StudyMed医師国家試験

同じお酒でも危険度が違う―「交互作用」を交絡・主効果と見分ける疫学の基本

第110回医師国家試験 G問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第10問

ある疾患のリスクについて遺伝要因と飲酒習慣の交互作用が認められるとき,観察される現象として最も適切なのはどれか。

  1. a.禁酒しても疾患の一次予防はできない。
  2. b.遺伝要因により飲酒習慣に差異がある。
  3. c.飲酒習慣にかかわらず遺伝要因が疾患のリスクになる。
  4. d.遺伝要因により飲酒習慣の疾患への相対危険度が異なる。
  5. e.飲酒習慣で補正すると遺伝要因と疾患との関連が消失する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は疫学用語の「交互作用」の意味を問う問題だ。似た言葉に主効果や交絡があって、ここを混同すると選択肢で迷いやすい。ポイントは、交互作用が「何と何の関係」を表しているのかをはっきりさせることだよ。
医学生医学生
交互作用って、遺伝要因と飲酒が互いに影響し合うこと、くらいのイメージしかありません。
ドクタードクター
そのイメージは半分合っていて、半分危ない。正確には、ある要因が疾患リスクに与える影響の大きさが、別の要因の有無や程度によって変わることを交互作用という。疫学では効果修飾とほぼ同じ意味で使われるんだ。
医学生医学生
要因同士が影響し合うのではなく、疾患への効き方が変わる、ということですか。
ドクタードクター
そこが核心。今回なら、遺伝要因がない人では飲酒による疾患の相対危険度が小さいのに、遺伝要因がある人では同じ飲酒で相対危険度が大きく上がる、といった現象だ。遺伝要因の有無で集団を分けて、つまり層別化して飲酒と疾患の関連を調べると、層ごとに関連の強さが違って見える。
医学生医学生
それなら、遺伝要因によって飲酒の相対危険度が異なる、という記述がそのまま定義ですね。
ドクタードクター
正解。具体例を一つ挙げられるかな。
医学生医学生
生化学の講義で習ったALDH2でしょうか。お酒で顔が赤くなる人ですよね。
ドクタードクター
その通り。ALDH2の活性が低い遺伝子型の人では、アセトアルデヒドが分解されにくく、飲酒による食道癌の相対危険度が活性型の人に比べて著しく高いことが知られている。遺伝要因と飲酒の交互作用の代表例だ。では、ほかの記述がなぜ違うのか確認しよう。遺伝要因によって飲酒習慣に差がある、という記述はどうかな。
医学生医学生
ALDH2低活性型の人はそもそもあまり飲まないので、それも正しそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
事実としてはありうる話だから迷うよね。でもこれは遺伝要因と飲酒習慣という二つの要因のあいだの関連を述べているだけで、疾患リスクについては何も言っていない。交互作用は、両要因が疾患に与える影響の話だ。ちなみに、遺伝要因が飲酒と疾患の両方に関連していれば、むしろ交絡の原因になりうる。
医学生医学生
飲酒習慣にかかわらず遺伝要因がリスクになる、というのは交互作用っぽく聞こえますが。
ドクタードクター
言葉に惑わされやすいところだね。「飲酒習慣にかかわらず」というのは、遺伝要因の効果が飲酒によって変わらない、ということ。これは遺伝要因の主効果を表していて、交互作用がない状態の表現に近いんだ。
医学生医学生
禁酒しても一次予防ができない、というのは飲酒が無関係ということになりますね。
ドクタードクター
そう、飲酒の主効果がないことを意味する。交互作用があるなら、少なくとも遺伝要因をもつ人では飲酒でリスクが上がるのだから、禁酒はむしろ有効な一次予防になる。
医学生医学生
最後の、飲酒習慣で補正すると関連が消える、というのは公衆衛生の講義で習った交絡の話ですね。
ドクタードクター
よく気づいたね。補正で関連が消えるのは、飲酒習慣が交絡因子である場合か、遺伝要因が飲酒を介して疾患に影響している、つまり中間因子である場合だ。交互作用とは別物。ここで交絡と交互作用の違いを整理しておこう。交絡は見かけの関連を歪めるバイアスで、無作為化やマッチング、層別解析や多変量解析で取り除くべきもの。層別化すると各層の関連の強さはほぼ同じになる。
医学生医学生
交互作用は、層別化すると各層の値が違ったままになるんですね。
ドクタードクター
その通り。しかも交互作用は取り除くべきバイアスではなく、明らかにすべき生物学的・疫学的事実なんだ。だから一つの調整済みの値にまとめず、層ごとの結果を報告する。発展的な話をすると、交互作用は相対危険度のような比で見るか、リスク差で見るかで結論が変わることがある。予防で防げる患者数を考える公衆衛生の立場では、リスク差での評価も重要とされている。
医学生医学生
ほかにも代表例はありますか。CBTで喫煙とアスベストの組み合わせを見た気がします。
ドクタードクター
そうだね。喫煙とアスベスト曝露が重なると肺癌リスクが相乗的に上がるし、喫煙と経口避妊薬の併用で血栓症や心血管疾患のリスクが上がる。臨床では、高リスクの組み合わせをもつ人を見つけて重点的に介入する、という形で役立つ考え方なんだ。

まとめ

交互作用(効果修飾)とは、ある要因が疾患リスクに与える影響の大きさが、別の要因の水準によって異なることであり、層別化すると層ごとに相対危険度が異なって観察されます。ALDH2低活性型の人で飲酒による食道癌リスクが特に高くなることは、遺伝要因と飲酒の交互作用の代表例です。一方の要因単独でリスクに差がある主効果、補正によって関連が変化・消失する交絡、要因同士の関連(遺伝要因で飲酒習慣が異なるなど)とは区別して理解する必要があります。交絡は取り除くべきバイアスですが、交互作用はそれ自体が明らかにすべき事実であり、層ごとの結果を示すことが重要です。喫煙とアスベスト、喫煙と経口避妊薬なども含め、交互作用の理解は高リスク集団を見極めた効率的な予防策の立案につながります。

解答・解説

正解はdです

【テーマ】疫学における交互作用(interaction)の意味を問う問題である。

交互作用とは

ある要因(ここでは飲酒習慣)が疾患のリスクに与える影響の大きさが、別の要因(ここでは遺伝要因)の有無や程度によって変わることを交互作用という。疫学では効果修飾(effect modification)とほぼ同じ意味で用いられ、遺伝要因は飲酒の効果を修飾する「効果修飾因子」と呼ばれる。 具体的には、遺伝要因をもたない人では飲酒による疾患の相対危険度が小さいのに、遺伝要因をもつ人では同じ飲酒で相対危険度が大きく上昇する、といった現象である。言い換えれば、遺伝要因の有無で集団を分けて(層別化して)飲酒と疾患の関連を調べると、層ごとに関連の強さ(相対危険度やオッズ比)が異なる。両方の要因が重なったときのリスクが、それぞれの単独の効果から予想されるより大きい場合を相乗作用、小さい場合を拮抗作用という。

正解を導く考え方

選択肢を読む際は、次の概念と区別することが鍵になる。 ・主効果: 一方の要因単独で疾患リスクに差があること。 ・交絡: 第三の要因が曝露と疾患の両方に関連しているために、見かけの関連が生じたり歪んだりすること。補正(調整)で関連が変化・消失する。 ・要因同士の関連: 一方の要因が他方の要因の分布に影響すること。疾患リスクへの影響とは別の話である。 「一方の要因の効果の大きさが、もう一方の要因によって異なる」と表現しているものが交互作用を示す選択肢である。

選択肢考察

  1. ×a.  禁酒しても疾患の一次予防はできない。

    飲酒が疾患リスクに影響しない、すなわち飲酒の主効果がないことを意味する記述である。交互作用がある場合、少なくとも遺伝要因をもつ人では飲酒によってリスクが上がるので、禁酒はむしろ一次予防として有効になる。交互作用の存在から導かれる現象とはいえない。

  2. ×b.  遺伝要因により飲酒習慣に差異がある。

    遺伝要因と飲酒習慣という二つの要因のあいだに関連があることを述べており、疾患リスクについては何も述べていない。交互作用は、両要因が疾患リスクに与える影響が互いに依存し合うかどうかの問題であり、要因同士が関連しているかどうかとは別の概念である。なお、遺伝要因が飲酒習慣と疾患の両方に関連していれば交絡の原因になりうる。

  3. ×c.  飲酒習慣にかかわらず遺伝要因が疾患のリスクになる。

    飲酒習慣の有無とは無関係に、遺伝要因が一定のリスク上昇をもたらすことを示しており、遺伝要因の主効果を表している。「飲酒習慣にかかわらず」とは、遺伝要因の効果が飲酒習慣によって変わらない、つまり交互作用がない状態の表現に近く、交互作用を示す記述ではない。

  4. ○d.  遺伝要因により飲酒習慣の疾患への相対危険度が異なる。

    飲酒が疾患に及ぼす影響の大きさ(相対危険度)が、遺伝要因の有無によって異なるという記述で、交互作用(効果修飾)の定義そのものである。例えばアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が低い遺伝子型をもつ人では、飲酒による食道癌の相対危険度が活性型の人に比べて著しく高いことが知られており、遺伝要因と飲酒の交互作用の代表例である。

  5. ×e.  飲酒習慣で補正すると遺伝要因と疾患との関連が消失する。

    補正(調整)によって関連が消失するのは、飲酒習慣が交絡因子である場合や、遺伝要因が飲酒習慣を介して疾患に影響している(飲酒習慣が中間因子である)場合にみられる現象である。交互作用は層ごとに効果の大きさが異なることであり、補正で関連が消えることとは意味が異なる。交互作用がある場合は、むしろ層別に結果を示すことが重要になる。

交互作用(効果修飾)と交絡の違い

・交絡: 曝露と疾患の両方に関連し、かつ曝露と疾患の中間段階ではない第三の因子によって、曝露と疾患の見かけの関連が歪む現象。研究結果をゆがめるバイアスの一種であり、研究計画(無作為化、限定、マッチング)や解析(層別解析、多変量解析による調整)で取り除くべきものである。層別化すると各層の関連の強さはほぼ同じになり、粗の(調整前の)値だけが異なる。 ・交互作用: 第三の因子の水準によって曝露と疾患の関連の強さが本当に異なる現象。取り除くべきバイアスではなく、それ自体が明らかにすべき生物学的・疫学的事実である。層別化すると各層の関連の強さが互いに異なるため、一つの調整済みの値にまとめず、層ごとの値を報告する。

交互作用の評価尺度

交互作用の有無は、相対危険度のような比で評価するか(乗法モデル)、リスク差で評価するか(加法モデル)によって結論が変わることがある。公衆衛生上、予防によって防げる患者数を考える際には加法モデルでの交互作用が重要とされる。

代表例

・ALDH2低活性型と飲酒による食道癌・頭頸部癌のリスク上昇 ・喫煙とアスベスト曝露による肺癌リスクの相乗的上昇 ・喫煙と経口避妊薬の併用による心血管疾患・血栓症リスクの上昇

POINT

・交互作用(効果修飾): ある要因の疾患への効果の大きさが、別の要因の水準によって異なること。層別にすると層ごとの相対危険度が異なる。 ・主効果: 一つの要因単独で疾患リスクに差があること。 ・交絡: 第三の因子によって見かけの関連が生じる現象で、補正により関連が変化・消失する。 ・要因同士の関連(遺伝要因で飲酒習慣が異なる等)は交互作用ではない。 ・代表例: ALDH2低活性型×飲酒→食道癌、喫煙×アスベスト→肺癌。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。