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3枚の日本地図、どれが肺がん?―凡例の数字と地域差で解く男性がん死亡率

第110回医師国家試験 G問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第23問

2009年から2013年までを平均した,男性の部位別がんの年齢調整死亡率(人口10万対)のうち,胃,肝(肝内胆管含む)及び肺(気管,気管支含む)について,都道府県別に5群に分けた図(A)(B)(C)を別に示す。  A,B,Cに対応するがんの部位で正しいのはどれか。

第110回 G問題 第23問の問題画像
  1. a.胃肝肺
  2. b.肝胃肺
  3. c.肝肺胃
  4. d.肺胃肝
  5. e.肺肝胃

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、都道府県別の濃淡で描かれた3枚の地図から、胃・肝・肺のどのがんかを見分ける公衆衛生の問題だ。注目点は2つ。1つは各地図の凡例に書かれた数値の水準、もう1つは濃い地域がどこに集まっているか、という地理的な分布だよ。
医学生医学生
地図の色の濃いところばかり見ていました。正直、地域差は覚えていなくて、勘で選びそうです。
ドクタードクター
多くの人がそこで迷うんだ。だから先に凡例を見てほしい。3枚の地図は同じ「男性の年齢調整死亡率」を表しているけれど、目盛りの範囲がまったく違う。Aはおおよそ15から21、Bは24から30、Cは39から44くらいだね。
医学生医学生
なるほど、数字の高さが3枚でバラバラですね。ということは、死亡率の大小関係を知っていれば当てはめられる…?
ドクタードクター
その通り。この時期の男性の年齢調整死亡率は、肺がんが人口10万対40前後、胃がんが25前後、肝がんが15前後で、「肺>胃>肝」の順だった。これをそのまま当てはめると?
医学生医学生
一番低いAが肝がん、中間のBが胃がん、一番高いCが肺がんです。衛生・公衆衛生の講義で、男性のがん死亡は肺がんがトップと習いました。
ドクタードクター
正解。A肝・B胃・C肺の組み合わせが答えだ。ここで、そもそも「年齢調整死亡率」を使う理由を確認しておこう。なぜ粗死亡率ではだめなんだろう。
医学生医学生
高齢者が多い県ほど、がんで亡くなる人が多くなってしまうからですか。
ドクタードクター
そう。年齢構成が違うと、そのまま比べても高齢化の差を見ているだけになる。基準となるモデル人口の年齢構成に合わせて補正したのが年齢調整死亡率で、都道府県比較や年次比較にはこれを使う。では次に、地理的分布で答えを確かめよう。Aは近畿・中国・四国・九州など西日本が濃い地図だ。
医学生医学生
肝がんが西日本に多いのは、C型肝炎ウイルスの感染者が多いからでしたよね。消化器内科の実習でも、HCV関連の肝細胞癌の患者さんを何人も受け持ちました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。肝がんの多くはB型・C型肝炎ウイルスの持続感染を背景に発生し、西日本でHCV感染者が多いことが死亡率の地域差に関係している。Bは東北の日本海側、秋田や山形から新潟・北陸にかけてが濃い地図だね。
医学生医学生
胃がんは塩分の多い食習慣と関係があると聞いたことがあります。東北の日本海側は塩分摂取が多い地域として有名ですね。
ドクタードクター
そうだね。胃がんはHelicobacter pylori感染が最大の危険因子で、塩分の多い食事との関連も指摘されている。そしてCは北海道、近畿、北部九州が濃い。肺がんは北海道や近畿で高いことが知られていて、喫煙率の地域差などが関連すると考えられている。
医学生医学生
逆に、肺がんを一番低いAに当てる組み合わせは数字の時点で成り立たないですね。Aを肝にしても、BとCを入れ替えて胃がんを一番高いCにすると、やはり数値が合わない。
ドクタードクター
その理解で完璧。地域分布の細部まで覚えるのは大変だけれど、凡例の数値という客観的な手がかりから大小関係を当てはめれば確実に解ける。地域分布はその裏付けとして使う、という順序が大切だ。
医学生医学生
ほかにも地域差が有名ながんはありますか。CBTの勉強で、九州に多いがんが出てきた気がします。
ドクタードクター
代表的なのが成人T細胞白血病・リンパ腫で、原因ウイルスのHTLV-1感染者が多い九州・沖縄で白血病の死亡率が高い。ほかに、女性の乳がんは東日本や北部九州で比較的高い傾向がある。また長期的には、ピロリ菌感染率の低下などで胃がんは減少し、肝炎ウイルス対策や抗ウイルス療法の進歩で肝がんも減少傾向にあるんだ。
医学生医学生
地域差の背景を知っていると、その地域でどんな予防や検診に力を入れるべきかも見えてきますね。
ドクタードクター
まさにそこが公衆衛生の視点だ。死亡率の地図は、肝炎ウイルス対策や食生活の改善、禁煙推進など、地域ごとの施策を考える出発点になる。数字と背景を結びつけて覚えておこう。

まとめ

都道府県別のがん死亡率を比較する際は、年齢構成の違いを補正した年齢調整死亡率を用います。男性の部位別年齢調整死亡率は「肺>胃>肝」の順で、地図問題ではまず凡例の数値水準からこの大小関係を当てはめると確実に判断でき、本問はA肝・B胃・C肺となります。地理的には、肝がんはHCV感染者の多い西日本、胃がんは塩分摂取の多い東北日本海側から北陸、肺がんは北海道や近畿で高く、ATLを含む白血病はHTLV-1感染者の多い九州・沖縄で高いことも押さえておきましょう。地域差の背景にある感染症や生活習慣を理解することは、地域ごとの予防・検診施策を考えるうえで公衆衛生の基本となります。

解答・解説

正解はbです

図から読み取れること

3枚の日本地図は、都道府県ごとの男性の年齢調整死亡率(人口10万対)を5段階の濃淡で示しており、色が濃いほど死亡率が高い。正解を導く手がかりは2つある。 1. 凡例の数値(死亡率の水準) 各図の右下にある凡例の範囲はおおよそ次のとおりである。 ・図A:最も低い群が約15以上(14.97~)、最も高い群が約20.6まで(~20.59) ・図B:約24から約30まで ・図C:約39から約44まで この時期の男性の年齢調整死亡率は、部位別に肺がん(人口10万対40前後)>胃がん(25前後)>肝がん(15前後)の順であった。したがって、数値の水準だけで、最も低いAが肝がん、中間のBが胃がん、最も高いCが肺がんと判断できる。 2. 地理的な分布(地域差) ・図A:近畿・中国・四国・九州など西日本が濃い。肝がんは西日本で死亡率が高く、これはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染者が西日本に多いことと関連している。 ・図B:東北地方の日本海側(秋田・山形など)から新潟・北陸にかけてが濃い。胃がんは東北日本海側から北陸で高く、塩分摂取量の多い食習慣との関連が指摘されている。 ・図C:北海道と近畿(大阪など)、北部九州が濃い。肺がんは北海道や近畿で高いことが知られ、喫煙率の地域差などが関連すると考えられている。 地域差の知識からも同じ結論に至るが、死亡率の具体的な地域分布まで覚えているのは容易ではない。まず凡例の数値水準から「肺>胃>肝」という大小関係を当てはめるのが確実な解き方であり、地域分布はその確認に用いるとよい。以上より、A:肝、B:胃、C:肺の組み合わせが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  胃肝肺

    誤り。Aを胃、Bを肝とする組み合わせである。図Aの死亡率は約15~21と3図のなかで最も低く、男性で最も死亡率の低い肝がんに相当する。また、Aは西日本で高いという肝がんに特徴的な分布を示す。胃がんは東北日本海側・北陸で高く、死亡率の水準も中間のBに当たるため、AとBの対応が入れ替わっている。

  2. ○b.  肝胃肺

    正しい。凡例の数値水準は A(約15~21)< B(約24~30)< C(約39~44)であり、男性の年齢調整死亡率の大小関係「肝<胃<肺」とそのまま一致する。地理的にも、Aは西日本で高く(HCV感染者の多さと関連する肝がん)、Bは東北日本海側から北陸で高く(胃がん)、Cは北海道・近畿で高い(肺がん)という各がんの特徴に合致する。

  3. ×c.  肝肺胃

    誤り。Aを肝とした点は正しいが、BとCが逆である。男性では肺がんの年齢調整死亡率が胃がんより高いため、数値が最も高い図C(約39~44)が肺がんに当たる。また、図Bの東北日本海側・北陸で高い分布は胃がんの特徴であり、図Cの北海道・近畿で高い分布は肺がんの特徴である。

  4. ×d.  肺胃肝

    誤り。Aを肺、Cを肝とする組み合わせで、死亡率の大小関係が正反対になっている。肺がんは男性のがん死亡率で最も高い部位であり、3図のうち最も低い水準の図Aには当てはまらない。逆に図Cは最も高い水準で、肝がんの死亡率とは合わない。

  5. ×e.  肺肝胃

    誤り。Aを肺、Bを肝、Cを胃とする組み合わせである。最も死亡率が低い図Aに男性で最も死亡率の高い肺がんを、最も高い図Cに胃がんを当てており、数値の水準と合わない。地理的分布も、西日本で高いAは肝がん、東北日本海側・北陸で高いBは胃がん、北海道・近畿で高いCは肺がんの特徴であり、いずれも一致しない。

年齢調整死亡率とは

死亡率は高齢者の割合が多い地域ほど高くなるため、そのままでは年齢構成の異なる地域や年次を比較できない。基準となる人口(モデル人口)の年齢構成に合わせて補正したものが年齢調整死亡率であり、都道府県間の比較にはこれを用いる。

男性の部位別がん死亡の概要

・死亡数・死亡率が最も多い部位は肺がんである。続いて胃がん、大腸がんなどが上位を占める。 ・胃がんはHelicobacter pylori感染率の低下や食生活の変化などにより、長期的に減少している。 ・肝がんはC型・B型肝炎ウイルス対策や抗ウイルス療法の進歩により減少傾向にある。

地域差が知られている主ながん

・肝がん:西日本(特に近畿・九州など)で高い。HCV感染者が多いことと関連する。 ・胃がん:東北地方の日本海側から北陸で高い。塩分摂取量の多い食習慣との関連が考えられている。 ・肺がん:北海道や近畿で高い。 ・成人T細胞白血病(ATL)を含む白血病:九州・沖縄で高い。原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染者が多いことと関連する。 ・乳がん(女性):東日本や北部九州で比較的高く、中国地方・南九州・沖縄で比較的低い傾向がある。 ・前立腺がん:東北地方北部で比較的高い傾向がある。

POINT

・男性の年齢調整死亡率は「肺>胃>肝」。地図問題では凡例の数値水準からまず判断する。 ・肝がん:西日本で高い(HCV感染者が多い)。 ・胃がん:東北日本海側~北陸で高い(塩分摂取との関連)。 ・肺がん:北海道・近畿で高い。 ・白血病(ATL):九州・沖縄で高い(HTLV-1)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。