母子手帳の「A型」を信じてはいけない―超緊急輸血は赤血球O型・血漿AB型
第110回医師国家試験 E問題 第57問
国試問題にチャレンジ
24歳の初妊婦。妊娠34週。これまで自宅近くの診療所で妊婦健康診査を受けていた。交通外傷のため救急車で搬入された。出血性ショックがあり,血液型判定結果を待たずに緊急輸血を行うことになった。携帯していた母子健康手帳によると,血液型はA型RhD(+),不規則抗体(-)である。 輸血開始時の赤血球液LRと新鮮凍結血漿LRの組合せで適切なのはどれか。

- a.A 型 ―― A 型
- b.A 型 ―― O 型
- c.AB型 ―― O 型
- d.O 型 ―― A 型
- e.O 型 ―― AB型
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血液型の判定を待てない超緊急輸血では、患者を「血液型不明」として扱い、赤血球液はO型、新鮮凍結血漿(および血小板濃厚液)はAB型を用います。赤血球ではA・B抗原を持ち込まないO型、血漿では抗A・抗B抗体を持ち込まないAB型が、どの血液型の患者にも溶血を起こさないためです。母子健康手帳などの記録上の血液型は誤記や取り違えの可能性があるため輸血の根拠にせず、輸血前に患者検体を確保して自院で血液型を確定し、確定後はABO同型製剤へ切り替えます。妊娠可能年齢の女性では可能ならRhD陰性赤血球が望ましいものの、救命を優先してRhD陽性で開始してよく、大量出血では早期の血漿投与と外科的止血も重要です。抗原と抗体の関係から製剤を選ぶ原理を理解しておくことは、致死的なABO不適合輸血を防ぐ臨床の基本となります。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・24歳の初妊婦(妊娠34週)が交通外傷で搬入され、出血性ショックの状態にある。 ・一刻を争うため、自院での血液型検査の結果を待たずに輸血を開始する(超緊急輸血)。 ・母子健康手帳には「A型RhD(+)、不規則抗体(-)」と記載されている。
考え方
本問の核心は、「母子健康手帳などの記録にある血液型を根拠に輸血製剤を選んでよいか」である。輸血に用いる患者の血液型は、原則として自院で採取した検体を用いた検査で確定したものに限る。持参した記録には転記ミス・記入ミス、他人の記録との取り違えなどの可能性がゼロではなく、ABO不適合輸血が起これば即時型の血管内溶血を起こし致命的となりうる。したがって、本例は「血液型不明」として扱い、どの血液型の患者にも溶血反応を起こさない組合せ(ABO異型適合血)を選ぶ。
赤血球液と血漿製剤の選び方の原則
・赤血球液(RBC):問題になるのは製剤中の赤血球表面の抗原(A抗原・B抗原)と、患者血漿中の抗体(抗A・抗B)の反応である。A抗原もB抗原ももたないO型赤血球なら、患者がどの血液型であっても患者の抗体と反応しない。 ・新鮮凍結血漿(FFP):問題になるのは製剤中の抗体(抗A・抗B)と、患者赤血球の抗原との反応である。抗A・抗Bのいずれももたないのは AB型の血漿であり、患者がどの血液型であっても患者の赤血球を攻撃しない。 つまり、赤血球と血漿とでは「万能」となる血液型が逆になる。赤血球はO型、血漿はAB型である(血小板濃厚液も血漿を含むため、血液型不明時はAB型が推奨される)。 以上より、輸血開始時の組合せは「赤血球液LR:O型、新鮮凍結血漿LR:AB型」が適切である。採血した検体で血液型が確定したら、速やかにABO同型の製剤に切り替え、交差適合試験は後から追って実施する。
選択肢考察
- ×a. A 型 ―― A 型
母子健康手帳の記載が正しければ適合する組合せだが、自院で確認していない血液型を根拠に同型輸血を行うことになる。記載に誤りがあり、例えば患者が実際にはO型やB型であれば、患者の抗A抗体がA型赤血球を破壊してABO不適合輸血による急性溶血反応を起こし、致死的となりうる。血液型判定前の段階では選択すべきでない。
- ×b. A 型 ―― O 型
A型赤血球液はA抗原をもつため、患者がO型やB型であれば患者の抗A抗体と反応して溶血を起こす。O型血漿は抗A抗体と抗B抗体の両方を含むため、患者がO型以外(A型・B型・AB型)であれば患者の赤血球を攻撃する。血液型不明時には赤血球・血漿ともに不適切であり、仮に患者が本当にA型であっても血漿の抗A抗体が問題となる。
- ×c. AB型 ―― O 型
血液型不明時に用いるべき組合せ(赤血球O型・血漿AB型)とちょうど逆である。AB型赤血球はA抗原とB抗原の両方をもつため、AB型以外のすべての患者で溶血を起こしうる。O型血漿は抗A・抗B抗体の両方を含み、O型以外の患者の赤血球と反応する。最も危険な組合せといえる。
- ×d. O 型 ―― A 型
O型赤血球液は血液型不明時に用いる製剤として正しい。しかしA型血漿は抗B抗体を含むため、患者が実際にはB型やAB型であった場合、患者のB抗原をもつ赤血球と反応して溶血を起こしうる。血液型が確定していない段階では、血漿はAB型を選ぶ必要がある。
- ○e. O 型 ―― AB型
O型赤血球はA抗原・B抗原をもたないため、患者の抗A・抗B抗体と反応しない。AB型血漿は抗A・抗B抗体をもたないため、患者の赤血球のA・B抗原と反応しない。したがって患者の血液型がどれであってもABO不適合による溶血を起こさない、血液型不明時の標準的な組合せである。自院の検査で血液型が確定したらABO同型製剤へ切り替える。
ABO血液型と抗原・抗体
・A型:赤血球にA抗原、血漿に抗B抗体。 ・B型:赤血球にB抗原、血漿に抗A抗体。 ・O型:赤血球にA・B抗原なし、血漿に抗A・抗B抗体。 ・AB型:赤血球にA・B抗原、血漿に抗A・抗B抗体なし。 抗A・抗B抗体は主にIgMの自然抗体で補体を強く活性化するため、ABO不適合の赤血球を輸血すると、輸血直後から血管内溶血(発熱、悪寒、血圧低下、腰背部痛、ヘモグロビン尿、DIC、急性腎障害など)を起こす。最も重篤な輸血事故であり、その多くは検体・患者・製剤の取り違えなど人為的ミスによる。
緊急時の輸血製剤の選択
・時間的余裕がある:ABO・RhD血液型検査、不規則抗体スクリーニング、交差適合試験を行い、ABO同型の適合血を用いる。 ・やや余裕がない:自院で血液型を確定したうえで交差適合試験を省略し、ABO同型血を用いる(交差適合試験は後追いで行う)。 ・血液型判定も待てない(超緊急):ABO異型適合血を用いる。赤血球液はO型、新鮮凍結血漿・血小板濃厚液はAB型。 ・輸血前には必ず患者検体を採血しておき、血液型が判明した時点でABO同型血へ切り替える。 ・患者の申告や母子健康手帳、献血カードなどの記録の血液型は、輸血の根拠としては用いない。
RhD血液型について
日本人のRhD陰性はおよそ0.5%と少ない。RhD陰性者にRhD陽性の赤血球を輸血すると抗D抗体が作られる可能性があり、妊娠可能年齢の女性では将来の妊娠で胎児・新生児溶血性疾患の原因となるため、可能ならO型RhD陰性の赤血球が望ましい。しかし救命が最優先であり、RhD陰性製剤が手元になければO型RhD陽性の赤血球で輸血を開始してよい。RhD陰性と判明した場合は、入手でき次第RhD陰性製剤に切り替える。
出血性ショックでの輸血
大量出血時には赤血球だけでなく凝固因子も失われ、さらに希釈・低体温・アシドーシスにより凝固障害が進むため、早期から新鮮凍結血漿を赤血球と組み合わせて投与する。同時に外科的止血を急ぐことが根本治療である。
POINT
・血液型判定前の超緊急輸血では、赤血球液はO型、新鮮凍結血漿(血小板も)はAB型を用いる。 ・赤血球は「抗原」を、血漿は「抗体」を持ち込まない型を選ぶと覚える。 ・母子健康手帳などの記録上の血液型を根拠に輸血しない。必ず自院の検査で確定する。 ・輸血前に患者検体を確保し、血液型確定後はABO同型血に切り替える。交差適合試験は後追いで実施。 ・RhD陰性製剤が手元になくても、救命を優先してO型RhD陽性赤血球で開始してよい。
