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死亡は増えたのに「死ににくく」なった?―粗死亡率と年齢調整死亡率が逆を向く理由

第110回医師国家試験 E問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第21問

平成元年(1989年)と比較した平成25年(2013年)の我が国の人口動態で正しいのはどれか。

  1. a.婚姻数は増加している。
  2. b.出生率は上昇している。
  3. c.粗死亡率は低下している。
  4. d.乳児死亡率は上昇している。
  5. e.年齢調整死亡率は低下している。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、平成のおよそ四半世紀で我が国の人口動態がどう変わったかを問う問題だ。細かい数値を丸暗記していなくても、「少子化」と「高齢化」という2つの大きな流れを軸にすれば、ほとんどの選択肢は推測で解ける。もう一つのカギは、死亡率には「粗」と「年齢調整」の2種類があることだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で人口動態統計はやりましたが、数字が多くて正直あいまいです。死亡率は医療が進歩したから下がっている、というイメージでいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこがまさにこの問題の落とし穴なんだ。医療の進歩で「死ににくく」なったのは事実だけれど、それがそのまま「死亡率の低下」として見えるかどうかは、どの指標を使うかによって変わる。まず少子化の側から整理しよう。結婚と出生はどう動いたと思う?
医学生医学生
未婚化・晩婚化が進んでいるので、婚姻数は減っているはずです。日本では出生のほとんどが婚姻内なので、出生率も下がっていますよね。
ドクタードクター
その通り。婚姻件数は1970年代前半の年間100万件超をピークに長期的に減少していて、この期間でも約71万件から約66万件に減った。出生率、つまり人口千対の出生数も10.2から8.2へ低下している。だから婚姻数が増加、出生率が上昇という選択肢はどちらも誤りだ。
医学生医学生
平成元年といえば「1.57ショック」の年でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。合計特殊出生率が1.57と当時の過去最低を記録し、翌年に大きく注目された。その後2005年には1.26まで落ち込み、2013年には1.43とやや持ち直したけれど、人口を維持できる人口置換水準の約2.07には遠く及ばない。どの指標で見ても「上昇」とはいえないね。では次に高齢化の側だ。粗死亡率はどうなったと思う?
医学生医学生
医療が進歩したので低下……と言いたいところですが、さっきの話の流れだと違うんですね。
ドクタードクター
そう。粗死亡率は「1年間の死亡数÷人口」という単純な計算だから、死亡しやすい高齢者の割合が増えれば、それだけで数字は上がる。実際に人口千対で6.4から10.1へ上昇し、年間死亡数も約79万人から約127万人に増えた。だから粗死亡率が低下しているという選択肢は誤りだ。
医学生医学生
各年齢で死ににくくなっていても、高齢者が増えたぶん全体の死亡数は増えてしまう、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。そこで登場するのが年齢調整死亡率だ。観察集団の年齢階級別死亡率を、基準となるモデル人口の年齢構成に当てはめ直して計算する。こうすると高齢化の影響を取り除いて、「実質的な死亡の起こりやすさ」を年次間や地域間で公平に比べられる。
医学生医学生
CBTの勉強で、直接法と間接法の違いに苦労した記憶があります。直接法がモデル人口を使う方でしたよね。
ドクタードクター
そうだね。年齢調整死亡率は直接法で、間接法は標準化死亡比(SMR)を求めるときに使う。さて、その年齢調整死亡率は、当時の昭和60年モデル人口で見ると男性が7.4から5.1、女性が4.2から2.7へと、男女ともはっきり低下している。これが正解だ。
医学生医学生
粗死亡率は上昇、年齢調整死亡率は低下。逆向きに動くのは高齢化のせい、と理解しました。乳児死亡率はどうでしょう。
ドクタードクター
乳児死亡率は生後1年未満の死亡数を出生千対で表した指標で、母子保健や衛生状態、医療水準を映す鏡のようなものだ。我が国では戦後一貫して下がり続け、この期間も4.6から2.1へと半分以下になった。世界でも最も低い水準で、周産期医療や新生児医療の進歩が大きく貢献している。だから上昇は誤りだ。
医学生医学生
小児科の臨床実習でNICUを見学したとき、超低出生体重児でも助かる子が多いと聞いて驚きました。
ドクタードクター
まさにそうした積み重ねの成果だね。最後に発展知識を押さえておこう。年齢調整死亡率の基準人口は長く昭和60年モデル人口が使われてきたけれど、令和2年以降の統計では平成27年モデル人口に変わり、人口10万対で表示されるようになった。古い資料と数値を比べるときは基準の違いに注意が必要だ。
医学生医学生
基準人口が変わると数値そのものが変わるから、年次比較は同じ基準どうしで行う必要がある、ということですね。
ドクタードクター
その通り。それから、2005年に初めて死亡数が出生数を上回って以降、我が国は自然減が続いている。地域の保健医療計画を考えるときも、粗い数字だけで判断せず、年齢構成を補正した指標で比べる姿勢が大切だ。臨床で疫学論文を読むときにも同じ考え方が役に立つよ。

まとめ

平成元年から平成25年にかけて、我が国では少子化と高齢化が同時に進み、婚姻数・出生率は低下し、死亡しやすい高齢者が増えたことで粗死亡率は上昇しました。一方、年齢構成の違いをモデル人口で補正した年齢調整死亡率は男女とも低下しており、各年齢層ではむしろ死ににくくなっていることがわかります。乳児死亡率も周産期・新生児医療の進歩により低下を続け、世界最低水準にあります。「粗死亡率は上昇、年齢調整死亡率は低下」という逆向きの動きは頻出の論点であり、年齢構成の影響を除いて比較するという考え方は、地域比較や疫学研究を正しく読み解くための基本です。

解答・解説

正解はeです

平成元年(1989年)から平成25年(2013年)までの約四半世紀に、我が国では少子化と高齢化が同時に進んだ。この大きな流れを押さえておけば、細かな数値を覚えていなくても各指標の増減を推測できる。 ・少子化の側面:結婚する人が減り、晩婚化も進んだため、婚姻数・出生数・出生率はいずれも減少・低下した。 ・高齢化の側面:死亡しやすい高齢者の割合が増えたため、人口全体に対する死亡数の割合である粗死亡率(いわゆる死亡率)は上昇した。 ・医療・衛生水準の向上:年齢構成の違いを補正した年齢調整死亡率は男女とも低下し、乳児死亡率も世界最低水準まで低下を続けた。 ここで重要なのは「粗死亡率」と「年齢調整死亡率」の違いである。粗死亡率は単純に「1年間の死亡数÷人口」で計算するため、高齢者が多い集団ほど高くなる。年齢調整死亡率は、基準となる人口構成(モデル人口)に当てはめ直して計算するため、高齢化の影響を除いた「実質的な死亡の起こりやすさ」を比較できる。高齢化が進む我が国では、粗死亡率は上昇し、年齢調整死亡率は低下するという逆向きの動きを示している。

選択肢考察

  1. ×a.  婚姻数は増加している。

    婚姻件数は平成元年の約70.8万件から平成25年には約66.1万件へと減少しており、人口千対の婚姻率も低下している。婚姻件数は第1次ベビーブーム世代が結婚適齢期を迎えた1970年代前半(年間100万件超)をピークに長期的な減少傾向にある。未婚化・晩婚化の進行が背景にあり、我が国では出生の大部分が婚姻内で生じるため、婚姻数の減少は出生数減少の一因ともなっている。

  2. ×b.  出生率は上昇している。

    出生率(人口千対の出生数)は平成元年の10.2から平成25年には8.2へと低下しており、出生数も減少している。なお平成元年は合計特殊出生率が1.57と当時の過去最低を記録した年であり(いわゆる「1.57ショック」として翌年に注目された)、その後2005年には1.26まで低下した。2013年には1.43とやや持ち直したが、人口置換水準(約2.07)を大きく下回る状態が続いている。いずれの指標でみても「上昇」とはいえない。

  3. ×c.  粗死亡率は低下している。

    粗死亡率(人口千対の死亡数)は平成元年の6.4から平成25年には10.1へと上昇している。年間死亡数も約79万人から約127万人へ増加した。これは死亡しやすい高齢者の人口割合が増えたためであり、個々の年齢層で死亡が起こりやすくなったわけではない。粗死亡率は1980年前後に最低となり、その後は高齢化に伴い上昇に転じている。

  4. ×d.  乳児死亡率は上昇している。

    乳児死亡率(生後1年未満の死亡数を出生千対で表したもの)は平成元年の4.6から平成25年には2.1へと低下している。乳児死亡率は母子保健や地域の衛生状態、医療水準を反映する指標であり、我が国の値は戦後一貫して低下を続け、世界でも最も低い水準にある。周産期医療・新生児医療の進歩が大きく寄与している。

  5. ○e.  年齢調整死亡率は低下している。

    年齢調整死亡率は、人口の年齢構成の違いを補正して算出する死亡率であり、高齢化の影響を除いた死亡状況を年次間・地域間で比較できる。当時の基準(昭和60年モデル人口)で人口千対にすると、男性は平成元年の7.4から平成25年には5.1へ、女性は4.2から2.7へと、男女とも明らかに低下している。粗死亡率が上昇しているのに年齢調整死亡率が低下していることは、死亡数の増加が主に高齢化によるものであり、各年齢層では死亡の危険がむしろ減っていることを示している。

主な人口動態指標

・出生率:年間出生数÷人口×1,000(人口千対) ・合計特殊出生率:15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値にあたる。人口を維持するのに必要な水準(人口置換水準)は約2.07である。 ・粗死亡率:年間死亡数÷人口×1,000(人口千対) ・年齢調整死亡率:観察集団の年齢階級別死亡率を基準人口(モデル人口)の年齢構成に当てはめて算出する(直接法)。基準人口は長らく昭和60年(1985年)モデル人口が用いられてきたが、令和2年(2020年)以降の統計では平成27年(2015年)モデル人口に変更され、人口10万対で表示されるようになった。 ・乳児死亡率:生後1年未満の死亡数÷出生数×1,000(出生千対) ・新生児死亡率:生後4週(28日)未満の死亡数÷出生数×1,000(出生千対)

粗死亡率と年齢調整死亡率

高齢者の割合が多い集団は、たとえ各年齢の死亡率が同じでも粗死亡率は高くなる。異なる年次や地域の死亡状況を公平に比べるには、年齢構成の影響を取り除いた年齢調整死亡率を用いる。我が国では高齢化のために粗死亡率は上昇傾向、年齢調整死亡率は低下傾向が続いている。

我が国の人口動態の長期的傾向

出生数・出生率・婚姻数は減少傾向、死亡数・粗死亡率は増加傾向にある。2005年に初めて死亡数が出生数を上回り、その後は自然増減がマイナスの状態(自然減)が続いている。乳児死亡率・新生児死亡率・周産期死亡率・妊産婦死亡率はいずれも長期的に低下し、国際的にも最低水準である。

POINT

・少子高齢化:婚姻数・出生数・出生率は減少、粗死亡率は上昇。 ・年齢調整死亡率は高齢化の影響を除いた指標であり、男女とも低下している。 ・乳児死亡率は長期的に低下し、世界最低水準である。 ・粗死亡率(上昇)と年齢調整死亡率(低下)が逆の動きをすることは頻出である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。