StudyMed医師国家試験

側脳室の壁に潜む灰白質―尾状核が消えていく病気を見抜け

第110回医師国家試験 I問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第21問

正常脳の大脳半球冠状断の髄鞘染色〈Klüver-Barrera染色〉標本を別に示す。  矢印で示す部位が最も障害される疾患はどれか。

第110回 I問題 第21問の問題画像
  1. a.Parkinson病
  2. b.Huntington病
  3. c.脳血管性認知症
  4. d.Lewy小体型認知症
  5. e.Alzheimer型認知症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、正常脳の標本で矢印が指す構造を同定し、そこが最も障害される疾患を選ぶ問題だ。つまり「解剖」と「病理」を結びつける2段階の問題だね。まずは染色法から確認しよう。Klüver-Barrera染色はどんな染色かな。
医学生医学生
病理実習で見ました。髄鞘が青く染まるんでしたよね。
ドクタードクター
そう。ルクソール・ファスト・ブルーで髄鞘を青く、クレシル紫で神経細胞体を紫に染める。だから内包や脳梁のような白質は濃い青に、皮質や基底核のような灰白質は淡く見える。この標本で矢印が指しているのは、側脳室前角の外側壁に沿って脳室側へ膨らみ、外側を内包前脚の白質で区切られた淡く染まる灰白質の塊だ。何だと思う?
医学生医学生
脳室のすぐ横にある灰白質なので、視床でしょうか。
ドクタードクター
惜しい。視床は側脳室の体部や第三脳室に接していて、内包後脚より内側に位置する。前角の外側壁を作るのは尾状核、特に尾状核頭部なんだ。解剖実習で脳の冠状断を切ったとき、側脳室の前角に丸く張り出していた構造を思い出してほしい。
医学生医学生
思い出しました。内包を挟んで外側にあるのが被殻で、尾状核と被殻を合わせて線条体ですね。
ドクタードクター
その通り。線条体は大脳基底核回路の入力部として、運動の調節や認知・情動に関わる。では、この尾状核が最も強く障害される疾患は何だろう。
医学生医学生
基底核の病気といえばParkinson病が思い浮かびますが…。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだね。Parkinson病の主病変は中脳の黒質緻密部だ。ドパミン神経が脱落して線条体へのドパミン入力が減るから線条体の働きは落ちるけれど、尾状核や被殻の神経細胞そのものは保たれていて、目立った萎縮はない。障害されるのは「送り手」で、「受け手」の線条体は残っているわけだ。
医学生医学生
なるほど。では尾状核そのものが壊れるのはHuntington病ですね。
ドクタードクター
正解。Huntington病では線条体のGABA作動性の中型有棘神経細胞が選択的に脱落し、特に尾状核頭部の萎縮が最も目立つ。その結果、CTやMRIでは側脳室前角が外側へ丸く広がって見える。今回の矢印の部位がまさに一番やられる場所なんだ。
医学生医学生
神経内科の講義で、舞踏運動と精神症状と認知症が三徴だと習いました。遺伝性でしたよね。
ドクタードクター
そう。第4染色体のHTT遺伝子でCAGリピートが伸長する常染色体顕性遺伝のポリグルタミン病だ。父親から受け継ぐと世代ごとにリピートが伸びやすく、発症が早まる表現促進現象がみられる。残りの選択肢も確認しよう。Alzheimer型認知症はどうかな。
医学生医学生
海馬が萎縮するイメージです。CBTの問題でもよく出ました。
ドクタードクター
その通り。老人斑と神経原線維変化が出現して、海馬を含む側頭葉内側から萎縮が始まり、頭頂葉などの皮質へ広がる。血流SPECTでは後部帯状回や楔前部の低下が早期からみられる。尾状核は比較的保たれるよ。
医学生医学生
Lewy小体型認知症もパーキンソニズムがあるので、線条体が関係していそうですが。
ドクタードクター
いい疑問だね。確かにドパミントランスポーターシンチグラフィで線条体の集積が下がるけれど、これは黒質からのドパミン神経終末が減ったことを反映していて、尾状核自体の萎縮ではない。病変の主座は大脳皮質へのLewy小体の出現で、萎縮は比較的軽く、後頭葉の血流低下やMIBG心筋シンチグラフィの集積低下が特徴だ。脳血管性認知症は梗塞や出血の部位によって病変がさまざまで、基底核にラクナ梗塞ができることはあっても、尾状核を選択的に最も強く障害する病気ではない。
医学生医学生
各疾患の「主病変の場所」をセットで覚えておけば解けるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、基底核疾患と病変部位の対応をまとめておこう。ヘミバリスムは視床下核、Wilson病は被殻などへの銅沈着、進行性核上性麻痺は中脳被蓋の萎縮、多系統萎縮症は被殻や橋・小脳だ。Huntington病の舞踏運動にはテトラベナジンなどを使うけれど、根治療法はない。
医学生医学生
遺伝性で治療法がないとなると、発症前診断は難しい問題ですね。
ドクタードクター
その通り。家族が発症前に遺伝子検査を希望することもあるけれど、結果が本人や家族の人生に大きく影響するから、十分な遺伝カウンセリングが欠かせない。病理の知識とあわせて、そうした臨床での配慮も覚えておいてほしい。

まとめ

Klüver-Barrera染色では髄鞘が青く、神経細胞体が紫に染まり、冠状断で側脳室前角の外側壁をなし内包前脚に外側を接する灰白質が尾状核(頭部)です。尾状核が最も強く障害されるのはHuntington病で、線条体の中型有棘神経細胞が選択的に脱落し、画像では尾状核頭部萎縮による側脳室前角の外側への拡大がみられます。Parkinson病は黒質のドパミン神経が脱落して線条体自体は保たれ、Alzheimer型認知症は海馬・側頭葉内側と頭頂葉、Lewy小体型認知症は大脳皮質へのLewy小体出現が主病変であり、脳血管性認知症は病変分布が多様です。Huntington病はHTT遺伝子のCAGリピート伸長による常染色体顕性遺伝疾患で、舞踏運動・精神症状・認知症を呈し、発症前診断には遺伝カウンセリングが不可欠です。脳の正常解剖と各疾患の主病変部位を対応づけて理解することが、画像診断や神経病理の問題を解く確かな土台になります。

解答・解説

正解はbです

標本の読み方

Klüver-Barrera(KB)染色は、ルクソール・ファスト・ブルーで髄鞘を青く、クレシル紫(Nissl染色)で神経細胞体を紫に染める方法である。髄鞘の豊富な白質(内包・脳梁・半卵円中心など)は濃い青に、神経細胞の多い灰白質(大脳皮質・基底核など)は淡く染まる。 大脳半球の冠状断で、側脳室前角の外側壁に沿って脳室内に膨らむように位置し、外側を内包前脚の白質で境される灰白質の塊が尾状核(とくに尾状核頭部)である。矢印はこの尾状核を指している。尾状核は被殻とともに線条体を構成し、大脳基底核回路の入力部として運動の調節や認知・情動機能に関わる。

設問の考え方

尾状核が最も強く障害される代表的疾患はHuntington病である。Huntington病では線条体の中型有棘神経細胞(GABA作動性)が選択的に脱落し、とりわけ尾状核頭部の萎縮が目立つ。その結果、画像では側脳室前角が外側に丸く拡大する(いわゆるbox-car型)。他の選択肢の疾患は、主な病変部位がそれぞれ黒質、大脳皮質・海馬、血管支配領域・白質などであり、尾状核が選択的かつ最も強く障害されることはない。

選択肢考察

  1. ×a.  Parkinson病

    Parkinson病の主病変は中脳黒質緻密部である。メラニンを含むドパミン神経細胞が脱落し、残存細胞にはLewy小体(α-シヌクレインを主成分とする封入体)が出現する。黒質から線条体へ投射するドパミン神経が減るため線条体の機能は低下するが、線条体(尾状核・被殻)の神経細胞そのものは保たれ、萎縮はみられないか加齢相応にとどまる。肉眼的には中脳黒質の脱色素が特徴である。

  2. ○b.  Huntington病

    Huntington病は第4染色体短腕のHTT遺伝子でCAGリピートが異常伸長する常染色体顕性(優性)遺伝のポリグルタミン病である。父親から伝わる場合に世代を経てリピートが伸び、発症が早まる表現促進現象がみられる。病理学的には線条体の中型有棘神経細胞が選択的に脱落し、尾状核、とくに尾状核頭部の萎縮が最も顕著となる。大脳皮質(前頭葉など)にも萎縮が及ぶ。尾状核頭部の萎縮によって側脳室前角が外側へ丸く拡大する所見がCTやMRIで確認できる。臨床的には舞踏運動、性格変化・精神症状、認知機能低下を三徴とする。したがって矢印の部位(尾状核)が最も障害される疾患として正しい。

  3. ×c.  脳血管性認知症

    脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって生じる認知症である。病変分布は原因によって異なり、多発性の皮質梗塞、認知機能に重要な部位(視床・海馬など)の単一梗塞、深部白質や脳室周囲のびまん性虚血性変化(Binswanger型)、基底核などの多発ラクナ梗塞などがある。基底核に梗塞が生じることはあるが、尾状核が選択的に最も強く障害される疾患ではない。

  4. ×d.  Lewy小体型認知症

    Lewy小体型認知症は、Lewy小体が脳幹だけでなく大脳皮質(辺縁系・新皮質)に広く出現する疾患である。認知機能の変動、具体的で繰り返す幻視、レム睡眠行動異常症、パーキンソニズムを中核的特徴とする。画像ではドパミントランスポーターシンチグラフィ(DaTscan)で線条体への集積低下、脳血流SPECTやFDG-PETで後頭葉の血流・代謝低下、MIBG心筋シンチグラフィで心臓への集積低下がみられる。線条体での集積低下は黒質からのドパミン神経終末の減少を反映するもので、尾状核自体の神経細胞脱落・萎縮によるものではない。大脳の萎縮は一般に軽度で、Alzheimer型認知症に比べ海馬は比較的保たれる。

  5. ×e.  Alzheimer型認知症

    Alzheimer型認知症では、アミロイドβの沈着による老人斑とリン酸化タウからなる神経原線維変化が出現し、神経細胞が脱落する。萎縮は海馬・海馬傍回を含む側頭葉内側から始まり、頭頂葉・側頭葉など大脳皮質へ広がる。脳血流SPECTでは早期から後部帯状回・楔前部、頭頂側頭葉の血流低下がみられる。基底核、特に尾状核は比較的保たれる。

大脳基底核の構成

・線条体:尾状核+被殻(発生学的・機能的に一体で、内包によって隔てられる) ・レンズ核:被殻+淡蒼球 ・その他:視床下核、黒質(機能的に基底核回路に含める)

代表的疾患と主な病変部位

・Parkinson病:中脳黒質緻密部(ドパミン神経) ・Huntington病:線条体(とくに尾状核頭部) ・ヘミバリスム:視床下核(多くは対側の血管障害) ・Wilson病:レンズ核(被殻)などに銅が沈着 ・進行性核上性麻痺:中脳被蓋(MRIで中脳被蓋の萎縮、いわゆるハミングバードサイン)、淡蒼球、視床下核など ・多系統萎縮症:被殻、橋、小脳など(MRIで橋の十字サイン) ・Alzheimer型認知症:海馬・側頭葉内側、頭頂葉皮質

Huntington病の要点

・遺伝形式:常染色体顕性(優性)、HTT遺伝子のCAGリピート伸長(トリプレットリピート病) ・表現促進現象:父親由来で顕著 ・症状:舞踏運動、精神症状(易怒性・抑うつなど)、認知症 ・画像:尾状核頭部の萎縮、側脳室前角の外側への拡大 ・治療:根治療法はなく、舞踏運動にはテトラベナジン(VMAT2阻害薬)などを用いる。発症前遺伝子診断には十分な遺伝カウンセリングが必要である。

POINT

・冠状断で側脳室前角の外側壁をなす灰白質は尾状核である。 ・尾状核(線条体)が最も強く萎縮するのはHuntington病。画像では側脳室前角が外側へ丸く拡大する。 ・Parkinson病は黒質、Alzheimer型認知症は海馬・側頭葉内側と頭頂葉、Lewy小体型認知症は大脳皮質へのLewy小体出現(萎縮は軽度、後頭葉の血流低下)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。