StudyMed医師国家試験

キャリパーは二の腕の裏へ―皮下脂肪厚で読む体の「エネルギー貯金」

第110回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第110回 F問題 第15問

成人の栄養状態評価に用いられる皮下脂肪厚の計測部位はどれか。

  1. a.母指球
  2. b.顎下正中
  3. c.額部正中
  4. d.下腿後面
  5. e.上腕伸側

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、栄養アセスメントのうち身体計測の問題だ。皮下脂肪の厚さを測って栄養状態を評価するとき、体のどこを測るのが標準なのかを問われている。まず、なぜ皮下脂肪の厚さが栄養の指標になるのか考えてみよう。
医学生医学生
体の脂肪の多くは皮下にあるので、皮下脂肪の量が体全体の脂肪量を反映する、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。脂肪はエネルギーの貯蔵庫だから、皮下脂肪厚は体のエネルギー貯金がどれくらいあるかを示す指標になる。測るときはキャリパー、つまり皮脂厚計で皮膚と皮下脂肪をつまみ上げて厚さを読むんだ。
医学生医学生
臨床実習で栄養サポートチームの回診についたとき、管理栄養士さんが二の腕の裏をつまんで測っていました。
ドクタードクター
いいものを見ているね。それが上腕三頭筋皮下脂肪厚、TSFだ。上腕伸側、つまり上腕三頭筋の上で、肩峰と肘頭を結ぶ線の中点の皮膚を縦につまんで測る。通常は利き腕でない側で計測する。これが正解だよ。
医学生医学生
どうして上腕なんですか。おなかのほうが脂肪は多そうですが。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。上腕は皮下脂肪がある程度あって、筋肉の上で皮膚と脂肪をきれいにつまみやすい。それに、寝たきりの患者さんでも腕なら測りやすい。標準化された測定法と日本人の基準値があることも大きい。もう一つの標準部位として肩甲骨下角のすぐ下で測る肩甲骨下部皮下脂肪厚もあるけれど、臨床でまず基本になるのはTSFだ。
医学生医学生
下腿後面も、栄養評価で測ると聞いた気がして迷いました。
ドクタードクター
そこはよく混同されるところだ。下腿で測るのは皮下脂肪厚ではなく、ふくらはぎの最も太い部分の周囲長、下腿周囲長なんだ。これは骨格筋量の指標で、高齢者の簡易栄養評価やサルコペニアのスクリーニングで使われる。測るものが違うんだね。
医学生医学生
母指球は、診察で見るのは筋萎縮のほうですよね。神経内科の講義で手根管症候群のときに習いました。
ドクタードクター
その通り。母指球は短母指外転筋などの筋でできた隆起で、皮下脂肪は少ない。正中神経障害で萎縮するかを見る場所であって、脂肪の量を測る場所ではない。額部正中は皮膚のすぐ下が前頭骨で脂肪がほとんどないし、顎下は肥満で脂肪がつきやすい場所ではあるけれど、計測法も基準値も確立していない。
医学生医学生
上腕では周囲長も測りますよね。TSFと組み合わせて何かを計算した記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。上腕周囲長は脂肪と筋肉の両方を含むから、そこからTSFの分を差し引くと筋肉の量が推定できる。上腕筋囲は上腕周囲長からπ×TSFを引いて求め、さらに上腕筋面積も計算できる。TSFが脂肪、上腕筋囲が筋肉、つまり体たんぱくの貯蔵量を反映するという整理だ。
医学生医学生
脂肪と筋肉を分けて評価できるのが上腕計測の強みなんですね。
ドクタードクター
そう。栄養評価は身体計測だけでなく、体重変化や食事摂取量から総合的に判断する主観的包括的評価、血清アルブミンや半減期の短いトランスサイレチンなどの血液検査を組み合わせて行う。アルブミンは炎症の影響も受けるから、数字一つで判断しないことが大切だ。
医学生医学生
低栄養を見逃すと、どんな問題が起こりますか。
ドクタードクター
免疫能が落ちて感染症が増え、創傷治癒が遅れ、術後合併症や入院期間の延長、死亡率の上昇にもつながる。だから入院時の栄養評価はとても重要なんだ。逆に外来や健診では、肥満や生活習慣病の評価にも役立つ。
医学生医学生
キャリパー一つで、栄養状態の大事な情報が得られるんですね。CBTの暗記事項だと思っていましたが、意味がよくわかりました。

まとめ

成人の栄養評価で皮下脂肪厚を測る代表的な部位は上腕伸側(上腕三頭筋部)で、肩峰と肘頭の中点の皮膚をキャリパーでつまんで上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)を測定し、肩甲骨下部も標準部位として用いられます。TSFは体脂肪量、すなわちエネルギー貯蔵量の指標となり、上腕周囲長と組み合わせて上腕筋囲(上腕周囲長-π×TSF)や上腕筋面積を求めると骨格筋量も推定できます。下腿で測るのは皮下脂肪厚ではなく下腿周囲長で、筋肉量の指標としてサルコペニアのスクリーニングなどに用いられる点を区別しておきましょう。栄養評価は身体計測、主観的包括的評価、血液検査を組み合わせて総合的に行います。低栄養は感染症や術後合併症の増加につながるため、適切な栄養評価は日常診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

栄養アセスメントのうち、身体計測(anthropometry)で体脂肪量を推定する方法を問う問題である。

皮下脂肪厚による評価

体内の脂肪の多くは皮下に蓄えられているため、皮下脂肪の厚さは体脂肪量、すなわちエネルギー貯蔵量のよい指標となる。測定はキャリパー(皮脂厚計)で皮膚と皮下脂肪をつまみ上げて行う。成人で標準的に用いられる計測部位は次の2か所である。 ・上腕三頭筋部(上腕伸側):上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF:triceps skinfold thickness)。肩峰と肘頭を結ぶ線の中点で、上腕背側の皮膚を縦につまんで測る。通常は利き腕でない側で計測する。 ・肩甲骨下部:肩甲骨下角のすぐ下で測る肩甲骨下部皮下脂肪厚(SSF:subscapular skinfold thickness)。 このうち最も一般的で、臨床の栄養評価で基本となるのが上腕伸側で測るTSFである。上腕は皮下脂肪の量がある程度あり、骨や筋の上で皮膚をつまみやすく、臥床患者でも測定しやすいことが利点である。

設問の考え方

選択肢のうち、栄養評価の標準的な皮下脂肪厚計測部位に該当するのは上腕伸側のみであり、正解はeである。

選択肢考察

  1. ×a.  母指球

    母指球は短母指外転筋などの筋で構成される隆起で、皮下脂肪が少なく、皮下脂肪厚の計測部位としては用いない。母指球筋の萎縮は正中神経障害(手根管症候群など)を示唆する所見として観察される部位である。

  2. ×b.  顎下正中

    顎下部は肥満で脂肪がつきやすい部位ではあるが、栄養評価で皮下脂肪厚を計測する標準部位ではない。キャリパーでの計測方法や基準値も確立していない。

  3. ×c.  額部正中

    額部は皮下脂肪が非常に薄く、皮膚の直下に前頭骨がある。体脂肪量を反映しにくく、皮下脂肪厚の計測部位にはならない。

  4. ×d.  下腿後面

    下腿は皮下脂肪厚の標準計測部位ではない。下腿では「下腿周囲長(ふくらはぎの最も太い部分の周囲径)」を測り、骨格筋量の指標として用いる。下腿周囲長は高齢者の簡易栄養評価(MNA)やサルコペニアのスクリーニングで利用されるが、これは周囲長であって皮下脂肪厚ではない。

  5. ○e.  上腕伸側

    上腕伸側(上腕三頭筋部)は、成人の栄養評価で皮下脂肪厚を測る最も代表的な部位である。肩峰と肘頭の中点で皮膚をつまみ、キャリパーで上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)を測定する。TSFは体脂肪量の指標となり、上腕周囲長と組み合わせて上腕筋囲・上腕筋面積を算出すると骨格筋量(体たんぱく量)も推定できる。

栄養アセスメントの主な項目

・主観的包括的評価(SGA):体重変化、食事摂取量、消化器症状、身体機能、身体所見などから総合的に判定する ・身体計測:身長、体重、BMI(体重kg÷身長mの2乗)、体重減少率、上腕周囲長(AC)、上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)、上腕筋囲(AMC)、下腿周囲長など ・血液生化学検査:血清アルブミン(半減期約3週間)、トランスサイレチン(プレアルブミン)、トランスフェリン、レチノール結合蛋白などの急速代謝回転蛋白(RTP)、総リンパ球数、コレステロールなど

上腕の計測値から求める指標

・上腕筋囲 AMC(cm)= AC(cm)- π × TSF(cm) ・上腕筋面積 AMA(cm²)= AMC² ÷ 4π ACは脂肪と筋の両方を、TSFは脂肪を、AMC・AMAは筋肉量(体たんぱく貯蔵量)を反映する。これらは日本人の基準値(JARD2001など)と比較して評価する。

栄養評価の意義

低栄養は免疫能低下による感染症の増加、創傷治癒の遅延、術後合併症の増加を招き、入院期間の延長や死亡率の上昇につながる。外来・健診では肥満や生活習慣病の予防・是正にも役立つため、入院・外来を問わず栄養評価は重要である。

POINT

・成人の栄養評価で皮下脂肪厚を測る代表部位は上腕伸側(上腕三頭筋部:TSF)、次いで肩甲骨下部 ・TSFは肩峰と肘頭の中点で、キャリパーを用いて測定する ・TSFは体脂肪量、上腕筋囲(AMC=AC-π×TSF)は筋肉量の指標 ・下腿では皮下脂肪厚ではなく下腿周囲長(筋肉量の指標)を測る

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。