StudyMed医師国家試験

震えないParkinson病―便秘・嗅覚・寝言が10年前から告げていたサイン

第111回医師国家試験 A問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第111回 A問題 第45問

72歳の女性。右手が使いにくいことを主訴に来院した。3年前から料理のときに右手で炒めものをかき混ぜづらく,歩行時に右足を引きずると感じていたが,症状の進行は自覚しなかった。半年前,物を持って平地を歩いているときに小走りになって転倒した。そのころから徐々に右足の引きずりが強くなっているように感じている。10年前から便秘で5年前から嗅覚の低下を自覚している。3年前に夫と死別してから抑うつ傾向となり,選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉を服用している。半年前に娘と旅行をしたとき,睡眠中に寝言を言いながら手足をバタバタさせていたという。表情は乏しいが,眼球運動は正常で眼振は認めない。右優位の筋強剛と無動を認めるが,振戦を認めない。四肢の腱反射は正常で,Babinski徴候は認めない。ドパミントランスポーターSPECTを別に示す。  最も考えられるのはどれか。

第111回 A問題 第45問の問題画像
  1. a.Parkinson病
  2. b.正常圧水頭症
  3. c.多系統萎縮症
  4. d.進行性核上性麻痺
  5. e.薬剤性Parkinson症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、パーキンソニズムの原因疾患を見分ける問題だ。ポイントは3つ。症状の左右差と進み方、運動症状より前から出ていた体の変化、そしてドパミントランスポーターSPECTの読み方。まず、この患者さんにパーキンソニズムがあるかどうかから確認しよう。
医学生医学生
右優位の筋強剛と無動があるので、パーキンソニズムはありますね。でも振戦がないのが引っかかります。Parkinson病といえば静止時振戦だと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそこで迷うんだ。現在の診断基準では、無動を必須として、筋強剛か静止時振戦のどちらかを伴えばパーキンソニズムと定義する。実際、振戦が目立たず無動と筋強剛が主体になる病型もある。振戦がないことはParkinson病を否定しないんだよ。
医学生医学生
なるほど。では次は原因探しですね。片側から始まって3年かけてゆっくり進んでいるのは、変性疾患らしい印象です。
ドクタードクター
その通り。高齢で片側から発症し、左右差を保ったまま緩徐に進む。これはParkinson病の典型的な経過だ。物を持って歩いているときに小走りになって転んだのは、重心の移動に足が追いつかず前のめりに加速していく突進現象で、姿勢保持障害を示唆している。
医学生医学生
便秘や嗅覚低下はたまたまかと思っていましたが、関係があるんですか。
ドクタードクター
大いに関係がある。便秘、嗅覚低下、うつ、それに睡眠中に寝言を言いながら手足を動かす症状は、いずれもParkinson病で運動症状より何年も前から現れうる前駆症状として知られている。今回は便秘が10年前、嗅覚低下が5年前からで、時間経過もよく合うね。
医学生医学生
寝ている間に暴れるのは、レム睡眠行動障害ですね。神経内科の実習で、奥さんに夜中に蹴られると言われた患者さんがいました。
ドクタードクター
典型的なエピソードだ。本来レム睡眠中は筋肉の緊張が落ちて体が動かないけれど、その抑制が外れて夢の内容どおりに体が動いてしまう。αシヌクレインが関わる疾患でよくみられるサインだよ。では画像を見てみよう。DAT SPECTでは何がわかる?
医学生医学生
線条体の集積が低下していて、特に左側の被殻の後ろのほうが目立って低いです。症状は右なので、反対側ですね。
ドクタードクター
よく読めたね。DAT SPECTは黒質から線条体へ投射するドパミン神経終末の量を見ている。Parkinson病では被殻後部から集積が落ち、形が「コンマ型」から「ドット型」に変わっていく。症状と反対側優位の低下は、臨床の左右差ときれいに一致する。だから最も考えられるのはParkinson病だ。
医学生医学生
薬剤性も気になりました。SSRIを飲んでいますし。
ドクタードクター
鋭い着眼だね。薬剤性パーキンソニズムは抗精神病薬やメトクロプラミド、スルピリドのようなD2受容体遮断薬で起こりやすく、比較的急に左右対称に出る。SSRIでもまれに報告はあるけれど、今回は服用前から運動症状があった。決定的なのは、薬剤性では神経終末そのものは保たれるから、DAT SPECTは正常になるという点だ。
医学生医学生
正常圧水頭症も歩行障害で転びやすい病気でしたよね。
ドクタードクター
そう。歩行障害、認知障害、尿失禁が三徴で、歩き方は開脚・すり足・小刻みになり、症状はふつう左右対称だ。片手の巧緻運動障害から始まることはなく、DAT SPECTも原則として保たれる。今回は認知障害や尿失禁の記載もないから合わないね。
医学生医学生
多系統萎縮症と進行性核上性麻痺はDAT SPECTが下がるので、画像だけでは区別できないということですか。
ドクタードクター
その理解で正しい。だから臨床所見で見分ける。進行性核上性麻痺は下方視を中心とした垂直性眼球運動障害、早期からの後方への転倒、体幹優位の筋強剛が特徴で、左右差は乏しい。多系統萎縮症は小脳失調、高度の自律神経障害、腱反射亢進やBabinski徴候などの錐体路徴候を伴い、進行が速いことが多い。今回は眼球運動が正常で、小脳症状も錐体路徴候もない。
医学生医学生
問題文の「眼球運動は正常」「Babinski徴候は認めない」は、鑑別を外すための情報だったんですね。
ドクタードクター
その通り。陰性所見こそ鑑別の手がかりになる。発展として、多系統萎縮症や進行性核上性麻痺との鑑別にはMIBG心筋シンチグラフィも役立つ。Parkinson病やLewy小体型認知症では心臓交感神経が障害されて集積が落ちるけれど、ほかの2つでは通常保たれるんだ。MRIは、Parkinson病では通常異常がないのに対し、進行性核上性麻痺では中脳被蓋の萎縮、多系統萎縮症では橋の十字サインなどがみられる。
医学生医学生
臨床では、便秘や嗅覚低下を訴える高齢者がいたら、寝言や動作の遅さも聞いてみるとよさそうですね。
ドクタードクター
いい心がけだ。前駆症状を拾えると、早めの診断や患者さんへの説明につながる。また、抑うつのある高齢者で動作が遅いと「うつのせい」と片づけられがちだけど、左右差のある無動や筋強剛がないか、きちんと診察することが大切だよ。

まとめ

高齢発症で片側から始まり、左右差を保って緩徐に進行する無動・筋強剛はParkinson病の典型像であり、振戦がなくても否定はできません。便秘・嗅覚低下・レム睡眠行動障害・うつは運動症状に何年も先行しうる非運動症状で、診断の大きな手がかりになります。DAT SPECTでは症状と反対側優位に線条体集積が低下し、薬剤性パーキンソニズムや正常圧水頭症では原則として正常である点が鑑別に役立ちます。一方、多系統萎縮症や進行性核上性麻痺でも集積は低下するため、垂直性眼球運動障害、小脳失調、錐体路徴候の有無といった臨床所見やMIBG心筋シンチグラフィを組み合わせて判断します。「パーキンソニズムの確認→経過と前駆症状→陰性所見と画像で鑑別」という流れは、神経変性疾患を診るうえでの基本的な思考の型です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・72歳女性。3年前から右手の巧緻運動の低下(炒めものをかき混ぜにくい)と右下肢の引きずりがあり、ゆっくり悪化している(緩徐進行性・片側発症)。 ・半年前、物を持って歩いているときに小走りになって転倒した。歩行中に足が体の重心移動に追いつかず前のめりに加速する突進現象(加速歩行)であり、姿勢保持障害を示唆する。 ・運動症状に先立って、10年前から便秘、5年前から嗅覚低下がある。抑うつ傾向もある。 ・睡眠中に寝言を言いながら手足をバタバタさせる:夢の内容に合わせて体が動くレム睡眠行動障害〈REM sleep behavior disorder:RBD〉が疑われる。 ・診察:表情が乏しい(仮面様顔貌)、右優位の筋強剛と無動。振戦はない。眼球運動は正常、腱反射正常、Babinski徴候陰性(錐体路徴候なし)、小脳症状の記載もない。 ・ドパミントランスポーター〈DAT〉SPECT:線条体への集積が低下し、特に左側(右半身症状の反対側)の被殻後部で集積低下が目立つ。

診断への考え方

無動に筋強剛を伴っており、パーキンソニズムが存在する。次に、その原因を考える。 ①発症様式:高齢で片側から始まり、緩徐に進行して左右差が持続している。これは変性疾患としてのParkinson病の典型像である。 ②非運動症状:便秘・嗅覚低下・RBD・抑うつは、いずれもParkinson病で運動症状よりも何年も先行しうる前駆症状として知られる。本例では便秘が10年前、嗅覚低下が5年前からあり、この時間経過もよく合う。 ③他疾患を示唆する所見がない:眼球運動障害(進行性核上性麻痺)、小脳失調や錐体路徴候(多系統萎縮症)、認知障害や尿失禁(正常圧水頭症)の記載はない。 ④DAT SPECT:黒質線条体のドパミン神経終末の減少を示す。臨床症状と反対側優位の集積低下は、変性性パーキンソニズム、とくにParkinson病の左右差と整合する。一方、薬剤性パーキンソニズムでは神経終末は保たれるため、集積は正常となる。 振戦がないことはParkinson病を否定しない。振戦が目立たず、無動・筋強剛が主体となる病型もある。 以上からParkinson病が最も考えられる。

選択肢考察

  1. ○a.  Parkinson病

    高齢発症、片側優位の無動・筋強剛、緩徐進行、突進現象による転倒、仮面様顔貌がそろっている。さらに、便秘・嗅覚低下・RBD・抑うつといった前駆期から現れる非運動症状を伴う。眼球運動障害、小脳症状、錐体路徴候のように他の変性疾患を示唆する所見はない。DAT SPECTでは症状と反対側(左)優位に線条体集積が低下しており、臨床像と一致する。これらがすべてParkinson病を支持するため、最も考えられる。

  2. ×b.  正常圧水頭症

    特発性正常圧水頭症は、歩行障害・認知障害・尿失禁を三徴とする。歩行は小刻みで足の幅を広げた開脚歩行となり、すり足で、方向転換が不安定になる。症状は通常、左右対称に現れ、上肢の巧緻運動障害が片側から始まることはない。本例では認知障害や尿失禁の記載がなく、右上下肢優位の筋強剛・無動と非運動症状の組合せも合わない。また、正常圧水頭症ではDAT SPECTの集積は原則として保たれる。

  3. ×c.  多系統萎縮症

    多系統萎縮症〈MSA〉は、パーキンソニズム、小脳性運動失調、自律神経障害(起立性低血圧、排尿障害など)、錐体路徴候を種々の程度に組み合わせて呈する。パーキンソニズムは左右差が乏しく、進行が速いことが多い。また、レボドパへの反応も不良である。本例は左右差が明瞭で、3年かけて緩徐に進行している。小脳失調や錐体路徴候(腱反射亢進、Babinski徴候)もない。RBDや便秘はMSAでもみられるが、全体像はParkinson病のほうがよく合う。

  4. ×d.  進行性核上性麻痺

    進行性核上性麻痺〈PSP〉は、垂直方向(特に下方視)の核上性眼球運動障害を特徴とする。早期から易転倒性(主に後方への転倒)があり、体幹・頸部優位の筋強剛(項部ジストニア)と前頭葉機能障害を伴う。症状の左右差は乏しく、MRIでは中脳被蓋の萎縮(ハミングバードサイン)がみられる。本例は眼球運動が正常で、症状は四肢、特に片側優位であるため考えにくい。

  5. ×e.  薬剤性Parkinson症候群

    薬剤性パーキンソニズムは、抗精神病薬、制吐薬(メトクロプラミド、スルピリドなど)、一部のカルシウム拮抗薬など、ドパミンD2受容体を遮断する薬剤で起こりやすい。症状は比較的急速に出現し、左右対称になりやすい。本例が服用しているSSRIでもまれに報告されるが、運動症状は服用開始より前から存在した。加えて、薬剤性ではシナプス前のドパミン神経終末は保たれるため、DAT SPECTの集積は正常である。本例では集積低下に左右差があり、薬剤性は否定的である。

Parkinson病の概要

中脳黒質のドパミン神経細胞が変性・脱落する神経変性疾患である。αシヌクレインが凝集したLewy小体の形成を特徴とする。有病率は人口10万人あたり100〜150人程度で、高齢になるほど増える。

運動症状

無動(動作緩慢)、筋強剛(歯車様・鉛管様)、静止時振戦、姿勢保持障害が四大症状である。国際パーキンソン病・運動障害疾患学会〈MDS〉の診断基準では、無動を必須とし、これに筋強剛または静止時振戦のいずれかを伴うものをパーキンソニズムと定義する。姿勢保持障害は進行期に目立つ徴候として扱われる。症状は片側から始まり、左右差を保ったまま進行するのが典型である。歩行は前傾姿勢で小刻み、すくみ足や突進現象がみられる。

非運動症状

便秘・嗅覚低下・RBD・うつ・不安などは、運動症状の数年〜10年以上前から現れることがある(前駆症状)。進行すると、起立性低血圧、排尿障害、認知機能低下、幻視なども加わる。

補助検査

・DAT SPECT(123I-イオフルパン):線条体へのドパミン神経終末の投射を評価する。Parkinson病では低下し、典型的には被殻後部から低下して、集積の形が「コンマ型」から「ドット型」へ変化する。MSAやPSPでも低下するため、これらとの鑑別には単独では不十分である。本態性振戦・薬剤性パーキンソニズム・正常圧水頭症などでは正常である。 ・MIBG心筋シンチグラフィ:Parkinson病・Lewy小体型認知症では、心臓交感神経の変性により心筋への集積(H/M比)が低下する。MSAやPSPでは通常保たれるため、これらとの鑑別に有用である。 ・頭部MRI:Parkinson病では通常異常を示さない。MSAでは橋の十字サインや被殻外側の線状高信号、PSPでは中脳被蓋の萎縮などを認める。

パーキンソニズムをきたす主な疾患の鑑別

・PSP:垂直性眼球運動障害、早期の後方転倒、体幹優位の筋強剛 ・MSA:小脳失調、高度の自律神経障害、錐体路徴候、急速な進行 ・大脳皮質基底核変性症:著しい左右差、失行、他人の手徴候、皮質性感覚障害 ・Lewy小体型認知症:パーキンソニズムに先行または同時期に始まる認知障害、幻視、認知機能の変動 ・薬剤性:原因薬の内服歴、左右対称、DAT SPECTは正常

POINT

・高齢発症、片側優位、緩徐進行の無動・筋強剛は、Parkinson病の典型像である。振戦がなくてもParkinson病は否定できない。 ・便秘・嗅覚低下・RBD・うつは、運動症状に先行しうる非運動症状である。 ・DAT SPECT:Parkinson病では症状と反対側優位に線条体集積が低下する。薬剤性パーキンソニズムや正常圧水頭症では正常である。 ・眼球運動障害があればPSP、小脳失調・錐体路徴候・高度の自律神経障害があればMSAを考える。 ・MSA・PSPとの鑑別には、MIBG心筋シンチグラフィ(Parkinson病で集積低下)が有用である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。