。
医学生医学生
患者さんに投与して、有効性と安全性、薬物動態を調べるのが第Ⅱ相でしょうか。
ドクタードクター
そう。比較的少数の対象疾患の患者さんで有効性・安全性・薬物動態を評価して、どのくらいの用量・用法がよいかを探る。だから「探索的試験」とも呼ばれるんだ。そして、ここで決めた用法・用量を使って、多数の患者さんで本当に効くのかを確かめるのが第Ⅲ相だ。
医学生医学生
そこで既存薬やプラセボと比べるランダム化比較試験、RCTが出てくるわけですね。今回の正解は、多数の患者を対象にRCTで安全性と有効性を評価するもの、ということになりますか。
ドクタードクター
正解。第Ⅲ相は「検証的試験」と呼ばれ、多くは二重盲検で行われる。無作為に割り付けることで、患者背景の偏りや思い込みの影響を減らして比較できるんだ。ここで得られた成績が承認申請の主な根拠になる。
医学生医学生
では市販後調査は、承認されて販売された後の第Ⅳ相の段階ですね。でも、第Ⅲ相までで大規模な試験をしているのに、まだ調べることがあるんですか。
ドクタードクター
そこが大事なところ。承認前の試験は人数が限られるうえ、高齢者や合併症の多い人、併用薬の多い人が除外されやすい。だから、ごくまれな副作用や、長期間使ったときの問題は、実際の診療で広く使われて初めて分かることが多いんだ。
医学生医学生
臨床実習で回った内科で、新薬に「市販直後調査」と書かれた資材を見たことがあります。
ドクタードクター
よく見ているね。新医薬品は販売開始から6か月間、市販直後調査として重点的に情報収集と提供が行われる。ほかにも副作用報告制度や再審査・再評価制度があって、市販後も安全性の監視が続く。現場の医師からの副作用報告は、その大切な情報源なんだよ。
医学生医学生
整理すると、動物が非臨床、少数の健康人が第Ⅰ相、少数の患者が第Ⅱ相、多数の患者でRCTが第Ⅲ相、市販後が第Ⅳ相ですね。
ドクタードクター
完璧だ。もう一つ、承認申請のデータを集めるための臨床試験を「治験」と呼び、GCPという基準に従って、治験審査委員会の審査と被験者の文書による同意を得て行うことも押さえておこう。研修医になると、治験に参加している患者さんを担当する機会もある。どの相の試験なのかを意識すると、試験計画の意味がずっと分かりやすくなるはずだ。

まとめ

新薬は、動物や細胞を用いた非臨床試験を経て、ヒトを対象とする臨床試験へ進みます。第Ⅰ相は少数の健康成人で安全性と薬物動態を(抗癌薬などは患者で)、第Ⅱ相は比較的少数の患者で有効性・安全性と至適用量を、第Ⅲ相は多数の患者を対象としたRCTで有効性と安全性を検証し、この結果が承認申請の主な根拠となります。承認後の第Ⅳ相(市販後)では、承認前の試験では見つけにくいまれな副作用や長期使用時の問題を、市販直後調査や副作用報告制度などで把握します。各相の「対象・規模・目的」を整理しておくことは、論文や治験情報を読み解き、新薬を適切に使ううえでの基礎になります。

解答・解説

正解はeです

新薬が開発されてから承認・市販に至るまでの段階(医薬品開発のプロセス)を問う問題である。 新薬の候補物質は、まず動物や細胞を用いた非臨床試験(前臨床試験)で薬理作用・体内動態・毒性を調べ、ヒトに投与してよいと判断されたものだけが臨床試験に進む。臨床試験はおおむね次の順に行われる。 ・第Ⅰ相:少数の健康成人(抗癌薬などでは患者)を対象に、安全性・忍容性と薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)を調べる。 ・第Ⅱ相:比較的少数の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態を評価し、適切な用法・用量を探る。 ・第Ⅲ相:多数の患者を対象に、既存薬やプラセボと比較するランダム化比較試験(RCT)などで有効性と安全性を検証する。この結果が承認申請の主な根拠となる。 ・第Ⅳ相:承認・市販後に、実際の診療で使われる中での有効性・安全性を確認する。 各選択肢の内容がどの段階に当たるかを判断すれば、第Ⅲ相に該当するものが選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  動物実験による薬物動態の研究

    該当しない。臨床試験はヒトを対象とする試験である。動物を用いて薬理作用、体内動態、毒性(一般毒性、生殖発生毒性、遺伝毒性、癌原性など)を調べるのは、臨床試験に先立つ非臨床試験(前臨床試験)である。

  2. ×b.  安全性と有効性についての市販後調査

    該当しない。承認・市販後に行うもので、第Ⅳ相(製造販売後)の段階に当たる。承認前の臨床試験は対象患者数が限られ、高齢者・合併症のある患者・併用薬の多い患者なども除外されやすい。このため、まれな副作用や長期使用時の問題、実臨床での有効性は市販後に初めて明らかになることが多く、それを把握するのが重要な目的である。

  3. ×c.  少数の健康人対象による安全性と薬物動態の評価

    該当しない。第Ⅰ相臨床試験の内容である。ヒトに初めて投与する段階で、少数の健康成人を対象に、少量から段階的に増量して安全性・忍容性と薬物動態を確認する。なお、抗癌薬のように毒性が強い薬では、健康人に投与するのは倫理的に問題があるため、第Ⅰ相から患者を対象とする。

  4. ×d.  患者対象の安全性,有効性および薬物動態の評価

    該当しない。第Ⅱ相臨床試験の内容である。比較的少数の対象疾患の患者に投与し、有効性・安全性・薬物動態を調べて、第Ⅲ相で用いる至適な用法・用量を決める(探索的試験)。前期(概念実証)と後期(用量反応の検討)に分けて行われることもある。

  5. ○e.  多数の患者対象のRCTによる安全性と有効性の評価

    該当する。第Ⅲ相臨床試験は、第Ⅱ相までで決められた用法・用量を用い、多数の患者を対象に、既存の標準薬やプラセボを対照としたランダム化比較試験(RCT:対象者を無作為に治療群と対照群に割り付け、偏りを減らして比較する試験)などで有効性と安全性を確かめる検証的試験である。多くは二重盲検法で行われ、ここで得られた成績が承認申請の主要な根拠となる。

医薬品開発の流れ

基礎研究(候補物質の探索)→非臨床試験(動物・細胞)→第Ⅰ相→第Ⅱ相→第Ⅲ相→承認申請・審査→承認・販売→市販後(第Ⅳ相)

各相のまとめ

第Ⅰ相(臨床薬理試験):少数の健康成人、安全性・忍容性・薬物動態 第Ⅱ相(探索的試験):比較的少数の患者、有効性・安全性・用法用量の検討 第Ⅲ相(検証的試験):多数の患者、RCTによる有効性・安全性の検証、承認の根拠 第Ⅳ相(製造販売後):実臨床での有効性・安全性、まれな副作用・長期使用の影響の把握

治験とGCP

医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、医薬品の承認申請に用いるデータを集める目的で行う臨床試験を「治験」という。治験は「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」に従い、治験審査委員会(IRB)の審査を受け、被験者から文書による同意(インフォームド・コンセント)を得て行う。

市販後の安全対策

市販後に行われる制度として、使用成績調査などの製造販売後調査、製造販売後臨床試験(狭義の第Ⅳ相試験)、副作用報告制度、新医薬品の市販直後調査(販売開始後6か月間、重点的に情報収集・提供を行う)、再審査制度、再評価制度などがある。これらは製造販売後の調査・試験の実施基準(GPSP)や製造販売後安全管理の基準(GVP)に基づいて行われる。

POINT

・非臨床試験=動物・細胞を用いた試験(臨床試験ではない) ・第Ⅰ相=少数の健康人で安全性・薬物動態 ・第Ⅱ相=少数の患者で有効性・安全性・用量設定 ・第Ⅲ相=多数の患者でRCTによる有効性・安全性の検証(承認の根拠) ・第Ⅳ相=市販後の調査・試験(まれな副作用、長期使用の安全性)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。