眼振は病巣を映す鏡―「向き」と「性状」で末梢性と中枢性を見分ける
第111回医師国家試験 B問題 第34問
国試問題にチャレンジ
眼振とめまい疾患の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.垂直眼振 ―― 小脳梗塞
- b.注視眼振 ―― 起立性調節障害
- c.水平眼振 ―― めまいを随伴する突発性難聴
- d.純回旋眼振 ―― 動揺病
- e.頭位変換眼振 ―― 前庭神経炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
眼振は急速相の向きで方向を表し、その性状から障害部位を推定できます。一側の内耳・前庭神経障害による末梢性めまい(めまいを伴う突発性難聴、前庭神経炎、メニエール病)では、多くは健側向きの方向固定性の水平(回旋混合)性眼振がみられ、固視で抑制されます。一方、垂直眼振・純回旋性眼振・注視方向性眼振は小脳梗塞や脳幹障害などの中枢性病変を示唆し、頭位変換で誘発される一過性眼振はBPPVの特徴です。起立性調節障害や動揺病では病的眼振はみられません。めまいと嘔吐だけで来院する小脳梗塞を見逃さないためにも、眼振の性状から中枢性を疑える力は臨床で欠かせない技能です。
解答・解説
正解はa, cです
めまい疾患でみられる眼振の性状と、障害部位(末梢性か中枢性か)の対応を問う問題である。眼振とは、眼球がゆっくり一方向へ偏位する動き(緩徐相)と、それを元に戻す速い動き(急速相)を繰り返す不随意な眼球運動で、急速相の向きを眼振の方向とする。
末梢性(内耳・前庭神経)めまいの眼振
一側の前庭機能が急に低下すると、左右の前庭からの入力のバランスが崩れ、多くは健側へ向かう水平性(または水平回旋混合性)の眼振が出現する。眼振の向きは注視方向や頭位を変えても変わらない(方向固定性)。また、視覚による固視で抑制されるため、フレンツェル眼鏡(凸レンズで固視を妨げる眼鏡)や赤外線CCDカメラ下で観察しやすい。突発性難聴に伴うめまい、前庭神経炎、メニエール病の発作期などが代表である。
中枢性(脳幹・小脳)めまいの眼振
垂直眼振(下眼瞼向き・上眼瞼向き)、純回旋性眼振、注視方向へ向きが変わる注視誘発眼振(注視方向性眼振)などは中枢障害を示唆する所見で、固視による抑制を受けにくい。小脳梗塞・小脳出血、脳幹梗塞(ワレンベルク症候群など)、キアリ奇形、脊髄小脳変性症などでみられる。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)
耳石の一部が半規管に入り込むことで、頭位を変えたときに短時間の回旋性・垂直性あるいは水平性の眼振とめまいが誘発される。頭位変換眼振検査(ディックス・ホールパイク法など)で診断する。 この整理に照らすと、「垂直眼振―小脳梗塞」(中枢性の所見と中枢性疾患)と「水平眼振―めまいを伴う突発性難聴」(末梢性の所見と末梢性疾患)が正しい組合せとなる。
選択肢考察
- ○a. 垂直眼振 ―― 小脳梗塞
垂直眼振は中枢性めまいを示唆する代表的な所見である。下眼瞼向き眼振(下向きに急速相をもつ眼振)は小脳の片葉・小節や延髄頸髄移行部の障害(小脳梗塞、キアリ奇形、脊髄小脳変性症など)で、上眼瞼向き眼振は延髄や小脳虫部などの障害でみられる。垂直眼振は小脳梗塞に特有というわけではなく、また小脳梗塞では注視方向性眼振や方向交代性の頭位眼振を呈することもあるが、組合せとしては正しい。
- ×b. 注視眼振 ―― 起立性調節障害
起立性調節障害は、思春期前後の小児に多い自律神経系による循環調節の障害で、起立時の脳血流低下によって立ちくらみ、めまい、失神、朝起きられないなどの症状をきたす。前庭や脳幹・小脳の病変ではないため、眼振はみられない。注視眼振、特に注視した方向に急速相が向く注視方向性眼振は、小脳・脳幹の障害や抗てんかん薬・アルコールなどの薬物の影響で出現する所見である。
- ○c. 水平眼振 ―― めまいを随伴する突発性難聴
めまいを伴う突発性難聴では、内耳障害が蝸牛だけでなく前庭(半規管・耳石器)にも及んでいる。一側の前庭機能低下による末梢性めまいとなるため、多くは健側向き(発症初期には患側向きのこともある)の水平性ないし水平回旋混合性の眼振が、方向固定性に出現する。厳密には純粋な水平眼振より水平回旋混合性眼振のことが多いが、末梢性めまいの所見として水平眼振を組み合わせたものとして正しい。
- ×d. 純回旋眼振 ―― 動揺病
動揺病(乗り物酔い)は、乗り物の揺れなどによって前庭・視覚・体性感覚からの情報が食い違うこと(感覚の矛盾)で生じる生理的な反応で、悪心・嘔吐、生あくび、顔面蒼白、冷汗などを呈する。病的な眼振は認めない。純回旋性眼振は延髄などの脳幹障害(ワレンベルク症候群など)で生じうる中枢性の所見である。
- ×e. 頭位変換眼振 ―― 前庭神経炎
頭位を変換したときに一過性の眼振とめまいが誘発されることが診断上の特徴となる代表的疾患は、良性発作性頭位めまい症(BPPV)である。前庭神経炎は、先行する上気道感染などの後に、難聴や耳鳴を伴わない激しい回転性めまいが数日持続する疾患で、一側前庭機能の高度低下(温度眼振検査での高度の反応低下〜無反応)が特徴である。眼振は健側向きの方向固定性水平回旋混合性眼振で、頭位や頭位変換の有無にかかわらず持続してみられる自発眼振であり、頭位変換で誘発される眼振を特徴とする疾患ではない。
眼振の観察と主な検査
注視眼振検査:裸眼で正面・左右・上下を注視させて眼振を観察する。注視方向性眼振(注視した方向へ急速相が向く)は中枢障害を示唆する。 頭位眼振検査:フレンツェル眼鏡などで固視を除き、仰臥位・懸垂頭位・左右下頭位などの各頭位で眼振を観察する。 頭位変換眼振検査:座位から懸垂頭位へなど頭位を素早く変換して誘発される眼振を観察する(ディックス・ホールパイク法など)。BPPVの診断に用いる。 温度眼振検査(カロリックテスト):外耳道に冷水・温水を注入して半規管を刺激し、左右の前庭機能を比較する。前庭神経炎では患側の高度の反応低下を示す。
末梢性めまいと中枢性めまいの眼振の違い
末梢性:水平性または水平回旋混合性、方向固定性、固視で抑制される、難聴・耳鳴を伴うことがある(突発性難聴、メニエール病)。 中枢性:垂直性(下眼瞼向き・上眼瞼向き)、純回旋性、注視方向性、固視で抑制されにくい。構音障害・運動失調・複視・感覚障害などの神経症状を伴うことが多い。
中枢性めまいの見逃し防止
小脳梗塞では神経症状が乏しくめまいと嘔吐だけを訴えることがあり、末梢性めまいと誤認されやすい。垂直眼振や注視方向性眼振、体幹失調(起立・歩行ができない)を認めたら、頭部MRI(拡散強調像)などで脳血管障害を評価する。
主なめまい疾患の特徴
良性発作性頭位めまい症:頭位変換で誘発される数十秒以内の回転性めまい、難聴なし。 メニエール病:数十分〜数時間の回転性めまい発作を反復し、変動する低音障害型感音難聴・耳鳴・耳閉感を伴う。 前庭神経炎:難聴を伴わない激しい回転性めまいが数日持続し、徐々に軽快する。 突発性難聴:突然発症する原因不明の感音難聴で、約3〜4割にめまいを伴う。めまいを伴う例は聴力予後が不良とされる。
POINT
・垂直眼振、純回旋性眼振、注視方向性眼振は中枢性(小脳・脳幹)を示唆する。 ・末梢性めまい(突発性難聴、前庭神経炎、メニエール病)は方向固定性の水平(回旋混合)性眼振で、多くは健側向き。 ・頭位変換で誘発される眼振はBPPVの特徴。 ・起立性調節障害、動揺病では病的眼振はみられない。
