28週で打ったから大丈夫?―分娩後72時間、Rh陰性の母を守る抗D人免疫グロブリン
第110回医師国家試験 I問題 第72問
国試問題にチャレンジ
34歳の初産婦。産褥0日で入院中である。妊娠12週の血液検査で血液型はO型RhD(-)と判定された。輸血歴はない。家族歴に特記すべきことはない。妊娠28週時の間接Coombs試験は陰性で,抗D人免疫グロブリンの投与を受けている。妊娠39週4日に自然陣痛が発来して入院し,2,760 gの男児を正常経腟分娩した。新生児血液型はO型RhD(+)と判定された。 母体に行う適切な対応はどれか。
- a.経過観察
- b.アルブミン投与
- c.ハプトグロビン投与
- d.副腎皮質ステロイド投与
- e.抗D人免疫グロブリン投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
RhD陰性の母親がRhD陽性の胎児を妊娠すると、胎児赤血球の流入によって母体が感作され、IgG型抗D抗体が次回妊娠の胎児赤血球を破壊する胎児溶血性疾患の原因となります。間接Coombs試験で未感作と確認された母体には、妊娠28週前後と、児がRhD陽性と判明した分娩後72時間以内に抗D人免疫グロブリンを投与し、28週に投与済みでも分娩後の投与は省略しません。分娩は胎児血が最も多く母体に入る機会であり、投与した抗D抗体が胎児赤血球を除去することで母体の能動免疫の成立を防ぎます。流産・中絶・異所性妊娠・羊水穿刺・腹部外傷などの後にも投与を考慮しますが、既感作例には無効で、胎児貧血の監視に管理が切り替わります。感作は不可逆であるからこそ、適切なタイミングでの予防投与が将来の妊娠と児を守る鍵となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・母体:34歳の初産婦、血液型O型RhD(-)、輸血歴なし ・妊娠28週:間接Coombs試験陰性(=母体血清中に抗D抗体はなく、未感作)→ 抗D人免疫グロブリンを予防投与済み ・妊娠39週4日:正常経腟分娩 ・新生児:O型RhD(+)
病態の考え方
RhD陰性の母親がRhD陽性の胎児を妊娠すると、胎児赤血球が母体循環に入ったときに母体がD抗原に感作され、IgG型の抗D抗体を産生する可能性がある。IgGは胎盤を通過するため、次回以降のRhD陽性児の妊娠で胎児赤血球が破壊され、胎児溶血性疾患(胎児貧血、胎児水腫、新生児重症黄疸など)を起こす。これがD型(Rh)血液型不適合妊娠である。 本例は輸血歴がなく、28週の間接Coombs試験も陰性であったため、この時点では未感作である。28週に抗D人免疫グロブリンを投与したのは、妊娠後期に少量ずつ起こる胎児母体間出血(経胎盤出血)による感作を防ぐためである。 分娩時には、胎盤剥離などに伴い妊娠中より多量の胎児血が母体へ流入しやすく、感作の最大の機会となる。新生児がRhD(+)と確認された以上、母体は分娩を契機に感作されるリスクがある。したがって、分娩後(72時間以内)に改めて抗D人免疫グロブリンを投与し、母体に入った胎児のD陽性赤血球を抗体産生が始まる前に処理させる必要がある。
設問への考え方
問われているのは「分娩後の未感作RhD(-)母体に対する感作予防」である。28週に一度投与していても、その効果は分娩時の大量流入に対しては十分ではなく、分娩後の投与を省略してよい理由にはならない。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
誤り。児がRhD(+)であることが確認されており、分娩時に母体へ流入した胎児赤血球によって母体が抗D抗体を作る危険がある。いったん感作が成立すると取り消すことはできず、次回以降の妊娠で胎児溶血性疾患の原因となるため、何もせずに観察するのは不適切である。
- ×b. アルブミン投与
誤り。アルブミン製剤は低アルブミン血症や循環血漿量の補充などで用いるものである。本例の母体には低アルブミン血症をうかがわせる所見はなく、Rh感作の予防とも無関係である。
- ×c. ハプトグロビン投与
誤り。ハプトグロビン製剤は、不適合輸血や熱傷などで血管内溶血が起こり、遊離ヘモグロビンが大量に血中に出たときに、それと結合させて腎尿細管障害(ヘモグロビン尿による急性腎障害)を防ぐ目的で用いる。母体自身に溶血は起きておらず、適応はない。
- ×d. 副腎皮質ステロイド投与
誤り。産科で母体に副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)を投与する代表的な場面は、早産が差し迫った妊娠34週未満などで、胎児肺の成熟を促し新生児呼吸窮迫症候群を予防する目的である。本例はすでに正期産で分娩を終えており、またステロイドでRh感作を防ぐことはできない。
- ○e. 抗D人免疫グロブリン投与
正しい。未感作のRhD(-)母体がRhD(+)児を分娩した場合、分娩後72時間以内に抗D人免疫グロブリンを投与する。投与された抗D抗体が母体内に入った胎児のD陽性赤血球に結合し、母体の免疫系がD抗原を認識して抗体産生を始める前に、これらの赤血球を脾臓などで除去させる。これにより母体の能動免疫(感作)が成立するのを防ぎ、次回妊娠時の胎児溶血性疾患を予防できる。28週に投与済みでも、分娩後の投与は改めて必要である。
D型(Rh)血液型不適合妊娠の管理の流れ
1. 妊娠初期に全妊婦のABO・RhD血液型と不規則抗体をスクリーニングする。 2. 母体がRhD(-)なら、間接Coombs試験で抗D抗体の有無を確認する(夫がRhD(-)なら胎児もRhD(-)であり、不適合は起こらない)。 3. 未感作(抗D抗体陰性)の場合: ・妊娠28週前後に抗D抗体陰性を再確認し、抗D人免疫グロブリンを予防投与する。 ・分娩後、児がRhD(+)であれば72時間以内に再度投与する。 ・流産、人工妊娠中絶、異所性妊娠、羊水穿刺などの侵襲的処置、腹部外傷、外回転術、常位胎盤早期剥離など、胎児血が母体に入りうるイベントの後にも投与を考慮する。 4. 既感作(抗D抗体陽性)の場合:抗D人免疫グロブリンは無効であり、抗体価の推移や胎児中大脳動脈の最高血流速度(MCA-PSV)などで胎児貧血を監視し、必要に応じて胎児輸血や早期娩出を検討する。
なぜ初回妊娠では問題になりにくいか
初回の感作で最初に作られる抗体はIgMが主体で胎盤を通過しにくく、また分娩時の大量流入による感作は分娩後に起こるため、通常は初回妊娠の児は重症化しにくい。問題になるのは、感作された母体が次にRhD(+)児を妊娠したときで、二次応答として多量のIgG型抗D抗体が産生され、胎盤を通過して胎児赤血球を破壊する。
ABO不適合との関係
ABO不適合(母O型・児A型またはB型)を合併していると、母体に入った胎児赤血球が母体の抗A・抗B抗体で速やかに処理されるため、Rh感作が起こりにくくなることが知られている。本例は母子ともO型であり、この防御は期待できない。
POINT
・RhD(-)妊婦では間接Coombs試験で抗D抗体の有無(感作の有無)を確認する。 ・未感作なら、妊娠28週前後と、RhD(+)児の分娩後72時間以内に抗D人免疫グロブリンを投与する。 ・28週に投与済みでも、分娩後の投与は省略しない。 ・流産・中絶・異所性妊娠・羊水穿刺・腹部外傷などの後も投与を考慮する。 ・すでに感作が成立している母体には抗D人免疫グロブリンは無効である。
