StudyMed医師国家試験

薬を自分で飲めますか?―服薬管理から読み解くADLとIADLの境界線

第110回医師国家試験 E問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第19問

手段的日常生活動作〈IADL〉に含まれるのはどれか。

  1. a.更衣
  2. b.排泄
  3. c.移動
  4. d.服薬管理
  5. e.認知機能

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の生活機能を評価するときの基本用語、ADLとIADLの違いを問う問題だ。似た言葉だけれど、中身は「身の回りの基本動作」と「自立して暮らすための応用動作」というはっきりした違いがある。まずは君なりに2つの違いを説明してみてくれるかな。
医学生医学生
ADLは食事やトイレのような毎日必ずする動作で、IADLはそれより少し難しい動作、というイメージです。
ドクタードクター
大筋はそれでいい。ADLは基本的日常生活動作とも呼ばれ、食事、更衣、整容、排泄、入浴、移乗、移動といった、自分の体の世話をするための動作だ。一方IADLは手段的日常生活動作で、買い物、調理、家事、洗濯、電話の使用、交通機関を使った外出、服薬管理、金銭管理などが含まれる。道具を使ったり、段取りを考えたり、判断したりする必要がある点が特徴なんだ。
医学生医学生
そうすると、着替えやトイレは体の動作なのでADL側ですね。
ドクタードクター
その通り。更衣も排泄も、Barthel IndexやKatz Indexといった代表的なADL評価法の項目に入っている。Barthel Indexでは排泄がトイレ動作・排便コントロール・排尿コントロールの3項目に分かれているくらい、ADLの中心的な要素なんだ。
医学生医学生
移動は少し迷いました。外出して買い物に行くのはIADLなのに、移動はADLなんですか。
ドクタードクター
いいところに引っかかったね。ここが紛らわしい。単に屋内を歩く、車椅子で動く、ベッドから移るといった身体的な「移動」はADLだ。一方で、バスや電車を使ったり自分で運転したりして目的地へ行く「交通手段の利用」はIADLに入る。経路を調べる、切符を買う、乗り換えを判断する、といった認知的な要素が加わるからだね。
医学生医学生
なるほど、体を動かせるかどうかと、それを使って用事を済ませられるかどうかの違いですね。では服薬管理がIADLになるのも、判断が必要だからですか。
ドクタードクター
そうなんだ。決められた薬を、決められた時間に、正しい量だけ飲むには、薬の見分け、時間の把握、記憶、計画性が必要になる。IADLの代表的な評価法であるLawtonの尺度でも、服薬管理は8項目のうちの1つとして明記されている。だから今回の正解は服薬管理だ。
医学生医学生
残る認知機能は、服薬管理にも関わる能力なので、IADLに入りそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いよ。でも認知機能は、記憶や見当識、判断といった精神機能そのものであって、生活上の「動作」ではない。認知機能はHDS-RやMMSEで別に測るもので、ADLやIADLの項目ではないんだ。能力と、その能力を使った生活動作を区別して考えよう。
医学生医学生
精神科の実習でMMSEを取らせてもらったとき、点数は高めなのに家では薬を飲み忘れている患者さんがいました。そういうずれも、別々に評価する理由なんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床で大事なところだ。検査室での点数と、実際の生活で何ができているかは必ずしも一致しない。だから両方を評価する必要がある。
医学生医学生
講義で、認知症ではADLよりIADLが先に落ちると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。IADLはADLより複雑な認知機能を要するから、加齢や認知症では金銭管理、服薬管理、買い物あたりから崩れ始め、進行すると入浴、更衣、排泄、食事といったADLも障害されていく。家族の「最近お金の管理が怪しい」「薬が余っている」という話は、軽度認知障害や認知症に気づく大切な手がかりになるんだ。
医学生医学生
外来で残薬を確認するのも、服薬管理の評価になっているわけですね。
ドクタードクター
その通り。高齢者は多剤併用になりやすく、服薬管理能力が落ちると飲み忘れや過量内服から有害事象につながる。そこで一包化やお薬カレンダー、訪問薬剤師の導入といった支援を考えるきっかけにもなる。さらに、ADL・IADL・認知機能・気分・社会的環境を多面的にまとめて評価する方法を高齢者総合機能評価、CGAという。退院後にどこでどう暮らすかを決めるときの土台になる考え方だ。
医学生医学生
リハビリテーション科の実習では、Barthel Index以外の評価法も使っていた気がします。
ドクタードクター
FIM、機能的自立度評価法だね。運動13項目と認知5項目の計18項目で、実際に「している」ADLを評価する。Barthel Indexとあわせて、ADL評価の代表として押さえておくといい。

まとめ

ADL(基本的日常生活動作)は食事・更衣・整容・排泄・入浴・移乗・移動など身の回りの基本動作で、Barthel IndexやKatz Indexで評価します。IADL(手段的日常生活動作)は買い物・調理・家事・洗濯・電話・交通機関の利用・服薬管理・金銭管理など、判断や計画を要する自立生活のための応用動作で、Lawtonの尺度で評価します。身体的な「移動」はADL、交通機関を使った外出はIADLと区別し、認知機能そのものはHDS-RやMMSEで別に評価する点に注意が必要です。IADLはADLより先に障害されやすく、服薬管理や金銭管理の破綻は認知症の早期発見の手がかりになります。ADLとIADLを区別して評価する視点は、高齢者総合機能評価や退院支援、ポリファーマシー対策など、日常診療のさまざまな場面で役立ちます。

解答・解説

正解はdです

日常生活の自立度を評価する二つの概念、基本的日常生活動作(ADL:activities of daily living)と手段的日常生活動作(IADL:instrumental activities of daily living)の区別を問う問題である。

ADLとIADLの違い

・ADL(基本的ADL、BADLともいう):自分の身の回りのことを行うための基本的な身体動作である。食事、更衣(着替え)、整容(洗面・整髪など)、排泄、入浴、移乗(ベッドから車椅子へ移るなど)、移動(歩行)などが含まれる。 ・IADL:ADLより高度で、道具を使ったり判断・計画を要したりする動作であり、地域で自立した生活を送るために必要な能力である。買い物、食事の準備(調理)、家事、洗濯、電話の使用、交通機関を使った外出、服薬管理、金銭管理などが含まれる。 IADLはADLよりも複雑な認知機能や判断力を必要とするため、認知症や加齢による機能低下ではADLより先に障害されやすい。この点から、IADLの低下は軽度認知障害や認知症の早期発見の手がかりとなる。 選択肢のうち、更衣・排泄・移動はADLの項目であり、IADLに含まれるのは服薬管理である。認知機能は評価の対象となる心身機能そのものであり、ADLやIADLのような「生活上の動作」には含まれない。

選択肢考察

  1. ×a.  更衣

    更衣(衣服の着脱)は、身の回りの基本的な動作であり、基本的ADLに含まれる。Barthel Index(バーセルインデックス)やKatz Index(カッツインデックス)などの代表的なADL評価法でも評価項目となっている。IADLではない。

  2. ×b.  排泄

    排泄(トイレ動作や排尿・排便のコントロール)は、生命維持と身の回りの自立に直結する基本的な動作であり、基本的ADLに含まれる。Barthel Indexではトイレ動作、排便コントロール、排尿コントロールの3項目として評価される。IADLではない。

  3. ×c.  移動

    移動(屋内の歩行や車椅子での移動、移乗)は基本的ADLに含まれる。Barthel Indexでは移乗、歩行(移動)、階段昇降として評価される。なお、バスや電車などの交通機関を利用したり、自分で運転したりして外出する能力(交通手段の利用)はIADLの項目であり、単なる身体的な「移動」とは区別される。

  4. ○d.  服薬管理

    服薬管理は、決められた薬を決められた時間に正しい量だけ自分で服用する能力であり、薬の識別、時間の把握、記憶、計画性といった認知機能を必要とする。身の回りの基本動作を超えた、自立生活のための応用的な動作であり、IADLに含まれる。代表的なIADL評価法であるLawtonの尺度でも「自分の服薬管理」が評価項目の一つとなっている。高齢者では多剤併用(ポリファーマシー)も多く、服薬管理能力の低下は服薬アドヒアランスの低下や有害事象につながるため、臨床的にも重要な評価項目である。

  5. ×e.  認知機能

    認知機能は記憶・見当識・判断などの精神機能そのものを指し、日常生活上の動作を評価するADLやIADLの項目ではない。認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSE(Mini-Mental State Examination)などで別に評価する。認知機能は、ADL・IADL・気分(うつ)・社会的環境などとともに高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)を構成する評価領域の一つであり、また介護保険の要介護認定における認定調査でも評価される項目である。

代表的な評価法

・Barthel Index(基本的ADL):食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行(移動)、階段昇降、更衣、排便コントロール、排尿コントロールの10項目。100点満点で、点数が高いほど自立度が高い。 ・Katz Index(基本的ADL):入浴、更衣、トイレの使用、移乗、排泄の自制(失禁の有無)、食事の6項目。 ・FIM(機能的自立度評価法):運動項目13項目と認知項目5項目(理解、表出、社会的交流、問題解決、記憶)の計18項目。リハビリテーション領域で用いられ、「している」ADLを評価する。 ・Lawtonの尺度(IADL):電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通手段の利用、服薬管理(自分の服薬の管理)、金銭管理(財産の取り扱い)の8項目。

高齢者総合機能評価(CGA)

高齢者を疾患だけでなく、身体機能(ADL・IADL)、認知機能、精神・心理状態(うつなど)、社会的・経済的環境(家族構成、介護者、住環境)などの面から多面的に評価し、治療やケアの方針、退院後の生活支援の計画に役立てる手法である。

ADLとIADLの障害の順序

加齢や認知症の進行に伴う機能低下は、一般にIADL(金銭管理、服薬管理、買い物など)から始まり、進行するとADL(入浴、更衣、排泄、食事など)が障害される。認知症の診断では、認知機能の低下により日常生活に支障をきたしていることが要件となり、IADLの評価はその判断に役立つ。

POINT

・ADL:食事、更衣、整容、排泄、入浴、移乗、移動など身の回りの基本動作(Barthel Index、Katz Index)。 ・IADL:買い物、調理、家事、洗濯、電話、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理など自立生活のための応用動作(Lawtonの尺度)。 ・IADLはADLより先に障害されやすく、認知症の早期発見に役立つ。 ・「移動」はADL、「交通機関を使った外出」はIADLと区別する。 ・認知機能はADL・IADLとは別に評価し(HDS-R、MMSEなど)、CGAの評価領域の一つである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。