遺族の承諾で成り立つ解剖―病理解剖の目的と「結果を返す」責務
第110回医師国家試験 G問題 第5問
国試問題にチャレンジ
病理解剖について適切なのはどれか。
- a.異状死に対して行う。
- b.解剖の結果を家族へ説明する。
- c.死亡診断書の作成に必須である。
- d.生命保険の書類作成に必須である。
- e.死亡確認から6時間以内に行わなければならない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
病理解剖は、診療中に病死した患者について、生前診断の妥当性、治療効果、死因や合併症を検証するために行う解剖で、死体解剖保存法に基づき原則として遺族の承諾を得て実施します。承諾を前提とする以上、解剖結果を遺族へ説明することは重要な責務です。異状死は警察への届出を経て司法解剖・行政解剖・調査法解剖などの法医学的解剖の対象となり、病理解剖とは区別されます。死亡診断書や生命保険書類の作成に解剖は必須ではなく、実施時期にも法的な時間制限はありません(死後24時間以内の埋葬・火葬禁止とは別の規定)。解剖の種類と法的根拠を整理しておくことは、CPCを通じて医療の質を高める病理解剖の意義を理解し、臨床現場で遺族に適切に説明するための基盤になります。
解答・解説
正解はbです
死後に行われる解剖は、目的と法的根拠によっていくつかに分けられる。本問はそのうち病理解剖(剖検)の性格を問うている。 病理解剖は、病院などで病気により亡くなった患者を対象に、生前の診断が正しかったか、治療がどの程度効果を上げたか、直接の死因や合併症は何かを明らかにするために行われる。その成果は担当医へのフィードバック、臨床病理検討会(CPC: clinico-pathological conference)での検討、医学教育・研究に生かされ、医療の質の向上に役立てられる。 法的には死体解剖保存法に基づき、原則として遺族の承諾を得て行う。つまり病理解剖は遺族の協力によって成り立つ任意の解剖であり、強制力をもつ司法解剖などとは性質が異なる。 設問を考えるうえでのポイントは次の3点である。 1. 対象は異状死ではなく、診療中の病死である(異状死は法医学的解剖の対象)。 2. 死亡診断書や保険書類の作成には必須ではない(解剖の有無を記載する欄があるにすぎない)。 3. 遺族の承諾を得て行う以上、得られた結果は遺族へ説明すべきである。
選択肢考察
- ×a. 異状死に対して行う。
誤り。異状死(外因死やその疑いがある死、死因不明の死など)は医師法第21条により24時間以内に所轄警察署へ届け出る対象であり、その死因究明には司法解剖・行政解剖・調査法解剖(死因・身元調査法に基づく解剖)といった法医学的な解剖が行われる。病理解剖が対象とするのは、診療を受けていた患者の病死である。なお、病理解剖の途中で犯罪との関係が疑われる異状に気づいた場合は、24時間以内に警察署長へ届け出なければならない(死体解剖保存法第11条)。
- ○b. 解剖の結果を家族へ説明する。
正しい。病理解剖は遺族の承諾を前提に行われるものであり、遺族には故人がどのような病態で亡くなったのかを知る正当な関心がある。肉眼所見に基づく暫定的な結果、さらに組織学的検索を加えた最終的な結果を主治医などから遺族に説明することは、承諾してくれた遺族への責務であり、医療に対する信頼の維持にもつながる。
- ×c. 死亡診断書の作成に必須である。
誤り。死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に、医師が臨床経過から判断した死因を記載して作成する。解剖をしなければ書けないものではない。様式には「解剖」の欄があり、解剖の有無を選んで記入し、実施した場合に主要所見を書く形になっているだけである。
- ×d. 生命保険の書類作成に必須である。
誤り。生命保険の請求には死亡診断書(またはその写し)や保険会社所定の診断書が用いられるが、解剖の実施は条件ではない。解剖を行っていれば、その所見を記載する欄があるという程度である。そもそも病理解剖は医学的な検証を目的とするもので、書類作成のために行うものではない。
- ×e. 死亡確認から6時間以内に行わなければならない。
誤り。病理解剖を死後何時間以内に行わなければならないという法的規定はない。実際には死後変化(自己融解など)が進むと組織所見の評価が難しくなるので、できるだけ早く行うことが望ましいとされるにすぎない。なお、墓地、埋葬等に関する法律により、原則として死後24時間以内の埋葬・火葬は禁止されている。これは解剖の期限ではなく、埋葬・火葬に関する別の規定である。
解剖の種類
・系統解剖:医学・歯学教育のために、人体の正常構造を学ぶ目的で行う。献体によるもので、根拠法は死体解剖保存法と献体法(医学及び歯学の教育のための献体に関する法律)。 ・病理解剖:病死した患者について、診断の妥当性、治療効果、死因を検証する目的で行う。根拠法は死体解剖保存法で、原則として遺族の承諾が必要。 ・司法解剖:犯罪との関係が疑われる死体について、刑事訴訟法に基づき鑑定処分許可状を得て行う。遺族の承諾は不要。 ・行政解剖:犯罪性はないが死因が不明な死体について行う。監察医制度のある地域では死体解剖保存法第8条に基づき、監察医が遺族の承諾なく行うことができる。制度のない地域では遺族の承諾を得て行う承諾解剖となる。 ・調査法解剖:警察等が取り扱う死体の死因・身元調査法(2013年施行)に基づき、警察署長の判断で行う。遺族の承諾は不要。
病理解剖に関連する事項
・解剖を行えるのは、死体解剖資格を有する者、または大学の解剖学・病理学・法医学の教授・准教授などに限られる(死体解剖保存法)。 ・CPCは、臨床経過と病理所見を突き合わせて診断・治療を振り返る検討会で、臨床研修でも重要な学習の場となっている。 ・解剖の際は、遺体に対して礼意を失わないよう注意しなければならない(死体解剖保存法第20条)。
異状死の届出
・医師法第21条:医師は死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出る。
POINT
・病理解剖は病死した患者の診断・治療・死因を検証するために行い、原則として遺族の承諾を要する(死体解剖保存法)。 ・承諾を得て行うので、結果は遺族に説明する。 ・異状死は法医学的解剖(司法解剖・行政解剖・調査法解剖)の対象であり、病理解剖の対象ではない。 ・死亡診断書や保険書類の作成に解剖は必須ではない。 ・解剖の実施時期について法的な時間制限はない(死後24時間以内の埋葬・火葬禁止とは別の話)。
