胃癌は塩、大腸癌は酒―癌とリスクファクターの「正しいペア」を見抜く
第111回医師国家試験 B問題 第33問
国試問題にチャレンジ
癌とリスクファクターの組合せで正しいのはどれか。
- a.食道癌 ―― 高脂肪食
- b.胃癌 ―― 低身体活動
- c.大腸癌 ―― 飲酒
- d.乳癌 ―― 高食塩食
- e.子宮体癌 ―― ヒトパピローマウイルス〈HPV〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
癌のリスクファクターは、生活習慣、持続感染、ホルモン環境、遺伝的素因に分けて整理すると理解しやすくなります。食道扁平上皮癌は喫煙と飲酒(特にALDH2低活性者)、胃癌はH. pylori感染と高塩分食、大腸癌は飲酒・肥満・加工肉や赤肉・身体活動不足が代表的で、なかでも大腸癌と飲酒は「確実」とされる組合せです。乳癌と子宮体癌はエストロゲンへの長期曝露が共通の背景であり、HPVは子宮体癌ではなく子宮頸癌の原因である点は頻出のひっかけです。こうした対応関係は、禁煙・節酒・減塩・適正体重・感染対策といったがん予防の指導や検診の対象選びに直結するため、病態と結びつけて覚えておく価値があります。
解答・解説
正解はcです
主要な癌とその発生リスクを高める要因(リスクファクター)の対応を問う問題である。癌のリスクファクターは、喫煙・飲酒・食事・肥満・身体活動などの生活習慣、ウイルスや細菌の持続感染、ホルモン環境、遺伝的素因に大別される。国際がん研究機関(IARC)や世界がん研究基金(WCRF)、日本の疫学研究に基づく評価では、関連の強さが「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」などの段階で示されている。 本問では、各癌について代表的なリスクファクターを思い浮かべ、選択肢の組合せが合致するかを確認すればよい。食道癌(扁平上皮癌)は喫煙と飲酒、胃癌はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染と高塩分食、大腸癌は飲酒・肥満・加工肉や赤肉、乳癌と子宮体癌はエストロゲンへの長期曝露、子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(HPV)というのが基本的な整理である。このうち大腸癌と飲酒は、日本人を対象とした評価でも「確実」とされる組合せである。
選択肢考察
- ×a. 食道癌 ―― 高脂肪食
日本の食道癌の大部分は扁平上皮癌で、最も重要なリスクファクターは喫煙と飲酒である。特に、飲酒で顔が赤くなる体質(アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素2〈ALDH2〉の活性が低い人)が大量飲酒をするとリスクが大きく上がる。熱い飲食物の摂取や野菜・果物の摂取不足も関連が指摘されている。欧米に多い腺癌では、胃食道逆流症やそれに伴うバレット食道、肥満がリスクとなる。高脂肪食は食道癌のリスクファクターとして確立していない。
- ×b. 胃癌 ―― 低身体活動
胃癌の最大のリスクファクターはヘリコバクター・ピロリの持続感染で、慢性萎縮性胃炎から腸上皮化生を経て発癌に至ると考えられている。生活習慣では高塩分食(塩蔵食品)と喫煙がリスクを高める。低身体活動(運動不足)がリスクファクターとして確立しているのは胃癌ではなく大腸癌(特に結腸癌)であり、ほかに乳癌(閉経後)や子宮体癌との関連も指摘されている。
- ○c. 大腸癌 ―― 飲酒
飲酒は大腸癌のリスクを高めることが確実とされ、摂取量が多いほどリスクが上がる(日本人では特に男性で関連が明瞭である)。アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドの発癌性などが機序として考えられている。大腸癌のリスクファクターとしてはほかに、肥満、加工肉・赤肉(牛・豚・羊などの肉)の摂取、喫煙、身体活動の不足、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎の長期罹患)、家族歴や遺伝性疾患(家族性大腸腺腫症、リンチ症候群)が挙げられる。かつては高脂肪食や食物繊維の不足がよく挙げられたが、現在の疫学的評価ではこれらの関連は飲酒・肥満ほど確立していない。
- ×d. 乳癌 ―― 高食塩食
乳癌の発生にはエストロゲンが深く関わり、エストロゲンへの曝露期間が長くなる要因(初経が早い、閉経が遅い、出産経験がない・初産年齢が高い、授乳経験がない、閉経後のホルモン補充療法)や閉経後の肥満、飲酒がリスクファクターとなる。BRCA1/BRCA2遺伝子変異などの家族歴(遺伝的素因)も重要である。高食塩食との関連は確立しておらず、高食塩食は胃癌のリスクファクターである。
- ×e. 子宮体癌 ―― ヒトパピローマウイルス〈HPV〉
HPV(特に16型・18型などの高リスク型)の持続感染がリスクファクターとなるのは子宮頸癌である。子宮体癌(子宮内膜癌)の多く(Ⅰ型)は、プロゲステロンによる拮抗を受けないエストロゲンの持続的刺激によって内膜増殖症を経て発生する。そのためリスクファクターは肥満、未経産、閉経が遅いこと、多嚢胞性卵巣症候群(無排卵)、エストロゲン単独のホルモン補充療法、タモキシフェンの使用、糖尿病、リンチ症候群などである。
主な癌とリスクファクターの整理
食道癌(扁平上皮癌):喫煙、飲酒(ALDH2低活性者で特に高リスク)、熱い飲食物 食道癌(腺癌):胃食道逆流症、バレット食道、肥満 胃癌:ヘリコバクター・ピロリ感染、高塩分食、喫煙 大腸癌:飲酒、肥満、加工肉・赤肉、喫煙、身体活動不足、炎症性腸疾患、家族性大腸腺腫症、リンチ症候群 肝細胞癌:B型・C型肝炎ウイルスの持続感染、飲酒、非アルコール性脂肪性肝疾患(肥満・糖尿病)、アフラトキシン 肺癌:喫煙(受動喫煙を含む)、アスベスト、ラドン 膵癌:喫煙、糖尿病、慢性膵炎、肥満、家族歴 膀胱癌:喫煙、芳香族アミン(職業曝露)、ビルハルツ住血吸虫 乳癌:エストロゲン曝露期間の長さ(早い初経・遅い閉経・未経産など)、閉経後肥満、飲酒、BRCA1/2変異 子宮頸癌:HPV持続感染、喫煙 子宮体癌:エストロゲン単独刺激(肥満、未経産、無排卵、エストロゲン単独補充、タモキシフェン)、リンチ症候群
身体活動との関係
身体活動が多いことはリスクを下げる要因(予防因子)として、結腸癌では確実、閉経後乳癌・子宮体癌でも関連が示されている。
がん予防の生活習慣
禁煙、節酒、食塩の摂取を控える、野菜・果物の不足を避ける、身体活動、適正体重の維持、感染(肝炎ウイルス、ピロリ菌、HPV)への対策が、日本人に推奨されるがん予防法として整理されている。
POINT
・大腸癌:飲酒・肥満・加工肉/赤肉・身体活動不足がリスクファクター。 ・胃癌:ピロリ菌感染と高塩分食。食道扁平上皮癌:喫煙と飲酒。 ・乳癌・子宮体癌:エストロゲン曝露(肥満、未経産など)。 ・HPVは子宮頸癌(子宮体癌ではない)。
