StudyMed医師国家試験

成人なら正常、新生児なら危険信号―「心拍数60」に潜む落とし穴

第111回医師国家試験 B問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第10問

正期産で出生した生後5日の新生児の所見として精査が必要なのはどれか。

  1. a.心拍数60/分
  2. b.呼吸数50/分
  3. c.1日3回の溢乳
  4. d.哺乳3時間後の啼泣
  5. e.1日5回の黄色水様便

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、生後数日の新生児にみられる所見のうち、どれが「生理的」でどれが「精査が必要」かを見分ける問題だ。ポイントは、成人の物差しを持ち込まず、新生児の基準値で判断すること。バイタルサイン、哺乳、排泄のそれぞれについて、新生児の正常範囲を思い浮かべてみよう。
医学生医学生
正直、最初に見たとき心拍数60/分は普通に見えてしまいました。成人の正常下限くらいですよね。
ドクタードクター
そこがまさにこの問題の罠なんだ。新生児の心拍数はおおむね120〜160/分。睡眠中に100/分前後まで下がることはあっても、100/分未満が続けば徐脈と考える。60/分は正常の半分以下で、明らかな高度徐脈だよ。
医学生医学生
年齢が低いほど心拍数が速いというのは、小児科の講義で表を覚えました。新生児だと成人の倍くらいなんですね。
ドクタードクター
そう。しかも新生児は心筋が未熟で、1回拍出量を増やす余力が小さい。だから心拍出量は心拍数に強く依存していて、徐脈はそのまま循環不全につながりやすいんだ。新生児蘇生法で心拍数60/分未満が胸骨圧迫開始の目安になっているのも、その重さを物語っているね。
医学生医学生
蘇生の講習で「60未満で胸骨圧迫」と習いました。その境目の数字が問題に出ているわけですね。原因としては何を考えるんですか。
ドクタードクター
代表的なのは、母体の抗SS-A抗体が胎盤を通って移行して起こる先天性完全房室ブロックだ。ほかに低酸素、低体温、低血糖、頭蓋内圧亢進、甲状腺機能低下症なども挙げられる。心電図、血液ガス、血糖、体温を確認していくことになる。
医学生医学生
膠原病内科の講義で、シェーグレン症候群やSLEのお母さんから生まれた子で注意する、と出てきました。つながりました。
ドクタードクター
いい連想だね。では残りを見ていこう。呼吸数50/分はどうかな。
医学生医学生
成人なら頻呼吸ですけど、新生児だと正常範囲でしょうか。
ドクタードクター
正解。新生児はおおむね40〜60/分。1回換気量が小さいぶん、呼吸数を多くして換気を保っているんだ。60/分を超える多呼吸が続く、あるいは陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、チアノーゼを伴うときに呼吸障害を疑う。
医学生医学生
溢乳が1日3回というのは、少し多い気もしたのですが。
ドクタードクター
溢乳は哺乳後に少量の乳が口からあふれるもので、新生児ではごく普通にみられる。下部食道括約筋が未熟で、His角も十分でなく逆流を防ぎにくいうえ、哺乳中に空気を飲み込みやすいからね。体重が順調に増えていれば治療はいらず、げっぷを促せば十分だ。注意すべきは噴水状の嘔吐や胆汁性嘔吐で、これは肥厚性幽門狭窄症や腸回転異常症などを考えて精査が必要になる。
医学生医学生
小児外科の実習で、緑色の嘔吐は緊急だと強調されていました。量や性状で区別するんですね。
ドクタードクター
その通り。哺乳3時間後に泣くのはどうだろう。
医学生医学生
新生児は2〜3時間おきに授乳すると聞くので、お腹が空いて泣いているだけだと思います。
ドクタードクター
そうだね。哺乳は1日8〜12回程度で、胃も小さいから3時間経てば空腹で泣くのは自然な反応だ。むしろ泣き声が弱い、反応が乏しい、哺乳を嫌がるといった「元気のなさ」のほうが、感染症などを疑うサインになる。
医学生医学生
1日5回の黄色水様便も、下痢と考えなくていいんですか。
ドクタードクター
特に母乳栄養児では、1日数回から10回近くの黄色の軟便〜水様便はよくある。母乳は消化吸収がよく、乳糖やオリゴ糖の影響で便がゆるくなりやすいんだ。気をつけたいのは灰白色〜淡黄色の便で、これは胆道閉鎖症を疑う。ほかに血便や、体重減少・脱水を伴う頻回の下痢も要注意だね。
医学生医学生
便色カードを母子手帳で見たことがあります。色が大事なんですね。
ドクタードクター
よく知っているね。まとめると、この時期には生理的体重減少や生理的黄疸、溢乳、しゃっくり、短い呼吸休止を伴う周期性呼吸など「心配そうに見えて正常」な所見がたくさんある。一方で、持続する徐脈・頻脈、呼吸障害、中心性チアノーゼ、胆汁性嘔吐、灰白色便、生後24時間以内の早発黄疸、哺乳不良や活気低下は見逃してはいけない。正常を正しく知ることが、異常に気づく第一歩なんだ。
医学生医学生
成人の基準で読むと正常、新生児の基準で読むと異常という数字があるので、年齢ごとの正常値を必ず意識します。

まとめ

新生児のバイタルサインは成人と大きく異なり、心拍数はおおむね120〜160/分、呼吸数は40〜60/分が目安です。成人では正常範囲の心拍数60/分も新生児では高度徐脈にあたり、心拍出量を心拍数に依存する新生児では循環不全に直結しやすいため、先天性完全房室ブロック(母体の抗SS-A抗体)や低酸素、低体温、低血糖などを念頭に精査が必要です。一方、呼吸数50/分、溢乳、2〜3時間ごとの空腹による啼泣、母乳栄養児の頻回の黄色水様便は生理的な所見です。噴水状・胆汁性嘔吐、灰白色便、早発黄疸、活気低下などは病的所見として区別します。年齢ごとの正常値を基準に判断する姿勢は、新生児・小児診療の安全を支える基本となります。

解答・解説

正解はaです

新生児のバイタルサインや哺乳・排泄の様子は成人と大きく異なるため、「新生児としては正常範囲か」という基準で判断する必要がある。本問は、正期産児の生後5日目にみられる所見のうち、生理的な範囲を外れて原因検索(精査)が必要なものを選ぶ問題である。 新生児の基準値の目安は以下のとおりである。 ・心拍数:おおむね120〜160/分(睡眠中は100/分前後まで下がることもある)。100/分未満が持続すれば徐脈と考える。 ・呼吸数:おおむね40〜60/分。60/分を超える状態が続けば多呼吸と考える。 ・哺乳:1日8〜12回程度で、2〜3時間ごとに空腹を訴えて泣くのがふつうである。 ・排便:個人差が大きく、母乳栄養児では1日数回から10回近く、黄色の軟便〜水様便となることが多い。 これらの基準と照らし合わせると、心拍数60/分は新生児としては明らかな高度徐脈であり、生理的変動として説明できない。一方、残る4つはいずれも健常な新生児で日常的にみられる所見である。

選択肢考察

  1. ○a.  心拍数60/分

    新生児の心拍数はおおむね120〜160/分であり、60/分は正常の半分以下という高度な徐脈で、精査が必要である。新生児は1回拍出量を増やす予備力が小さく、心拍出量を心拍数に強く依存しているため、徐脈は循環不全に直結しやすい。原因として、母体の抗SS-A(Ro)抗体の移行による先天性完全房室ブロック、低酸素、低体温、低血糖、頭蓋内圧亢進、甲状腺機能低下症などを考え、心電図、血液ガス、血糖、体温などを確認する。なお、新生児蘇生法では心拍数60/分未満が胸骨圧迫開始の目安とされており、60/分前後という値の重さが理解できる。

  2. ×b.  呼吸数50/分

    新生児の呼吸数はおおむね40〜60/分であり、50/分は正常範囲内である。新生児は1回換気量が小さいため呼吸数を多くして分時換気量を保っている。60/分を超える多呼吸が続く場合や、陥没呼吸・呻吟・鼻翼呼吸・チアノーゼを伴う場合に呼吸障害を疑う。

  3. ×c.  1日3回の溢乳

    溢乳(哺乳後に口から少量の乳があふれ出ること)は新生児・乳児でごく一般的にみられる生理的現象である。下部食道括約筋の機能が未熟であること、胃の形が縦長ではなく横向きに近く噴門部の逆流防止機構(His角)が十分でないこと、哺乳時に空気を飲み込みやすいことなどが原因である。体重増加が順調であれば治療は不要で、哺乳後の排気(げっぷ)を促せばよい。一方、噴水状の嘔吐(肥厚性幽門狭窄症を疑う)や胆汁性嘔吐(腸回転異常症など腸閉塞を疑う)は精査が必要であり、溢乳との区別が重要である。

  4. ×d.  哺乳3時間後の啼泣

    新生児の哺乳回数は1日8〜12回程度で、哺乳間隔はおおむね2〜3時間である。新生児の胃容量は小さく、乳は比較的速やかに胃から排出されるため、哺乳から3時間が経てば空腹で泣くのは自然な反応であり、異常ではない。泣き声が弱い、反応が乏しい、哺乳を嫌がるなどの場合には感染症などを考える必要がある。

  5. ×e.  1日5回の黄色水様便

    新生児、特に母乳栄養児では排便回数が多く、1日数回〜10回程度の黄色の軟便〜水様便は正常範囲である。母乳は消化吸収がよく、乳糖やオリゴ糖を含むため便がゆるくなりやすい。また、胆汁色素(ビリルビン)が腸内で還元されきらずに排泄されるため黄色調となる。注意すべきは灰白色〜淡黄色の便(胆道閉鎖症を疑う)、血便、体重減少や脱水を伴う頻回の下痢などである。

新生児・乳幼児・成人のバイタルサインの目安

・新生児:心拍数120〜160/分、呼吸数40〜60/分 ・乳児:心拍数100〜160/分、呼吸数30〜40/分 ・幼児:心拍数80〜120/分、呼吸数20〜30/分 ・成人:心拍数60〜100/分、呼吸数12〜20/分 年齢が低いほど心拍数・呼吸数は多い。成人では正常な60/分の心拍数も、新生児では高度の徐脈となる点に注意する。

新生児期の生理的な所見の例

・生理的体重減少:生後3〜5日に出生体重の5〜10%程度減少し、生後1〜2週で出生体重に戻る。 ・生理的黄疸:生後2〜3日に出現し、4〜5日でピークとなり、1〜2週で消退する。生後24時間以内の黄疸(早発黄疸)は病的である。 ・溢乳、しゃっくり、くしゃみ、周期性呼吸(20秒未満の呼吸休止)なども生理的にみられる。 ・胎便:生後24時間以内に初回排泄がみられ、その後、移行便を経て黄色便となる。

精査が必要な新生児所見の例

持続する徐脈・頻脈、多呼吸や呻吟などの呼吸障害、中心性チアノーゼ、胆汁性嘔吐や噴水状嘔吐、灰白色便、早発黄疸、哺乳不良や活気低下など。

POINT

・新生児の心拍数は120〜160/分、呼吸数は40〜60/分が目安。 ・心拍数60/分は新生児では高度徐脈であり精査が必要(先天性完全房室ブロックなどを考える)。 ・溢乳、2〜3時間ごとの空腹啼泣、母乳栄養児の1日数回の黄色水様便は生理的所見。 ・噴水状嘔吐・胆汁性嘔吐・灰白色便は病的所見として区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。