LDは数えない―骨髄異形成症候群の予後を決める「3つの柱」
第110回医師国家試験 I問題 第20問
国試問題にチャレンジ
骨髄異形成症候群の予後因子でないのはどれか。
- a.LD値
- b.血小板数
- c.染色体異常
- d.骨髄芽球比率
- e.ヘモグロビン濃度
対話形式の解説
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ドクターまとめ
骨髄異形成症候群は造血幹細胞の異常により異形成と無効造血を生じ、血球減少と急性骨髄性白血病への移行をきたす造血器腫瘍で、経過が多様なため予後予測が治療選択の前提となります。標準的な予後予測システムであるIPSSおよびIPSS-Rは、骨髄芽球比率、染色体異常(核型)、血球減少(ヘモグロビン・血小板・好中球)の3系統で点数化されます。LD値は無効造血を反映して上昇することがあり、IPSS-Rでは付加的な因子として言及されるものの、スコアの構成項目ではありません。リスク分類により、低リスク群では血球減少の改善、高リスク群では低メチル化薬や同種造血幹細胞移植による白血病化抑制と生存延長が治療目標となります。予後スコアの中身を理解することは、MDS診療で治療の強さを判断するための基本となります。
解答・解説
正解はaです
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)は、造血幹細胞に生じた遺伝子異常によって血球の形態異常(異形成)と無効造血が起こり、末梢血の血球減少をきたす造血器腫瘍である。一部は急性骨髄性白血病(AML)へ移行する。経過は症例によって大きく異なり、数年以上安定する例もあれば短期間で白血病化する例もある。このため、治療方針(経過観察・輸血などの支持療法・低メチル化薬・同種造血幹細胞移植など)を決めるには、予後をあらかじめ見積もることが欠かせない。 予後予測には国際予後判定システム(International Prognostic Scoring System:IPSS)や、その改訂版である改訂国際予後判定システム(IPSS-R)が広く使われる。これらで点数化される項目は次の3系統に集約できる。 (1) 骨髄中の芽球比率:芽球が多いほど白血病に近い状態であり、予後不良。 (2) 染色体異常(核型):異常の種類によって予後が大きく異なる。 (3) 血球減少:IPSSでは減少している血球系統の数、IPSS-Rではヘモグロビン濃度・血小板数・好中球数をそれぞれ段階的に評価する。 本問は「予後因子でないもの」を選ぶ問題であり、上記の芽球比率・染色体異常・ヘモグロビン濃度・血小板数はいずれもスコアの構成項目である。一方、LD(乳酸脱水素酵素)値はIPSS・IPSS-Rのスコアには組み込まれていないため、これが正解となる。
選択肢考察
- ○a. LD値
LD(lactate dehydrogenase:乳酸脱水素酵素)は細胞の破壊や細胞回転の亢進で上昇する非特異的な酵素であり、MDSでも無効造血(骨髄内で血球が成熟前に壊れること)を反映して上昇することがある。しかし、標準的な予後予測システムであるIPSSおよびIPSS-Rの点数化項目には含まれていない。したがって、5つの選択肢の中で「MDSの予後因子でない」ものとして選ぶべきはこれである。なお、IPSS-Rでは年齢・全身状態(performance status)・血清フェリチン・β2-ミクログロブリンとともにLDの高値が「付加的な予後関連因子」として言及されているが、スコア計算には用いない。
- ×b. 血小板数
血小板減少は血球減少の一つとして予後因子に含まれる。IPSSでは血小板数10万/μL未満を血球減少1系統として数え、減少している系統数で点数をつける。IPSS-Rでは血小板数を独立した項目とし、10万/μL以上は0点、5万以上10万/μL未満は0.5点、5万/μL未満は1点と、低いほど高い点数(予後不良)になる。血小板減少は出血のリスクにも直結し、MDSの死因として感染症とともに重要である。
- ×c. 染色体異常
染色体異常(核型)はMDSの予後を左右する最も重要な因子の一つである。IPSSでは、正常核型、-Y、del(5q)単独、del(20q)単独を予後良好群、3つ以上の異常をもつ複雑核型や7番染色体異常を予後不良群、それ以外を中間群とする。IPSS-Rではさらに細分化し、very good・good・intermediate・poor・very poorの5群に分けて0〜4点を与える。複雑核型が多い(4つ以上)場合はvery poorに分類され、最も予後が悪い。
- ×d. 骨髄芽球比率
骨髄中の芽球比率は、白血病への移行しやすさを直接反映する予後因子である。IPSSでは5%未満・5〜10%・11〜20%・21〜30%の区分で、IPSS-Rでは2%以下・2%超5%未満・5〜10%・10%超の区分で点数化し、芽球が多いほど高得点(予後不良)となる。WHO分類では骨髄芽球20%以上でAMLと診断されるため、芽球が増加しているMDSはAML移行の一歩手前の状態と捉えられる。
- ×e. ヘモグロビン濃度
貧血はMDSで最も多くみられる血球減少であり、予後因子に含まれる。IPSSではヘモグロビン10 g/dL未満を血球減少1系統として数える。IPSS-Rではヘモグロビン濃度を独立項目とし、10 g/dL以上は0点、8以上10 g/dL未満は1点、8 g/dL未満は1.5点を与える。高度の貧血は赤血球輸血依存につながり、輸血依存自体も予後不良と関連する。
MDSの概要
・中高年〜高齢者に多い。原因不明の一次性のほか、抗腫瘍薬や放射線治療後に生じる治療関連MDSもある。 ・末梢血では血球減少(貧血が最多)、骨髄は正形成〜過形成であることが多い(無効造血のため、骨髄に細胞があるのに末梢で減る)。 ・異形成の例:好中球の偽ペルゲル核異常・脱顆粒、環状鉄芽球、微小巨核球など。 ・診断では再生不良性貧血、ビタミンB12・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血、銅欠乏などを除外する。
IPSSの構成(1997年)
・骨髄芽球比率:5%未満 0点、5〜10% 0.5点、11〜20% 1.5点、21〜30% 2.0点 ・核型:良好 0点、中間 0.5点、不良 1.0点 ・血球減少(Hb 10 g/dL未満、好中球1,800/μL未満、血小板10万/μL未満)の系統数:0〜1系統 0点、2〜3系統 0.5点 ・合計点で Low(0)、Intermediate-1(0.5〜1.0)、Intermediate-2(1.5〜2.0)、High(2.5以上)の4群に分ける。
IPSS-R(2012年)の構成
・核型5群(0〜4点)、骨髄芽球比率(0〜3点)、ヘモグロビン(0〜1.5点)、血小板(0〜1点)、好中球数(0.8×10³/μL未満で0.5点) ・合計点でvery low・low・intermediate・high・very highの5群に分ける。 ・年齢、performance status、血清フェリチン、LD、β2-ミクログロブリンは付加的な因子として扱われ、スコアには含まれない。
近年の動向
・遺伝子変異(TP53、SF3B1など)を組み込んだ分子国際予後判定システム(IPSS-M)も提唱されている。
リスクと治療の関係
・低リスク群:血球減少の改善を目標とする(輸血、造血刺激因子、del(5q)を伴う例ではレナリドミド、など)。 ・高リスク群:白血病化の抑制と生存延長を目標とする(低メチル化薬のアザシチジン、適応があれば同種造血幹細胞移植)。
POINT
・MDSの予後因子(IPSS/IPSS-R)は「骨髄芽球比率」「染色体異常(核型)」「血球減少(ヘモグロビン・血小板・好中球)」の3系統。 ・LD値はIPSS・IPSS-Rのスコア項目ではない。 ・予後分類(低リスク/高リスク)により治療目標が異なる:低リスクは血球減少の改善、高リスクは白血病化抑制と根治(移植)。
