世界地図が語る生活習慣―米国で多く東アジアで少ない「あの状態」を読み解く
第110回医師国家試験 G問題 第4問
国試問題にチャレンジ
WHOが作成したある疾病または状態についての男女別の国別割合を別に示す。 この疾病または状態はどれか。

- a.喫煙
- b.肥満
- c.貧困
- d.コレラ
- e.マラリア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
世界分布図の問題では、どの所得水準の国で高いか、熱帯など気候帯に偏るか、男女差がどちら向きか、の3点に注目すると絞り込みやすくなります。米国で男女とも際立って高く、欧州・ロシア・オーストラリアでも高い一方、日本・中国など東アジアで低く、中東・北アフリカで女性が男性より多いという分布は、WHO基準(BMI 30以上)の肥満の特徴と一致します。コレラ・マラリアは熱帯の途上国に、貧困は低所得国に偏り、喫煙は多くの国で男性が女性を大きく上回るため、いずれもこの分布とは合いません。日本ではアジア人が低いBMIでも合併症を起こしやすいことからBMI 25以上を肥満とし、健康障害を伴うものを肥満症として治療対象にしています。肥満は中・低所得国でも増え「栄養不良の二重負荷」が課題となっており、疾病の地理的分布を背景要因とともに理解することは公衆衛生的な視点を養ううえで重要です。
解答・解説
正解はbです
図から読み取れること
男女別に、ある疾病・状態の有病割合(prevalence)を国ごとに4段階(10%未満、10〜19.9%、20〜29.9%、30%以上)で色分けした世界地図である。 ・米国は男女とも最も高い区分(30%以上)であり、カナダ、欧州、ロシア、オーストラリア、南米南部なども20〜29.9%と高い。 ・日本、中国、韓国、東南アジア、インドなどのアジア諸国は男女とも10%未満と低い。 ・アフリカ中部(サハラ以南)は、特に男性で低い。 ・中東・北アフリカ・南アフリカなどでは、女性が30%以上と男性より明らかに高い国が多い。
推論のプロセス
高所得の欧米諸国、特に米国で男女とも際立って高いことから、先進国型の生活習慣(過剰なエネルギー摂取、身体活動の不足)と関係する状態であると推測できる。そう考えると、熱帯・亜熱帯の途上国に偏る感染症(コレラ・マラリア)や、低所得国に多いはずの貧困は合わない。 次に男女差をみる。喫煙であれば、アジア・中東・アフリカの多くの国で男性が女性を大きく上回るはずである。しかし図では、中東・北アフリカで女性のほうが高く、日本や中国では男性でも10%未満である。これは喫煙の分布と矛盾する。 これに対し、肥満の分布とはよく一致する。肥満は米国などで多く、日本を含む東アジアで少ない。中東・北アフリカでは、文化的に女性の屋外での身体活動が少ないことや食生活の変化などから、女性の肥満が多い。以上から、この図は肥満の有病割合を示すと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 喫煙
誤り。喫煙率は、東アジア(中国・韓国・日本など)、東欧、中東などの男性で高い。多くの途上国では、男性の喫煙率が女性を大きく上回る。図では、日本や中国の男性が10%未満と最も低い区分にあり、中東・北アフリカでは女性が男性より高い。これらは喫煙の分布とは合わない。また、米国の喫煙率は日本と同程度かそれ以下であり、米国が男女とも最も高い区分にあることとも合わない。
- ○b. 肥満
正しい。WHOの基準では、BMI(体格指数:体重kg÷身長mの2乗)30以上を肥満とする。米国が男女とも30%以上と極めて高く、欧州・ロシア・オーストラリア・南米南部などの高・中所得国でも高い。一方、日本・中国などの東アジアは低い。さらに中東・北アフリカ・南アフリカでは、女性の割合が男性より高い。これらはいずれも、肥満の世界分布の特徴とよく一致する。日本はBMI30以上の割合が数%程度と、先進国の中でとりわけ低い。
- ×c. 貧困
誤り。貧困の割合は、サハラ以南のアフリカや南アジアなどの低所得国で高く、北米や西欧の高所得国では低いはずである。図では、米国が最も高く、アフリカ中部(特に男性)が低い。これは貧困の分布とは正反対である。また、貧困が男女別にこれほど大きな差を示すことも考えにくい。
- ×d. コレラ
誤り。コレラはコレラ菌(Vibrio cholerae)に汚染された水や食物を介して広がる経口感染症である。上下水道の整備が不十分なアフリカ・南アジアなどの途上国で流行する。上下水道が整った米国や西欧で有病割合が高くなることはなく、20〜30%以上という数値もコレラの有病割合としてはありえない。
- ×e. マラリア
誤り。マラリアはハマダラカが媒介する原虫感染症である。流行地はサハラ以南のアフリカを中心に、南アジア・東南アジア・南米の熱帯・亜熱帯地域にある。米国、カナダ、欧州、ロシアなどの温帯・寒冷地では土着の流行はほとんどなく、図で高い割合を示す地域とは一致しない。
肥満の判定基準
・WHO:BMI 25以上30未満を過体重(pre-obese)、30以上を肥満(obese)とする。 ・日本(日本肥満学会):BMI 25以上を肥満とする。日本人を含むアジア人は、欧米人より低いBMIでも2型糖尿病などの合併症が起こりやすいため、基準を低めに設定している。BMI 22を標準体重の目安とする。 ・肥満症:肥満があり、そのうえで肥満に関連する健康障害(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧など)を合併するか、内臓脂肪型肥満がある状態をいう。治療(減量)が必要な疾患として扱う。
世界の肥満の動向
肥満は世界中で増え続けており、先進国だけでなく、都市化と食生活の欧米化が進んだ中・低所得国でも増加している。同じ国の中に、低栄養と肥満が同時に存在する「栄養不良の二重負荷」が問題となっている。中東・北アフリカ・太平洋の島しょ国では、特に女性の肥満が多い。
図表問題の読み方
世界分布を示す図では、次の3点に注目すると絞り込みやすい。 ・どの所得水準の国で高いか(先進国型か、途上国型か) ・気候帯との関係(熱帯に偏るなら感染症を疑う) ・男女差の方向(喫煙は多くの国で男性が多い、など)
POINT
・WHOの肥満基準はBMI 30以上、日本の基準はBMI 25以上である。 ・肥満は米国で特に多く、欧州・ロシア・オーストラリアなどでも多い。日本・中国などの東アジアでは少ない。 ・中東・北アフリカなどでは女性の肥満が男性より多い。 ・喫煙率は多くの国で男性が女性より高い。コレラ・マラリアは熱帯の途上国に、貧困は低所得国に多い。
