StudyMed医師国家試験

抗菌薬が効かない下腿潰瘍―壊疽性膿皮症の陰に潜む腸と骨髄の病気

第110回医師国家試験 G問題 第58問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第58問

38歳の女性。左下腿の潰瘍を主訴に来院した。3か月前から母指頭大の紅色結節が出現し,中央が潰瘍化した。自宅近くの医療機関で抗菌薬を処方されたが,潰瘍がさらに拡大したため受診した。左下腿の写真を別に示す。一般細菌,真菌および抗酸菌培養はいずれも陰性であった。皮疹部の病理組織所見では真皮全層に好中球浸潤がみられるが血管炎像はない。  この患者で合併を疑うべき疾患はどれか。2つ選べ。

第110回 G問題 第58問の問題画像
  1. a.糖尿病
  2. b.潰瘍性大腸炎
  3. c.甲状腺機能低下症
  4. d.弾性線維性偽性黄色腫
  5. e.骨髄異形成症候群〈MDS〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、治らない下腿潰瘍の正体を見抜き、さらに「その背景に何が隠れているか」まで考える問題だ。注目点は、抗菌薬が効かないこと、培養がすべて陰性であること、そして病理で好中球浸潤があるのに血管炎がないこと。まずは潰瘍の原因を大きく分けてみよう。
医学生医学生
潰瘍が膿んでいるように見えますし、好中球が集まっているなら、やはり感染症を一番に考えてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。確かに感染でも組織には好中球が集まる。でも今回は抗菌薬でむしろ拡大していて、一般細菌も真菌も抗酸菌も培養で生えてこない。ここまでそろうと、感染症で説明するのは難しい。では非感染性の潰瘍にはどんなものがあるかな。
医学生医学生
血管炎や膠原病、動脈硬化などの循環障害、糖尿病性潰瘍あたりでしょうか。
ドクタードクター
いいね。そのなかで、病理で血管炎がなく、真皮全層に好中球が密に浸潤しているという所見は、好中球性皮膚症というグループを示唆する。感染がないのに好中球が集まって組織を壊す病気だ。写真では、境界がはっきりしていて、辺縁が堤防のように盛り上がり暗い紫紅色を帯びた潰瘍が見える。これは壊疽性膿皮症に典型的な外観なんだ。
医学生医学生
皮膚科の講義で、辺縁が下掘れになる潰瘍と習った記憶があります。Behçet病も好中球性皮膚症ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。Behçet病の潰瘍は口腔や外陰部の小さく深いものが中心で、下腿に結節から始まって大きく広がる今回の経過とは合わない。小さな膿疱や紅色結節で始まり、急速に拡大して強い痛みを伴う潰瘍になる、というのが壊疽性膿皮症の典型像だ。
医学生医学生
診断がついたとして、設問は合併を疑う疾患なんですね。
ドクタードクター
そう、ここが本題だ。壊疽性膿皮症は半数前後の症例で全身性の基礎疾患を伴う。代表が炎症性腸疾患と血液疾患だ。選択肢では、潰瘍性大腸炎と骨髄異形成症候群が該当する。
医学生医学生
消化器内科を回ったとき、潰瘍性大腸炎の腸管外合併症として結節性紅斑と一緒に壊疽性膿皮症が挙がっていました。
ドクタードクター
まさにその位置づけだ。壊疽性膿皮症は腸炎の活動性と並行して悪化することもあれば、腸の症状と無関係に出ることもある。だから下痢や血便の問診をして、必要なら大腸内視鏡まで進める。Crohn病でも同様に合併するよ。
医学生医学生
骨髄異形成症候群のほうは少し意外でした。皮膚と骨髄がどうつながるんでしょう。
ドクタードクター
詳しい機序はまだ十分にわかっていないけれど、好中球の異常な活性化が背景にあると考えられている。骨髄異形成症候群のほか、急性骨髄性白血病、骨髄増殖性腫瘍、IgA型を中心とした単クローン性γグロブリン血症なども知られている。血液疾患に伴う場合は水疱を伴う非典型的な病変になったり、予後が悪かったりすることがあるから、血算や末梢血塗抹、血清蛋白分画を確認し、異常があれば骨髄検査に進むんだ。
医学生医学生
糖尿病は下肢潰瘍の原因として有名なので、迷いました。
ドクタードクター
糖尿病性潰瘍は神経障害や末梢動脈疾患を背景に、足趾や足底などの荷重部にできやすく、感染も伴いやすい。壊疽性膿皮症に特徴的な基礎疾患ではないんだ。ステロイド治療を始める前に血糖を確認する必要はあるけれど、それは合併を疑う理由とは別の話だね。
医学生医学生
甲状腺機能低下症や弾性線維性偽性黄色腫は、潰瘍とは結びつかない気がします。
ドクタードクター
その感覚で正しい。甲状腺機能低下症の皮膚症状は乾燥、冷感、圧痕を残さない粘液水腫などで、潰瘍はつくらない。弾性線維性偽性黄色腫はABCC6遺伝子の異常で弾性線維が変性・石灰化する遺伝性疾患で、頸部や腋窩に黄色の小丘疹が集まり、網膜色素線条や心血管病変を伴う。どちらも壊疽性膿皮症とは関係しない。
医学生医学生
感染を除外して好中球性皮膚症と考え、壊疽性膿皮症と診断したら、腸と血液を探しにいく、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点だ。壊疽性膿皮症にはパテルギーといって、生検や手術などの小さな刺激で病変が新たにできたり悪化したりする性質がある。だから「感染した潰瘍だろう」と外科的デブリドマンをすると、かえって大きく悪化させてしまうことがある。
医学生医学生
見た目が膿んでいても、安易に切ってはいけないんですね。治療は何が中心ですか。
ドクタードクター
副腎皮質ステロイドの全身投与が基本で、シクロスポリンなどの免疫抑制薬やTNF-α阻害薬も使われる。同時に、見つかった基礎疾患の治療を並行して行うことが大切だ。また病理は特異的ではないから、感染症や血管炎、有棘細胞癌などの悪性腫瘍をきちんと除外したうえで診断する除外診断だという点も忘れないでほしい。

まとめ

抗菌薬が無効で培養も陰性、病理で血管炎を伴わない真皮の好中球浸潤を示し、辺縁が堤防状に隆起した下腿潰瘍は、好中球性皮膚症の代表である壊疽性膿皮症を考えます。壊疽性膿皮症は半数前後で全身性の基礎疾患を伴い、潰瘍性大腸炎やCrohn病などの炎症性腸疾患、骨髄異形成症候群や白血病、IgA型単クローン性γグロブリン血症などの血液疾患、関節リウマチ、高安動脈炎の検索が欠かせません。糖尿病、甲状腺機能低下症、弾性線維性偽性黄色腫は本症に特徴的な合併疾患ではありません。パテルギーがあるため外科的デブリドマンは悪化を招くことがあり、治療はステロイド全身投与を基本に基礎疾患の治療を並行します。皮膚の一病変から全身の病気を探しにいく視点は、皮膚科に限らず内科診療全般で役立つ考え方です。

解答・解説

正解はb, eです

所見の整理

・38歳女性、左下腿の潰瘍。3か月前に母指頭大の紅色結節として始まり、中央が崩れて潰瘍化した。 ・抗菌薬を使っても潰瘍はむしろ拡大した。 ・一般細菌・真菌・抗酸菌の培養はすべて陰性。 ・写真では、境界が明瞭で、辺縁が堤防状に隆起し暗紫紅色を帯びた潰瘍がみられる(壊疽性膿皮症に典型的な外観)。 ・病理: 真皮全層に好中球がびまん性に浸潤しているが、血管炎の像はない。

診断へのプロセス

皮膚潰瘍の原因は大きく感染性と非感染性に分けられる。感染症でも組織に好中球は集まるが、本例は抗菌薬が無効で、細菌・真菌・抗酸菌のいずれも培養されないため、感染症は考えにくい。 非感染性の潰瘍には、血管炎(結節性多発動脈炎、皮膚白血球破砕性血管炎など)、膠原病関連(全身性強皮症、抗リン脂質抗体症候群)、循環障害(閉塞性動脈硬化症、Buerger病、うっ滞性潰瘍)、糖尿病性潰瘍、褥瘡、そして好中球性皮膚症がある。本例は病理で血管炎がなく、好中球の密な浸潤が主体であるため、好中球性皮膚症に属する疾患と判断できる。好中球性皮膚症で潰瘍をつくるのは主に壊疽性膿皮症とBehçet病であり、Behçet病の潰瘍は口腔・外陰部の小さく深い潰瘍が中心である。下腿に結節から始まって急速に拡大する大きな潰瘍、抗菌薬無効、培養陰性という経過から、壊疽性膿皮症と診断する。

設問への考え方

壊疽性膿皮症は、半数前後の症例で全身性の基礎疾患を伴う。代表は炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病)、血液疾患(骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、単クローン性IgA血症などの異常蛋白血症)、関節炎(関節リウマチなど)、高安動脈炎である。壊疽性膿皮症と診断したら、これらの合併を必ず検索する。選択肢のうち該当するのは潰瘍性大腸炎と骨髄異形成症候群である。

選択肢考察

  1. ×a.  糖尿病

    糖尿病でも下肢の潰瘍は生じるが、神経障害や末梢動脈疾患を背景に、足趾・足底など荷重部や末梢に生じることが多く、感染を伴いやすい。壊疽性膿皮症に特徴的に合併する基礎疾患ではない。なお、ステロイド治療を行う際には血糖の確認が必要になるが、それは合併を疑う理由とは別の話である。

  2. ○b.  潰瘍性大腸炎

    炎症性腸疾患は壊疽性膿皮症に合併する基礎疾患として最も代表的で、潰瘍性大腸炎はその中心である。壊疽性膿皮症は炎症性腸疾患の腸管外合併症の一つとして位置づけられ、腸炎の活動性と並行して悪化することも、無関係に出現することもある。下痢・血便などの消化器症状を問診し、必要に応じて大腸内視鏡検査を行う。

  3. ×c.  甲状腺機能低下症

    甲状腺機能低下症の皮膚症状は、皮膚の乾燥・冷感、粘液水腫(圧痕を残さない浮腫)、脱毛などであり、潰瘍形成や好中球性皮膚症とは関連しない。壊疽性膿皮症の合併症としては挙げられない。

  4. ×d.  弾性線維性偽性黄色腫

    弾性線維性偽性黄色腫は ABCC6 遺伝子の異常による遺伝性疾患で、弾性線維の変性・石灰化により、頸部側面や腋窩などの屈側に黄色調の小丘疹が集まって現れる。網膜の網膜色素線条や心血管病変を伴うが、壊疽性膿皮症とは関係がない。

  5. ○e.  骨髄異形成症候群〈MDS〉

    壊疽性膿皮症は血液疾患にも高率に合併し、骨髄異形成症候群〈MDS〉、急性骨髄性白血病、骨髄増殖性腫瘍、単クローン性IgA血症などの異常蛋白血症が知られる。血液疾患に伴う場合は、水疱を伴う非典型的な病変を示したり、予後が悪かったりすることがある。血算・末梢血塗抹・血清蛋白分画などで検索し、異常があれば骨髄検査へ進む。

壊疽性膿皮症とは

無菌性の好中球浸潤を本態とする好中球性皮膚症の代表疾患である。下腿に好発し、小さな膿疱・紅色結節で始まり、急速に拡大して潰瘍となる。潰瘍の縁は堤防状に隆起して暗紫紅色を呈し、辺縁が外へ掘れ込む(下掘れ)。強い疼痛を伴い、治癒後は篩状(ふるい状)の瘢痕を残す。

病理

真皮に好中球がびまん性に浸潤し、膿瘍をつくることもある。血管炎の所見はない(あっても二次的)。病理は特異的ではなく、感染症・血管炎・悪性腫瘍などを除外したうえで診断する除外診断である。

パテルギー(針反応)

手術や生検、外傷などの小さな刺激で病変が新たに生じたり悪化したりする現象で、Behçet病と共通する。外科的デブリドマンで悪化しうるため、壊疽性膿皮症を疑ったら安易な切除を避ける。

合併する主な疾患

・炎症性腸疾患: 潰瘍性大腸炎、Crohn病 ・血液疾患: 骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、骨髄増殖性腫瘍、単クローン性γグロブリン血症(とくにIgA型)、多発性骨髄腫 ・関節炎: 関節リウマチ、血清反応陰性関節炎 ・その他: 高安動脈炎、自己炎症性疾患(PAPA症候群など)

治療

副腎皮質ステロイド全身投与が基本で、シクロスポリンなどの免疫抑制薬、TNF-α阻害薬(アダリムマブは本症に保険適用がある)などが用いられる。基礎疾患の治療も並行して行う。

下腿潰瘍の鑑別

感染症(細菌・真菌・抗酸菌)、静脈うっ滞性潰瘍(内果周囲に多い)、動脈性潰瘍(足趾・足背、虚血肢)、糖尿病性潰瘍(足底・足趾)、血管炎、膠原病、悪性腫瘍(有棘細胞癌など)、壊疽性膿皮症。培養・生検・血流評価を組み合わせて鑑別する。

POINT

・抗菌薬無効、培養陰性、真皮の好中球浸潤(血管炎なし)、辺縁が隆起した下腿潰瘍 → 壊疽性膿皮症。 ・合併疾患の検索が必須: 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病)、血液疾患(MDS、白血病、IgA単クローン血症)、関節リウマチ、高安動脈炎。 ・パテルギー陽性のため外科的デブリドマンは悪化の原因になる。 ・治療の基本は副腎皮質ステロイド。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。